「そんな事はありえない」 そう言ってあなたはそれを馬鹿にする
「現実にそんな事が起こるわけがない」 そう言ってあなたはそれを馬鹿にする
「現実にそんな事が起こるわけがない」 そう言ってあなたはそれを馬鹿にする
そうやって馬鹿にしているのならば
何故、それを噂するのでしょうか
あなたが噂してしまえば、それは現実になってしまうと言うのに
何故、それを噂するのでしょうか
あなたが噂してしまえば、それは現実になってしまうと言うのに
Red Cape
ピアノの音が鳴り響く
ぽろろん、ぽろろろん、ぽろろんろん
誰にも演奏されないはずのピアノ
ひとりでにメロディを奏で続ける
ぽろろん、ぽろろろん、ぽろろんろん
誰にも演奏されないはずのピアノ
ひとりでにメロディを奏で続ける
それは、深夜の学校には、相応しくないメロディ
狂ったように鳴り響くそれは、聴く者に狂気を連想させる
狂ったように鳴り響くそれは、聴く者に狂気を連想させる
「真夜中に、音楽室のピアノがひとりでに演奏をはじめる」
それだけならば、ささやかな噂
さほど怖くない、ささやかな都市伝説
けれど、それに
さほど怖くない、ささやかな都市伝説
けれど、それに
「ひとりでに鳴り続けるピアノの演奏を最後まで聞くと死ぬ」
と、余計なオチを付け加えたのは、はたして誰だったのだろうか?
「さぁて、どうするか…」
そう呟き、白衣の男は目の前のピアノを見つめていた
誰かが演奏している訳でもないのに、鍵盤は勝手に動き、訳のわからないメロディを奏で続けている
…ピアノを壊してしまえば早いのだろうか
いや、一応これも学校の備品なのだ
ヘタに壊すわけにもいくまい
…それに
このピアノが都市伝説の本体ではなかった場合、ピアノを破壊した事により、都市伝説本体が別のピアノに住処を移動する場合がある
それは、たいへんと面倒臭い
できれば、ここで決着を付けたいのだが…
誰かが演奏している訳でもないのに、鍵盤は勝手に動き、訳のわからないメロディを奏で続けている
…ピアノを壊してしまえば早いのだろうか
いや、一応これも学校の備品なのだ
ヘタに壊すわけにもいくまい
…それに
このピアノが都市伝説の本体ではなかった場合、ピアノを破壊した事により、都市伝説本体が別のピアノに住処を移動する場合がある
それは、たいへんと面倒臭い
できれば、ここで決着を付けたいのだが…
『あ、あの!』
「なんだ?」
『その、せめて対策がわからないのであれば、ここから離れた方が…!』
「なんだ?」
『その、せめて対策がわからないのであれば、ここから離れた方が…!』
おろおろ、カタカタ
白骨標本が、音を立てながらおろおろした仕草をしてくる
踊っていた人体模型は鬱陶しいので、とりあえず無視だ
…確かに、白骨標本の言うとおりだろう
この演奏を最後まで聞けば、恐らく、自分は死ぬ
白骨標本が、音を立てながらおろおろした仕草をしてくる
踊っていた人体模型は鬱陶しいので、とりあえず無視だ
…確かに、白骨標本の言うとおりだろう
この演奏を最後まで聞けば、恐らく、自分は死ぬ
…ならば、最後まで聞かなければいいのである
演奏している場所から遠く離れてしまえば、演奏を聴かずにすむ
対策事態は、さほど難しくない都市伝説なのだ
通常考えれば、ここから離れて、ゆっくりと対策を練るべきだろう
人体模型と白骨標本はともかく…彼自身は、人間なのだ
都市伝説と契約しているだけの、ただの人間
都市伝説に対して特別な抗体や対抗手段を持っている訳でもなく
この、ピアノを演奏し続ける都市伝説の能力が噂されている通りのものであれば、抗う事すらできずに殺されるだろう
…しかし
彼は、その場を離れようとしない
タバコを咥えたまま、静かにそのピアノを見下ろしている
演奏している場所から遠く離れてしまえば、演奏を聴かずにすむ
対策事態は、さほど難しくない都市伝説なのだ
通常考えれば、ここから離れて、ゆっくりと対策を練るべきだろう
人体模型と白骨標本はともかく…彼自身は、人間なのだ
都市伝説と契約しているだけの、ただの人間
都市伝説に対して特別な抗体や対抗手段を持っている訳でもなく
この、ピアノを演奏し続ける都市伝説の能力が噂されている通りのものであれば、抗う事すらできずに殺されるだろう
…しかし
彼は、その場を離れようとしない
タバコを咥えたまま、静かにそのピアノを見下ろしている
「そうなんだがな…ただ、早いとこ何とかした方がいいだろうからな
噂を聞いた生徒が試しに聴きにきて死んだりしたら、洒落にならん」
