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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-復讐-08

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「では失礼します」
 そう言って、虚ろな目をした四十絡みの女性が浅井たちの泊まるホテルの部屋から出て行った。
 従業員が持ってきた新品のスーツを受け取って二日目にして既に皺だらけにした浅井は≪ホープダイヤ≫で支配した彼女らから受け取った何枚かの紙片をベッドに座りながら眺めていた。
「……」
「おとーさん?」
 浅井が持っている紙片の正体が気になるのだろう、さっちゃんが彼の背中をよじ登り、肩越しに紙を覗き見た。
「なにそれ?」
 そう言って浅井が見ては印を付けている紙を指さす。
「んー? 部屋の見取り図とかマンションの構造とかのメモ」
 そう応えた浅井が眺めているその紙片に手書きで描かれているのはマンションの見取り図と、そのマンションの一室ずつの間取りだ。彼は見取り図の各部屋にあたる部分に次々と印を付けていっている。
「何に使うの?」
「攻め込む時にちょいとなー、っと……よし」
 一室を除き全ての部屋へと印をつけ終えた浅井は紙片をゴミ箱に叩き込み、立ち上がる。
「さーて、良い感じに復活してきたし……王様殺しに行くか?」
 そう言ってさっちゃんを見る。
「……うん」
 頷いたさっちゃん。その顔色には疲労の色が見てとれるが、復讐を果たすことができる喜びも透けて見えている。
 どうなるにせよ、急がねえとな。
 さっちゃんの首元で揺れる、浅井が身に付けているものの内の一つと同じ青白い石を見て思いながら、彼らはホテルを出た。
 浅井たちが町を歩く。すると一人、また一人と人々が浅井とさっちゃんの周りにさりげなく現れた。彼らの身なりは普通の主婦や老人、若者などのものであり、彼らは世間話でもするかのように浅井たちへと話しかけた。
「標的は部屋の中から出てきてはいません」
「部屋の住人も必要最低限以外での外出はしていないようです」
「……そうかい」
 浅井の首元で赤い燐光がチラリと瞬いていた。

            ●


 翌日、今日も学校を休んだ少女は夢子の看病に勤しんでいた。
「夢子ちゃーん起きてっかー?」
「はい」
「よし、ほら、これ貼っとけ」
「つめたいのなの」
 そう言って少女は頭上のリカちゃんを指さし、リカちゃんは手に持った市販の冷却シートを夢子へと差し出した。
 昨日から夢子は気を失ったり起きたりを繰り返している。
 一応死んじゃあいないようでなによりだ。……本当に死んでないかどうかは分かんねえけど。
 少女はそう思いながら水差しからコップに水を注いで差し出す。
「ん、水」
「ありがとうございます」
 未だに食べ物を受け付けない夢子は水しか口にしていない。
 いくら強い都市伝説っつったって、こんなんじゃそう遠くないうちに完全に夢子ちゃんは参っちまうんじゃねえか?
 少女はそう心配するが、現状さっちゃんの呪いに対抗する手段が無いのも事実だ。
 Tさんはそう遠くない内にあの二人が来るとか言ってやがったけど……ああもう、来るならとっとと来やがれよな。
 そんなことを思っていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「ん? 誰だろ?」
 また客か? Tさんが新しい手段を考えついて助っ人でも呼んだのかもしれない。
 そう思いながら少女は玄関に出る。そこには四十代程の女性が立っており、
「あれ? 隣のおばちゃんじゃん。どしたの?」
 彼女は少女の住んでいる部屋の隣に住んでいる、よく饅頭などを分けてくれるおばちゃんだった。
「あらあら、今日は平日なのにあなたこそ学校にも行かないで何をしているの?」
 おばちゃんの言葉に少女はぐ、と言葉に詰まる。どう嘘を吐こうかと考え、
「あー、あー……うん、今友達が病気でぶっ倒れててさ。その看病してるんだ」
 なんだかんだで正直に言っても問題ないだろうと考え、言ってみた。
 このおばちゃん割と良い人だしな。Tさんが出入りするようになったらご近所へのめんどくさい噂を鎮圧してくれたし。
 思い、見る。おばちゃんは笑顔で、
「あら、いけないわねー」
 ですよねー。
「いや、学校休んでんのはまぁよろしくはないかなーと思うんだけど、ほら、友情とか大事じゃん?」
 学生っぽい友情理論を駆使して見た。――と、
「そうじゃないわよ」
 おばちゃんはそのどこかいつもと違う、虚ろな目で少女を見、告げた。
「≪夢の国≫の王様を匿ってちゃいけないでしょ?」
「……え?」
 なんで知ってんだ? と少女は思う間もなく襟を引っ掴まれて身体を後ろに引かれた。咄嗟に頭上のリカちゃんが落ちないように抑えつけながら自分たちを引っ張った人物を見る。
「Tさん?」
「おにいちゃん?」
 呼ばれた青年は少女を背後に庇うように立ち、
「何かに操られている。おそらくは≪ホープダイヤ≫だろう。契約者は夢子ちゃんの所にでも避難していろ」
「お、おう」
 少女は答え、部屋の奥へと走っていく。


