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連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-25

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クリスマス~メリー苦しみます


 クリスマス。
 それは神の子、イエス・キリストの誕生日であり、大部分の日本人にとっては、家族の団欒や恋人たちの語らい、無償でプレゼントがもらえることで名高い日。
 それは我が家においても例外ではなく、住人四人全員が仲良く部屋の中央に置かれた卓袱台を囲み、その上に並べられた数々のご馳走に目を輝かせている。
 部屋の隅に配置されたクリスマスツリーやぶら下げられた靴下がいかにもクリスマス! という雰囲気を醸し出し、それぞれプレゼントの準備も完璧。
 クリスマスという日を過ごすのにこれ以上はないだろうという環境だ。
 こっちとしても、七面鳥……は無理だったけど、フライドチキンや何種類ものプディング、さらにはクリスマスの主役とも言えるクリスマスケーキなどを盛大に腕を振るって作れたので、ものすごく充実していた。
 …………そう、していた。過去形だ。
 今となってはもう、このクリスマスという日を恨んですらいる。
 シャンメリーを準備するのを忘れていたことに気付き、冷蔵庫から取り出そうと立ち上がった瞬間、一斉に向けられた粘着質な視線に、思わず服の裾を下に向けて引っ張る。
 精一杯の抵抗として卓袱台を囲む三人を睨み付けてみるが、

「なんですか、少年? そんな目をウルウルさせてしまって……可愛いですね」

 効果なし。それどころか、しっかり反撃までされる。
 いよいよもって情けないけれど、口で勝てないのは百も承知だ。
 耐えればきっと無事に終わる。
 半ば祈るようにそう考え、当初の目的を果たすために大人しく冷蔵庫へ向かう。
 いろんな食材が入るようにと思って買った大きな冷蔵庫の、これまた大きな扉を開け、冷やしておいたシャンメリーを中から取り出して同居人たちが待つ卓袱台へ。
 卓袱台の中央にシャンメリーを置き、こっちの座っていた場所に戻ったところで、その呟きは耳に入った。

「……パンチラ、ゲット」

 小さな、でも聴かなかったことにするには大きすぎるという絶妙な音量で呟かれたその一言に、一気に精神が削られる。
 ……うん、もう、いいよね。
 我慢しなくても、いいよね………?

「……ねえ。ちょーっと、訊いていい?」
「…なに、お兄さん? …クイ、お腹空いた」

 今にも叫び出したいのを必死に抑えて切り出すと、即座にクイちゃんがそうのたまってくれた。

「うん、そうだね、お腹空いたね。でもその前に、一つだけ言っておきたいことがあるんだよ」

 こっちだってお腹減ってるさ、せっかく頑張って料理作ったんだから早く食べてもらいたいさ!
 でもその前に、これだけは言っておかないと気が済まない!

「全く……少年はしょうがない子ですね。いいでしょう。聴いてあげます」

 そしらぬ顔で、しかも上から目線でそう言ってくれたトバさん。
 ………いったい、誰のせいでこうなってると思ってるのか……!

「ありがとう。じゃあ訊かせてもらうけど……なんで、こっちは、こんな格好してるのかな?」

 叫びたいのをこらえ、あくまで冷静に、落ち着いて質問する。
 三人が口を揃えて即答した。

「「「クリスマスだから」」」
「ふざけんなー!」

 ああ、もう我慢できない!

「クリスマスだからサンタ、まあそれは理解できるさ! だからって、だからって………!」

 まだ普通のサンタ服だったら、男物のサンタ服だったならよかったのに。
 よりによって………!