『そ、そうですけど…』
『旦那、勇気と無謀は違いまっせ。いったん、引いた方がええんやないやろか?』
噂を聞いた生徒が試しに聴きにきて死んだりしたら、洒落にならん」
『そ、そうですけど…』
『旦那、勇気と無謀は違いまっせ。いったん、引いた方がええんやないやろか?』
…人体模型の癖にまっとうな事を言うとは生意気な
とまえ…二人になんと言われようとも、彼は離れるつもりはなかった
この演奏を、最後まで聴くつもりだった
とまえ…二人になんと言われようとも、彼は離れるつもりはなかった
この演奏を、最後まで聴くつもりだった
…死にたい訳ではなく
ただ少し
…試したいことがあったのだ
ただ少し
…試したいことがあったのだ
ピアノの演奏は続き、続き……そして
演奏が、終わった
演奏が、終わった
『……っ!』
人体模型と白骨標本が、ピアノを睨みつける
演奏が終わった直後…ピアノの、中から
何か、もやもやとした、陽炎のようなものが現れ始めたのだ
それは、もやもや漂いながら、人間の姿を形成する
どこか病弱そうな、儚げな印象を感じさせる女生徒の幽霊…と、言った所か
しかし、それは白衣の男の姿を視認した瞬間…にぃいいいい、と口元に笑みを浮かべた
演奏が終わった直後…ピアノの、中から
何か、もやもやとした、陽炎のようなものが現れ始めたのだ
それは、もやもや漂いながら、人間の姿を形成する
どこか病弱そうな、儚げな印象を感じさせる女生徒の幽霊…と、言った所か
しかし、それは白衣の男の姿を視認した瞬間…にぃいいいい、と口元に笑みを浮かべた
けたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけた
不気味に、不気味に笑い出す
その口元からは、血があふれ続けていた
その口元からは、血があふれ続けていた
「…ピアノのコンクールに向けて毎日一生懸命練習するも、体を壊して死んでしまった幽霊…って奴かね」
正確には、そんな都市伝説から生まれた、幽霊のような存在
何が楽しいのか、それはけたけた、けたけた笑い続けて
邪悪に笑ったまま、白衣の男に向かって突進してくる!
何が楽しいのか、それはけたけた、けたけた笑い続けて
邪悪に笑ったまま、白衣の男に向かって突進してくる!
『っく!?』
『三倍速っ!?』
『三倍速っ!?』
白骨標本の骨の刃が、人体模型の内臓が、その幽霊を捉えようとするが
しかし、幽体の体は、それらの攻撃を難なくすり抜ける
しかし、幽体の体は、それらの攻撃を難なくすり抜ける
『----あ!?』
そして
それは、白衣の男の前に立ち、盾になろうとした二人の体を、嘲笑うかのようにすり抜けて
そのまま、白衣の男に向かって飛んでいく
それは、白衣の男の前に立ち、盾になろうとした二人の体を、嘲笑うかのようにすり抜けて
そのまま、白衣の男に向かって飛んでいく
「………」
白衣の男は、ただ、静かに
向かってくる、その幽霊を見つめていた
けたけたと笑う様子には、先ほど一瞬感じたはかなさは消えうせている
向かってくる、その幽霊を見つめていた
けたけたと笑う様子には、先ほど一瞬感じたはかなさは消えうせている
噂から生まれた都市伝説
皆が噂したとおりの、皆が信じたとおりの行動と姿
目の前のそれは、どこかの誰かの悲劇を噂の種にすると言う、そんな発想から生まれた存在
それが、自分の首を絞めようと手を伸ばしてきている様子すらも…男はただ、何の興味もないかのように見つめていた
皆が噂したとおりの、皆が信じたとおりの行動と姿
目の前のそれは、どこかの誰かの悲劇を噂の種にすると言う、そんな発想から生まれた存在
それが、自分の首を絞めようと手を伸ばしてきている様子すらも…男はただ、何の興味もないかのように見つめていた
なんと、馬鹿な人間だろう
ピアノに取り付く幽霊という存在の、その都市伝説は嘲笑う
骨とグロの言うとおり、さっさとここを離れれば良かっただろうに
そうすれば、死なずにすんだのに
けたけたと、男を嘲笑いながら、幽霊は男の首に手を伸ばし…
ピアノに取り付く幽霊という存在の、その都市伝説は嘲笑う
骨とグロの言うとおり、さっさとここを離れれば良かっただろうに
そうすれば、死なずにすんだのに
けたけたと、男を嘲笑いながら、幽霊は男の首に手を伸ばし…
…その、瞬間
男の背後に見えた、「それ」に、気付いた
男の背後に見えた、「それ」に、気付いた
「---------っ!?」
何だ
何だ、それは
何だ、「そいつ」は!?