            *


「さて」
 青年は少女が駆けていく足音を背後に聞きながらおばちゃんへと向き直る。
「あら、あなたもいたの?」
「実は共に住んでいる」
 言った言葉にあらあらとおばちゃんは頬に手を当て、
「それは、困ったわねぇ」
 妙に作られた困ったポーズを作ると、告げた。
「このままじゃあ、あの子にとても残酷なシーンを見てもらわなくちゃいけなくなるわー」
「なに?」
 青年の疑問に対しておばちゃんは何も隠すことなく言った。
「王様を殺すからここで足止めしておくように言われてたのよ? 私」
「まさか」
 どこかからあの二人が侵入している?
 思った瞬間、ガラスが割れる物音がした。
「――!」
 青年は背後に振り返ろうとし、
「あら、だめよー、ここで足止めを」
「すまん」
 ガムテープをとりだしたおばちゃんに蹴りを入れた。
 倒れた女性をそのままに、青年は室内に駆け込もうとして、
「足止め」
「足止め」
「足止め」
 玄関から複数の人間がどこか虚ろな目で顔をのぞかせたのを見た。
 それは、
 どれもこれも見たことがある顔だな。
「マンションの住人を操ったか」
 そうなると部屋の間取りも知られているだろう。そう青年は考え、
「くっ」
 吐き捨てながら玄関前の一人の腹部に拳をねじ込む。倒れてくるその身を避けて玄関の外へと青年は躍り出た。そこには通路一杯に人が密集しており、
「一気に行くぞ。先頭列の者は多少の負傷は我慢しろ!」
 青年は両の手を通路左右に広げ、叫ぶ。
「破ぁ!!」
 白光が通路を薙いだ。