「なんで女物の、しかもミニスカートのサンタ服着せられてるの!?」
「一応それもサンタ服の一つデショウ。何がそんなに気に入らないんデスカ」
「全部だー!」

そう。
 今こっちは、ミニスカのサンタ服を着せられている。
 上着とスカートが一体になったワンピース型のサンタ服。
 長い金髪のカツラ―――ウィッグというらしいけど、こっちには違いがよくわからない―――を被らされて、目には青いカラーコンタクト。
 これらはトバさんの「サンタといえば白人。つまりパツキンが王道です」という意味不明のこだわりによるものだ。
 首には、鈴付きの首輪。
 最近身に付け始めたおじいちゃんからもらったお守りは、その鈴の中に詰め込められている。………バチとか、当たらないだろうか。
 それで、なによりもキツいのが……肝心のスカート。
 ミニはミニと言っても、膝上何センチとかそんな生易しいレベルの代物じゃない。
 むしろ腰から数えた方がいいくらいの長さで、本当にお尻が隠れるか隠れないかというくらいだ。
 当然中身なんかすぐ見えてしまうわけで、女装の時は下着も女物のを穿かされているわけで、つまりものすごく恥ずかしいわけで………!

「あのさ、もうちょっとさ、こう……せめて、スカートの長さだけでもなんとかならなかったかなあ!?」
「それは仕方ないデショウ。スポンサーの意向デスシ」
「うっ!」

 スポンサー、イコール我が母君。
 なぜそんなことになっているかというと、《夢の国》騒動から一ヶ月という約束だった女装の罰ゲームが、未だに終わっていないということに原因がある。
 マッドガッサーさんのガスのお陰で、ダメージを抑えつつやり過ごしたはずのその罰ゲームは、母さんの「女体化で罰ゲームやり過ごせると思ったの? 馬鹿なの? ペナルティとして誕生日まで引き続き女装するの?」というお言葉によって、期間延長が確定したのだ。
 ………ちなみに、こっちの誕生日は、一月。年越しを女装して過ごすことに、なる………・・・憂鬱、だなあ。
 ………一気にテンションが下がったけれど、今大切なのは、未来に待っている危機じゃなくて目の前にある危機のはずだ!
 そうやって心を奮い立たせて口を開き、

「ちょっと言わせてもr 「まあでも、お母様の言葉に逆らったら私達は一文無しになってしまいますしね」
「…お兄さんは優しいから、クイたちを家なき子になんかしない」
「家族のために自らの羞恥心を全て捨て去ル。素晴らしい自己犠牲の精神デスネ! で、何デスカ?」 ―――イエ、ナンデモナイデス、ハイ………」

 そこから三人に向けられるはずだった文句は、声に出されることなく飲み込まれた。
 ………確かに、実際問題、衣食住を人質にとられてるけど。
 でも、それを進んで利用して反論への盾にするって、反則じゃないだろうか。
 それとも、そう思うこっちがおかしいの?
 相手側が多数なせいで、自信がなくなってくる……。

「………まあいいや、もう」

 たとえなにがどうなっても、こっちがこの服装でいるのは揺るがないんだろう。
 そう悟って、こっちは反抗するのを諦める。
 実害も……なくはないけど、まあいつものことではある。

「む、少年。もう用件は済みましたか? だったら早く、シャンメリーを注いでください」
「うん、わかった。もういいよ……」

 反抗の意思を失ったのを目ざとく見つけられ、さらに顎で使われる。
 まあ、別にいいんだけどね……。
 大人しくシャンメリーの蓋を開け、それぞれのコップに注ぎ始めるこっちをよそに、トバさんたち三人はキャイキャイ元気に騒いでいる。
 メルヘンちゃんも、もうすっかり溶け込めたようでなによりだ―――欲を言うならもうちょっと、こっちに優しくなってもらいたかったけど。
 そんな三人の今の話題は、"次はどんな格好をこっちにさせるか"。
 …………もう、どうにでもしてください。
 スク水がどうだとか、チャイナがどうだとか。
 いまいち理解できない、けれどなんとなく耳を塞ぎたくなる会話の中、ふとクイちゃんが呟いた。

