ドクター31
綺麗な満月が浮かぶ真夜中に、今は打ち捨てられた廃屋となった教会があった
その時間には不釣合いな幼い少女が、大きなバスケットの重さにふらつきながら、重い扉を背中で押し開く
「遅くなって御免なさい」
少女が申し訳なさそうに呟くと、明かりの無い礼拝堂の中に爛々と輝く目がいくつも浮かび上がる
「いつも悪いなぁ、嬢ちゃん」
身体にぐるぐると包帯を巻いたミイラ男、ではなく狼男
「喰うもの喰わずじゃ力も出ない。身体も上手く治せないときたものだわ」
黒衣の女吸血鬼もまた、同じようにあちこちが包帯だらけだ
「契約者でもいりゃあ随分と違うんだがなぁ。組織のハンターに追われても戦えるし、傷の治りも早いんだが」
「欧州じゃ、あたしらみたいな古来の伝承と契約しようなんて物好きはいないさね」
「弱点丸わかりな上に、力の発展性もあんまり無ぇからな」
ぼやき混じりの二人の会話を、少女は不安げな顔で見詰めている
「お兄さんやお姉さんは、悪い事はしてないのに、どうして?」
「まあ世間一般での悪い事の定義にゃ触れてないんだがね。日雇いの浮浪者が悪だと言われりゃそれまでだが」
「野山で野生動物狩って食べるのが罪とか言われたら困るわね。猟師のテリトリーは侵した事は無いはずなんだけど」
「まあアレだ、存在自体が罪ってヤツか? そりゃまあしょうがないさ、俺達は『そういうもの』という認識だからこそ生まれる事ができたわけだからな」
「今更だけれど、お嬢さんはあたしらみたいな化物が怖くないのかしら?」
意地悪そうな笑みを浮かべる女吸血鬼に、少女は首を傾げる
「お兄さんやお姉さんは私に酷い事をするの?」
「いやまあするつもりは無いがね。俺らに会った人間は、普通は逃げるか殺しに来るかだぜ、老若男女問わずな」
「民族も人種も善悪を評価する材料にはならないってお父さんが言ってた。見るべきはその個人がやってきた事だって」
少女はバスケットから包帯と消毒液を取り出して、二人の包帯をてきぱきと替えていく
「どんな立場の相手でも、怪我や病気の人は助けるべきだと思うの。それを受け入れてくれるから、お兄さん達は私に手当てをさせてくれているんでしょう?」
「そうやって取り入って、身体が治った俺らが町の連中を喰い殺して回ったらどうすんだ?」
「そういう目的なら、最初からそんな事は聞かないと思うの」
「そこまで見越しての質問だったらどうするんだい? もしかしたらお嬢さんの機転を計ってるのかもしれないわよ?」
「私は信じてるもの」
少女は明るい微笑を浮かべ、二人を見詰める
「それに、信じないで助けられないで後悔したら-1と-1で-2だけど、信じて裏切られて後悔したら+1と-1で±0でしょ?」
その言葉に、女吸血鬼と狼男は顔を見合わせ、同時に派手な笑い声を上げる
「計算おかしいって嬢ちゃん! いやまあそういうの大好きだけどな!」
「理屈のつもりなんでしょうけど、理屈になってないわよ。ああもう可愛いわねぇ」
女吸血鬼に抱き締められ、その胸に埋もれながらじたばたと暴れる少女
「もー、そんな事ばっかり言ってたら、お弁当持って帰っちゃうからね!」
「おおう、すまんすまん。意地悪で言ってたわけじゃねぇんだが」
「そうそう、あんまりにも素直で可愛いからいとおしくなっちゃって」
ぷうと頬を膨らませながらも、少女はバスケットの中からサンドイッチやソーセージ、サラダの入ったランチボックスを取り出す
「朝に取りに来るから、食べ終わったら置いといてね」
「おうよ、本当にいつも済まんな」
「ご飯が食べれないのは本当に辛いもの。ちゃんと食べてしっかり身体を治してね」
少女はそう言って、お昼に置いていった空になったランチボックスをバスケットに詰め、手を振りながら礼拝堂を後にした
「しっかしまあ、本当に良い子だなぁ」
「契約を持ちかけるのを躊躇っちゃうぐらい良い子だわねぇ」
「医術の心得も確かだ。医者として大成するだろうし、闇の世界に引っ張り込むにゃあ勿体無い」
