君と君の君 01
最近、僕たちの街では人が殺されている
『人が殺されている』なんて軽く言ってみると冗談にしか聞こえないが、実際人は死んでいるのだし、それは実は問題ではなかったりする
だって、僕には関係ないじゃん。そう言えれば良いのだけれど、そうも言っていられない
問題は、その人たちの殺され方と僕の置かれた状況にある
人の殺され方。それは、ゴミ箱ポスト排水溝。果てはラーメン屋さんのオカモチまで
とりあえず、なんでもいいから詰め込まれている
ラーメン屋さんのバイトだけは、もう絶対しない
ああ、あと僕の置かれた状況
僕は長谷川亮。半強制的にオカ研部員をやらされてたりする
そして
「おい、亮。調べはついたのか?」
これが、僕をオカ研に連れ込んだ諸悪の根源。赤月真紀先輩。教頭曰く、学内一の問題児である
ついでに、赤月先輩が作ったこの同好会。部員は二人だけだったりする
「おい、聞いてるのか?」
少々苛立っているようだ。構うと面倒くさくて構わなくても面倒くさいとは、面倒くさいちびっこですね
「すいません。自己紹介が忙しくて」
「なんだ。ついに頭の中にお友達が出来たのか。心配しなくても私は一生お前の友達だゾ!」
「なんだ。ついに頭の中にお友達が出来たのか。心配しなくても私は一生お前の友達だゾ!」
誰のせいで友人が居なくなったと思ってやがる。とは言えない。この人、怒ると怖いんだもん
「ありがとうございます」
あと二年。あと二年我慢すればこいつはいなくなる……あれ?僕の高校生活灰色確定してないか?
「よろしい。なんて、騙されたりはしないゾ!調べはついたのかと聞いている」
調べ……ねえ。正直そんな事、警察に任せておけばいいのに。と我思う。故に我調べてないわけでもない。この人、怒ると……はもういいか
「一応調べてはみましたけど、これで先輩が満足するとは」
「構わん。報告しろ」
「はい。それじゃあ、まず」
「あ、ちょっと待て。ホワイトボード使うか?いや。使え」
使う場面なんてないんだけど、使わなきゃ機嫌をそこねるんだろうなあ、まる。面倒くさい
「はい。それじゃあ、まず今回の事件ですが」
ホワイトボードに何を書くべきか少し悩み、結局意味のない落書きをしながら、調べたことを報告した
「まあ、亮じゃあそんなもんかな」
使える人材なんざ僕ぐらいしか居ないくせにいけしゃあしゃあと
僕の生活から友人を消し去った人物に友人なんているはずもない。人間大事なのは顔だけじゃない。改めてそう思った
……まあ、事件現場の分布や発見状況なんて新聞やニュース、少しの噂で簡単に収集可能なんだろうから、確かに『そんなもん』なのかもしれないけど
「さて、駅に行くか」
唐突に何か言い出した。飽きた……のならいいんだけど、執着心と好奇心が粘着質に塊な赤月先輩がそんな簡単に始めたことを投げ出したりするわけがない
「駅に何をしにいくんですか」
「それは行って、見てから決める」
「なんで駅なんですか?」
「質問ばっかりだな。少しは自分で考えろ。駅が現場の中心じゃないか」
この人は頭の中に地図でも持っているのか、なんて思いながら、少しは自分で考えさせてくれ。なんて言ったらどんな顔をするのかな、とか考えている僕に被虐趣味はない
「ほら、行くぞ。直帰だから鞄を忘れるな」
はいはい
「……寒いな」
「11月ですから」
「もうそんな時期か」
「この間ハッピーハロウィンとか言いながら僕を学校中引きずり回したの、忘れたんですか?」
「ふむ……寒いな」
こうして、今日も僕の抗議の声は冬空にかき消えていくのでした、まる
「僕が暖めてあげましょうか?とか、言わないのか」
「そんな事言うのは教頭ぐらいですよ」
「ハゲは嫌だな……ハゲるなよ?」
頭髪を失えば僕にも自由が訪れるらしい。ハゲは嫌だけど
「そんな予定はありません」
「そうか。つまり、生涯変わり無く私と仲良くできるんだな。良かったじゃないか」
……今度教頭に聞いてみよう。どうすれば頭髪を失えますか?
おまけに学生の身分も失えますね?
そうですね
おまけに学生の身分も失えますね?
