●
翌日、俺は夢子ちゃんの看病を理由に学校を休んでいた(学校には一応風邪と言ってある)。
「平日に学校休んでるこの背徳的な感覚、なんかいいよな!」
笑いながら言う。ちなみに本音だ。そんな爽やかな笑みの俺に夢子ちゃんは困ったように笑って、
「学校は行った方がいいですよ。――私たちはもう行けませんから」
諭すように、それでいてどこか寂しそうに言われた。
「う」
言葉の俺の良心がこう、的確に……っ的確にぃ……っ!
「――い、いじわるだ」
胸のあたりを押さえながら床を転げまわりながら発した言葉に夢子ちゃんは「えっと……」と困惑顔をしている。うん、良い反応だ。これがTさんなら下手すりゃ無視されるからな。
とはいっても学校を休んで夢子ちゃんについているように言ったのはTさんだ。なんでも「騒がしい奴が居た方が苦しみも紛れるだろう」とのことで……騒がしいは余計だ。
そんなことを思っていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「だれかきたの」
「客か?」
寝室を出て玄関に向かっているとTさんも玄関へと歩いているところだった。
Tさんは俺に振り向き、
「防具の心当たりが来た」
そう言って玄関を開けた。玄関の向こうにはちょっと影がある感じのきれいな姉ちゃんが立っていた。誰だろうと思っているとTさんが紹介してくれる。
「≪パワーストーン≫の契約者。黒服さんの知り合いだ」
「へえー……あ、こんちは」
「ええ、こんにちは」
ゆったりとした挨拶と共に肩のちょい上辺りまである髪がさらりと零れる。
「早速で済まないが石を使ってもらいたい」
「ええ、≪夢の国≫の、あの子に入用なのよね」
「ああ」
≪パワーストーン≫の姉ちゃんとTさんのやりとりに多少含みを感じつつもとりあえず上がってもらうことにした。
Tさんが言うにはこの人が宴会の時に≪パワーストーン≫をくれた人らしい。今日来てもらったのは≪パワーストーン≫の結界でさっちゃんの呪歌を祓ってもらう為だそうだ。
夢子ちゃんのいる寝室に入ると≪パワーストーン≫の姉ちゃんはなぜか一瞬複雑そうな顔をし、
「こちらが結界に類する≪パワーストーン≫です」
そう言って袋一杯のいろんな色をしたきれいな石を取り出して俺たちに渡した。
「陣を築きます。指示の通りに石を配置していってください」
よくわかんねえけどとりあえず指示通りに石を置いていきゃいいらしい。
「これはそこ、それは……」
俺たちは夢子ちゃんを中心にするように言われるがまま、石を配置していく。
「≪夢の国≫、夢子ちゃんでしたか」
その間に≪パワーストーン≫の姉ちゃんは夢子ちゃんに声をかけた。あれ? 初対面じゃねえのか?
「はい」
身を起こした夢子ちゃんは咳き込みながら答える。
「……貴女は、私に復讐を望まないのですか?」
なんかいきなり雲行きの怪しいことをおっしゃった。
慌てて≪パワーストーン≫の姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんは首を横に振り、
「宴会の時、彼から全て聞きました」
そう言ってTさんを指さした。
「……そして、あの人があなたを赦していますから」
ここにはいない誰かを指して姉ちゃんが言った言葉。しかし、夢子ちゃんにはその誰かが誰なのか見当がついているみたいで、ただ、「……そうですか」と言って俯いた。
≪パワーストーン≫の姉ちゃんは微笑して頷くと、石の配置を指示しながらTさんに話を振った。
「Tさん、お尋ねになられた青白い石と赤い光を発する石についてですが、石の色のみでの正確な判別は不可能です」
「やはりそうか……」
なんのことかと思って訊ねたら、どうもあのおっちゃんが契約してる石型の都市伝説の正体について石類に詳しそうな姉ちゃんに訊いていたらしい。
「まあ、そりゃ石の色だけじゃ分かんねえよなー」
「はい、ですが」
なにやら続きがありそうな言葉に俺とTさんが同時に顔を上げた。
「何か分かったのか?」
Tさんの問いに≪パワーストーン≫の姉ちゃんは答えた。
「≪夢の国≫レベルのモノを脅かすことができるモノに、赤い燐光を発する紺碧の宝石があります」
ちょっとずれて置かれた石の位置を直しながら、
「ホープ、というダイヤモンドをご存知ですか?」
どこかで聞いたことがあるような単語を口にした。
「ホープ……hope? 希望?」
俺が乏しい英語知識で答えると、
「よくわかったな契約者」
Tさんがよしよしと頷き、
「――しかし、あの石のホープは人名だ」
そうだな? と言って≪パワーストーン≫の姉ちゃんの方を確認するように見るTさん。≪パワーストーン≫の姉ちゃんは頷き、補足説明をしてくれた。
「ホープ、≪ホープダイヤモンド≫。命を食らい人心を惑わす、逸話の多い呪いの宝石です」
「平日に学校休んでるこの背徳的な感覚、なんかいいよな!」
笑いながら言う。ちなみに本音だ。そんな爽やかな笑みの俺に夢子ちゃんは困ったように笑って、
「学校は行った方がいいですよ。――私たちはもう行けませんから」
諭すように、それでいてどこか寂しそうに言われた。
「う」
言葉の俺の良心がこう、的確に……っ的確にぃ……っ!
