●
「…………う、っ」
瓦礫に背を預けるようにして倒れていた浅井は意識を取り戻した。自我がまだ確かにあることに多少驚きつつ、胸の辺りに手をやる。そこにはネックレスのチェーンがあり……それだけであった。その先についていた青白い石も青い宝石も砕け散り、無くなっていたのだ。
「はは、見事なもんだ」
首からチェーンを引っ張り、眼前でゆらゆらと揺らす。と、青年の声が聞こえた。
「≪ホープダイヤ≫も≪死を招くネックレス≫も砕けたか」
浅井が目を向けると、青年は火傷や裂傷だらけの姿で歩いて来ていた。その表情に既に険は無く、ただ浅井の状態を見極めようとしているようだった。
「みてえ……だな」
遠く、さっちゃんが駆けよってくるのが見える。それに手を振りながら、
「くそ、思いっきり吹き飛ばしやがって」
青年に向かって盛大に不満を垂れた。青年はふ、と息を吐き出して口の端を歪めて笑い、言う。
「意外に元気そうじゃないか」
「あんたはぼろぼろだな」
「誰かさんの無茶のせいでな」
青年の返答に浅井はけ、と吐き捨てる。そして長く自身に澱み溜まっていたモノを吐きだすかのように大声を上げた。
「あースッキリしたっ!!」
そして笑い、「あー、そうそう」、と青年へと顔を向けた。
「おい、Tさんよ、あの契約者の娘っ子だがよ」
「どうした?」
怪訝そうに青年が訊く。
「娘っ子、妙に不安がってたぞ?」
いかんなあ、おとーさんはもっと若いもんには話し合ってもらいたいと思うなあ。と続けたところで、
「……そうか」
青年が憮然として答えた。
浅井は笑みを濃くして、
「へっへへへ……なんかここにきて勝った気分だな」
「……それはよかったな」
青年はやはり憮然とした表情だった。
間もなく、居合わせた人間が皆集まって来た。まず最初に走って来たさっちゃんが浅井の胸元に飛び込む。浅井はそれを抱きとめ、顔を押しつける彼女をあやすようにしている。それから程なく黒服に抱えられた夢子と、青年の契約者の少女とリカちゃんが到着した。
浅井は呼吸を多少乱している夢子を見て胸元のさっちゃんへと語りかける。
「もういいだろ? 二番、解いてやんな」
「うん……」
答えがあり、しばらくすると夢子の呼吸が落ち着いたものになった。彼女は自立し、浅井たちへと歩み寄る。そして頭を下げた。
「ありがとうございます」
「おう――ほら、だってよ」
「うー……」
気まずいのか浅井の胸に顔を押しつけたままのさっちゃんの頭を撫でながら夢子へと目礼する浅井と彼に為されるがままのさっちゃん。浅井は苦笑しながら青年を見上げる。
「じゃあ青年、勝手な頼みで悪いんだがさっちゃんの事、しっかり面倒みてくれよ」
「やはりあの時の襲撃も電話もそういうことか」
青年が物憂げに言う。
「一気に限界が近づいてきたから手段も選べなくてな。敵さんに頼むしかなかったのよ」
ほら、あんたたちさっちゃんの昔の知り合いっぽかったし。と言う彼の表情にもどこか寂しげな影がある。
「俺としてはさっきのアレで王様を消せてもよかったんだけどな。……まあこうなるんじゃねえかとは思ってたんだよなー。娘っ子のTさんに向ける信頼感とかすごかったしな」
そう言って浅井が笑みを向けると少女の頬が若干赤みを帯びた。とりなすように彼女は口を開く。
「そりゃそうだ、Tさんはすごいからな。――寺生まれだし」
つっけんどんな言葉に浅井は声を出して笑う。
「ははは、なんだそりゃ」
「俺がそういう存在だからな≪寺生まれで霊感の強いTさん≫という。――それと」
青年は黒服を示した。
「頼むのならば彼に頼んでおくといい」
「そういや戦いの始めっから居やがったな……誰だ?」
浅井の疑問に青年はうむ、と頷き、
「黒服さんはさっちゃんや彼女の以前の契約者の仲間だ」
「おお、そいつはいい」
浅井は目を丸くすると姿勢を苦心して正し、改めて頭を深く下ろす。