「…そういえばお兄さんは、一回本当の女の子になってみて、どうだった?」

 いきなり話を振られ、少し戸惑いながら答える。

「え、どう、って言われても………」
「…なんでも、いいから」

 なぜか食いついてくるクイちゃん。
 さらに、残りの二人もそれに同調しだす。

「ワタシも訊いてみたいデス。今その格好してるのと、どう違いマシタか?」
「私もそれには興味がありますね。ほらほら少年。大人しく吐きなさい」

 なんでこの人たち、こんなノリノリなの?
 違い、かあ。違いって言ったら―――

「まず、目線?」
「まあ、身長が30センチ近く違いましたしね」
「それと、手足のリーチ」
「…身体が小さくなってるんだから、当然」
「あとは、あとは………」
「あとは?」

 うーんと、なにがあったかな―――って、そうだ!

「肩が凝った!」
「イヤミですか、ブチ殺しますよ」
「なんで!?」

 和気あいあいとした空気が一瞬で殺意に溢れる。
 ………って、なんで!? なんでこんな空気になってるの!?

「ねえ、少年?」
「は、はい!」

 怖いんですけど!
 なんかトバさんがものすごい怖いんですけど!
 恐怖に負け、瞬時に正座するこっち。

「肩が凝った、と言いましたよね?」
「はい! も、申しました!」
「それは、アレですか? 肩が凝るほどの胸がない、私への当てつけですか? そうなんですよね? それ以外にありませんよね?」

 なんでそうなるの!?
 っていうか、胸ってそんなに大事なの?
 まったくわかんないんだけど!

「い、いえ、そんなことは………」
「へーえ。へーーーえ。あんな馬鹿みたいな胸ぶら下げといて、そんなことを抜かしますか。このバカチチ少年!」
「ば、バカチチ少年ってなに!? ていうか、胸って確かただの脂肪でしょ? そんな気にしなくても……」

 そう口にして、気づいた。
 なんだか、恐ろしく空気が静かなことに。
 恐る恐る周りを見回す。
 目に映るのは、三人の無表情な顔。
 ………え? もしかして、やっちゃった………?

「……胸なんか、ただの脂肪の固まりですって。面白い言い種だと思いませんか?」
「そう、デスネ。面白いと思いマス―――世界中の貧乳の女性からしたら、呪い殺したくなるくらいに。……で、どうしマス?」
「…外に、放置。…今すぐに、明日まで」
「え? え? え!?」

 な、なに? なんでそうなるの?
 別に言ってること、間違ってないよね!?
 混乱するこっちをよそに、三人娘はテキパキとナニかの用意をし始めた。
 対してこっちは本能的に、少しずつ後退りをし始める。
 が、

「しょーうねん♪」
「ひぃっ!?」

 後ろから、腕の動きを封じるような体勢で抱き締められる。
 言葉だけなら、ご機嫌なようにも聞こえるけれど………腕の力の入り具合でわかる。これは本気だ。

「…今夜は、ここからが本番」

 目の前に、クイちゃんが立ち塞がる。あどけない笑顔はとても可愛いけど、その手に持ったガムテープは、いったいどうやって使うのかな?

「安心してくだサイ。料理は美味しく食べてあげマスし、アナタの分は持たせてあげマスから」

 傍に寄ってくるメルヘンちゃん。手に持ってるリボン、どうするの? なんか人を縛れそうなくらい長いんだけど。

「…………これは全部冗談で、今夜はハッピーメリークリスマース! っていう、オチは?」
「「「ありません」」」
「ですよねー!! って痛い痛いやめてちょっ、いやーーー!?」

 ―――拝啓。存在するかどうかよくわかんないサンタ様へ。
 クリスマスという日は、世間一般では子供に夢を与える日ではないのでしょうか?
 それとも、あなたの基準では15歳は子供とは言わないのですか?
 それなら納得です。
 こっちは、別におっきなプレゼントがほしいなんて言いません。
 いいませんから―――せめて、今日くらいは、やすらぎがほしかったです、まる。