「――い、いじわるだ」
胸のあたりを押さえながら床を転げまわりながら発した言葉に夢子ちゃんは「えっと……」と困惑顔をしている。うん、良い反応だ。これがTさんなら下手すりゃ無視されるからな。
とはいっても学校を休んで夢子ちゃんについているように言ったのはTさんだ。なんでも「騒がしい奴が居た方が苦しみも紛れるだろう」とのことで……騒がしいは余計だ。
そんなことを思っていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「だれかきたの」
「客か?」
寝室を出て玄関に向かっているとTさんも玄関へと歩いているところだった。
Tさんは俺に振り向き、
「防具の心当たりが来た」
そう言って玄関を開けた。玄関の向こうにはちょっと影がある感じのきれいな姉ちゃんが立っていた。誰だろうと思っているとTさんが紹介してくれる。
「≪パワーストーン≫の契約者。黒服さんの知り合いだ」
「へえー……あ、こんちは」
「ええ、こんにちは」
ゆったりとした挨拶と共に肩のちょい上辺りまである髪がさらりと零れる。
「早速で済まないが石を使ってもらいたい」
「ええ、≪夢の国≫の、あの子に入用なのよね」
「ああ」
≪パワーストーン≫の姉ちゃんとTさんのやりとりに多少含みを感じつつもとりあえず上がってもらうことにした。
Tさんが言うにはこの人が宴会の時に≪パワーストーン≫をくれた人らしい。今日来てもらったのは≪パワーストーン≫の結界でさっちゃんの呪歌を祓ってもらう為だそうだ。
夢子ちゃんのいる寝室に入ると≪パワーストーン≫の姉ちゃんはなぜか一瞬複雑そうな顔をし、
「こちらが結界に類する≪パワーストーン≫です」
そう言って袋一杯のいろんな色をしたきれいな石を取り出して俺たちに渡した。
「陣を築きます。指示の通りに石を配置していってください」
よくわかんねえけどとりあえず指示通りに石を置いていきゃいいらしい。
「これはそこ、それは……」
俺たちは夢子ちゃんを中心にするように言われるがまま、石を配置していく。
「≪夢の国≫、夢子ちゃんでしたか」
その間に≪パワーストーン≫の姉ちゃんは夢子ちゃんに声をかけた。あれ? 初対面じゃねえのか?
「はい」
身を起こした夢子ちゃんは咳き込みながら答える。
「……貴女は、私に復讐を望まないのですか?」
なんかいきなり雲行きの怪しいことをおっしゃった。
慌てて≪パワーストーン≫の姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんは首を横に振り、
「宴会の時、彼から全て聞きました」
そう言ってTさんを指さした。
「……そして、あの人があなたを赦していますから」
ここにはいない誰かを指して姉ちゃんが言った言葉。しかし、夢子ちゃんにはその誰かが誰なのか見当がついているみたいで、ただ、「……そうですか」と言って俯いた。
≪パワーストーン≫の姉ちゃんは微笑して頷くと、石の配置を指示しながらTさんに話を振った。
「Tさん、お尋ねになられた青白い石と赤い光を発する石についてですが、石の色のみでの正確な判別は不可能です」
「やはりそうか……」
なんのことかと思って訊ねたら、どうもあのおっちゃんが契約してる石型の都市伝説の正体について石類に詳しそうな姉ちゃんに訊いていたらしい。
「まあ、そりゃ石の色だけじゃ分かんねえよなー」
「はい、ですが」
なにやら続きがありそうな言葉に俺とTさんが同時に顔を上げた。
「何か分かったのか?」
Tさんの問いに≪パワーストーン≫の姉ちゃんは答えた。
「≪夢の国≫レベルのモノを脅かすことができるモノに、赤い燐光を発する紺碧の宝石があります」
ちょっとずれて置かれた石の位置を直しながら、
「ホープ、というダイヤモンドをご存知ですか?」
どこかで聞いたことがあるような単語を口にした。
「ホープ……hope? 希望?」
俺が乏しい英語知識で答えると、
「よくわかったな契約者」
Tさんがよしよしと頷き、
「――しかし、あの石のホープは人名だ」
そうだな? と言って≪パワーストーン≫の姉ちゃんの方を確認するように見るTさん。≪パワーストーン≫の姉ちゃんは頷き、補足説明をしてくれた。
「ホープ、≪ホープダイヤモンド≫。命を食らい人心を惑わす、逸話の多い呪いの宝石です」
●
学校町南区にある高級そうなホテル。そこに血で変色し、所々破れたスーツを着た浅井秀也と子供服のさっちゃんの姿があった。
「お客様、お待ちください。困ります」
ホテルの従業員が迷惑そうに声をかける。この二人の姿がホテルの格式に合わないということもあるだろうが二人の組み合わせが怪しいということもあるのだろう。
しかし浅井はそのようなことは我関せずと言った調子で、
「おーう、適当に良い感じの部屋に案内してくれや」
そう言って従業員の肩に親しげに触れた。同時に彼の首にかかった二つのネックレスの内の一つについた石がホテルのロビーの落ち着いた照明の中、赤い燐光を放つ。
