「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い師と少女-a20

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占い師と少女 マッドガッサー決戦編 20


○月×日 23:03

 占い師さん達と一旦別れ、階段へと向かっていた私たち。
 その目の前に蜘蛛の群れがやってきたのは、もう階段も間近となった頃だった。

「今度は蜘蛛? もういい加減にして欲しいんだけど……」

 眼前に広がる蜘蛛を見て、弟さんが面倒臭そうに呟いた。

「……まぁ、さっきのよりは数も少ないし、簡単かな」

こぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ…………

 手に持っていたペットボトルの蓋を外すと、中から黒い液体が渦を巻いて出てくる。

「毒蜘蛛じゃないみたいだけど……邪魔だしね」

 そう言って、弟さんがコーラを操る。
 その導くままに液体が床へと広がり、蜘蛛を飲み込もうとうねりを上げた時……

「――――ちょっと足止めをしただけで殺すなんて、残酷過ぎないかしら?」

 ……唐突に、誰かの声が響いてきた。
 それと同時に、蜘蛛の湧き出てきた教室から出てくる人影。

「女の子…………?」

 常夜灯に照らされたその影は、端正な顔立ちをした少女だった。
 微笑むかのように口元が弧を描き、その目は強い光を秘めている。

「誰だか知らないけど、いきなり沢山の蜘蛛が目の前に出てきたらさ、どけようと思うでしょ? 邪魔だし」

 いきなり現れた少女に、しかし弟さんは冷徹な目を向けた。
 その手に持ったコーラと、制止が間に合わず溶かされた蜘蛛を見て、少女が肩をすくめる。

「保険よ、保険。もし私があなたたちの目の前に飛び出したら、その蜘蛛のように溶かされていたんじゃない?」
「弟は無差別で人を殺すような事はしない。人を殺人鬼のように言わないで欲しいな」

 弟さんの影から、不良教師さんが姿を現す。
 その弟さんと似た容姿を見て、少女が驚いたように目を少しだけ見開いた。

「あら、双子? 珍しいわね」
「一卵性双生児の生まれる確率は1000組中4組。大して珍しくもない」

 人に驚かれるのに慣れているのか、不良教師さんは眉一つ動かさず、少女に答えた。
 どうやら2人に気を取られているようで、少女は私たちの方を気にしていない。

(あの子を「視る」なら、今なのかな……)

 いつもは占い師さんがやっている作業。
 けれど今、占い師さんがいない以上その作業は私がやるしかない。

(都市伝説に対して「リーディング」を行うのは久しぶりだけど……うん、頑張ろう)

 自分を鼓舞し、能力を使って少女を「視る」
 能力を使うと同時に、少女から、彼女についての様々な情報が脳内へと入ってくる。
 スリーサイズ、身長、体重、血圧など、多種多様な外的情報を吟味し、取捨し、選択していく。
 それらは順調に処理され、私の中に蓄積されて行った。

(……あれ?)

 ――――しかし、ある時点からそれが狂う。
 彼女の外的もの以外で入ってくるはずの、都市伝説の契約者としての情報。
 それが、全く入ってこない。

(え? どうして?)

 やり方に問題はない。現にその他の情報は入ってきている。
 ……なら、一体何が問題だと言うのか。
 そこまで考え、ふと、ここを出る前に占い師さんが言っていた事を思い出した。
 確か、占い師さんはTさんの中に「包み隠された部分」があると言っていた。
 今まで私はそんな部分を持った都市伝説や契約者に出会った事はないけれど……もしかしたら、彼女がそうなのだろうか。

(……でも、占い師さんはそれが「隠されてる」って事に気づいてたし……)

 私が読み取った限り、そんな事実はなかった。

(どういう事なんだろう……?)