            ●


 夢子が居る部屋へと駆けた少女はガラスを割って入ってきた浅井とさっちゃんが夢子と向き合っている光景に出くわした。
 浅井は部屋に入ってきた少女を見て驚いた顔をする。
「なんだ? 娘っ子、お前は外の人間が取り押さえてるはずじゃねえのか?」
「Tさんが相手してるよ」
 答えた少女に浅井は苦い顔をして、
「しまった、あの青年、そう言えば都市伝説とか名乗ってやがったか……ってことは契約者は娘っ子だな?」
「そ、なんであんたらは夢子ちゃんの居場所を知ってんだよ? アレか? ストーカーか?」
 じりじりと夢子の方へと足を進めていく少女を見ながら浅井は答える。
「ちげえよ、≪さっちゃんの歌の四番目≫の歌詞、分かるか?」
「あ? ……わかんね」
 首を横に振った少女に浅井はため息を吐き、
「さっちゃんはね、ふみきりで足をなくしたよ。だからおまえの足をもらいにいくよ。今夜だよ、さっちゃん」
 淡々と歌い上げた。
「まあつまり、二番でも四番でも、さっちゃんの歌を聞いた相手の〝今夜もらいに行く足の場所は分かる〟んだよ。それでちょちょいと暗殺しようと思ったらこれだ。せっかく苦労して間取りを調べさせたんだがなー、王様以外はできるだけ巻き込みたくねえのよ」
 失敗失敗と頬の傷を撫でながら言う浅井に少女は感心したように「そうなのか」と答えつつも、
「でも夢子ちゃんの足はやらねえよ。とっとと呪い解きやがれ」
 言った。浅井は頭を振り、
「そうもいかねえ。で、まあ――もらうのは足じゃなくて命なんだけどな!」
 手を振り上げる。
「逃げてください!」
 夢子の声が室内に響き、
「ざっけんな馬鹿野郎!」
 浅井が何かをする前に少女は助走つきの飛び蹴りを彼にぶつけた。
 勢いの乗った蹴りに浅井は壁際まで蹴り飛ばされ、
「ってー……」
 ぶつけた頭をさすりながら起き上った。
「おとーさん大丈夫?」
「ああ……ちょっと元気が良すぎねえか? 娘っ子」
「うっせえ」
 少女は答え、夢子の隣へと歩いて行った。
 夢子は動こうとするが、呪いの術者が近くに居るためか朦朧とし、油断すると意識が刈り取られそうになり、
 動け、ない……っ。
 彼女がなんとかこの場から逃れようと思考していると、
「さっちゃん」
「うん」
 二人が動きだした。
「みん、な」
 声に応じて部屋に入る大きさのマスコットが二体現れた。
「お前らは俺が相手してやるよ」
 首からかけたネックレスから光を発し、外殻を纏った浅井が獣の姿になった王子と世界一有名なネズミを相手取る。
 その間に彼らをすり抜けるようにさっちゃんが動いた。
「嬢ちゃん、何をする気だ?」
「どいて!」
 さっちゃんは彼女を邪魔するように立ちふさがった少女の足に触れ、歌う。
「さっちゃんはね、ふみきりで足をなくしたよ!」


            ●


 青年が部屋に入ってきたちょうどその時、彼の契約者から足が消失した。
「――!?」
 それに少女本人が少し遅れて気付く。さっちゃんは両足を持って彼女の横を駆けていく。
 少女は倒れていく体を支える為に手を伸ばし、その手は外殻に覆われた浅井の手に掴まれた。
「――っ、リカちゃん!」
 叫び、少女の頭から人形が飛びかかり、さっちゃんを引き倒す。
 それらの光景が一瞬で動き、青年は最も有効と思われる手を打つ。
 契約者を避けていけば幸せだ!
 願い、
「破ぁ!!」
 光弾が飛ぶ。気付いた浅井は、しかし反応しきれずに頭部に光弾を喰らう。浅井の纏った頭部の外殻が弾けて飛んだ。
 衝撃が入ったのか頭部を押さえて呻いてはいるものの、
「っ!」
 倒しきれなかった!
 契約者を避けるように撃ったことで威力が減退されてしまったかっ。青年は思いながら浅井へと走る。
「早ぇなおい!」
 少女の首に手刀を打ちこみながら素顔が曝け出された浅井が叫ぶ。マスコット二体が更に浅井へと突進し、壁際へと追い込まれていく。
「外の者には眠ってもらった。契約者を返してもらおうか。それに、夢子ちゃんへの復讐もやめてもらう」
「そうはいくかよ!」
 浅井が獣の王子を彼の膂力を上回る剛腕で天井へと叩きつけながら叫ぶ。
「おとーさん、逃げて! その子を連れていけばさっちゃんはきっと殺されないよ! 足を返せるのはさっちゃんだけだもん!」
「……おう」
 さっちゃんの訴えに浅井は一つ頷く。それを見て動く青年、しかしさっちゃんがリカちゃんを引きずったまま這い、青年の足にしがみついて歌い始める。
「さっちゃんはね――――」
「破!」
 白い光がさっちゃんを打ち、気を失わせる。
 青年が改めて視線を向けると、
「こら、一応王様以外はどうこうする気ないからあまりそんな目を向けんな」
 浅井が気を失った少女を肩に担ぎながら言った。そして、
「――ああ、そうだ。これからさっちゃんをよろしく頼むぜ」
「なに?」
 青年が疑問詞を発すると、答えの代わりに外れた窓枠が飛んできた。
「っつ!」
 結界で背後の者を庇い、目を向けると。
「居ない……」
 浅井の姿が少女ごと消えていた。
「……これから、さっちゃんを頼む……だと?」
 再び発された疑問に返事は無い。

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