「――はい、ではこちらへどうぞ」
その光る石を見た途端、従業員は先程までの彼らを追いだそうとしていた態度など幻だったかのように、にこやかな笑顔で浅井とさっちゃんを案内しはじめた。
「すまねえが新しいスーツも用意してくんねえか?」
「かしこまりました」
浅井の要求をうやうやしく承りながら従業員は部屋の扉を開ける。
そこはホテル最上階、おそらくこのホテルの中でも最も豪華な部屋で、
「どうぞ」
「うえぇ、似合わねえ」
「すごーい! きれーい!」
案内された浅井はうんざり顔だったがさっちゃんは嬉しそうな顔で部屋を駆け回っている。
浅井はそれを見てため息を吐き。
「しゃーねーか」
言って、従業員に振りかえる。ネックレスからは赤い燐光が再び放たれ、
「お前はこれから従業員全員をここに連れて来ること。おーけー?」
「かしこまりました」
一礼して去っていく従業員。
「≪ホープダイヤ≫、便利なもんだね」
従業員を見送り、赤い燐光を収めた石に視線を移しながら浅井はそうひとりごちる。
「お客様、お待ちください。困ります」
ホテルの従業員が迷惑そうに声をかける。この二人の姿がホテルの格式に合わないということもあるだろうが二人の組み合わせが怪しいということもあるのだろう。
しかし浅井はそのようなことは我関せずと言った調子で、
「おーう、適当に良い感じの部屋に案内してくれや」
そう言って従業員の肩に親しげに触れた。同時に彼の首にかかった二つのネックレスの内の一つについた石がホテルのロビーの落ち着いた照明の中、赤い燐光を放つ。
「――はい、ではこちらへどうぞ」
その光る石を見た途端、従業員は先程までの彼らを追いだそうとしていた態度など幻だったかのように、にこやかな笑顔で浅井とさっちゃんを案内しはじめた。
「すまねえが新しいスーツも用意してくんねえか?」
「かしこまりました」
浅井の要求をうやうやしく承りながら従業員は部屋の扉を開ける。
そこはホテル最上階、おそらくこのホテルの中でも最も豪華な部屋で、
「どうぞ」
「うえぇ、似合わねえ」
「すごーい! きれーい!」
案内された浅井はうんざり顔だったがさっちゃんは嬉しそうな顔で部屋を駆け回っている。
浅井はそれを見てため息を吐き。
「しゃーねーか」
言って、従業員に振りかえる。ネックレスからは赤い燐光が再び放たれ、
「お前はこれから従業員全員をここに連れて来ること。おーけー?」
「かしこまりました」
一礼して去っていく従業員。
「≪ホープダイヤ≫、便利なもんだね」
従業員を見送り、赤い燐光を収めた石に視線を移しながら浅井はそうひとりごちる。
≪ホープダイヤ≫――手に入れた者皆が不幸に見舞われるという逸話を持つ呪われた赤い燐光を発する青い宝石。
「つってもこれは一応本物じゃねえんだっけか」
そう、この石の〝本物〟とされるものは現在博物館に展示されている。しかし、
「まあこの手のモンは途中で入れ替わっただのカットされた残りだのと話は尽きねえしな」
浅井は眼前で≪ホープダイヤ≫を揺らす。
彼が手にした≪ホープダイヤ≫は彼が所有する他の都市伝説と同じく、≪結婚相手が見える洗面器≫で探し、手に入れたものだ。
「元は所有する人間を次々破滅させていった宝石。で、そんなふうに一方的に被害を与えていたから俺の洗面器に引っかかっちまったと」
契約することなく所持していると破滅を招くだけのそれも契約以後は契約者に能力を分け与えた。
すなわち、
不幸になると分かっていても人を魅了してやまない呪いの宝石たる所以、その魅力による人心の操作。抵抗力のある都市伝説や都市伝説契約者以外にならばほぼなんでも言うことを聞かせることができる能力。そして、
力ある石としての、力の増幅効果……。
彼が所有する他の都市伝説の能力や、さっちゃんの能力も強化しているものだ。
「だけども」
それだけの能力を持っていても≪夢の国≫をあの対面で滅ぼすことはできなかった。
思い、更に彼は≪夢の国≫について思考を巡らせる。それは昨夜も何度も考えていたことだ。
Tさんと呼ばれていた青年が語るところによると≪夢の国≫の王様は元は≪夢の国≫に操られていた被害者であり、
「俺たちが討つべき仇はもう既に消されてる……と」
思わず自嘲気味な笑みが漏れる。
「これが≪ホープダイヤ≫が俺に与える呪いかねぇ?」
小さく呟き、部屋の中に居るさっちゃんへと視線を向けた。
さっちゃんは部屋の中にあるベッドでトランポリンでも楽しむかのように飛び跳ねている。その様子は外見年齢相応に見えるが、
「復讐心は健在か……」
今も元気に飛び跳ねてはいるが、その顔色は決して良くはない。
無理しちゃってまあ……。
呆れたようにため息をつき、浅井は歩いてさっちゃんに近づく。そして衣服の襟を掴み上げた。
さっちゃんは浅井を見上げ、
「おとーさん……くるしー」
不満そうに言った。