 未だに扱いきれていないこの能力。
 その未知の部分に触れ、私は少し混乱していた。

「――――あら、まだ仲間がいたのね」

 そんな最中に響いた少女の声。
 その声は私たちではなく、もっと後方に向けられていた。
 思わず、後ろを振り返る。

「いて、悪かったな」

 ……その視線の先、廊下の角を近くで、占い師さんが肩をすくめていた。
 その少し後ろに、黒服Yさんの姿も見える。

「悪いとは言ってないでしょう? ただ、そうね……話し合いは人数が多くなればなるほど抉れるものだとは思ってるわ」

 占い師さんの言葉に、少女が首を振る。
 私たちの方へと歩きながら、占い師さんは苦笑をして

「ほう……なら、あんたは交渉で一番大事な物を知ってるか?」
「ええ、残念な事に」

 少女は微笑んだまま、言った。

「交渉でまず気にするべきはthreat……脅迫だと、アメリカの学校では教えているようね」
「正解だ」

 私たちの元まで、占い師さんと黒服Yさんが歩き終える。

「そして、脅迫は強い立場の人間がする物。……じゃあ、今現在の立場が上なのは、俺かあんた、どっちだろうな?」

 不良教師さん達4人に、金さん、私、大将の7人。そこに占い師さんと黒服Yさんが加わっている今の私たち。
 それにその傍らで溶かされつつある蜘蛛を見て、少女はため息をついた。 

「……そうね。あなたたちの方が立場的には有利のようだわ」
「そう言う事だ。話しは聞くが、こちらも急いでる。出来れば無駄な戦いは避けたい」

 占い師さんの言葉に、少女が頷いた。

「ええ、手早くすませましょ。一応言っておくけど、私は中立で――――」
「待て」

 話を始めようとした少女に、占い師さんが制止の声をかける。

「話し始める前に、ちょっとしたお願いがある。なに、簡単な事だ」

 少女は軽い笑みを顔に浮かべ、占い師さんに聞き返した。

「――何かしら?」
「出来れば基本人格か主人格の方を出してくれないか? あんたの行動に、あんた以外の人格が賛同しているのかだけ知りたい」

 さらり、と事も投げに言われた言葉。
 それを聞いて、少女の顔から表情が一瞬落ちた。

「……あら、何のことかしら」

 しかしすぐに微笑みを顔に張り付け、少女は首を傾げる。

「言ったろ、あまり時間がないんだ。駆け引きをするつもりはない」

 目を細める占い師さんに、少女は肩をすくめ

「何で知ったのかは分からないけど……そうね、向こうと話を付けるから、ちょっと待っててもらえるかしら」

 そう言って、目を閉じた。

「……なるほど、DIDの患者か」

 その様子を見て、不良教師さんが呟く。
 その横で、弟さんが首をかしげていた。

「でぃーあいでぃー?」
「お前も知ってるはずだ。……DID、日本語に直せば『解離性同一障害』。世間に浸透している名前で言えば――――」
「多重人格、だ」

 不良教師さんの言葉を遮るように、男性の声が響いた。
 声の元へと、全員の視線が向けられる。
 その声の主を見て、占い師さんが呟いた。

「……ほう、基本人格は男か」
「悪かったな、こんな格好で」

 ふてくされたように、少女……いや、少年が呟く。
 人格が変わったせいなのか、少年の目元は少女と違って少し垂れ下り、勝気な笑みも浮かべていなかった。

「マッドガッサーの被害に遭ったんだろう? さして不思議でもない」
「ああ……ただ一応言っておくが、基本的に交渉事はカズネに任せてる。俺に何か聞いても大して答えられないぜ」

 先程の少女とは少し違った動作で、少年は肩をすくめた。

「取り立てて何かを聞こうと思ったわけじゃない。ちょっと基本人格の方も見てみたかっただけさ」

 そう言って、少年を見る占い師さんの目。
 少女を見た時には使っていなかった能力。それを少年に使っている事が、私には分かった。
 ただ、さっき能力を使ってみても、私にはほとんど読み取れなかったのだけど……。

(……もしかして、多重人格だから?)