「………むぅ。中々いい場所がありませんね」

 思わず殺意が溢れてしまう、そんな少年の爆弾発言の後。
 私は肩に"荷物"を担ぎ、聖夜に浮かれる学校町を駆け抜けていました。

「もぐがむごむがー!」

 "荷物"が耳元で叫びます。
 えーと、『だれが荷物だー!』といったあたりですかね?
 全く、"荷物"の分際でうるさいことです。

「むぐが!? むぐがもぐごもぐもご!?」

 今のは『なんで!?なんでさらに追い討ち!?』ですね。
 お分かりの通り、私の担いでいる"荷物"というのは少年のことです。
 ですが、手足をリボンで縛られ、口をガムテープで止められたその姿は、荷物と呼んで差し支えないと思いますね。
 尚もむぐもぐと文句を言う少年に、私は優しく答えます。

「口は災いの元だから、ですよ。ああ、それと、無知は罪、というのもありますか」
「むぐむんぐ………」

 バタバタと暴れていた身体をだらんと弛緩させ、少年は私の肩の上で干された布団のようになりました。
 今度は………『理不尽だ………』でしょうかね?
 ガムテープ越しの少年の言葉にも、どうやら慣れてきたようです。
 それにしても、少年の落ち込みっぷりが酷いですが……まあそれのお陰で、限りなくパンモロに近いミニスカ姿を色々な人に目撃されていることを忘れられているので、助かってはいるのでしょう。
 私もあえてそれは指摘しません。
 武士の情けというやつです……というのは冗談で、いずれそのあたりをツッコまれて涙目になる少年を見たいだけだったりします。
 我ながらいい性格してますね。
 そんな楽しみもあるのですが、今最も重要なのは、少年を放置する場所でしょう。
 最低限の安全は確保してあげないといけないので、場所の選定は大切です。
 今のところ私の脳内にある候補について、少年に訊いてみたいと思います。

「少年。私としては交番の前に放置とか、駅前のクリスマスツリーの飾りの一つになるとかがいいと思うんですが……どうですか?」
「むがーーっ!? もぐむがが、もぐむががもごっ!?」

 ………ああ、いいですね、この必死な感じ。
 背筋がゾクゾクしちゃいます。
 ちなみに今のは、『いやーーっ!? それだけは、それだけはダメっ!?』でした。
 涙目で首をブンブンと振る少年の姿は、中々にそそります。元から肌が白いですから、今の姿はエロいサンタのコスプレをした白人美少女にしか見えませんし。
 そんなことを考えながら人気のない路地を走っていると、

「―――っ!?」
「きゃっ!?」

 路地の曲がり角で二人の女の子と鉢合わせてしまいました。
 同じ顔をした、三つ編みとツーテールの女の子。
 かなりのスピードを出していたせいで止まることができず、咄嗟に跳んでかわします。

「っ……だ、大丈夫でしたか!?」
 少年を地べたに放り出し、(「むぐっ!?」)慌てて女の子達の元へと近づきます。
 私がいきなり猛スピードで飛び出してきたせいで、二人とも転んでしまっていました。
 手を伸ばし、女の子達が立ち上がるのを手助けします。

「う……だ、大丈夫であります。少し、驚いただけでありますから……」
「本当にすいません。私が飛び出したばかりに……」
「いえ、こちらこそ注意が足りませんでした……申し訳ありません」

 私が頭を下げると、女の子達もつられるようにしてペコペコと頭を下げてくれます。
 こういう場合、危険な速度で走っていた私の方が悪いと思うのですが………気立てのいいお嬢さん達ですね。
 お互いに謝罪をしながら頭を下げあう私と女の子達を、少年が地面に転がったまま見ていました。

 そして少し時間が経ち、いきなりのことに混乱気味になっていた頭が元に戻ったころ。
 やっと落ち着きを取り戻した私と女の子達は軽い自己紹介を交わし、ちょっとした雑談に興じていました。