そうですね
「それより、どうするんですか?何も見当たりませんけど」
「ふむ……何か起こるかと思ったが」
なぜ思った
「確かに何も無いな」
駅の中には疎らに人が居るだけで、犯人らしき人物(例えば身の丈二メートルの筋肉の塊)は見当たらなかった
そりゃあそうだ。そんな簡単に犯人が見つかるなら警察だってドーナッツを食うさ
「せめて、なにがしかのヒントがある……はず……駅……?」
全てが自分の都合の良い方にいくなんて、そんなことは絶対にない。だから、せめて慰めてみる
「先輩がなんでこんな事件に興味を持ったのか、なんて奇妙だったからでしょうけど、どうせ実際犯人は居て、犯行方法も動機も、至極現実的な……」
居なかった。いや、犯人じゃなくて先輩が
慌てて探してみると、ちっこいあんちくしょうが駅構内の角を曲がるのがちらりと見えた
僕を妖精と話せる危ない人に仕立てあげるつもりだったのなら、その下らない作戦は予想以上の効果を上げたぞ!
なんて、ふざける余裕もある。人の少ない駅で良かった。田舎万歳。そして全力疾走という名の駆け足で先輩の影を追ってみた
狭い駅だ。すぐに追い付く
「……何やってんですか、先輩」
角を曲がると、白い壁をペタペタと触る先輩がいた。観光名所でもあるまいし、本当に何をやってるんだか
「ヒントだ」
……は?
「私はヒントを見つけたぞ。亮」
「全てはここから始まったんだ」
そんな事言われても、僕には壁しか見えない。しかしその満面の笑みは、確かに何かを見つけたらしいことを僕に理解させた
「先輩にしか見えない何かがある。とか?」
「んな訳があるか。亮にも見えている。ただ、気づかないだけだ」
言われて、先輩が指紋を残そうと必死になっている壁をじっと見てみる。が、ダメ。なにも得られない
「壁……ですね」
「そうだ。壁だ」
壁らしい
「そこから先に進むには、亮には足りないものがあるな」
「何ですか」
「空気を読む力」
な、何ですか!人を空気読めないみたいに言っちゃって!先輩の方が空気読めてないんですからね!ぷんぷん!……言ってみたいけど空気を読んで言わないことにする
「それは洞察力、推察力を統合したモノだ、と私は思う」
なんか語り始めた
「空気を読むと言うことは、察するということだ。それがお前には足りないんだよ」
ふふん。ちびっこに何言われたってへっちゃらさ……へっちゃらなんだから……
「まあ、そう落ち込むな。それより、今の話を踏まえてこの壁を見てくれ。どう思う?」
「……白いですね」
半ばヤケクソ気味に答える
「そうだ」
「あってんのかよ!?」
「……」
「……すいません」
「うむ。では、なぜ白いのか」
「ペンキが白かったから?」
「不正解につきボックスシート」
意味が分からん
「正解は、ここにあったコインロッカーが撤去されたから、だ」
普段、駅なんて使わないものだからコインロッカーなんて知るよしもない
「そんなの駅を使わない奴が分かりますか」
「友達付き合いがない証だな。憐れ」
つまり、こんな破天荒な先輩よりも友人が居ないらしい。泣きたくなってきた
「まあ、私も電車通学でなければ分からんかったがな」
「……友達と遊ぶときに利用してたんじゃなかったんですか?」
「地元民の場合、だ。私の場合は関係ないだろう」
なんて自分勝手……でも友人の数で負けてない!まだ僕は生きてて良いんだ!
「なんだ?やきもちでも焼いたか?」
「それはないです」
「ふむ……ひねくれた奴だ」
「それより、コインロッカーが無くなったから何なんですか?」
「コインロッカー自体はどうでも良い。まして、他の駅ならばなんの問題もない。だかな、この駅の、この場所のコインロッカーである場合、問題なんだ」
そうして、先輩はどこかで聞いたことがある話をし始めた
コインロッカーに棄てられた子供。数年後に、コインロッカーに訪れた母親。その母親の前に現れた、少年
そして
コインロッカーに詰められ、殺された母親の話を
「それって」
「都市伝説。と言う奴だな」
「都市伝説。と言う奴だな」
「……確かに似てる気もしますけど、詰め込まれて殺される。っていう部分だけでしょう?」
「十分だろ」
「でも、何て言うか、不謹慎じゃないですか?そういう噂と現実をごっちゃにするのって」
「噂?……事実だよ」
そう言って、先輩は白い壁をピタピタと手のひらで打った
「ここで、確かに女性は殺された。死んでいるはずの、自分の息子に」
「コインロッカーに飲み込まれるように、詰め込まれて、死んだ」
先輩の話を認めたら、自分の中の何かが壊れてしまいそうで、訳もわからず反論が口をついて出ていた
「だから、それは噂」
「見たんだ」
僕が僕の常識を、世界を守るために発した言葉は、先輩に簡単に撃ち落とされた
「殺されたのは」
「物語の主人公は」
「私の母親だ」