中央高校での決戦より二日後 北区 某所にて
「………」
「…あー…」
「…あー…」
…どう、口を開いたらいいものか
互いに、目的は同じなのだ
だが、うまく切り出せず
互いに、目的は同じなのだ
だが、うまく切り出せず
……だが、それでも
互いに、互いの考えは…もう、とっくにわかりきっているのだ
互いに、互いの考えは…もう、とっくにわかりきっているのだ
「…黒服、あの二人、大丈夫なの?」
「大丈夫だ、と私は信じていますよ」
「大丈夫だ、と私は信じていますよ」
やんわり微笑み、そう答える黒服
…そう言われると、はないちもんめの少女としては、それ以上言いようがない
…そう言われると、はないちもんめの少女としては、それ以上言いようがない
「ひっひ、主も悪魔の囁きから解放されたからねぇ。問題ないさね」
くすくすと笑うのは、魔女の一撃
三人は、少し離れたところから、「日焼けマシン」の契約者の青年と魔女の一撃契約者の様子を見守っていた
…二人だけで会わせても、良かったのだが
心配と言うか、経過が気になると言うか…
三人は、少し離れたところから、「日焼けマシン」の契約者の青年と魔女の一撃契約者の様子を見守っていた
…二人だけで会わせても、良かったのだが
心配と言うか、経過が気になると言うか…
ぱたぱたと
三人に、駆け寄ってきたTさん達
遠目に、あの二人を眺める
三人に、駆け寄ってきたTさん達
遠目に、あの二人を眺める
「なかなおりするのー?」
「えぇ…そうですよ」
「えぇ…そうですよ」
…どうか、うまくいきますように
そう、祈るような気持ちで、黒服は二人を見つめていた
そう、祈るような気持ちで、黒服は二人を見つめていた
「…翼」
ぽつり
先に口を開いたのは、魔女の一撃契約者の方だった
暗い表情
深い、深い、後悔に彩られた表情
先に口を開いたのは、魔女の一撃契約者の方だった
暗い表情
深い、深い、後悔に彩られた表情
悪魔の囁きに操られていたとは言え…自分がしたことは、「日焼けマシン」の契約者…翼に、許される事ではないと
彼は、そう自覚していた
いや、そもそも…悪魔の囁きの誘惑に乗ってしまった
それ事態、彼にとって深く後悔している事だった
心に、隙があったのだ
翼を、疑ってしまった
その事実自体、彼は自分自身を許せなかった
確かに、高校時代、嫉妬などからやりあった事はある、裏切りギリギリの行為を働いた事もある
だが、それでも…翼との友情を、疑った事などなかったはずだったと言うのに
彼は、そう自覚していた
いや、そもそも…悪魔の囁きの誘惑に乗ってしまった
それ事態、彼にとって深く後悔している事だった
心に、隙があったのだ
翼を、疑ってしまった
その事実自体、彼は自分自身を許せなかった
確かに、高校時代、嫉妬などからやりあった事はある、裏切りギリギリの行為を働いた事もある
だが、それでも…翼との友情を、疑った事などなかったはずだったと言うのに
結局、一番の裏切り者は、自分だったのだ
それが、何よりも許せない
それが、何よりも許せない
「俺のせいで……御免な。またお前に迷惑をかけて」
もう、親友でいられなかったと、しても
それでもいい、と覚悟している
許されるはずなどないと
それでもいい、と覚悟している
許されるはずなどないと
……だが
「…いや、こっちこそ」
翼が、小さく被りを振る
魔女の一撃契約者に、申し訳無さそうな表情を浮かべてきていて
魔女の一撃契約者に、申し訳無さそうな表情を浮かべてきていて
-----あぁ、畜生
どうして、お前がそんな顔をするんだ
どうして、お前がそんな顔をするんだ
「お前に、都市伝説のこと、ずっと黙っていたのは、俺の方だから」
「…直希は、知ってたのか?お前が都市伝説と契約している事を」
「あぁ。あいつも、都市伝説と契約していたから」
「…直希は、知ってたのか?お前が都市伝説と契約している事を」
「あぁ。あいつも、都市伝説と契約していたから」
