喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
外伝・ある老黒服のお話(後篇)
───夕暮れ色に染まる時刻、逢魔ヶ刻
老紳士の話は終わっていた
「じゃあ、助けてくれたのはその学生なんだね」
「そういうことじゃの」
「そっか……でも、お爺さんもありがとうね」
「そういうことじゃの」
「そっか……でも、お爺さんもありがとうね」
老紳士は、ふぉっふぉっふぉっとひとしきり笑うと
「さて、少年」
「何?」
「君は今、幸せかの?」
「うん!」
「良い返事だのう」
「何?」
「君は今、幸せかの?」
「うん!」
「良い返事だのう」
間髪いれずに返す
少年の顔には偽り無い笑顔
少年の顔には偽り無い笑顔
「おお、そうだった!昨年、渡せていなかったからのう!」
「昨年?……渡す?……」
「良い子でいるとのう、ささやかだが心が温まる様なそんなプレゼントが贈られるものなのだよ」
「プレゼント?」
「ご主人に尋ねて見るといい」
「尋ねる?」
「ああ、訊いて見なさい……きっと……
君の思い出とこれからの人生を、ほんの少しだが輝かせてくれるはずだからのう」
「昨年?……渡す?……」
「良い子でいるとのう、ささやかだが心が温まる様なそんなプレゼントが贈られるものなのだよ」
「プレゼント?」
「ご主人に尋ねて見るといい」
「尋ねる?」
「ああ、訊いて見なさい……きっと……
君の思い出とこれからの人生を、ほんの少しだが輝かせてくれるはずだからのう」
そう言うと、老紳士は花壇の縁から腰を上げる
何を訊けば良いのか、教えてはくれない
だが、少年には何となく判っている
何を訊けば良いのか、教えてはくれない
だが、少年には何となく判っている
「さあて、用も済んだで帰るとするかのう」
「会っていかなくていいの?」
「どの様に成長したのか……会わなくとも判る事もあるからのう」
「そっか……うん、判ったよ」
「では、元気でのう」
「会っていかなくていいの?」
「どの様に成長したのか……会わなくとも判る事もあるからのう」
「そっか……うん、判ったよ」
「では、元気でのう」
老紳士は少年に背を向け歩き出す
その背中に向けて、声が掛かる
その背中に向けて、声が掛かる
「うん、お爺さんもお元気で」
背を向けたまま、黒服の老紳士は季節外れな言葉を放る
「メリー・クリスマス!」
「!?」
ふぉっふぉっふぉっと笑い声と共にゆっくりと去っていく老紳士の黒服が
一瞬、ふわふわの白に縁取られた赤い服に見えた様な気がした
一瞬、ふわふわの白に縁取られた赤い服に見えた様な気がした
『例えば、そう……正義は赤と決まっておるじゃろ?』
学生によって即座に否定されというくだりを話していた時
残念そうな表情をした老紳士を思い出す
残念そうな表情をした老紳士を思い出す
「そっか……サンタクロース?」
呆然と見送る少年の肩をそっと叩く感触
振り向く少年
振り向く少年
「サンタクロースがどうしたんだい?」
「あ……お帰り……」
「ただいま」
「あ……お帰り……」
「ただいま」
少年が老紳士の去って行った道へ視線を戻すと
そこにはアスファルトの路面が遠くまで伸びているだけである
そこにはアスファルトの路面が遠くまで伸びているだけである
「あのさ、サンタクロースっていつ来るんだっけ?」
「クリスマス・イヴだろうねえ」
「クリスマス・イヴだろうねえ」
どうかしたのかとでも言う様な顔で、応える中年の男性
「だよね……」
「ふむ……クリスマスというのは、キリストの誕生日だということは知っているだろう?」
「うん」
「だけれども、キリストの本当の誕生日は不明なんだそうだよ」
「へぇ~」
「4月から9月のどこかという説が有力らしい」
「ふぅ~ん」
「だから、サンタさんが来てくれるのは12月24日とは限らないのかもしれないな」
「ふむ……クリスマスというのは、キリストの誕生日だということは知っているだろう?」
「うん」
「だけれども、キリストの本当の誕生日は不明なんだそうだよ」
「へぇ~」
「4月から9月のどこかという説が有力らしい」
「ふぅ~ん」
「だから、サンタさんが来てくれるのは12月24日とは限らないのかもしれないな」
そう言って、ぽんぽんと少年の頭に手をやる
中年男性は穏やかに微笑むと、ドアへと向かう
その白いYシャツを着た背中と、昔見た学生の白いYシャツ姿が重なる
中年男性は穏やかに微笑むと、ドアへと向かう
その白いYシャツを着た背中と、昔見た学生の白いYシャツ姿が重なる
身体がじんわりと熱くなる
「あ、そうだ……話は変わるけど」
「ん?何だい?」
「ん?何だい?」
振り向く中年の男
「ヒーローの色って何色だと思う?」
「ヒーローの色?」
「うん」
「……そうだなぁ」
「やっぱり、赤かな?」
「……いや、緑だな」
「緑かぁ……」
「ああ、深い緑色だ」
「深い緑色……ふかみどり……深緑……しん……深緑」
「そうだな、深緑のボディーに赤いマフラーがヒーローだ」
「ヒーローの色?」
「うん」
「……そうだなぁ」
「やっぱり、赤かな?」
「……いや、緑だな」
「緑かぁ……」
「ああ、深い緑色だ」
「深い緑色……ふかみどり……深緑……しん……深緑」
「そうだな、深緑のボディーに赤いマフラーがヒーローだ」
子供の様なハニカミがこぼれる
あの時の子供を助けた学生
『学生の頃に溺れていた子を助けた事があるか』
そう訊けばハッキリする
けれど、訊きはしない
けれど、訊きはしない
これは少年へのプレゼントだ
今はまだ、自分の中だけにそっと仕舞っておく、大切に、大切に
今はまだ、自分の中だけにそっと仕舞っておく、大切に、大切に
「さて、中に入ろうか」
「うん」
「うん」
カラン・コロン……カラン・コロン……
ドアに付いた、来客を告げる為のベルが鳴る
「……ありがとう……父さん」
あの頃は、思い浮かびもしなかった言葉
ベルの音に紛れる様に言った言葉は、届かない
ベルの音に紛れる様に言った言葉は、届かない
「ん?なんだって?輪」
「何でもないよ、マスター」
「何でもないよ、マスター」
窓ガラスから差し込む夕暮れ色は柔らかく
季節外れのクリスマスは、途切れ途切れの時を繋げ
どこか夢の中の出来事の様な贈り物を少年に与える
どこか夢の中の出来事の様な贈り物を少年に与える
季節は春
今、全てが暖かく
輝いていた
今、全てが暖かく
輝いていた
─ fin. ─