バールの少女 09
学校町 ???? 深夜(02:50頃)
学校町をあちこち走り回っていた気がする。そして――
二人はある住宅の前に来ていた。
「おばあちゃん、本当に此処で良いの?」
Tシャツにジーンズ姿、黒髪の腰近くまである少女は、携帯に向かって囁く様に尋ねた。
「何から何まで怪しい雰囲気ですね」
少女の横に居るのは、黒服の男。山高帽を目深に被り、周囲を警戒する様に見回していた。
「じゃあ、乗り込むよ――。一旦切るね」
少女は携帯に囁くと通話を切った。目の前の住宅を睨みつける。
「この中に、コズカが、いる」
「間違いありませんね?」
念を押すように訊く黒服に対し、少女は困った様な表情を向けた。
「キューさんの占いじゃ、『此処に居る』って出たってだけな話なんですけど」
「安心して下さい」
少女の返事に、黒服は引き攣った様な笑みを見せる。
「人違いだったら、全力で逃げればいいんですよ」
二人はある住宅の前に来ていた。
「おばあちゃん、本当に此処で良いの?」
Tシャツにジーンズ姿、黒髪の腰近くまである少女は、携帯に向かって囁く様に尋ねた。
「何から何まで怪しい雰囲気ですね」
少女の横に居るのは、黒服の男。山高帽を目深に被り、周囲を警戒する様に見回していた。
「じゃあ、乗り込むよ――。一旦切るね」
少女は携帯に囁くと通話を切った。目の前の住宅を睨みつける。
「この中に、コズカが、いる」
「間違いありませんね?」
念を押すように訊く黒服に対し、少女は困った様な表情を向けた。
「キューさんの占いじゃ、『此処に居る』って出たってだけな話なんですけど」
「安心して下さい」
少女の返事に、黒服は引き攣った様な笑みを見せる。
「人違いだったら、全力で逃げればいいんですよ」
* * *
『キューピッド』様の占いによれば、早川小塚は『学校町に居る』『まだセックスしてない』『気絶してる』状態であるとの事らしい。
小塚の友人である西野楓子、そして楓子の護衛を彼女の祖母に押し付けられた黒服Iは、小塚を捜し回って学校町を暴走していたのだ。
小塚の居る場所を、遂に突き止めた『キューピッド様』によって、とある住宅の前まで行き着いた彼ら。
現在、これからどうやって小塚を救出するのか、といった段階である。
二人の取った作戦はこうだ。『とりあえず家屋に乗り込む』。至ってシンプルだった。
小塚の友人である西野楓子、そして楓子の護衛を彼女の祖母に押し付けられた黒服Iは、小塚を捜し回って学校町を暴走していたのだ。
小塚の居る場所を、遂に突き止めた『キューピッド様』によって、とある住宅の前まで行き着いた彼ら。
現在、これからどうやって小塚を救出するのか、といった段階である。
二人の取った作戦はこうだ。『とりあえず家屋に乗り込む』。至ってシンプルだった。
* * *
「楓子さんは、私の後ろからついてきて下さい。絶対にはぐれないように。
状況がよろしくなくなったら私の事は気にせずに逃げて下さい。良いですね?」
「ええ、コズカ見つけたらあなたを置いてとっとと帰るつもりですが」
「さ、さいですか……」
状況がよろしくなくなったら私の事は気にせずに逃げて下さい。良いですね?」
「ええ、コズカ見つけたらあなたを置いてとっとと帰るつもりですが」
「さ、さいですか……」
黒服は先頭となって、玄関のドアノブに手を掛けた。
「……、おや? 鍵が掛ってませんね。不用心だな」
最悪の場合壊錠して押し入ろうと考えていた二人にとって、好都合といえば好都合だった。
「もしかして、敵が私達を誘き寄せようとしている……? ハッ、か、可能性は大ですね」
黒服はブツブツ呟くと、懐から黒光りする棒を取り出す。
「楓子さん、少し下がって下さい」
棒を持った右手を掲げ、一気に振り抜いた。金属的な鋭い音と共に棒が長くなる。
三段式特殊警棒。黒服の持つ得物の一つだ。
「出来れば戦闘はご遠慮願いたいなあ。闘いなんて私にゃ向いてないってのに……」
「あの。Iさん、ブツブツ言ってないでとっとと進んだらどうですか?」
楓子はジト目で突き刺すような視線を送った。
「分かりましたよ、別に怖いワケじゃありませんよ。黒服に怖い物なんてあるワケないんですからね」