あぁ、そうだったのか
高校時代の、こいつの次くらいに仲が良かったあの友人に嫉妬する
…いや、嫉妬などできる権利など、自分にはないのだが
高校時代の、こいつの次くらいに仲が良かったあの友人に嫉妬する
…いや、嫉妬などできる権利など、自分にはないのだが
「誠」
「…?」
「…?」
俯いていた顔をあげると、翼がじっと、見つめてきていた
昔と代わらない、どこまでも真っ直ぐな目
……あぁ
俺とは、大違いだ
昔と代わらない、どこまでも真っ直ぐな目
……あぁ
俺とは、大違いだ
「お前が都市伝説と契約した事、話したら…直希も、心配してたんだよ。だから…今度、また、三人で酒でも飲まないか?」
あ、いや、直希は下戸だから飲めないけど…と、そう言って来た、翼を
魔女の一撃契約者…誠は、じっと見つめた
魔女の一撃契約者…誠は、じっと見つめた
「……翼」
「うん?」
「いいのか?まだ……俺なんかと、付き合って」
「うん?」
「いいのか?まだ……俺なんかと、付き合って」
あんなに、酷い裏切りをしたと言うのに
もう少しで……取り返しのつかないことを、してしまうところだったというのに
もう少しで……取り返しのつかないことを、してしまうところだったというのに
それでも、まだ、許すというのか?
「当たり前だろ?」
当たり前だ、と
翼は、そう言って誠に笑った
翼は、そう言って誠に笑った
「お前は、俺の幼馴染で……親友、だから」
あぁ、それにしたって
俺は、お前に、あんな事を
俺は、お前に、あんな事を
「…それに」
つい、と翼が指差してきたのは
誠が、首から下げている……首飾り
誠が、首から下げている……首飾り
悪魔の囁きを、引き剥がそうとしていた、その時
鎖が切れた、あの首飾りだ
誠が、悪魔の囁きの言葉を無視して手を伸ばした、あの首飾り
鎖が切れた、あの首飾りだ
誠が、悪魔の囁きの言葉を無視して手を伸ばした、あの首飾り
「それ、まだ、持っていてくれてたんだな」
「………当たり前だろ」
「………当たり前だろ」
嬉しそうに、笑う翼
…この、首飾りは
翼が、シルバーアクセサリーを作り始めてすぐの頃、作った物だ
今見れば稚拙な出来だが、それでも、当時はよく出来た、と思って
誠に、プレゼントしたものなのだ
…この、首飾りは
翼が、シルバーアクセサリーを作り始めてすぐの頃、作った物だ
今見れば稚拙な出来だが、それでも、当時はよく出来た、と思って
誠に、プレゼントしたものなのだ
誠は、それをずっと身につけていた
誠にとって、それは、翼との思い出の品であったから
だから、あの瞬間…悪魔の囁きの言葉よりも、それを優先して
だからこそ、悪魔の囁きから解放されたのだ
誠にとって、それは、翼との思い出の品であったから
だから、あの瞬間…悪魔の囁きの言葉よりも、それを優先して
だからこそ、悪魔の囁きから解放されたのだ
「俺は、お前が無事でいてくれたなら、それでいいんだ」
そう言って
翼は、す、と誠に手を差し出した
翼は、す、と誠に手を差し出した
「こっちこそ、お前の気持ちに、気づいてやれなかったんだ……そんな俺でもよかったら。まだ、親友(ダチ)でいてくれるか?」
「……翼」
「……翼」
…あぁ、こいつは、本当に…
……だからこそ、俺は
……だからこそ、俺は
誠は、ふっと笑って……そっと、翼に手を伸ばした
「お、何か大丈夫そうじゃん」
二人の様子を眺め、そう呟いたTさんの契約者
距離的に、会話の内容は聞こえてこないが…二人の表情や雰囲気から、見て
どうやら、和解できたようだ
距離的に、会話の内容は聞こえてこないが…二人の表情や雰囲気から、見て
どうやら、和解できたようだ
…黒服は、ほっと安堵の息を吐いた
これで一つ…懸念が、晴れた
これで一つ…懸念が、晴れた
「ひっひっひ、私もほっとしたよ」
魔女の一撃も、主の様子にほっとしたように笑っていた