「へえ、お二方は今日、学校町にやって来たばかりなんですか。………色々と、戸惑うこともあったでしょうね」
「……はい。確かに、色々と戸惑ったのであります………」

 遠い目をしながら目線を空へと向ける女の子達。
 ………何となく、何があったのか理解しました。
 この世界のモラルの崩壊を感じさせるあの光景の前では、私ですら自らの正気を疑いましたから。
 秋祭りの際、少年がホームランしたマッチョマンが宙で乱舞するその様は、まるで悪夢を体現したかのようでした。
 …………そういえばついこの前、お父様が『そろそろあの禿マッチョ君に自重を促そうと思うのだよ』なんて言ってましたね。
 この街に住む一住人として、それが成功することを切に望みます。

「………この街は、こういう所ですから。ああいうことはしょっちゅうあるわけでもないですけど、滅多にないというわけでもありませんし、慣れないとやっていられませんよ?」

 この街に引っ越してきた先輩として、あまり役に立たないアドバイスを送ります。
 実際、これくらいしか対策はありませんし。
 細かいことを気にしていては、この街ではやっていけません。
 何の変哲もない女が時速100キロ越えで走っていても、特に注目されないような街ですから。

「……そうなん、でしょうね………」

 女の子達の片方、三つ編みの女の子が、地べたに転がっている少年を見ながら何かを理解したように呟きました。
 そういえば、今の少年の格好はかなりアレなものでしたね。
 そういう反応をされても仕方がありません。
 少年あなた、のんきに会釈なんかしている場合じゃありませんから。
 100%と言ってもいいくらい確実に、慣れるべき変人の一人だと思われていますよ?
 ………まあ、そんな少年を担いでいた私も含めて、でしょうが。
 そう考えながら少年の言葉の通訳をしていると、クゥ~という、可愛らしい音が鳴りました。
 女の子達が同時に、自身のお腹を押さえます。

「こ、これは別に、小官が空腹を感じているというわけではないのであります! ただ、まだ夕食を口にしていないだけでありまして……!」
「……お姉、それは全てを白状しているのと変わりません……」

 顔を真っ赤にする女の子達。
 人を探しているとも言ってましたし……これはさぞ、お腹が空いているんでしょうね。
 そう推測した私は、少年とは別の、もう一つの荷物を下ろします。
 それは、布にくるまれたバスケット。
 中には、少年が腕によりをかけて作ったクリスマスのご馳走が入っています。
 少年への嫌がらせ兼、手足を縛っているリボンをほどいてもらった時に食べられるようにと持ってきていたのですが、まさかこんなところで役に立つとは。
 念のために少年に視線を向けてみると、コクコクと首を縦に振りました。
 言質もとれたところで、バスケットをくるむ布を取り去り、女の子達へと差し出します。

「お腹が減ってるんでしたら、どうぞ。食べてくださいな」

 差し出されたバスケットを見てキョトンとしていた女の子達は、私の言葉を聞いて顔を見合わせ、

「い、いえ! た、確かに、空腹を感じていないとは言えませんが、それでもこんなものはいただけないのであります!」
「お姉の言う通りです。そんなものまでいただくわけにはいきません」

 猛烈に遠慮をしだしました。
 まあ、初対面の人にいきなり夕食を恵まれても困りますよね、普通は。

「むぐもぐっごもがもっぐむぐが、もぐむぐもぐがむぐもぐむもぐむぐむぐ」

 少年が話しますが、ガムテープ越のその言葉が女の子達に通じるはずもなく、さらなる困惑を起こさせただけとなりました。
 ……まあ、普通わかりませんよね、これ。
 むしろ私自身が何で理解できるか不思議です。

「『それ作ったのはこっちなので、おいしく食べてもらえると嬉しいです』……とのことです。この子は自分の作った料理を美味しく食べてもらえるのが生き甲斐の一つみたいな所がありますから、食べてもらえるとこちらとしても助かります」