「さっちゃんのこと、頼むぜ」
「ですが……」
気遣わしげな黒服。被せるように少女が訊く。
「さっきからなんだ? おっちゃんどっかに行っちまうのか?」
浅井は力なく笑って言う。
「ああ、――逝っちまうのさ」
その口の端を血が伝い、続くように大量の血液が吐き出された。
瓦礫に背を預けるようにして倒れていた浅井は意識を取り戻した。自我がまだ確かにあることに多少驚きつつ、胸の辺りに手をやる。そこにはネックレスのチェーンがあり……それだけであった。その先についていた青白い石も青い宝石も砕け散り、無くなっていたのだ。
「はは、見事なもんだ」
首からチェーンを引っ張り、眼前でゆらゆらと揺らす。と、青年の声が聞こえた。
「≪ホープダイヤ≫も≪死を招くネックレス≫も砕けたか」
浅井が目を向けると、青年は火傷や裂傷だらけの姿で歩いて来ていた。その表情に既に険は無く、ただ浅井の状態を見極めようとしているようだった。
「みてえ……だな」
遠く、さっちゃんが駆けよってくるのが見える。それに手を振りながら、
「くそ、思いっきり吹き飛ばしやがって」
青年に向かって盛大に不満を垂れた。青年はふ、と息を吐き出して口の端を歪めて笑い、言う。
「意外に元気そうじゃないか」
「あんたはぼろぼろだな」
「誰かさんの無茶のせいでな」
青年の返答に浅井はけ、と吐き捨てる。そして長く自身に澱み溜まっていたモノを吐きだすかのように大声を上げた。
「あースッキリしたっ!!」
そして笑い、「あー、そうそう」、と青年へと顔を向けた。
「おい、Tさんよ、あの契約者の娘っ子だがよ」
「どうした?」
怪訝そうに青年が訊く。
「娘っ子、妙に不安がってたぞ?」
いかんなあ、おとーさんはもっと若いもんには話し合ってもらいたいと思うなあ。と続けたところで、
「……そうか」
青年が憮然として答えた。
浅井は笑みを濃くして、
「へっへへへ……なんかここにきて勝った気分だな」
「……それはよかったな」
青年はやはり憮然とした表情だった。
間もなく、居合わせた人間が皆集まって来た。まず最初に走って来たさっちゃんが浅井の胸元に飛び込む。浅井はそれを抱きとめ、顔を押しつける彼女をあやすようにしている。それから程なく黒服に抱えられた夢子と、青年の契約者の少女とリカちゃんが到着した。
浅井は呼吸を多少乱している夢子を見て胸元のさっちゃんへと語りかける。
「もういいだろ? 二番、解いてやんな」
「うん……」
答えがあり、しばらくすると夢子の呼吸が落ち着いたものになった。彼女は自立し、浅井たちへと歩み寄る。そして頭を下げた。
「ありがとうございます」
「おう――ほら、だってよ」
「うー……」
気まずいのか浅井の胸に顔を押しつけたままのさっちゃんの頭を撫でながら夢子へと目礼する浅井と彼に為されるがままのさっちゃん。浅井は苦笑しながら青年を見上げる。
「じゃあ青年、勝手な頼みで悪いんだがさっちゃんの事、しっかり面倒みてくれよ」
「やはりあの時の襲撃も電話もそういうことか」
青年が物憂げに言う。
「一気に限界が近づいてきたから手段も選べなくてな。敵さんに頼むしかなかったのよ」
ほら、あんたたちさっちゃんの昔の知り合いっぽかったし。と言う彼の表情にもどこか寂しげな影がある。
「俺としてはさっきのアレで王様を消せてもよかったんだけどな。……まあこうなるんじゃねえかとは思ってたんだよなー。娘っ子のTさんに向ける信頼感とかすごかったしな」
そう言って浅井が笑みを向けると少女の頬が若干赤みを帯びた。とりなすように彼女は口を開く。
「そりゃそうだ、Tさんはすごいからな。――寺生まれだし」
つっけんどんな言葉に浅井は声を出して笑う。
「ははは、なんだそりゃ」
「俺がそういう存在だからな≪寺生まれで霊感の強いTさん≫という。――それと」
青年は黒服を示した。
「頼むのならば彼に頼んでおくといい」