はないちもんめの少女は、やや複雑そうな表情を浮かべつつも…まぁ、いいか、と考えているようで
はないちもんめの少女は、やや複雑そうな表情を浮かべつつも…まぁ、いいか、と考えているようで
二人を眺める黒服に
つ、とTさんが、声をかけてくる
つ、とTさんが、声をかけてくる
「黒服さん、あとのあなたの懸念は……もしかすると、魔女の一撃契約者に憑いていた、悪魔の囁きの事か?」
「………はい」
「………はい」
はないちもんめの少女や、Tさん達には聞こえないように
黒服は、静かに頷いた
黒服は、静かに頷いた
「三年、って言う時間は、異常だからねぇ?」
「悪魔の囁きとは、本来、ほんの一瞬だけ人間にとり憑き、突発的な悪事を起こさせる存在のはずだな?」
「そう、なんですよ…」
「悪魔の囁きとは、本来、ほんの一瞬だけ人間にとり憑き、突発的な悪事を起こさせる存在のはずだな?」
「そう、なんですよ…」
彼にとり憑いていた悪魔の囁きは、本来の性質とはあまりにもかけ離れた行動をとっていた
黒服も、魔女の一撃も、それが引っかかっていたのだ
黒服も、魔女の一撃も、それが引っかかっていたのだ
「まるで…何者かが、悪意を持って、彼に悪魔の囁きをとり憑かせていたように思えます」
「あたしもそう思ってねぇ?でも、主は心当たりがない、って言うし」
「あたしもそう思ってねぇ?でも、主は心当たりがない、って言うし」
調べようにも、手がかりが少なすぎる
お手上げ、とでも言うように、魔女の一撃は肩をすくめた
お手上げ、とでも言うように、魔女の一撃は肩をすくめた
「黒服さん、調べるつもりか?」
「はい……やはり、気になりますので」
「はい……やはり、気になりますので」
一体、誰がそんな事をしたのか
調べる必要があるだろう
黒服は、そう考えていた
調べていけば、きっと、何かしら手がかりが見付かるはずだし……
調べる必要があるだろう
黒服は、そう考えていた
調べていけば、きっと、何かしら手がかりが見付かるはずだし……
「……あら?」
「あれ?様子、おかしくね???」
「あれ?様子、おかしくね???」
…日焼けマシンの契約者と、魔女の一撃契約者の様子を見続けていた少女と、Tさんの契約者の言葉に
え?と、三人は、二人に視線を戻した
そこでは、魔女の一撃契約者が、「日焼けマシン」の契約者が差し出した手を……両手で、しっかりと握っていて………
え?と、三人は、二人に視線を戻した
そこでは、魔女の一撃契約者が、「日焼けマシン」の契約者が差し出した手を……両手で、しっかりと握っていて………
「……誠?」
差し出したその手を、両手でしっかりと握られて
きょとん、と翼は首を傾げた
きょとん、と翼は首を傾げた
じっと、じっと
誠は、翼を見つめている
誠は、翼を見つめている
「本当、お前は昔っから、可愛い奴だよなぁ……」
「は?」
「馬鹿みたいに真っ直ぐで、正直で……やっぱり、護ってやらないとな」
「は?」
「馬鹿みたいに真っ直ぐで、正直で……やっぱり、護ってやらないとな」
す、と
誠は、翼に近づく
息がかかりそうな、至近距離
誠は、にんまりと……翼に、笑ってやった
誠は、翼に近づく
息がかかりそうな、至近距離
誠は、にんまりと……翼に、笑ってやった
「翼」
「な、何だよ」
「な、何だよ」
親友の様子に、ただならぬものを感じたのだろうか
翼が、やや身を引く
翼が、やや身を引く
「俺、今回の事でわかったよ」
「な、何が?」
「な、何が?」
ニヤ、と
誠は、まるで真理を手に入れたかのように、笑った
誠は、まるで真理を手に入れたかのように、笑った
「俺が一番好きなのは、お前だったんだ。道理で、今までどんな女と付き合ってももの足りないと思ったよ。俺が一番欲しいのはお前だ………だから、伝える。俺と付き合わないかっが!!??」
------っご!!!と
翼の膝蹴りが、誠に直撃した
続けて、エルボー、回し蹴りと、連続コンボが決まる!!!