「あたしら化物相手じゃ、人間の医術はあまり役に立たないでしょうしねぇ」
「人間の薬の類も効く効かないがあるしな。俺達との出会いは一時の夢だと思ってもらわんとな」
「そうねぇ……さて、あたしは完治まであと2~3日といったところだけど」
「俺もそんなとこだ。また顔の知られてない、できりゃあハンター抱えた組織の居ない土地を探さんとな」
「あたしはまた山奥に引き篭もりかしらねぇ……ここしばらく優しくされてたから、寂しさに耐えられるかしら」
その時間には不釣合いな幼い少女が、大きなバスケットの重さにふらつきながら、重い扉を背中で押し開く
「遅くなって御免なさい」
少女が申し訳なさそうに呟くと、明かりの無い礼拝堂の中に爛々と輝く目がいくつも浮かび上がる
「いつも悪いなぁ、嬢ちゃん」
身体にぐるぐると包帯を巻いたミイラ男、ではなく狼男
「喰うもの喰わずじゃ力も出ない。身体も上手く治せないときたものだわ」
黒衣の女吸血鬼もまた、同じようにあちこちが包帯だらけだ
「契約者でもいりゃあ随分と違うんだがなぁ。組織のハンターに追われても戦えるし、傷の治りも早いんだが」
「欧州じゃ、あたしらみたいな古来の伝承と契約しようなんて物好きはいないさね」
「弱点丸わかりな上に、力の発展性もあんまり無ぇからな」
ぼやき混じりの二人の会話を、少女は不安げな顔で見詰めている
「お兄さんやお姉さんは、悪い事はしてないのに、どうして?」
「まあ世間一般での悪い事の定義にゃ触れてないんだがね。日雇いの浮浪者が悪だと言われりゃそれまでだが」
「野山で野生動物狩って食べるのが罪とか言われたら困るわね。猟師のテリトリーは侵した事は無いはずなんだけど」
「まあアレだ、存在自体が罪ってヤツか? そりゃまあしょうがないさ、俺達は『そういうもの』という認識だからこそ生まれる事ができたわけだからな」
「今更だけれど、お嬢さんはあたしらみたいな化物が怖くないのかしら?」
意地悪そうな笑みを浮かべる女吸血鬼に、少女は首を傾げる
「お兄さんやお姉さんは私に酷い事をするの?」
「いやまあするつもりは無いがね。俺らに会った人間は、普通は逃げるか殺しに来るかだぜ、老若男女問わずな」
「民族も人種も善悪を評価する材料にはならないってお父さんが言ってた。見るべきはその個人がやってきた事だって」
少女はバスケットから包帯と消毒液を取り出して、二人の包帯をてきぱきと替えていく
「どんな立場の相手でも、怪我や病気の人は助けるべきだと思うの。それを受け入れてくれるから、お兄さん達は私に手当てをさせてくれているんでしょう?」
「そうやって取り入って、身体が治った俺らが町の連中を喰い殺して回ったらどうすんだ?」
「そういう目的なら、最初からそんな事は聞かないと思うの」
「そこまで見越しての質問だったらどうするんだい? もしかしたらお嬢さんの機転を計ってるのかもしれないわよ?」
「私は信じてるもの」
少女は明るい微笑を浮かべ、二人を見詰める
「それに、信じないで助けられないで後悔したら-1と-1で-2だけど、信じて裏切られて後悔したら+1と-1で±0でしょ?」
その言葉に、女吸血鬼と狼男は顔を見合わせ、同時に派手な笑い声を上げる
「計算おかしいって嬢ちゃん! いやまあそういうの大好きだけどな!」
「理屈のつもりなんでしょうけど、理屈になってないわよ。ああもう可愛いわねぇ」
女吸血鬼に抱き締められ、その胸に埋もれながらじたばたと暴れる少女
「もー、そんな事ばっかり言ってたら、お弁当持って帰っちゃうからね!」
「おおう、すまんすまん。意地悪で言ってたわけじゃねぇんだが」
「そうそう、あんまりにも素直で可愛いからいとおしくなっちゃって」
ぷうと頬を膨らませながらも、少女はバスケットの中からサンドイッチやソーセージ、サラダの入ったランチボックスを取り出す
「朝に取りに来るから、食べ終わったら置いといてね」
「おうよ、本当にいつも済まんな」
「ご飯が食べれないのは本当に辛いもの。ちゃんと食べてしっかり身体を治してね」