 少年の言葉を通訳し、ついでに私からももう一押ししてみました。
 そしてとうとう、

「じゃあ、ありがたくいたたきます。本当に、ありがとうございます。……ほら、お姉も」
「感謝感激雨あられなのであります! ……正直なところ、空腹も限界に近かったのであります……」

 女の子達はバスケットを受けとってくれました。
 フライドチキンやらプディングやらローストビーフやらがたっぷりなクリスマス仕様なので、二人いても空腹くらいは満たせるでしょう。

「いえいえ、どういたしまして。ちょっとしたクリスマスプレゼントとでも思ってください。あとは………これを」

 懐からメモ帳を取りだし、ちょこちょこと書き込んだページを破いて手渡します。

「これ、私達の家の住所と電話番号です。来ていただけたら今みたいに料理くらいはご馳走できますし、人探しのお手伝いくらいはできますから。何か困ったことがあったら、何でも相談してくださいね?」

 ではこれで、と言い残し、私はその場を去ろうとします。
 すると後ろから、

「ち、ちょっと待ってください!」

 呼び止められてしまいました。
 ハードボイルドな感じで格好よく去っていくのを狙っていたのですが……中々上手くいきませんね。
 振り返り、何事なのか訊きます。

「何ですか?」
「………何故、ここまでしてくださるのですか? 私達は偶然出会っただけ、何の接点も見識もないのですよ?」
「……なるほど、確かにその通りですね」

 まあ、そう思うのが普通なのでしょうね。
 見も知らぬ相手から、無条件で受けられる好意。
 確かに、不気味なものではあります。
 ………それを不気味とも何とも思わないようなお人好しも、この世にはいますけど。
 とはいえ、何と言ったらいいものか。
 正直なところ、特に理由なんかはないんですよね。
 ふとそうしただけで、何を思ったとかそういうのは、全く。
 どう言えば完璧に納得してもらえるか。
 悩む私の耳に、少年の声が聞こえてきます。

「むぐもぐぐ、むぐもぐもがもぐもぐも? むぐもぐもむぐもががっがむが、むぐもが。むががむぐががもぐがむむぐがむぐが、もぐぐむぐもがむぐむぐぐもぐ」
「? えっと……何と……?」
「『その理由、なんとなくじゃダメですか? なんとなく助けてあげたくなったから、助けた。人がなにかを助ける理由なんて、それだけで十分だと思います』、だそうですよ?」

 ………少年らしいですね。
 特に深く考えるわけでなく、ただ"何となく"で行動する。
 その結果どうなるかはあとでいい、今はただ自分の心に従うだけ。
 簡単そうで簡単ではないんですよねそういう生き方は。
 でも―――それは、いいものではあると思います。

「つまりは、そういうことですよ。私達は何となくこうした、ただそれだけです。なので当然、お礼とかもいりませんよ? ………まあ、いつかその料理を食べた感想でも聞かせてもらえると、少年は喜ぶと思いますが」

 そう言って、今度こそ私はその場を立ち去ります。
 女の子が何か言っていた気もしますが、そんなことは気にしません。

「むぐもががー!」

 少年が『さようならー!』と叫びます。
 どうでもいいですが少年、私の最後の一言で、確実に男であることがバレましたよ?
 面白いから別にいいですが。
 一気に最高速度に達した私。
 女の子達が夜に紛れて見えなくなるのは、あっという間のことでした。


 女の子達と別れたあと―――というか、一方的に別れてきたあと。
 街を走り回っていると、何やら目立つ、大きな家を見つけました。
 家の構え―――門に書かれた『獄門寺』の文字といい、門の前に立つ強面のお兄さんといい、そっちの道の方の家なのでしょう。
 ………そういえば、少年のクラスメイトに、獄門寺君という方がいた気がしますが……もしかしたら、もしかしますかね?
 雰囲気からしても、どうやら義理人情を大切にしてそうな気もしますし、ここでいいでしょう。
 門の前に仁王立つお兄さんに見つからないよう、家の脇のあたりに少年を放ります。
 どさっと積もった雪の上に落ちた少年は、「むぐがっ!?」と声をあげました。
 『冷たっ!?』でしょうね、きっと。
 寒さにふるふると震える少年を見下ろして、私は言い放ちます。

