「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち-22

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マッドガッサーと愉快な仲間たち 22 「爆発する携帯電話の憂鬱」


 …思えば、きっと自分は生まれた瞬間から孤独だったのだと思う
 自分は生まれた直後と思わしき状態で、育った施設の前に捨てられていたと聞いたから

 何度も、施設と病院を行き来した
 何かあれば、すぐに自分は体調を崩し、発作を起こし
 施設の職員たちは、皆、厄介者を見るような目で見て、そのように扱ってきた
 そうやって、何度も行ったり来たりを繰り返していたせいだろうか
 同じ施設にいた同世代の者たちとは、ついにほとんど話せなかったし、親しくなる事もできなかった

 その扱いは、学校に通うようになっても同じだった
 事ある事に発作を起こす自分は教師達にとっては厄介者であったろうし、病院にいる事が多かった自分は、クラスメイトたちにとってはいるもいないも同じような存在だっただろう
 親しい存在は、結局出来なかった
 …こちらから話し掛けようとしていれば、何か変わっていたのかもしれない
 だが、自分は、どう話し掛けたらいいのか、それすらもわからなかった

 結局自分は、他人とのコミュニケーションのとり方が、未だにわからないままだ


 病院で、医者に発作は精神的なものも要因にあると告げられた
 そう言われても、どうしたらいいのかまったくわからない
 医者が勧めてきたのは、一種の箱庭療法のようなもので…物語を書く、というものだった

 始めのうちは、紙の上で物語を書いて、それを読むのは医者や医療関係者だけだった
 …段々と、それが寂しくなってきて
 手に入れた携帯電話で、物語を書くようになった
 不特定多数の人間が、自分の書いた物語を読んでくれる
 顔も知らない相手が、「面白かった」「続きを読みたい」などと答えてくれる
 それが酷く嬉しく、温かく……ほんの少しだけ、孤独を忘れる事が出来た
 自分が書いた物語を本にしたい、という話やら、賞を与えるやら、と言う話は、どうでも良かった
 ただ、たくさんの人間が、自分などの書いた物語を読んでくれる
 …ただ、それだけが嬉しかった

 …あいつらがこちらに近づいてきたのは、そんな時期だった
 話し掛けられたのは、嬉しかった、だが…すぐに、気づいてしまった
 あいつらが抱えていた、その思惑に

 ただ、恐ろしかった
 好意を装った、その悪意が恐ろしかった
 その悪意の更に下に…隠された殺意に、気づいてしまって
 逃げ出す事すらできず、ただただ、恐ろしかった


 その、瞬間だ
 都市伝説「爆発する携帯電話」と契約したのは


 携帯に入った、差出人不明のメール


【 変わりたいか? 】


 内容はそれと、YesとNoのリンク表示だけ
 奇妙なメールで不気味さも感じたが…気のせいか、それからは悪意を感じずに
 自分は、Yesをクリックして


 そして、契約は成立したのだ


 その力で、あいつらを殺した
 相手の携帯の番号は知っていたから、殺すのは簡単だった
 携帯の番号さえ把握していれば…自分は簡単に人を傷つけ、殺すことが出来るようになったのだ

 「組織」と言う存在を知るまで、大して時間はかからなかった
 自分はそれに追われているのだと、わかってしまった
 こちらの能力を警戒してか、積極的には仕掛けては来ない
 ただ、命を狙われている事だけは、わかった

 恐ろしかった
 悲しかった
 自分は、人から悪意と殺意しか向けられないのか
 そう考えると、ただただ悲しかった
 生まれた瞬間に孤独である事を決められた自分は、一生孤独から脱出する事が出来ないのか

 「組織」の追跡は、秋祭りのその少し前当たりに、唐突にやんだ
 秋祭りの二日目に、街のあちこちで不気味なパレードが出現したらしいから…それの対策に、追われていたのかもしれない
 秋祭りの当日、自分は家に閉じこもっていたから、よくわからないが

 追われる事もなくなって、しかし、自分が「組織」から狙われなくなった訳ではないだろうと、そう考えて
 結局、自分はまたいつかやってくる追っ手に怯え続けるしかない
 それが恐ろしくてたまらなかった

 そんな恐怖に支配されていたせいだろうか
 物語を書くようになってから、しばし縁遠くなっていた発作に…久しぶりに、襲われた

 全身を締め付けられているような苦しみ
 心臓を鷲掴みにされるような痛み
 立っている事が出来なくなって、道の端に座り込んだ
 苦しむ自分に目を向けてくる相手は、いない
 呼吸が定まらず、視界がゆれた

 いっそ、このまま死ねば楽になれるのだろうか
 ふっと、一瞬、そう考えた

「…どうした?お前。大丈夫か?」

 声を駆けられ…その瞬間、発作はおさまった
 聞き覚えのない声に、恐る恐る顔をあげて…思わず、固まる
 そこにいたのは、ガスマスクを被った、黒尽くめの男だったからだ
 もしかしたら、「組織」の人間だろうか
 そう考えると、体が震えた
 だが、こちらの予想とは違い、ガスマスクの男は、こう続けてきた

「あぁ、大丈夫そうか…ところで、お前、都市伝説契約者だな?…俺達の野望に、乗ってみないか?」

 向けられたのは、悪意ではなかった
 悪意以外の感情を向けられたのは、生まれて初めてだった
 マッドガッサーと名乗ったガスマスクの男の話す野望は、正直よくわからなかったが
 ただ、マッドガッサーは仲間にならないか、と…そう、言ってくれたのだ

「仲間になるんだったら、ついて来い。興味がないなら、俺を見た事は忘れておけ」

 …忘れる?
 そんな選択肢、選ぶつもりはなかった

 今、差し伸べられた手をとらなかったら…自分は、一生、孤独から脱出できないままだ
 そう考えて、立ち上がり……自分は、マッドガッサーの後をついていった



 その選択肢は、間違っていなかったと思う
 こんなにもたくさんの相手に囲まれるのは、生まれて初めてだった
 こんなにもたくさん、楽しいと思えるのは生まれて初めてだった
 仲間と呼べる存在を、生まれて初めて手に入れる事ができて
 ただ、幸せだった
 今、自分は訳あって少々姿を変えているが…それでも、構わなかった
 みなと一緒にいられるなら、それでいい
 みなと一緒にいられるのなら、一生この姿でいなければならないとしても、自分は構わない

 皆と一緒になって、発作は起きなくなった
 閉じこもりがちだった自分は、外に出るようになった
 道を開かせてくれた仲間と、ずっと一緒にいたい
 それが、今の自分の望み


 この時間が、永遠に続けばいい、と
 そう、願わざるを得ないのだ



fin



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