少女はそう言って、お昼に置いていった空になったランチボックスをバスケットに詰め、手を振りながら礼拝堂を後にした
「しっかしまあ、本当に良い子だなぁ」
「契約を持ちかけるのを躊躇っちゃうぐらい良い子だわねぇ」
「医術の心得も確かだ。医者として大成するだろうし、闇の世界に引っ張り込むにゃあ勿体無い」
「あたしら化物相手じゃ、人間の医術はあまり役に立たないでしょうしねぇ」
「人間の薬の類も効く効かないがあるしな。俺達との出会いは一時の夢だと思ってもらわんとな」
「そうねぇ……さて、あたしは完治まであと2~3日といったところだけど」
「俺もそんなとこだ。また顔の知られてない、できりゃあハンター抱えた組織の居ない土地を探さんとな」
「あたしはまた山奥に引き篭もりかしらねぇ……ここしばらく優しくされてたから、寂しさに耐えられるかしら」
―――
翌日
朝食を携えて教会へ向かう少女を、数台の黒い車が追い越していった
その方向には彼女が通う教会があり、またそれ以外のものは何も無い
少女はすぐに状況を理解し、その上で教会へ向かって駆け出した
朝食を携えて教会へ向かう少女を、数台の黒い車が追い越していった
その方向には彼女が通う教会があり、またそれ以外のものは何も無い
少女はすぐに状況を理解し、その上で教会へ向かって駆け出した
―――
「あー、お前らもしつこいね」
「ホントよねぇ、何処の組織か判りにくいから黒服って嫌いよ」
ずらりと並ぶ黒服は、手にそれぞれ銃器を構えている
「弾丸、やっぱ銀製かね」
「そうでない理由は無いわよねぇ」
半円に広がった黒服達は、無言で銃口を二人に向ける
「朝になっちゃったし、あたしは逃げれそうにないわ。あなただけでも逃がしてあげましょうか?」
「お前を見捨てて逃げたら、あの子に泣かれそうだ」
「二人ともくたばったら、もっと泣かれるんじゃない?」
「調子良く二人とも生き延びれるか、こいつらが綺麗さっぱり片付けてくれるか、どっちかに期待だ」
「そう、出来れば前者がいいわねぇ」
赤い瞳が、爛と輝く
「一丁、気張るとするかい」
筋肉が膨れ上がり、黄金色の体毛が全身を覆う
咆哮と
銃声が
朝日が射し込む教会に響き渡った
「ホントよねぇ、何処の組織か判りにくいから黒服って嫌いよ」
ずらりと並ぶ黒服は、手にそれぞれ銃器を構えている
「弾丸、やっぱ銀製かね」
「そうでない理由は無いわよねぇ」
半円に広がった黒服達は、無言で銃口を二人に向ける
「朝になっちゃったし、あたしは逃げれそうにないわ。あなただけでも逃がしてあげましょうか?」
「お前を見捨てて逃げたら、あの子に泣かれそうだ」
「二人ともくたばったら、もっと泣かれるんじゃない?」
「調子良く二人とも生き延びれるか、こいつらが綺麗さっぱり片付けてくれるか、どっちかに期待だ」
「そう、出来れば前者がいいわねぇ」
赤い瞳が、爛と輝く
「一丁、気張るとするかい」
筋肉が膨れ上がり、黄金色の体毛が全身を覆う
咆哮と
銃声が
朝日が射し込む教会に響き渡った
―――
耳に届いた咆哮の意味を、少女はすぐに悟る
来てはいけない
だというのに、少女はその足を止める事は無かった
あの二人は自分が処置を施した患者なのだ
危機が訪れたのならば守らなければいけない
細い少女の足が、小さな少女の心臓が、限界を無視して必死に動き続ける
そんな彼女の必死さを打ち砕くように響き渡る、爆炎と轟音
空を見れば、教会のある方角に立ち昇る黒煙が見える
「……やだ」
少女は足を止めない
「助けるんだもの……絶対!」
来てはいけない
だというのに、少女はその足を止める事は無かった
あの二人は自分が処置を施した患者なのだ
危機が訪れたのならば守らなければいけない
細い少女の足が、小さな少女の心臓が、限界を無視して必死に動き続ける
そんな彼女の必死さを打ち砕くように響き渡る、爆炎と轟音
空を見れば、教会のある方角に立ち昇る黒煙が見える
「……やだ」
少女は足を止めない
「助けるんだもの……絶対!」