プルプル震えながら抜き足差し足で進む黒服Iの言葉は、あまり説得力がない。
玄関を越え、廊下へと慎重に侵入していく二人。
「あqwせdrftgyインlぽ;@:!!」
廊下を進んでいた黒服は、いきなり後方に飛びのいた。楓子と激突する。
「ちょ、一体どうしたんですか!?」
囁き声で楓子は黒服を非難した。
「な、何か、今何かグニャッとしたものが、廊下に、廊下に!!」
廊下の奥を指さしながら、早口でまくし立てる黒服。一応、警戒感はあるらしく、声は押し殺している。
「? 確かに何かあるますね。ってあれ、人じゃないですか?」
楓子の言葉に、黒服はおそるおそる自分の指さした方を見た。
黒服の言う通り、廊下に何やら黒い塊が陣取っている。よく見ると人だ。人が倒れているのだ。
「何てこった、最初の犠牲者が……」
人と分かった途端、先程の臆病さは何処へやら、黒服Iは倒れたソレに近寄った。
警棒の先で突いた。――小さな呻き声が聞こえる。
「……、おや? 鍵が掛ってませんね。不用心だな」
最悪の場合壊錠して押し入ろうと考えていた二人にとって、好都合といえば好都合だった。
「もしかして、敵が私達を誘き寄せようとしている……? ハッ、か、可能性は大ですね」
黒服はブツブツ呟くと、懐から黒光りする棒を取り出す。
「楓子さん、少し下がって下さい」
棒を持った右手を掲げ、一気に振り抜いた。金属的な鋭い音と共に棒が長くなる。
三段式特殊警棒。黒服の持つ得物の一つだ。
「出来れば戦闘はご遠慮願いたいなあ。闘いなんて私にゃ向いてないってのに……」
「あの。Iさん、ブツブツ言ってないでとっとと進んだらどうですか?」
楓子はジト目で突き刺すような視線を送った。
「分かりましたよ、別に怖いワケじゃありませんよ。黒服に怖い物なんてあるワケないんですからね」
プルプル震えながら抜き足差し足で進む黒服Iの言葉は、あまり説得力がない。
玄関を越え、廊下へと慎重に侵入していく二人。
「あqwせdrftgyインlぽ;@:!!」
廊下を進んでいた黒服は、いきなり後方に飛びのいた。楓子と激突する。
「ちょ、一体どうしたんですか!?」
囁き声で楓子は黒服を非難した。
「な、何か、今何かグニャッとしたものが、廊下に、廊下に!!」
廊下の奥を指さしながら、早口でまくし立てる黒服。一応、警戒感はあるらしく、声は押し殺している。
「? 確かに何かあるますね。ってあれ、人じゃないですか?」
楓子の言葉に、黒服はおそるおそる自分の指さした方を見た。
黒服の言う通り、廊下に何やら黒い塊が陣取っている。よく見ると人だ。人が倒れているのだ。
「何てこった、最初の犠牲者が……」
人と分かった途端、先程の臆病さは何処へやら、黒服Iは倒れたソレに近寄った。
警棒の先で突いた。――小さな呻き声が聞こえる。
「生きてますね、しかし、やはり敵が居るというのか? この人は敵にヤラれたのか?」
黒服はまたもブツブツ言いながら片膝をつくと、今度は倒れた人の身体をペタペタ触り始めた。
「何やってるんですか?」
「外傷が無いか調べてるんですよ……。む、コレは」
そう言って今度は倒れた人の上の空間に手をブンブン振り回し始めた。蝿を追うような仕草だ。
一見すれば、挙動不審者か、でなければ変態だ。
「ちょっと、楓子さん、来て下さい」
彼から距離を置いて立っていた楓子を、黒服が手招きする。
「楓子さん、ほら。分かります?」
黒服はさらに手を振り回す。何をしているのか分からない。
楓子は、黒服の手を振り回している辺りに手を伸ばしてみたが、全くワケが分からなかった。
「何が分かるって言うんですか?」
「この雰囲気というか、残り香というか、片鱗というか……。オーラ、いや違うな。兄気、そう兄気ですね。やっぱりこっちの方がしっくり来る」
「いえ、だから何が?」
「兄気ですよ」
「ワケが分からないんですけど?」
おもむろに黒服は立ち上がる。
「要するにこういう事です。此処に倒れている彼は敵です。唾棄すべき敵です」
「いきなり何言い出すんですか!?」
「いいから聞いて下さい。私の推測が正しければ、何らかの事情により私の同僚――仲間内では『マ神』と呼ばれてます――