「明日になったら迎えに来ますから、ゆっくりと反省しててください。一応、誰かに拾われてもいいよう、書き置きは残しておいてあげます」
「む? むごむが? むごむがむごもごむ!?」

 何やら訴えている少年を無視し、用意しておいた書き置きの板を傍に置きます。
 その板に書かれた言葉は、『あんなコトやこんなコト、ご自由にどうぞ(はぁと)』。
 …………これは酷い。
 少年が『え? ほんとに? ホントにおいてくの!?』と言いたくなる気持ちもわかりますね。

「まあ、少年。何事も為せば成ります。きっと大丈夫ですから、頑張ってくださいね?」

 そう言い残し、私は帰路につきました―――後ろから響いてくる少年の悲痛な叫びを、聞いた上で無視しながら。

 …なめくさったことを言ってくれたお兄さんをふんじばり、モゴモゴ言うのを無視してお姉さんが連れていって、しばらくたった。
 目の前にあるプディングを一口、パクリと食べる。
 しっかりとした味わいが充満し、口の中でお肉の旨味が溶けていった。

「…おいしい」

 ポツリと、呟く。
 お兄さんはきっと、こう言ってもらえるのを楽しみにして、頑張って料理を作ってくれたんだろう。
 なのに、一時のノリであんなことをしてしまって……少し、申しわけない気もする。
 メルヘンちゃんも同じようなことを考えているようで、いつもより元気がないように見えた。

「ただいま、お待たせしました」

 そんな沈んだ雰囲気の中、お姉さんが帰ってきた。
 着込んでいたコートを脱ぎ、部屋の中に入ってくる。

「ミッションはコンプリートですよ………って、なんですかこの沈んだ空気!」

 驚いた声をあげるお姉さん。
 帰ってきていきなり沈んだ空気の中に突入しちゃったんだから、無理もないことなのかな。

「…お帰りなさい、お姉さん」
「お帰りナサイ。どこに捨ててきマシタか?」

 ストレートに訊くメルヘンちゃん。
 ……さすがに、"捨ててくる"というのはどうかと思った。

「…メルヘンちゃん。…お兄さんはゴミじゃない」
「あ、そうデシタね」

 小さく注意すると、すんなりと聞いてもらえた。
 もちろん、最初から本気だとは思ってないけど。

「では、改めマシテ。どこに置いてきマシタか?」
「街中を色々回りましたけど、最終的には東区のでっかい家の脇にしました」
「…危なく、ない?」

 ノッてしまったとはいえ、お兄さんのことは大切だ。
 怪我とかは、してほしくない。

「きっと大丈夫です。何か見るからに"極道"って感じの家でしたから。仁義とかそんな感じで、保護してもらえるんじゃないですか?」

 ……よかった。
 こんなことをしてはいても、クイはお兄さんのことが大好きだ。
 だから、ホッと、安心する。

「そういえば、一緒に持っていった料理はどうしマシタ? 今は中身ないみたいデスけど」

 言われてみれば、家を出るときに持っていったはずの、お兄さん用の料理の入った袋が空になっていた。
 どうしたんだろう?
 街中を回ってきたんなら、そんな時間はないと思うんだけど……。
 そう不思議に思っていると、