翼の膝蹴りが、誠に直撃した
続けて、エルボー、回し蹴りと、連続コンボが決まる!!!
「----い、いきなり何言いやがるんだ、この変態っ!?」
「ぐ……この黄金コンボは流石に効く……っ……………何、俺は目覚めただけだ!!」
「目覚めるなっ!?新世界の扉開けてんじゃねぇっ!?」
「俺は長年、どうしてお前に固執し続けてきたのか、その疑問がとけてスッキリしてるけどな」
「するなっ!?って、こら、寄るな!?どこ触ろうとしていやがるてめぇっ!!??」
「ぐ……この黄金コンボは流石に効く……っ……………何、俺は目覚めただけだ!!」
「目覚めるなっ!?新世界の扉開けてんじゃねぇっ!?」
「俺は長年、どうしてお前に固執し続けてきたのか、その疑問がとけてスッキリしてるけどな」
「するなっ!?って、こら、寄るな!?どこ触ろうとしていやがるてめぇっ!!??」
ごがっ!!と
再び、翼の拳が誠に直撃した訳だが
再び、翼の拳が誠に直撃した訳だが
……翼は何も悪くないだろうし、きっと、誠も何も悪くはないのだ、多分
「…うわ、すっげぇ連続コンボ」
「けんかなの?」
「……喧嘩、のような、何か違うような…」
「けんかなの?」
「……喧嘩、のような、何か違うような…」
………えー………
日焼けマシンの契約者が怒鳴りだしたせいで、何が起こったのか、大体、わかった訳だが…
…どう、対処したらいいものか
魔女の一撃など、主が大変な目にあっていると言うのに、腹を抱えてけらけらと笑っている
日焼けマシンの契約者が怒鳴りだしたせいで、何が起こったのか、大体、わかった訳だが…
…どう、対処したらいいものか
魔女の一撃など、主が大変な目にあっていると言うのに、腹を抱えてけらけらと笑っている
「…ちょっと、止めてきます」
かすかに頭痛を覚えたような表情で、黒服が二人に駆け寄っていく
…何と言うか、殴られている方がまったく反撃していないせいで、事情をわからぬ者が見たら、一方的に叩きのめしているようにしか見えない
いや、一方的に叩きのめしているのだが
…何と言うか、殴られている方がまったく反撃していないせいで、事情をわからぬ者が見たら、一方的に叩きのめしているようにしか見えない
いや、一方的に叩きのめしているのだが
「…お前さんは、止めなくてもいいのか?主の危機に見えるんだが」
「ひっひっひっひ。なぁに、大丈夫さね。主はちゃぁんと、急所は外されるようにしてるから」
「ひっひっひっひ。なぁに、大丈夫さね。主はちゃぁんと、急所は外されるようにしてるから」
言われて見れば、殴られっぱなしなのに、魔女の一撃契約者はほぼ、ダメージを受けているよう見えない
かすかに体を動かして、急所を外させているようだ
「日焼けマシン」の契約者の方も、容赦なく殴っているように見えてアレで手加減しているのかもしれないが…
かすかに体を動かして、急所を外させているようだ
「日焼けマシン」の契約者の方も、容赦なく殴っているように見えてアレで手加減しているのかもしれないが…
…この日
一人の青年が、新世界の扉を開けた
明らかに間違った道に見えなくもないが、彼はそれを正しい道だと信じていて
一人の青年が、新世界の扉を開けた
明らかに間違った道に見えなくもないが、彼はそれを正しい道だと信じていて
……まぁ
その新世界の扉を開けたが故の想いさえ、表に現さなければ
彼らは今まで通り、仲の良い親友同士なのだ
その新世界の扉を開けたが故の想いさえ、表に現さなければ
彼らは今まで通り、仲の良い親友同士なのだ
…もう、その友情を壊すものは、どこにも存在してやいない
とぅーびー??