「あんまりベッドで遊んじゃいけねえぞ?」
「けちー」
「悪いことしてるとバナナやらねえぞ」
「むー……わかった」
バナナが食べれなくなるのは嫌なのか、さっちゃんは頬を膨らませながらもベッドで遊ばないことを浅井に約束した。
その顔を見て浅井は仕方なさそうに表情を緩める。
と、扉がノックされる音がした。
出てみると従業員が並んでいた。皆一様に不審そうな顔をしている。浅井はそんな彼らに笑顔で言った。
「――しばらく俺たち専属の使用人になってくれ」
赤い燐光が通路に瞬いた。
そう、この石の〝本物〟とされるものは現在博物館に展示されている。しかし、
「まあこの手のモンは途中で入れ替わっただのカットされた残りだのと話は尽きねえしな」
浅井は眼前で≪ホープダイヤ≫を揺らす。
彼が手にした≪ホープダイヤ≫は彼が所有する他の都市伝説と同じく、≪結婚相手が見える洗面器≫で探し、手に入れたものだ。
「元は所有する人間を次々破滅させていった宝石。で、そんなふうに一方的に被害を与えていたから俺の洗面器に引っかかっちまったと」
契約することなく所持していると破滅を招くだけのそれも契約以後は契約者に能力を分け与えた。
すなわち、
不幸になると分かっていても人を魅了してやまない呪いの宝石たる所以、その魅力による人心の操作。抵抗力のある都市伝説や都市伝説契約者以外にならばほぼなんでも言うことを聞かせることができる能力。そして、
力ある石としての、力の増幅効果……。
彼が所有する他の都市伝説の能力や、さっちゃんの能力も強化しているものだ。
「だけども」
それだけの能力を持っていても≪夢の国≫をあの対面で滅ぼすことはできなかった。
思い、更に彼は≪夢の国≫について思考を巡らせる。それは昨夜も何度も考えていたことだ。
Tさんと呼ばれていた青年が語るところによると≪夢の国≫の王様は元は≪夢の国≫に操られていた被害者であり、
「俺たちが討つべき仇はもう既に消されてる……と」
思わず自嘲気味な笑みが漏れる。
「これが≪ホープダイヤ≫が俺に与える呪いかねぇ?」
小さく呟き、部屋の中に居るさっちゃんへと視線を向けた。
さっちゃんは部屋の中にあるベッドでトランポリンでも楽しむかのように飛び跳ねている。その様子は外見年齢相応に見えるが、
「復讐心は健在か……」
今も元気に飛び跳ねてはいるが、その顔色は決して良くはない。
無理しちゃってまあ……。
呆れたようにため息をつき、浅井は歩いてさっちゃんに近づく。そして衣服の襟を掴み上げた。
さっちゃんは浅井を見上げ、
「おとーさん……くるしー」
不満そうに言った。
「あんまりベッドで遊んじゃいけねえぞ?」
「けちー」
「悪いことしてるとバナナやらねえぞ」
「むー……わかった」
バナナが食べれなくなるのは嫌なのか、さっちゃんは頬を膨らませながらもベッドで遊ばないことを浅井に約束した。
その顔を見て浅井は仕方なさそうに表情を緩める。
と、扉がノックされる音がした。
出てみると従業員が並んでいた。皆一様に不審そうな顔をしている。浅井はそんな彼らに笑顔で言った。
「――しばらく俺たち専属の使用人になってくれ」
赤い燐光が通路に瞬いた。
●
「……人の支配と力の増強か」
青年が≪パワーストーン≫の契約者から聞いた話を端的にまとめた。
「はい。聞いた限りの話を総合するとおそらくはそんなところではないかと思います。力の増強は≪パワーストーン≫ダイヤモンドとしての能力の増幅が、人の支配は、≪ホープダイヤ≫のもつ逸話の内の一つ、ダイヤがロンドンのオークションに出展された際に呪いの噂を誰もが知ってはいてもダイヤの持つ魅力に惹かれて皆が欲しがったという話からきた能力でしょう」
「あれ? ≪パワーストーン≫って使ったら砕けねえの?」
石を配置していきながら少女が質問する。
「あくまで≪ホープダイヤ≫としての能力の一端ですから、格が違うというのもあるのでしょうけど……」
ただの≪パワーストーン≫とはまた違うのでしょうと≪パワーストーン≫の契約者は答えた。
「それが呪いの底上げをしているのか」
「おそらくは、≪ホープダイヤ≫程のものになれば≪夢の国≫に影響を及ぼすこともできるでしょうし」
そんなことを話していきながら石の配置は進んでゆき……
「できたの!」
リカちゃんが最後の石を置いて完成を告げた。
部屋に配置された≪パワーストーン≫たちは夢子を中心としてある種の規則性を持って陣を構えていた。何重にも夢子を守る壁のような配置とでもいったところだろうか。
≪パワーストーン≫の契約者はその陣の中、夢子の前に立つと、
「では、さっちゃんの歌の二番に対抗する結界を張ります」
「よろしくお願いします」
夢子へと頷いた≪パワーストーン≫の契約者は手の甲で床をこん、と軽く叩いた。
同時に石がそれぞれが持つ色と同じ光を放ち、混ざり合い、部屋の中に光を満たす。
「すっげ」
「きれいなの」
「これだけの石の力が干渉せずに協調しているとは」