何故、そんな奴がここにいる!?
何故、そんな奴を背後に背負っている!?
何だ、それは
何だ、「そいつ」は!?
何故、そんな奴がここにいる!?
何故、そんな奴を背後に背負っている!?
男は、驚愕に目を見開く彼女を、ただ冷たく見下ろしていた
己の背後の存在に、気付いているのかいないのか…
いや
こいつは、「気付いている」!
背後の存在に、気付いていて…だから、こちらの演奏を最後まで聴いたのか!?
己の背後の存在に、気付いているのかいないのか…
いや
こいつは、「気付いている」!
背後の存在に、気付いていて…だから、こちらの演奏を最後まで聴いたのか!?
実際には、「それ」はここにはいない
しかし、「それ」は確実に、この男の背後にいる
だが、「それ」は男を護っている訳ではない
護ろうとしている訳ではない
「それ」が、背後に居る理由は…
しかし、「それ」は確実に、この男の背後にいる
だが、「それ」は男を護っている訳ではない
護ろうとしている訳ではない
「それ」が、背後に居る理由は…
「ひ……っ!?」
なんと言う事だろう
勝てない
私では、「それ」に勝つ事はできない
力の差が有りすぎる
年季が違いすぎる!?
っこ、こんなもの狙われたら…っ
勝てない
私では、「それ」に勝つ事はできない
力の差が有りすぎる
年季が違いすぎる!?
っこ、こんなもの狙われたら…っ
彼女が、逃げ出すよりも先に
「それ」の攻撃は、ここにいないはずの「それ」の放った攻撃は…彼女を、一瞬で切り裂いた
「それ」の攻撃は、ここにいないはずの「それ」の放った攻撃は…彼女を、一瞬で切り裂いた
哀れ、ピアノを奏でていた幽霊という都市伝説は、ここにいないはずの「それ」によって、切り裂かれて消滅してしまったのだった
『今のは…?』
…白骨標本は、呆然と、その光景を見つめていた
あの幽霊は…確かに、彼女の主である白衣の男にに襲い掛かったはずだった
演奏を最後まで聴いた白衣の男を、殺す為に
しかし、あの幽霊は、白衣の男の首に手を伸ばした瞬間…何かに、怯えたような顔をして
直後、まるで何かに切り裂かれたように、霧散して、消えた
一体、何が起こったというのか
彼女には、まったくわからなかった
あの幽霊は…確かに、彼女の主である白衣の男にに襲い掛かったはずだった
演奏を最後まで聴いた白衣の男を、殺す為に
しかし、あの幽霊は、白衣の男の首に手を伸ばした瞬間…何かに、怯えたような顔をして
直後、まるで何かに切り裂かれたように、霧散して、消えた
一体、何が起こったというのか
彼女には、まったくわからなかった
『な、なんやねん、今のは!?』
彼女の相方である人体模型も、驚いたような声をあげた
彼にも、わからないのだ
今、目の前で一体、何が起こったのか
彼にも、わからないのだ
今、目の前で一体、何が起こったのか
「………」
白衣の男は、と言うと
いつも通りの、どこかやるきなさげな、何もかもが投げ槍な、そんな表情をしていた
消え去った幽霊がいたそこを、じっと見つめている
いつも通りの、どこかやるきなさげな、何もかもが投げ槍な、そんな表情をしていた
消え去った幽霊がいたそこを、じっと見つめている
「…終わったか」
『そ、そう…ですね』
『そ、そう…ですね』
…確かに
あの幽霊は、消えた
都市伝説の本体が消滅したからには…もう、このピアノで怪異は起きない
ピアノがひとりでに鳴り出す事はなくなり、その演奏を最後まで聴いて死んでしまう者はもういない
…けれど
あの幽霊は、消えた
都市伝説の本体が消滅したからには…もう、このピアノで怪異は起きない
ピアノがひとりでに鳴り出す事はなくなり、その演奏を最後まで聴いて死んでしまう者はもういない
…けれど
先ほど起こった現象が、一体、何だったのか?
