人肉料理店とその契約者 08
――――放課後――――
「ダメだー、火事ん時の対応くれーしか載ってない……」
図書室でガッサー対策を練る少年。机の上には山の如く本が積まれている。
「……やめた。今日はもー帰ろ」
外は少し暗くなり始めている。急いで本を片付け図書室を後にする少年。
だが、階段を降りている途中に異変に気付く。
だが、階段を降りている途中に異変に気付く。
「人が居ない?」
大分遅い時間とはいえ、まだ下校時間前だ。なにより音が無い。
さっきまで聞こえていた部活の掛け声も、車の音も。虫や鳥の鳴き声すら聞こえない。明らかに異常な気配に警戒心を強める。
さっきまで聞こえていた部活の掛け声も、車の音も。虫や鳥の鳴き声すら聞こえない。明らかに異常な気配に警戒心を強める。
「こりゃオーナー呼んだ方がいいかな?……ん?」
足音がした?
他になんの音もしないので、その音だけが廊下に響き渡る。
他になんの音もしないので、その音だけが廊下に響き渡る。
「こんにちは?もうこんばんは、かな?」
「誰だ、テメェ」
「まぁ、どちらでもいいかな?」
「人の話を聞きやがれっ!?」
「誰だ、テメェ」
「まぁ、どちらでもいいかな?」
「人の話を聞きやがれっ!?」
同年代に見える微笑みを浮かべた少女。だがまるで話が通じない。
スッと右手をあげると「じゃあ燃えて♪」
スッと右手をあげると「じゃあ燃えて♪」
「ぬおぉぉおぉぉっ!?」
物騒な言葉に反射的に身を投げると、さっきまでいた空間が爆発するかの如く燃え上がる。
物騒な言葉に反射的に身を投げると、さっきまでいた空間が爆発するかの如く燃え上がる。
「駄目じゃない避けちゃ?私、人が燃えるのが好きなのに♪」
「いやいや他人様燃やすのが好きって何つーか人としてどーかと思うぞ?」
「えー?とっても温かいんだよ?くるくる回って綺麗なんだよ?素敵な音色を聴かせてくれるんだよ?
だからみーんな燃えたらいいと思うんだよ?」
「いやいや他人様燃やすのが好きって何つーか人としてどーかと思うぞ?」
「えー?とっても温かいんだよ?くるくる回って綺麗なんだよ?素敵な音色を聴かせてくれるんだよ?
だからみーんな燃えたらいいと思うんだよ?」
話が通じたかと思えば凄まじい答えが帰ってきた。自分の体は女性化して力が落ちている。オーナーと連絡とる暇も無い。全力ダッシュで逃げたい……が、そうも出来ない。
こんな奴を野放しには、出来ない。
こんな奴を野放しには、出来ない。
「やってやんよクソッタレっ!」
「燃やしていいの?ありがとう♪」
「いいわきゃねーだろーが!いくぞコラァッ!!」
「燃やしていいの?ありがとう♪」
「いいわきゃねーだろーが!いくぞコラァッ!!」
走り出す少年。接近戦ならば炎は使えないだろう。大地を踏み締め、一気に距離を詰める。少女に動きは無い。
直前で地面に擦れる程身を屈め、地を這うようなアッパーを打ち込む。だが彼女は微笑みを浮かべたまま動かない。拳が顎に迫り―――――
直前で地面に擦れる程身を屈め、地を這うようなアッパーを打ち込む。だが彼女は微笑みを浮かべたまま動かない。拳が顎に迫り―――――
「近づけば何とかなると思った?おバカさん♪」
そのまま摺り抜ける。
「何っ!?」
「蜃気楼って知ってる?熱で空気を歪めてるんだよ?そして私が操ってるのは……炎なんだよ?」
「蜃気楼って知ってる?熱で空気を歪めてるんだよ?そして私が操ってるのは……炎なんだよ?」
言葉と同時に少女の腕が燃え上がり、がら空きになった腹に炎を放った。
「ぐぅぅぅっ!?」
「ついでに教えてあげよっか?私が契約したのは【人体発火】と【逢魔ヶ時】だよ?接近戦の方が得意なんだよ?相手の能力もわかんないのに突っ込んできちゃ駄目なんだよ?やっぱりおバカさんだったね♪」
「ぺらっぺらうるせーんだよクソがっ!」
「ついでに教えてあげよっか?私が契約したのは【人体発火】と【逢魔ヶ時】だよ?接近戦の方が得意なんだよ?相手の能力もわかんないのに突っ込んできちゃ駄目なんだよ?やっぱりおバカさんだったね♪」
「ぺらっぺらうるせーんだよクソがっ!」
腹部から煙を上げながら後退する。完全に遊ばれている。今の一撃だって、その気になれば少年を消し炭に出来ただろう。
「いいよ?逃げても?鬼ごっこは割と好きなんだ♪」
踵を返し駆け出す。このままではなぶり殺しにされるだけだ。対策を……といった所でオーナーを呼ぶ位しか思い付かないが、今はとにかく時間を稼ぐしかない。
音の消えた校舎に、少年の足音と少女の薄ら笑いが響く。
音の消えた校舎に、少年の足音と少女の薄ら笑いが響く。
「やっぱ圏外か……しかも4:44で停まってやがる」
オーナーと連絡をとろうと携帯を見るが予想通り使い物にならなかった。
時間が停まっているとしたら、オーナーが気付く可能性は低い。もしも気付いたとしても、この空間に入って来れるかどうか微妙だろう。
つまり……
時間が停まっているとしたら、オーナーが気付く可能性は低い。もしも気付いたとしても、この空間に入って来れるかどうか微妙だろう。
つまり……
「一人で何とかするしかない、か」
そうと決まれば悪あがき。こんな所で黙って殺されてやるわけにはいかない。さあ仕込み開始だ!