青年たちがその光景に驚嘆していると、光は徐々にその照射範囲を狭め、指向性を持っていった。
やがて細い光の群れとなった≪パワーストーン≫の光が結ばれていき、結界が成立した。
「――っ」
結界が完成すると共に夢子が驚いた顔をして自身の体へと視線を落とす。
「夢のお姉ちゃん、ふっかつ?」
それに気付いたリカちゃんが夢子へと訊ねた。
「みたい、ですね」
夢子の返事に部屋中に安堵の空気が広がりかけた。すると、
青年が≪パワーストーン≫の契約者から聞いた話を端的にまとめた。
「はい。聞いた限りの話を総合するとおそらくはそんなところではないかと思います。力の増強は≪パワーストーン≫ダイヤモンドとしての能力の増幅が、人の支配は、≪ホープダイヤ≫のもつ逸話の内の一つ、ダイヤがロンドンのオークションに出展された際に呪いの噂を誰もが知ってはいてもダイヤの持つ魅力に惹かれて皆が欲しがったという話からきた能力でしょう」
「あれ? ≪パワーストーン≫って使ったら砕けねえの?」
石を配置していきながら少女が質問する。
「あくまで≪ホープダイヤ≫としての能力の一端ですから、格が違うというのもあるのでしょうけど……」
ただの≪パワーストーン≫とはまた違うのでしょうと≪パワーストーン≫の契約者は答えた。
「それが呪いの底上げをしているのか」
「おそらくは、≪ホープダイヤ≫程のものになれば≪夢の国≫に影響を及ぼすこともできるでしょうし」
そんなことを話していきながら石の配置は進んでゆき……
「できたの!」
リカちゃんが最後の石を置いて完成を告げた。
部屋に配置された≪パワーストーン≫たちは夢子を中心としてある種の規則性を持って陣を構えていた。何重にも夢子を守る壁のような配置とでもいったところだろうか。
≪パワーストーン≫の契約者はその陣の中、夢子の前に立つと、
「では、さっちゃんの歌の二番に対抗する結界を張ります」
「よろしくお願いします」
夢子へと頷いた≪パワーストーン≫の契約者は手の甲で床をこん、と軽く叩いた。
同時に石がそれぞれが持つ色と同じ光を放ち、混ざり合い、部屋の中に光を満たす。
「すっげ」
「きれいなの」
「これだけの石の力が干渉せずに協調しているとは」
青年たちがその光景に驚嘆していると、光は徐々にその照射範囲を狭め、指向性を持っていった。
やがて細い光の群れとなった≪パワーストーン≫の光が結ばれていき、結界が成立した。
「――っ」
結界が完成すると共に夢子が驚いた顔をして自身の体へと視線を落とす。
「夢のお姉ちゃん、ふっかつ?」
それに気付いたリカちゃんが夢子へと訊ねた。
「みたい、ですね」
夢子の返事に部屋中に安堵の空気が広がりかけた。すると、
ピキッ――
何かに亀裂が入る音がした。
「っ!」
青年が音源を、部屋の最も外周に配置されている≪パワースト―ン≫を見る。少女がその視線を辿り、
「ひびが――」
入っていると言葉を繋げるより早く、石が砕け散った。
それだけでは終わらない。続けて音が鳴り、響く。
「速い……っ!」
言葉が終わるより早く、もう一つの≪パワーストーン≫が砕け散った。
破砕の音は更に連続する。しかもそれは――
「どんどん速くなってやがる!」
少女の言葉の通り、破砕の音は加速していく。
一つ、また一つと部屋の外周に配置されている石から順に砕けていき、その間隔はどんどん短くなっていく、
――10秒、7秒、3秒、
短くなっていく破砕の音の間隔。そして――
「いかんっ!」
最後は一瞬、その間を持って部屋の中に並べられていた石の全てが砕けて散った。
「っ!」
青年が音源を、部屋の最も外周に配置されている≪パワースト―ン≫を見る。少女がその視線を辿り、
「ひびが――」
入っていると言葉を繋げるより早く、石が砕け散った。
それだけでは終わらない。続けて音が鳴り、響く。
「速い……っ!」
言葉が終わるより早く、もう一つの≪パワーストーン≫が砕け散った。
破砕の音は更に連続する。しかもそれは――
「どんどん速くなってやがる!」
少女の言葉の通り、破砕の音は加速していく。
一つ、また一つと部屋の外周に配置されている石から順に砕けていき、その間隔はどんどん短くなっていく、
――10秒、7秒、3秒、
短くなっていく破砕の音の間隔。そして――
「いかんっ!」
最後は一瞬、その間を持って部屋の中に並べられていた石の全てが砕けて散った。
●
「……最後、石の砕け方が妙だった」
砂みたいになっちまった≪パワーストーン≫の残骸を見ながらTさんが眉を顰めて呟いた。
確かに、それまでは一個一個ぶっ壊れていったのに、
「最後だけ一気に吹っ飛んでたよな」
Tさんは頷き、残骸を見て固まっている≪パワーストーン≫の姉ちゃんに訊ねた。
「今の、石を破壊する力が石の防護に反応して変化していたように見えたが」
「私にもそう感じられました。力技から急に搦め手に破砕方法が変わったかのような感覚とでも言いましょうか……」