と此処に倒れている彼とが、交戦したのです。そして彼は私の同僚によって、完膚無きまでにボコボコにされた、と
こういった具合ですよ」
「……何故、そうなるんですか?」
「この空間に残留する『兄気』がそれを教えてくれます。『兄気』を放出できるのはそうそう居ません。
ここに居たのは、そして、彼を見事に倒したのは、確実に『マ神』ですよ」
黒服はまたもブツブツ言いながら片膝をつくと、今度は倒れた人の身体をペタペタ触り始めた。
「何やってるんですか?」
「外傷が無いか調べてるんですよ……。む、コレは」
そう言って今度は倒れた人の上の空間に手をブンブン振り回し始めた。蝿を追うような仕草だ。
一見すれば、挙動不審者か、でなければ変態だ。
「ちょっと、楓子さん、来て下さい」
彼から距離を置いて立っていた楓子を、黒服が手招きする。
「楓子さん、ほら。分かります?」
黒服はさらに手を振り回す。何をしているのか分からない。
楓子は、黒服の手を振り回している辺りに手を伸ばしてみたが、全くワケが分からなかった。
「何が分かるって言うんですか?」
「この雰囲気というか、残り香というか、片鱗というか……。オーラ、いや違うな。兄気、そう兄気ですね。やっぱりこっちの方がしっくり来る」
「いえ、だから何が?」
「兄気ですよ」
「ワケが分からないんですけど?」
おもむろに黒服は立ち上がる。
「要するにこういう事です。此処に倒れている彼は敵です。唾棄すべき敵です」
「いきなり何言い出すんですか!?」
「いいから聞いて下さい。私の推測が正しければ、何らかの事情により私の同僚――仲間内では『マ神』と呼ばれてます――
と此処に倒れている彼とが、交戦したのです。そして彼は私の同僚によって、完膚無きまでにボコボコにされた、と
こういった具合ですよ」
「……何故、そうなるんですか?」
「この空間に残留する『兄気』がそれを教えてくれます。『兄気』を放出できるのはそうそう居ません。
ここに居たのは、そして、彼を見事に倒したのは、確実に『マ神』ですよ」
黒服の推測を聞いていた楓子は、深く深呼吸をした。そして、黒服を睨みつける。
「いい加減にして下さい、もうっ! 私達はコズカを助けに来たんですよ!? あなたのワケ分かんない推理を聞く為に来たんじゃありません!!
それに、この人が敵であれ何であれ、この家の中は十分に危険って事じゃないですか!? コズカも危ないかもしれないん――むぎゅ」
「お、おお、落ち着いて下さい楓子さん! 大声出したら気付かれますから!!」
声を荒げる楓子の口を、黒服Iは慌てた様に押さえつけた。
「はっ、お、奥から、何やら人の気配が――!」
廊下の奥から、何かが近付いてくる。楓子を後方へと押しやった彼は、懐に手を突っ込んだ。
引き出された手には、拳銃の形をした玩具の様な物が握られている。
「最近不具合ばかりで、あまり使いたくはなかったのですが……」
黒服はそう言って、その玩具を廊下の奥へと向けた。
何秒かの時が過ぎる。緊張感が否応なく高まってきた。
そして。
廊下の奥より、それが姿を現した。
「なっ、貴女は――!」
「いい加減にして下さい、もうっ! 私達はコズカを助けに来たんですよ!? あなたのワケ分かんない推理を聞く為に来たんじゃありません!!
それに、この人が敵であれ何であれ、この家の中は十分に危険って事じゃないですか!? コズカも危ないかもしれないん――むぎゅ」
「お、おお、落ち着いて下さい楓子さん! 大声出したら気付かれますから!!」
声を荒げる楓子の口を、黒服Iは慌てた様に押さえつけた。
「はっ、お、奥から、何やら人の気配が――!」
廊下の奥から、何かが近付いてくる。楓子を後方へと押しやった彼は、懐に手を突っ込んだ。
引き出された手には、拳銃の形をした玩具の様な物が握られている。
「最近不具合ばかりで、あまり使いたくはなかったのですが……」
黒服はそう言って、その玩具を廊下の奥へと向けた。
何秒かの時が過ぎる。緊張感が否応なく高まってきた。
そして。
廊下の奥より、それが姿を現した。
「なっ、貴女は――!」
(2009/12/03現在 未完)