*
「こんなもん、かな?」「鬼ごっこはおしまい?」
すぐ後ろから声が聞こえた。咄嗟に蹴りつけるが空を切る。どころか足を掴まれ振り回される。
「ごめんねー?最近腕力凄いんだ、私?ってゆーか女の子足蹴にしよーとするなんて酷くないですか?」
「片手で人振り回す奴は女って言わねーっ!!」
「片手で人振り回す奴は女って言わねーっ!!」
吹っ飛びながら叫ぶ。彼は知らなかったが、都市伝説に飲み込まれかけているが故の怪力である。
そのまま教室の中に投げ飛ばされる。
そのまま教室の中に投げ飛ばされる。
「いってぇ……しかし狙い通り!」
「何が狙い通りなの?」
「さーてね?教えてやる義理はねーよ!」
「何が狙い通りなの?」
「さーてね?教えてやる義理はねーよ!」
周りの机を投げながら突っ込み、
「懲りないのね?また燃やされたいの?諦めちゃった?」
そのまま脇を擦り抜け、扉を閉める。
「……なにをしているの?自分で逃げ場を塞いで?」「小麦粉アタック!!」
問答無用で隠して置いた袋を次々に投げ付ける。教室中に粉煙が立ち込めた。
「まさか粉塵爆発とかベタな手じゃないよね?」
「そのまさかだったり。テヘッ☆」
「この状況で私が炎を使うとでも?まあ能力封じにはなるだろうけど?引きずり出して燃やすだけだよ?」
「そのまさかだったり。テヘッ☆」
「この状況で私が炎を使うとでも?まあ能力封じにはなるだろうけど?引きずり出して燃やすだけだよ?」
「やっぱそーだよなー?どーしよっか?」
「…結構楽しめたけど、飽きちゃったんだよ?もう終わりに「油断大敵ってさー」
「…結構楽しめたけど、飽きちゃったんだよ?もう終わりに「油断大敵ってさー」
呆れた様子の少女の言葉を遮り、言う。
「足元を掬われる、ともゆーよな?」
ハッ、と床を見ると濡れている。さらに少年の手には千切れた電気コード。
「やめr「痺れるぜ?ねーちゃん」
コードと床に覆う水を伝って稲妻が走り、火花を放つ少女の体。教壇の裏に隠れる少年。そして火種を得た粉煙が、
爆ぜた。
連鎖する爆発。出口の断たれた教室の中、荒れ狂う破壊の嵐。
肉の焦げる異臭。
トサッ、と華奢な肢体が地に倒れ伏す。
肉の焦げる異臭。
トサッ、と華奢な肢体が地に倒れ伏す。
爆発が終わり辺りは静まり返っていた。
なんの動きも無い中、もぞりっ、と動く一つの影。少女だ。
全身を焼け焦がし、ふらふらと立ち上がると、壁際に倒れている少年を睨みつける。まだ息はあるようだ。
「…やってくれましたね人間風情が?どうしてやりましょう?ただ燃やすだけではつまらないですよね?四肢を潰して内側からゆっくり焼いてみますか?」
なんの動きも無い中、もぞりっ、と動く一つの影。少女だ。
全身を焼け焦がし、ふらふらと立ち上がると、壁際に倒れている少年を睨みつける。まだ息はあるようだ。
「…やってくれましたね人間風情が?どうしてやりましょう?ただ燃やすだけではつまらないですよね?四肢を潰して内側からゆっくり焼いてみますか?」
「それは遠慮してもらいますよ。私の大切な契約者ですので」
意識のない少年の腕を掴もうとした時、自身以外の声が響いた。
「……契約者だったんだね、この子?あなたは?」
「都市伝説【人肉料理店】、オーナーと申します。少年がお世話になったようですね?」
「いやいやそんな事はないよ?寧ろ私の方がお世話になっちゃった位だよ?
それにしても、顔に似合わず物騒な都市伝説だね?無駄に育った自分の胸でも食べてみたら?」
「考えておきます。さて、少々眠ってもらいますよ?少年の治療をせねばなりませんので」
「都市伝説【人肉料理店】、オーナーと申します。少年がお世話になったようですね?」
「いやいやそんな事はないよ?寧ろ私の方がお世話になっちゃった位だよ?