俺にもそう見えた。それはまるで、
「呪いが変異……した?」
そうとしか言えない光景だった。
だとしたら。とTさんが呟いて、
「死んでも呪いが尚食らいついてくるのは宿主の生命活動が停止しても活動が停止しないよう変異したから……か?」
「あの子に病気そのものを変化させたり操るような能力は無いはずですが」
Tさんの言葉に≪パワーストーン≫の姉ちゃんが反論する。
「だからこその≪ホープダイヤ≫だろ?」
俺が言うと、Tさんは頭を振って、
「いや、予測では≪ホープダイヤ≫は≪パワーストーン≫ダイヤモンドとして力の底上げこそすれ、呪歌の効能の変異は能力の範疇外のはず……」
「……原因は青白い光を放つ石の方でしょうか」
「またはあの男が契約している他の都市伝説か、だな」
渋い顔でTさんが結論した。と、
「夢のお姉ちゃん!?」
焦ったようなリカちゃんの声が俺の頭の上で響いた。
俺もはっとして振り向く。
見ると、夢子ちゃんが咳と共に血を吐き出していた。
そうだ、一時結界で防いでいたけどその結界が壊された今呪いは――
「夢子ちゃん大丈夫か!?」
駆けよって背中をさする。
「だいじょ、ぶ」
夢子ちゃんは笑い、でも、
「いきなり負荷が来たので、少し……驚きました」
喀血は止まらなかった。
砂みたいになっちまった≪パワーストーン≫の残骸を見ながらTさんが眉を顰めて呟いた。
確かに、それまでは一個一個ぶっ壊れていったのに、
「最後だけ一気に吹っ飛んでたよな」
Tさんは頷き、残骸を見て固まっている≪パワーストーン≫の姉ちゃんに訊ねた。
「今の、石を破壊する力が石の防護に反応して変化していたように見えたが」
「私にもそう感じられました。力技から急に搦め手に破砕方法が変わったかのような感覚とでも言いましょうか……」
俺にもそう見えた。それはまるで、
「呪いが変異……した?」
そうとしか言えない光景だった。
だとしたら。とTさんが呟いて、
「死んでも呪いが尚食らいついてくるのは宿主の生命活動が停止しても活動が停止しないよう変異したから……か?」
「あの子に病気そのものを変化させたり操るような能力は無いはずですが」
Tさんの言葉に≪パワーストーン≫の姉ちゃんが反論する。
「だからこその≪ホープダイヤ≫だろ?」
俺が言うと、Tさんは頭を振って、
「いや、予測では≪ホープダイヤ≫は≪パワーストーン≫ダイヤモンドとして力の底上げこそすれ、呪歌の効能の変異は能力の範疇外のはず……」
「……原因は青白い光を放つ石の方でしょうか」
「またはあの男が契約している他の都市伝説か、だな」
渋い顔でTさんが結論した。と、
「夢のお姉ちゃん!?」
焦ったようなリカちゃんの声が俺の頭の上で響いた。
俺もはっとして振り向く。
見ると、夢子ちゃんが咳と共に血を吐き出していた。
そうだ、一時結界で防いでいたけどその結界が壊された今呪いは――
「夢子ちゃん大丈夫か!?」
駆けよって背中をさする。
「だいじょ、ぶ」
夢子ちゃんは笑い、でも、
「いきなり負荷が来たので、少し……驚きました」
喀血は止まらなかった。
●
血だらけになった衣服や布団を清めるのを≪パワーストーン≫の契約者に手伝ってもらい、タオルを持った己の契約者に「これから俺は夢子ちゃんの体を撫でまわすからTさんはどっか散歩にでも行け」と言われて追い出された青年はもののついでと≪パワーストーン≫の契約者の帰路を途中まで送っている所だった。
「せっかく用意してもらったのにすまない。相手の能力が想像以上だった」
粉々になった石の事を思い出して青年が言う。
「いえ、お気になさらないで下さい」
そう答える≪パワーストーン≫の契約者、青年は彼女を見て、ぽつりと言った。
「……夢子ちゃんを見た時、貴女が拒んでもしかたないかと思っていた」
「一度、彼女に護りの石をさしあげたのにですか?」
驚いたという風に発された言葉に、
「あの時は面と向かって会わなかったからな」
言って困ったように髪を掻き回し、
「しかし≪パワーストーン≫を用いた結界の作り方なぞ俺は知らんからな。かといって俺の結界はもう効かなくなっていたし、一応賭けだったんだ。貴女が夢子ちゃんを守ってくれるのかどうかは」
そう言われた≪パワーストーン≫の契約者は笑みを浮かべて、
「あの人が赦した相手ですから、私もその意を酌みますよ」
先程夢子に対して告げられた言葉と同じ言葉を返した。
「……む、そうか」
黒服さんにまた頭が上がらなくなる。青年がそう思っていると。≪パワーストーン≫の契約者が訊ねてきた。
「結局石は砕けてしまって、私はあまりお役に立てませんでしたし。これからどうするのですか?」
「……呪い自体は働いてはいるがまだなんとか夢子ちゃんが耐えきれている。
まあ普通なら何万人規模で呪い殺せる状態なのだろうが、都市伝説としての彼女の存在が良い感じに働いているようだな」
油断はできん状態ではあるが。と付け加え、青年は地下カジノでの事を思い出しながら続ける。