 そう思い、占い師さんに尋ねてみると

「……そうだな、多重人格者は読みにくい部類に入る。Tさんが故意に自分の一部を隠したとすると、こいつは自然にその状態になったタイプだな」
「でも、契約した都市伝説が分からない、何て事があるんですか? あの女の子、普通に蜘蛛を操ってましたけど……」
「都市伝説の契約と能力の使用に関しては分かってない事も多い。大体、多重人格の場合は契約をその人格同士で行えるのか、それともその人間一人を単位とするのかも分からないからな」
「そう、なんですか……」

 何百年も生きてきた占い師さん。
 その占い師さんにも分からない事があるのだと、私は少しだけ驚いた。

「――――さて、と。急いでるんでしょう? 早く話を終わらせなくていいのかしら?」
「おやおや、もう基本人格はお休みか?」
「交渉に関しては私に一任されてるのよ。聞いてなかったのかしら」

 少し不機嫌そうな少女の声。
 自分のペースで話を進められなくて、少し苛立っているのかもしれない。

「ああ、言っていたな」
「なら、もう話は済んだでしょう? 今度は私の話を聞く番じゃない?」
「それも道理だ」

 占い師さんの言葉に、我が意を得たように少女は言葉を紡ぐ。

「さっき途中で遮られたけれど、今の所、私たちは中立の立場なのよ。条件さえ満たしてくれるなら、どちらの側についても構わないわ」
「条件?」

 不穏な言葉に、不良教師さんが眉をひそめた。

「そう、条件よ。とは言っても、凄く簡単な事だと思うわ」

 少女は微笑みながら続ける。

「私たちが欲しいのは、女体化するガスか、その効果を持つ魔法薬。それさえ手に入れば、どちらが勝っても構わないわ」
「女体化するガス、ね……。そんなもの、何に使うんだ?」
「あなたもさっき見たでしょう? 私たちは二重人格、2人で1人の存在なのよ。……なのに」

 言葉の途中で、少女がため息をついた。

「どういうわけか、和弥……基本人格が男なのに、私は女の人格として生まれてしまったの。この苦労が分かるかしら?」
「さて、な。あいにく俺に二重人格の友人はいない」
「そうでしょうね。でも、私たちには息抜きが必要なのよ。人格によってちゃんと体も分けられるような、ね」
「…………ふむ」

 隣で、占い師さんが軽く唸った。
 男女両方の人格がある身体……私には想像もつかない境遇だ。 

「話は以上よ。この戦いが終わった後、貴方たちが魔法薬なり女体化ガスなりを私に少しでも分け与えてくれるなら、貴方達を手助けするわ」
「もし、断ったら?」
「その時は、マッドガッサーの方に同じ相談を持ちかけるだけよ」
「あいつらが早々交渉に応じるとは思わないが……そうだな、少しこの教室で待ってもらえるか」

 占い師さんの提案に、少女が首をかしげる。

「あら、すぐに決めてくれるんじゃないのかしら?」
「この後俺たちはまた別のグループと合流する。俺たちだけで決めて、後でそいつらと悶着は起こしたくないからな」

 そう言って、占い師さんの目が階段の方へと向く。
 説得の最中なのか、もう説得は終わったのか、階段からは何も聞こえてこない。
 その間、少女は少し考えるようなそぶりを見せ

「そう、ね……分かったわ」

 そう言って、少女が軽く手を振った。
 その動作と共に、廊下にひしめいていた蜘蛛の群れが、教室へと戻っていく。

「私はその教室で待ってるわ。貴方達がここを出て……」

 ちらりと教室内の時計を見る。
 その針は、11時11分を指していた。

「……そうね、9分後、11時20分になっても戻らなかったら、私はマッドガッサーの方へ行くわ」
「分かった。それまでには戻ってこよう」
「……それじゃ、別のお仲間とも会えるといいわね」

 占い師さんが頷くのを見て、少女が蜘蛛を引き連れ、教室の中へと入っていく。
 その背はすぐに闇に紛れ、後には蜘蛛の死骸と、時折響くカサカサという音だけが残された。
 少女の足音が完全に消えるのを待って、占い師さんに聞く。

「……よかったんですか? あんな約束をしちゃって」
「なに、屋上へ行くにはどうせここを通る事になる。下手にまくと、次会った時に敵に回られる可能性もあるからな」

 占い師さんはそう言って、階段の方へと視線を向けた。

「さて、あいつが言ってた時間まで後8分強。さっさと合流するか」

 防火シャッターの閉まった廊下のすぐ隣。
 薄暗い階段の先からは、微に声が聞こえ始めていた。


○月×日 23:11 占い師一行・不良教師一行・金さん・黒服Y、階段付近にまで到達。




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