「ああ、それですか? 今日はクリスマスですからね。プレゼントしてきましたよ」
「…プレゼント?」
「そう、プレゼントです」

 詳しいことは秘密ですけど、と可笑しそうに微笑むお姉さん。
 ……よくわからないけれど、いいことがあったみたいだ。
 それだけで、なんだかほんわかした気分になる。

「それで、なんですけど。どうせ少年は今日帰ってきませんし、先に少年からのクリスマスプレゼントを見てしまおうと思います!」

 みんなしてほんわかした気分に浸っていた中、いきなりお姉さんがそんなことを言い出した。
 そ、それは、止めた方がいいような……?
 クイはそう思ったけれど、問答無用でお兄さんの用意したプレゼントの包みを破り始めるお姉さん。

「い、いいんデスカ!? 流石にそれは、ルール違反なような………?」

 メルヘンちゃんの制止も無視し、お姉さんはとうとう全ての包みを開けてしまった。
 そのなかに入っていたのは、

「…セーターと、手紙?」

 三人分のセーター……それぞれサイズもピッタリで、お兄さんの性格からして、多分手縫い。
 それだけでもなんとなく、暖かみが感じられるような気がする。
 そしてもう一つのプレゼント、手紙の内容は―――

『えーと、手紙なんかあまり書かないので、いまいちどう書けばいいのかわかりません。でもとりあえず、普段顔を合わせている時には恥ずかしくて言えないことを、ここに書かせてもらおうと思います。
 ―――まず、メルヘンちゃん。あなたと初めて会った時は敵同士で、大変そうだなと思ったけれど……無事に馴染んでくれて、よかったです。あの時よりも表情も柔らかくなって、ずっとずっと可愛くなったと思います。これからも家族の一員として、ずっと一緒にいてください。
 ―――次に、クイちゃん。あなたとは、出会ってこれで二年ほどになりますか。感情も豊かになって、元気になって…………そんなあなたの姿に、とても癒されました。もっともっとわがまま言って、甘えてくれると嬉しいです。これからもずっと大切にして、幸せにしてあげるので、覚悟しておいてください。
 ―――そして、トバさん。あなたには、どれだけお礼を言っても足りません。あなたは、命の恩人でもあり、保護者でもあり、親友でもあります。あなたの温もりに、どれだけ救われたか。あなたがいなければ、今のこっちはないと言い切れます。この貯まりに貯まった借りを全て返すまでは絶対に離してやらないので、諦めていつまでも借りを返されててください。
 最後に、三人ともに心からの感謝を。ありがとう、本当にありがとう。このセーターは、せめてもの気持ちです。では―――メリークリスマス!』

「…………こ、これは………」
「……グス………」
「こ、こんなものでは、ワタシは、泣きませ―――ひっく」

 予想を遥かに飛び越えて、恥ずかしい上に感動的な、手紙だった。
 ものすごく恥ずかしいのに、なぜか涙が止まらない。
 それは、他の二人も同じのようだ。

 ―――結局、みんなが落ち着くには、かなりの時間が必要だった。
 静かになった中、お姉さんが口を開く。

「……クイちゃん、メルヘンちゃん」
「…なに」
「…なんデスカ」
「………明日になったら、大掃除でもしましょうか」
「もちろんデス」
「…できることなら、なんでもする」

 ―――今日、この日はクリスマス。
 聖夜と呼ばれる、めでたい日。
 今夜、クイたち家族がもらったプレゼントは―――なににも負けない、素敵なものでした。



 ――― 一方その頃女装少年。

「む、むぐがもごがー! むぐがむぐもぐごむぐむぐもごがもが、むぐもぐむぐもがー! もがむごもごむ! む、むぐが、もぐが………っも、むがあぁぁ!? む、むぐむぐもぐぐも!? むぐがっ、もっ、もぐががむぐっぐ! も、もぐむががー!? むぐが、むぐがもぐががー!?」
『ご、ごめんなさいー! なにが悪かったのかわからないけど、謝りますからー! ていうか寒い! か、風が、雪が………って、ひゃあぁぁ!? み、水染み込んでる!? 冷たっ、ちょっ、雪溶けてるって! こ、凍え死ぬー!? だれか、だれか助けてーーー!!』



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