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連載 - 占い師と少女-11

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uranaishi

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占い師と少女 日常編 11



 子ライオンの散歩を終え、帰路についた時の事だった。

「…………あれ?」

 マンションの前に、何台ものトラックが止まっていた。
 それだけなら別に不思議な光景でも何でもない。
 問題はトラックと、忙しなくトラックとマンションを行き来する人達のジャンパーに描かれたロゴである。
 歩く黒猫がこちらを振り向いて「何だい坊や」と言っているかのような奇妙なロゴに加え、その下には「不吉引越センター」の文字。

「不吉って…………」

 縁起も何もない。
 見た限り、どうやら誰かがこのマンションに引っ越してくるようだ。
 引っ越しと言えば四月というイメージがあるのだが、この町についてはその法則もあまり当てにならないような気もする。
 とにかく、ご近所さんが増えるのはいいことだ。
 人付き合いの苦手な占い師さんはあまり良い顔をしないかもしれないが、何事もまずは経験だと思う。

 段ボール箱を持ち、行き交う業者の人の合間を縫うように移動して、マンションの中へと入る。
 どうやら、越してきた先は私たちの隣の部屋らしい。そこで流れが途切れていた。

「でも……何で二部屋?」

 業者の人たちが出入りしているのは二部屋。
 わざわざ二部屋を借り入れる人など、あまり聞いたことはない。
 大家族なんだろうか、と歩きながら首をかしげる。
 その時だ。

「…………あ」

 ちょうど私たちの部屋の前に、何人かの人影が見えた。
 その中で、片腕に雑巾のようなものを持った長身の女性が、チャイムを押そうか押すまいかの地点で指を彷徨わせている。
 「引っ越しの挨拶」という言葉が私の頭をよぎった。
 チャイムの前で迷っているのは、まだ普通のサラリーマンなら働いている時間だからか。
 そう勘繰り、よっしと小さく自分に気合を入れる。
 こういう時は先手必勝だと、何かの本で読んだような気がする。

「えっと……その、何か御用ですか?」

 声をかけると、長身の女性がびくりと身体を震わせた。
 それにつられて、白い布雑巾が揺れる。
 女性の傍に佇んでいた二人の少女も、その声につられて私を見た。
 ちょうど3人からの視線を浴びて、思わず身体が固まりかける。
 わたわたと、少し慌てながら言葉を紡ぐ。

「その、そこ、私の家なので……」
「……未来、ちゃん……」
「あ、はい。未来ですけど……」

 返答してから、気付いた。
 今私を呼んだ声は、しわがれた老人の声。
 対して、目の前にいる三人は全員女性だ。
 ……気のせいだったのだろうか。

「未来、ちゃん…………」
「うひゃぁっ!?」

 やっぱり聞こえる。
 長身の女性にも聞こえているのか、何だか引きつっているような、面倒くさそうな顔へと変わった。
 そんな女性を前に、私は音源を探る。
 聞こえているのは、女性の右手の辺りから。
 その右手にあるのは、白いぼろ雑巾。
 一瞬それが音源かと考え、まさかとすぐに打ち消した。
 雑巾がしゃべるわけは――――

「……ここじゃ、ここ……」

 ――――雑巾がしゃべった。
 というか、どこかこの声に聞き覚えがあるような。
 というか、ちょっと前にこの声を聞いたばかりのような。

「ほっほ……今日も、可愛いのごほっ!?」

 というか、おじいさんだった。
 長身の女性の右手に持った剣が、その身体を貫いている。

「……うわぁ」

 貫かれた身体からは絶えず血が流れ、衣を赤く彩っている。
 良い子は見ちゃいけなそうなグロテスクな光景を前に、私は少し後ずさった。
 そんな私をよそに、女性は溜息をついておじいさんに語りかけた。

「長老、またここに来てセクハラですか」
「何を、言うかっ……老体が孫を愛でるのは当然の事……そこに理由など要らんわっ」
「長老の場合はそこにエロスが入ってるからいけないんスよ」
「エロスこそ……男に与えられた権利っ……それに則って行動して何が悪いっ!」

 ……息絶え絶えになりながらもあくまでいつものおじいさんなのは、評価するべきなのだろうか。その身体に剣が突き立っているのが少し怖いが。
 この四人は何なのだろう。
 和気あいあいとまでは行かないものの、おじいさんと言葉を交わすその姿に、敵意のようなものは見られない。

「…………えっと」

 こんな大勢の人が行き交う場所で立ち話をするのも何だかあれだと思う。

「……中、入りますか?」

 ――――この4人が占い愛好会のメンバーである事を知ったのは、それから約10分後の事だ。


【終】



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