「さっちゃんが近くに居た時、夢子ちゃんの意識も朦朧としていたことを考えると彼女が近くに居ると二番の効能も増すんだろう。つまり――」
予測だが、
「彼らは近く、極めて高確率で夢子ちゃんに接触してくる。
向こうは夢子ちゃんを消すつもりで、こちらは呪いの解除と向こうの無力化ないしこちらへの害意の撤回を狙って……その時が勝負だ」
「そんなにすぐに現れますか?」
≪パワーストーン≫の契約者の疑問に青年は自信ありげにああ、と答えた。
「あそこまで無茶をおしているんだ。都市伝説も、その契約者も何のリスクが無いわけがない」
血を吐いていた男を思い出す。おそらく複数契約者。しかも相当無茶をしている。あの様子では長丁場は無理だろう。そう判断し、
「だから、そんなに待たされることは無い。彼らは夢子ちゃんを狙って、その消滅を目的として、そう遠くないうちにやってくるさ」
厄介だがな。そう小さく吐き出された言葉に≪パワーストーン≫の契約者は無言で頷いた。
「せっかく用意してもらったのにすまない。相手の能力が想像以上だった」
粉々になった石の事を思い出して青年が言う。
「いえ、お気になさらないで下さい」
そう答える≪パワーストーン≫の契約者、青年は彼女を見て、ぽつりと言った。
「……夢子ちゃんを見た時、貴女が拒んでもしかたないかと思っていた」
「一度、彼女に護りの石をさしあげたのにですか?」
驚いたという風に発された言葉に、
「あの時は面と向かって会わなかったからな」
言って困ったように髪を掻き回し、
「しかし≪パワーストーン≫を用いた結界の作り方なぞ俺は知らんからな。かといって俺の結界はもう効かなくなっていたし、一応賭けだったんだ。貴女が夢子ちゃんを守ってくれるのかどうかは」
そう言われた≪パワーストーン≫の契約者は笑みを浮かべて、
「あの人が赦した相手ですから、私もその意を酌みますよ」
先程夢子に対して告げられた言葉と同じ言葉を返した。
「……む、そうか」
黒服さんにまた頭が上がらなくなる。青年がそう思っていると。≪パワーストーン≫の契約者が訊ねてきた。
「結局石は砕けてしまって、私はあまりお役に立てませんでしたし。これからどうするのですか?」
「……呪い自体は働いてはいるがまだなんとか夢子ちゃんが耐えきれている。
まあ普通なら何万人規模で呪い殺せる状態なのだろうが、都市伝説としての彼女の存在が良い感じに働いているようだな」
油断はできん状態ではあるが。と付け加え、青年は地下カジノでの事を思い出しながら続ける。
「さっちゃんが近くに居た時、夢子ちゃんの意識も朦朧としていたことを考えると彼女が近くに居ると二番の効能も増すんだろう。つまり――」
予測だが、
「彼らは近く、極めて高確率で夢子ちゃんに接触してくる。
向こうは夢子ちゃんを消すつもりで、こちらは呪いの解除と向こうの無力化ないしこちらへの害意の撤回を狙って……その時が勝負だ」
「そんなにすぐに現れますか?」
≪パワーストーン≫の契約者の疑問に青年は自信ありげにああ、と答えた。
「あそこまで無茶をおしているんだ。都市伝説も、その契約者も何のリスクが無いわけがない」
血を吐いていた男を思い出す。おそらく複数契約者。しかも相当無茶をしている。あの様子では長丁場は無理だろう。そう判断し、
「だから、そんなに待たされることは無い。彼らは夢子ちゃんを狙って、その消滅を目的として、そう遠くないうちにやってくるさ」
厄介だがな。そう小さく吐き出された言葉に≪パワーストーン≫の契約者は無言で頷いた。
*
「そろそろ契約者の方があの子を清め終わっているでしょう」
だからここまででいい、という≪パワーストーン≫の契約者に青年は頷いた。
「今回の騒動に巻き込んで済まなかったな」
「いえ、こちらもあまり役に立てずに申し訳ありません」
「そんなことはない。貴女の存在はきっと夢子ちゃんの救いになる。過去、ひどいことがあっても夢子ちゃんを守ろうとしてくれた貴女の存在は」
「私があの時の子供だとすぐ気付かれてしまいましたね」
私はずいぶんと変わってしまったのに。そう言う≪パワーストーン≫の契約者に青年は笑って言ってやった。
「あの子は≪夢の国≫の王だからな、そういうものなのだろう」
≪パワーストーン≫の契約者は小さく「ええ」と同意し、
「もしあなたの言う通りなら、それが彼女の力になっているのなら、うれしいですね」
そう言って歩き出して行った。その背中に青年は声をかける。
「≪パワーストーン≫の契約者」
「?」
疑問符と共に振り返った彼女に青年は問いかけた。黒服に合わせたわけではない彼女自身の気持ちを、
「≪夢の国≫に、貴女はまだ忌避を感じているだろうか?」
「……それは」
考え、
「複雑ですね」
言葉と共に出てきた表情は苦笑だった。
「そうか」
青年も苦笑で返した。
だからここまででいい、という≪パワーストーン≫の契約者に青年は頷いた。