それにしても、顔に似合わず物騒な都市伝説だね?無駄に育った自分の胸でも食べてみたら?」
「考えておきます。さて、少々眠ってもらいますよ?少年の治療をせねばなりませんので」
そう言うと無造作に歩き出すオーナー。少女は全身を燃え上がらせ迎え撃つ。
「眠れないんだよ?まだまだ燃やし足りないんだよ?だから貴女が燃えてね?」
「無駄です。寝ていなさい」
「無駄です。寝ていなさい」
炎を放とうとしたが、虚空から現れた巨大な包丁に切り付けられる。
そのまま倒れ込みそうになり踏ん張るが、次々と降り注ぐ凶器の前に傷付いた少女は避ける事もできない。再び倒れた彼女は、今度こそ動かなくなった。
そのまま倒れ込みそうになり踏ん張るが、次々と降り注ぐ凶器の前に傷付いた少女は避ける事もできない。再び倒れた彼女は、今度こそ動かなくなった。
*
―――とあるマンションの一室―――
「………んぅ?ここは……オレの部屋?」
「気がつきましたか?」
「オーナー?……っ!あいつはどうなった!?ってゆーかケガ治ってるし、まさか夢?」
「いえ、ちゃんと現実ですよ?あの少女の事でしたら知り合いに頼んでおきました。怪我は【河童の妙薬】のお陰ですね。
………すみませんでした。助けに行くのが遅れてしまって」
「んな事ねーって。つーか結局オーナーに助けられちゃったか……弱ぇな、オレ……」
「いえ、私が着いた時にはほぼ決着はついていましたよ」
「だけど……そーいや知り合いって誰?」
「……お気になさらず。今は休んで下さい。怪我は治せても体力は戻っていませんから」
「ん?そうか?…まあ確かにだりーし。もう一眠りするわ」
「ええ、おやすみなさい」
「気がつきましたか?」
「オーナー?……っ!あいつはどうなった!?ってゆーかケガ治ってるし、まさか夢?」
「いえ、ちゃんと現実ですよ?あの少女の事でしたら知り合いに頼んでおきました。怪我は【河童の妙薬】のお陰ですね。
………すみませんでした。助けに行くのが遅れてしまって」
「んな事ねーって。つーか結局オーナーに助けられちゃったか……弱ぇな、オレ……」
「いえ、私が着いた時にはほぼ決着はついていましたよ」
「だけど……そーいや知り合いって誰?」
「……お気になさらず。今は休んで下さい。怪我は治せても体力は戻っていませんから」
「ん?そうか?…まあ確かにだりーし。もう一眠りするわ」
「ええ、おやすみなさい」
眠りにつく少年。そっと扉を閉める頃にはもう寝息が聞こえる。
それを確認して異界の調理場へ跳ぶ。そこには縛り上げられた少女が転がっていた。
それを確認して異界の調理場へ跳ぶ。そこには縛り上げられた少女が転がっていた。
「女の子にこの仕打ちは酷くないですかー?」
「暴れられてはかないませんからね。そんな余裕はないと思いますが」
「それで?こんな所に連れ込んでナニする気なのかな?もしかしていやーんな事?私、そっちも結構得意だよ?」
「知っていますか?」
「暴れられてはかないませんからね。そんな余裕はないと思いますが」
「それで?こんな所に連れ込んでナニする気なのかな?もしかしていやーんな事?私、そっちも結構得意だよ?」
「知っていますか?」
彼女の言葉を無視し、無表情に語るオーナー。
「人間の肉は、絶望に打ちのめされると硬くなり、快楽に喘ぐと柔らかくなり、…………苦痛に悶えると、旨味が増すんですよ」
「そして私は都市伝説【人肉料理店】。素材の質にもこだわります。当然、その為の設備もあるわけです」
少年には秘密ですが。言いながら調理台を退かし地下への扉を開く。暗闇に差し込む光。そこには覆面を被った一人の男が立っていた。
「後は彼に任せるとしましょう。仲良くして下さいね?」
「私を食べちゃうのかな?おいしくいただいちゃうのかな?」
「私は人間は食べませんよ。自己矛盾していますがね。………それに」
「私を食べちゃうのかな?おいしくいただいちゃうのかな?」
「私は人間は食べませんよ。自己矛盾していますがね。………それに」
一旦言葉を切り、どこか楽しそうな少女に向かって囁く。
「貴様のような屑は食材にもならん。そこで永遠にもがき続けろ」
少女を地下室に蹴り落とす。狭まる光に向かって少女は楽しげに言う。
「いつか私が燃やしに行くから?油断しちゃ駄目なんだよ?気を抜いたら駄目なんだよ?あれ、それは私だね♪あはははh」ガシャン
声が途切れ、扉が閉まる。調理台を元に戻し、何も無かった事となる。
「さて、明日の朝食の準備でもしておきましょうか」
終