―――
教会は跡形もなく吹き飛ばされ、倒れた木々や抉れた地面がその無残さを一層引き立てていた
あちこちに転がる黒服だったものの残骸と、瓦礫に埋もれるようにして倒れた女吸血鬼と狼男の姿
女吸血鬼は既に半身を失い、残る部位は朝日に晒されゆっくりと塵と化し
狼男の黄金色をした艶やかな毛並は、赤い血でべっとりと染め上げられていた
「……あ」
辺りを囲む銃火器を持った兵士達と、黒い車を盾に応戦する黒服達
銃弾と血肉が飛び交う中、少女は迷う事無く倒れている二人に向かって駆け出し
「おい、子供だ!」
「馬鹿な、反応は無かったぞ! 都市伝説でも契約者でもない、民間人だ!」
動揺が走ったのは兵士側だった
その隙を突かれて数名が銃弾に身体を抉られ倒れ伏し
「え……」
少女は、自分を守るように弾幕を張り防衛戦を作る兵士達を見て一瞬足を止めたが
「あの二人の知り合いなんだろ、早く行け!」
兵士の一人に促され、少女は銃声を背に駆け出した
「お兄さん! お姉さん!」
「お……おいおい……来んなつったつもりだったんだが……」
血塗れの狼男が搾り出した声は、蚊の鳴くほどのものだった
「喋らないで、手当てをするから!」
「悪ぃな……無理なんだわ……銀の弾丸をたらふく食らってな……」
その身体に触れた少女の手が、溢れ出した血で染め上げられる
熱を持ったそれは流れ出してすぐに冷たくなっていき、命というものが手のひらから零れ落ちていくのを実感させた
「やだっ! 死んじゃだめ! 折角、もうすぐ治るところだったのに!」
「無茶を言っちゃ……ダメよ……お嬢ちゃん……」
傍らに転がる、身体の殆どが塵となり消え果る寸前の女吸血鬼が
「あなたが……悪いんじゃない……人間の手当てじゃ……治らない……あたしらが悪いの」
辛うじて残っていた左腕で、少女の頭をそっと撫でる
「ほんの少しだったけど……あなたといれた時間……楽しかった……それは間違いなく……あなたの治療が……くれたものよ」
ぼろり、と
その腕も崩れ落ち、灰となり陽光に溶けるように消え去ってしまう
「衛生兵! 瑪瑙の粉末とワインはあるか!」
「この程度の効果じゃダメだ、それに銀の弾丸と人狼や吸血鬼じゃ相性が悪い!」
兵士達のざわめきが、少女の心をじわじわと追い詰めていく
「ああ……次に生まれてくる時は……人間がいいなぁ……」
「私が! 私が人間にしてあげる! 今はできないけど、きっとできるようになるから! だから死んじゃだめ!」
「そうねぇ……人でないものが人になる伝説……色々あるもの……きっと……」
女吸血鬼の言葉は最後まで綴られる事無く、その崩れ落ちた塵と共に空気に溶けていき
そして狼男もまた、一頭の大きな狼としての骸を残して動かなくなった
あちこちに転がる黒服だったものの残骸と、瓦礫に埋もれるようにして倒れた女吸血鬼と狼男の姿
女吸血鬼は既に半身を失い、残る部位は朝日に晒されゆっくりと塵と化し
狼男の黄金色をした艶やかな毛並は、赤い血でべっとりと染め上げられていた
「……あ」
辺りを囲む銃火器を持った兵士達と、黒い車を盾に応戦する黒服達
銃弾と血肉が飛び交う中、少女は迷う事無く倒れている二人に向かって駆け出し
「おい、子供だ!」
「馬鹿な、反応は無かったぞ! 都市伝説でも契約者でもない、民間人だ!」
動揺が走ったのは兵士側だった
その隙を突かれて数名が銃弾に身体を抉られ倒れ伏し
「え……」
少女は、自分を守るように弾幕を張り防衛戦を作る兵士達を見て一瞬足を止めたが
「あの二人の知り合いなんだろ、早く行け!」
兵士の一人に促され、少女は銃声を背に駆け出した
「お兄さん! お姉さん!」
「お……おいおい……来んなつったつもりだったんだが……」
血塗れの狼男が搾り出した声は、蚊の鳴くほどのものだった
「喋らないで、手当てをするから!」
「悪ぃな……無理なんだわ……銀の弾丸をたらふく食らってな……」
その身体に触れた少女の手が、溢れ出した血で染め上げられる