彼女には、さっぱりわからない
彼女の相方にも、それはわからない
わからない、が
彼女には、さっぱりわからない
彼女の相方にも、それはわからない
わからない、が
…何故だろうか
彼女たちの契約者である、その白衣の男だけは
何か、理由を知っていそうで
彼女たちの契約者である、その白衣の男だけは
何か、理由を知っていそうで
「…終わったし、俺は帰るぞ。お前たちも、準備室に戻ってろ」
『え、あ、あの…』
『え、あ、あの…』
…引きとめようとして
しかし、白骨標本は、それを止めた
引き止めて…どうするのだ?
事情を聞きだす?
聞き出して…どうするのだろうか?
気のせい、かも、しれないのだが
なんだか、契約者が…あまり、その事を聞き出して欲しく無さそうな
そんな、表情をしていたような、気がして
しかし、白骨標本は、それを止めた
引き止めて…どうするのだ?
事情を聞きだす?
聞き出して…どうするのだろうか?
気のせい、かも、しれないのだが
なんだか、契約者が…あまり、その事を聞き出して欲しく無さそうな
そんな、表情をしていたような、気がして
「…どうした?」
『…いえ、な、なんでもありません』
『ほな、さいなら~』
『…いえ、な、なんでもありません』
『ほな、さいなら~』
人体模型と共に、白骨標本は契約者を見送った
…言い表しようのない不安と、嫌な予感を、静かに抱えながら
…言い表しようのない不安と、嫌な予感を、静かに抱えながら
「………」
彼は、静かに自分の首筋をさすっていた
何も、変化はない
あの幽霊に触れられてすらいないのだから、手の痕も残ってはいないだろう
もし、そんな痕なんぞ残っていたら、過保護ブラコンヤンデレの弟に何を言われるか
ついでに、あの弟が何をするか、わかったものではないが
…だから、こそ
「あの事」を、あの弟に話す訳にはいくまい
話したら、確実に心配される
確実に、心配されて
何も、変化はない
あの幽霊に触れられてすらいないのだから、手の痕も残ってはいないだろう
もし、そんな痕なんぞ残っていたら、過保護ブラコンヤンデレの弟に何を言われるか
ついでに、あの弟が何をするか、わかったものではないが
…だから、こそ
「あの事」を、あの弟に話す訳にはいくまい
話したら、確実に心配される
確実に、心配されて
…そして、たった一人生き残っている肉親である双子の片割れが、命を落としてしまうかもしれない
それだけは、避けたかった
無残な姿になった弟など、見たくなかった
無残な姿になった弟など、見たくなかった
いつか、その日が近づけば、自分は「あれ」との戦いは避けられないのだ
いまだ、対策は固まらないが…それでも、「あれ」と戦う必要性があるのだ
かすかな望みをかけて、あの幽霊のような都市伝説が、「あれ」に少しはダメージを与えてくれる事を期待はしたが・・・
…しかし、あの様子だと無理だろう
己に手を伸ばしてきたあの幽霊は、こちらを狙う「あれ」の存在に気付き、怯え…何もできなかったのだから
いまだ、対策は固まらないが…それでも、「あれ」と戦う必要性があるのだ
かすかな望みをかけて、あの幽霊のような都市伝説が、「あれ」に少しはダメージを与えてくれる事を期待はしたが・・・
…しかし、あの様子だと無理だろう
己に手を伸ばしてきたあの幽霊は、こちらを狙う「あれ」の存在に気付き、怯え…何もできなかったのだから
「…まったく」
どうして、自分はこんな厄介な事に巻き込まれてしまっているのか
咥えていたタバコを握りつぶし、彼は帰路に着くべく、自転車をこぎ始めた
咥えていたタバコを握りつぶし、彼は帰路に着くべく、自転車をこぎ始めた
…一瞬、記憶の片隅に蘇った、二つの首なし死体の様子を、振り払いながら…
人は闇に恐怖して 人は光を作りだし
光が照らして闇は深まり
そして、ますます闇に恐怖して
光が照らして闇は深まり
そして、ますます闇に恐怖して
そして、人は噂する 闇から出てくるその影を
噂された影は笑う 命を得た影は笑う
生み出してくれてありがとうと 影は笑って
噂された影は笑う 命を得た影は笑う
生み出してくれてありがとうと 影は笑って
そして、噂するあなたたちの背後にふっ、と現れる
Red Cape