「今回の騒動に巻き込んで済まなかったな」
「いえ、こちらもあまり役に立てずに申し訳ありません」
「そんなことはない。貴女の存在はきっと夢子ちゃんの救いになる。過去、ひどいことがあっても夢子ちゃんを守ろうとしてくれた貴女の存在は」
「私があの時の子供だとすぐ気付かれてしまいましたね」
私はずいぶんと変わってしまったのに。そう言う≪パワーストーン≫の契約者に青年は笑って言ってやった。
「あの子は≪夢の国≫の王だからな、そういうものなのだろう」
≪パワーストーン≫の契約者は小さく「ええ」と同意し、
「もしあなたの言う通りなら、それが彼女の力になっているのなら、うれしいですね」
そう言って歩き出して行った。その背中に青年は声をかける。
「≪パワーストーン≫の契約者」
「?」
疑問符と共に振り返った彼女に青年は問いかけた。黒服に合わせたわけではない彼女自身の気持ちを、
「≪夢の国≫に、貴女はまだ忌避を感じているだろうか?」
「……それは」
考え、
「複雑ですね」
言葉と共に出てきた表情は苦笑だった。
「そうか」
青年も苦笑で返した。
●
「生きてるかー?」
「生きてますよ」
夢子の体を拭き終わった少女は彼女に声をかけた。
夢子はなんとか持ち直したようで、今は布団に臥している。
「びっくりしたぜ。石は砕け散るわ夢子ちゃんは血ぃ吐くわで……」
「だいじょうぶなの?」
夢子の顔を覗き込むようにして心配する二人に呼応するように彼女の周りに気配が現れた。≪パワーストーン≫の契約者がいた時には気を使っていたのか存在しなかった大量の気配たちだ。
それは普段は愉快気な気配を振りまく≪夢の国≫の住人のものであり、しかし、今は――
「みんな、しんぱいしてるの」
夢子は周りを見て、そして少女とリカちゃんを見る。そして、
「参ってしまいますね……」
困った風に笑んだ。
私が得てしまった怨みなのにこんなにも心配されるのは。
「身に余るほど、幸せなことですね」
「? どうしたんだ?」
「いえ」
つい漏れ出そうになる弱音を吐かないようにして、しかし感謝だけは、今の自分の環境がどれだけ幸せなのかを伝えることだけはしなくてはならないと思った。
「……心配してくださる人がいてくれるのは良いことだなって思ったんです」
「ん。全くその通りだな」
答える声があった。
Tさんが帰ってきたのだ。
彼は夢子を見据え、努めて無理を強いるように言う。
「残念ながら防御策は通じなかった。悪いがあの二人がしびれを切らせて動くまで耐えてもらうことになるだろう」
できるな? 青年の言葉。ぞんざいなその言い方に彼の契約者から次々と抗議の声が放たれる。
その光景を見ながら夢子は、
「はい」
頷いた。
だって、
「だって、前の王様と違って、私にはこんなにも支えてくれる人たちがいるんだもん。――ね?」
気配たちへと、多くの命を奪っていた自分をそれでも救ってくれた人たちへと言葉を放つ。
返ってくるのは明るい返答、やっぱり幸せだな、と。そう彼女は思い、ひとまず意識を手放した。
「生きてますよ」
夢子の体を拭き終わった少女は彼女に声をかけた。
夢子はなんとか持ち直したようで、今は布団に臥している。
「びっくりしたぜ。石は砕け散るわ夢子ちゃんは血ぃ吐くわで……」
「だいじょうぶなの?」
夢子の顔を覗き込むようにして心配する二人に呼応するように彼女の周りに気配が現れた。≪パワーストーン≫の契約者がいた時には気を使っていたのか存在しなかった大量の気配たちだ。
それは普段は愉快気な気配を振りまく≪夢の国≫の住人のものであり、しかし、今は――
「みんな、しんぱいしてるの」
夢子は周りを見て、そして少女とリカちゃんを見る。そして、
「参ってしまいますね……」
困った風に笑んだ。
私が得てしまった怨みなのにこんなにも心配されるのは。
「身に余るほど、幸せなことですね」
「? どうしたんだ?」
「いえ」
つい漏れ出そうになる弱音を吐かないようにして、しかし感謝だけは、今の自分の環境がどれだけ幸せなのかを伝えることだけはしなくてはならないと思った。
「……心配してくださる人がいてくれるのは良いことだなって思ったんです」
「ん。全くその通りだな」
答える声があった。
Tさんが帰ってきたのだ。
彼は夢子を見据え、努めて無理を強いるように言う。
「残念ながら防御策は通じなかった。悪いがあの二人がしびれを切らせて動くまで耐えてもらうことになるだろう」
できるな? 青年の言葉。ぞんざいなその言い方に彼の契約者から次々と抗議の声が放たれる。
その光景を見ながら夢子は、
「はい」
頷いた。
だって、
「だって、前の王様と違って、私にはこんなにも支えてくれる人たちがいるんだもん。――ね?」
気配たちへと、多くの命を奪っていた自分をそれでも救ってくれた人たちへと言葉を放つ。
返ってくるのは明るい返答、やっぱり幸せだな、と。そう彼女は思い、ひとまず意識を手放した。