熱を持ったそれは流れ出してすぐに冷たくなっていき、命というものが手のひらから零れ落ちていくのを実感させた
「やだっ! 死んじゃだめ! 折角、もうすぐ治るところだったのに!」
「無茶を言っちゃ……ダメよ……お嬢ちゃん……」
傍らに転がる、身体の殆どが塵となり消え果る寸前の女吸血鬼が
「あなたが……悪いんじゃない……人間の手当てじゃ……治らない……あたしらが悪いの」
辛うじて残っていた左腕で、少女の頭をそっと撫でる
「ほんの少しだったけど……あなたといれた時間……楽しかった……それは間違いなく……あなたの治療が……くれたものよ」
ぼろり、と
その腕も崩れ落ち、灰となり陽光に溶けるように消え去ってしまう
「衛生兵! 瑪瑙の粉末とワインはあるか!」
「この程度の効果じゃダメだ、それに銀の弾丸と人狼や吸血鬼じゃ相性が悪い!」
兵士達のざわめきが、少女の心をじわじわと追い詰めていく
「ああ……次に生まれてくる時は……人間がいいなぁ……」
「私が! 私が人間にしてあげる! 今はできないけど、きっとできるようになるから! だから死んじゃだめ!」
「そうねぇ……人でないものが人になる伝説……色々あるもの……きっと……」
女吸血鬼の言葉は最後まで綴られる事無く、その崩れ落ちた塵と共に空気に溶けていき
そして狼男もまた、一頭の大きな狼としての骸を残して動かなくなった
―――
何時の間にか銃声が止んでいた
声も涙も涸れ果てるほどに泣き叫んでいた少女を、兵士達はただ沈黙を以って見守っていた
やがて、少女がぐずぐずになった顔を拭い立ち上がったのを確認して、兵士達の隊長が声を掛ける
「済まなかった。我々が黒服共を追い切れなかったばかりに」
「謝られても、私にはあなた達が何者なのか、どういう経緯でこういう事になったのかわかりません」
嗚咽混じりの声で、少女は問う
「教えて下さい。あなた達が何者なのか。黒い服の人達が何者なのか。あなた達が生きる世界が、一体何なのかを」
「その質問には私が答えよう」
何時の間に現れたのか、兵士達の背後から聞こえた壮年男性の声
兵士達はあっという間に道を作るように整列し姿勢を正して彼を迎える
「全てを説明するには、まず『都市伝説』という存在についてから語らねばなるまい」
その男は、ドイツ人なら誰もが知っているであろう
それ以外の人種でも、世界史を少しでも学んだ事があれば知っているであろう存在
「よろしいのですか、『総統』閣下。この少女をこちらの世界に引き込むのは、その」
やや言葉を濁しながら遠慮がちに意見する隊長を、『総統』は皮肉げな笑みを浮かべる
「夢でも見ていたのだと思えと? 全て忘れて日常へ戻れと? この少女の目を見れば判る、それでは到底納得するまいよ」
『総統』はそう言って、泣き腫らした顔の少女に手を差し伸べる
「全てを知れば二度と平穏には戻る事が出来ぬと知りながら、あの二人の人外がそれを望まぬと知りながら、彼らの、そして我々の世界に踏み込むのかね?」
少女は迷う事無く差し伸べられた手に縋り
「それでは語ろう、この人間の世界と背中合わせに存在する『都市伝説』の世界について」
声も涙も涸れ果てるほどに泣き叫んでいた少女を、兵士達はただ沈黙を以って見守っていた
やがて、少女がぐずぐずになった顔を拭い立ち上がったのを確認して、兵士達の隊長が声を掛ける
「済まなかった。我々が黒服共を追い切れなかったばかりに」
「謝られても、私にはあなた達が何者なのか、どういう経緯でこういう事になったのかわかりません」
嗚咽混じりの声で、少女は問う
「教えて下さい。あなた達が何者なのか。黒い服の人達が何者なのか。あなた達が生きる世界が、一体何なのかを」
「その質問には私が答えよう」
何時の間に現れたのか、兵士達の背後から聞こえた壮年男性の声
兵士達はあっという間に道を作るように整列し姿勢を正して彼を迎える
「全てを説明するには、まず『都市伝説』という存在についてから語らねばなるまい」
その男は、ドイツ人なら誰もが知っているであろう
それ以外の人種でも、世界史を少しでも学んだ事があれば知っているであろう存在
「よろしいのですか、『総統』閣下。この少女をこちらの世界に引き込むのは、その」
やや言葉を濁しながら遠慮がちに意見する隊長を、『総統』は皮肉げな笑みを浮かべる
「夢でも見ていたのだと思えと? 全て忘れて日常へ戻れと? この少女の目を見れば判る、それでは到底納得するまいよ」
『総統』はそう言って、泣き腫らした顔の少女に手を差し伸べる
「全てを知れば二度と平穏には戻る事が出来ぬと知りながら、あの二人の人外がそれを望まぬと知りながら、彼らの、そして我々の世界に踏み込むのかね?」
少女は迷う事無く差し伸べられた手に縋り
「それでは語ろう、この人間の世界と背中合わせに存在する『都市伝説』の世界について」
―――
「……という夢を見た」
「夢オチとか喧嘩売ってるんですか」
いつもの調子で、悠然とミツキの淹れてくれたコーヒーを啜るドクター
なんだか色々間違ったコスプレナース姿にされたバイトちゃんが、呆れ果てた声を上げて肩を落とす
「クリスマスのミニスカサンタも来院者には好評だった事だし、次はミニスカ巫女などどうかね?」
「それもう巫女じゃないでしょ!? 絶対着ませんからね!」
「一度女体化を解除してもらって、改めて女体化したのだ。ミニスカにおける股間の憂いはもう無いはずだが」
「そうだとしても下着をチラチラ見せながら仕事する趣味なんか無いですって!」
「まあ嫌だと言ったところで着せるんだがね? 二月の節分用に、鬼娘っぽい虎縞ビキニも用意してあるぞ?」
「いつまで女でいりゃいいんですか俺!?」
「そうだな、ボクが治療法を確立するまでというのはどうだ」
「……黒魔術でも錬金術でも何でもいいですから、早くどうにかして下さい」
「勿論だとも。都市伝説の影響を治せる事ができれば、治療の分野は大きく進み、都市伝説そのものを治す事も射程範囲内になる」
ドクターは不敵に笑い
「約束だからな、都市伝説を人間にする研究を完成させるのは」
「はいはい、『総統』閣下が求める成果がそれですからね」
バイトちゃんが診療所を開ける仕事に戻ると、ドクターは机の上にある二つの小瓶に視線を向ける
一つはさらりとした白色の灰が詰まっており、もう一つには黄金色の獣の毛が一房詰められていた
「ああ、ボクはきっと成功させてみせるとも。救いを求めて差し伸べられる手を全て掴み、助けるために」
「夢オチとか喧嘩売ってるんですか」
いつもの調子で、悠然とミツキの淹れてくれたコーヒーを啜るドクター
なんだか色々間違ったコスプレナース姿にされたバイトちゃんが、呆れ果てた声を上げて肩を落とす
「クリスマスのミニスカサンタも来院者には好評だった事だし、次はミニスカ巫女などどうかね?」
「それもう巫女じゃないでしょ!? 絶対着ませんからね!」
「一度女体化を解除してもらって、改めて女体化したのだ。ミニスカにおける股間の憂いはもう無いはずだが」
「そうだとしても下着をチラチラ見せながら仕事する趣味なんか無いですって!」
「まあ嫌だと言ったところで着せるんだがね? 二月の節分用に、鬼娘っぽい虎縞ビキニも用意してあるぞ?」
「いつまで女でいりゃいいんですか俺!?」
「そうだな、ボクが治療法を確立するまでというのはどうだ」
「……黒魔術でも錬金術でも何でもいいですから、早くどうにかして下さい」
「勿論だとも。都市伝説の影響を治せる事ができれば、治療の分野は大きく進み、都市伝説そのものを治す事も射程範囲内になる」
ドクターは不敵に笑い
「約束だからな、都市伝説を人間にする研究を完成させるのは」
「はいはい、『総統』閣下が求める成果がそれですからね」
バイトちゃんが診療所を開ける仕事に戻ると、ドクターは机の上にある二つの小瓶に視線を向ける
一つはさらりとした白色の灰が詰まっており、もう一つには黄金色の獣の毛が一房詰められていた
「ああ、ボクはきっと成功させてみせるとも。救いを求めて差し伸べられる手を全て掴み、助けるために」