「そういや戦いの始めっから居やがったな……誰だ?」
浅井の疑問に青年はうむ、と頷き、
「黒服さんはさっちゃんや彼女の以前の契約者の仲間だ」
「おお、そいつはいい」
浅井は目を丸くすると姿勢を苦心して正し、改めて頭を深く下ろす。
「さっちゃんのこと、頼むぜ」
「ですが……」
気遣わしげな黒服。被せるように少女が訊く。
「さっきからなんだ? おっちゃんどっかに行っちまうのか?」
浅井は力なく笑って言う。
「ああ、――逝っちまうのさ」
その口の端を血が伝い、続くように大量の血液が吐き出された。
●
眼前、いきなり吐血した浅井を見て少女は自分の周囲を見た。しかし周りの人々は男の吐血を見ても大して驚いていない。どこか来るべきものが来たとでも言いたそうな顔をしている彼らを見て少女は疑問をぶつけた。
「なんでいきなり血ぃ吐いてんだよ!?」
答えは本人からあった。
「容量オーバーか、放射線か呪いか……なんにせよもう長くはねえわな」
青年が付け加えるように言う。
「契約できる限界を超えていたんだ。今こうして正気を保っていることそれ自体が奇跡と言っていい」
そのどこか割りきった口調に耐えきれず、少女が訊ねる。
「Tさんは治せないのかよ?」
青年が答えるより早く浅井が首を振った。
「…………無理だ。俺の身体はもうそこいらじゅうが放射能に汚染されてる上に人間のそれと違った構造になっちまってるし、呪いだらけで薬も何も効きゃしねえ。――まあ寿命とでも思うしかねえな」
呟く浅井へ少女が言う。
「おっちゃんまだ三十くらいじゃねえのかよ!? 寿命とか早えよ!」
「あん? ああ……≪放射能による突然変異≫でな、動きやすいように30代位にまで若返ってたんだ。本当の歳は50も後半だぜ?」
ほら、娘っ子を拉致った時に下手したら孫みたいなもんだって言っただろ?
そう言っている間に浅井の髪の毛が一房抜け落ちた。
「こりゃあ……被曝の症状だな」
内臓も汚れまくりだしなぁと浅井は笑おうとし、咳き込み血を吐いた。
「おっちゃん……」
「そんな顔すんな、俺はやりたいようにやってすっきりしたんだぜ。人を呪わば穴二つってな。王様を盛大に呪った分報いを受けてんのよ」
そう言って黒服と青年を見る。
「……じゃあ、頼むぜ」
そう言ってさっちゃんを引き剥がそうとし、
「……いやだ」
さっちゃんは浅井の服の端を握りこんで張り付いた。
「こらこら、ぐずるんじゃねえ、さっさと契約を破棄するぞ」
困った顔をして頭を小突く浅井を、さっちゃんは彼女にとってのおとーさんを見上げ、涙声で言った。
「……お兄たんもいなくなって……おとーさんも遠くへ行っちゃったら、さみしいよ…………」
置き去りにされる子供そのものの不安げな表情で見つめる。
「忘れちまえばいい。俺みたいな奴憶えてたっていいこたぁねえよ」
さっちゃんは嫌々と俯き首を振る。
「……ったく、歌で遠くへ行くのはさっちゃんだろうよ」
寂しがるのは俺の役目なんだけどな。と浅井は頬の傷痕を指先で引っ掻きながら困ったように言う。
「同じだもん! ……遠くにはなれちゃうのは、いっしょだもん」
さっちゃんは言い、そして浅井の存在を確かめるかのように手を顔に這わせ、告げた。
「――それに、もう何も見えないから、おとーさんを感じてたい」
再び向けられた彼女の笑顔。しかしその目にはもう光が無かった。
「な!?」
浅井は気付き、さっちゃんを確かめる。彼女の身体には異変が現れ始めていた。その症状は浅井が受けているものとほぼ同じもので、
「……くそ、俺の命だけじゃ足りねえのかよ、あのクソ石……!」
都市伝説との限界を超えた契約の影響、もしくは破壊された彼の都市伝説の呪いが、さっちゃんにまで及び始めていた。
「これで……ずっといっしょだね」
「……ああ」
浅井は諦めたようにため息を吐いて優しく馬鹿野郎と言う。
「……娘の頼みとなりゃあ、断れねえよなぁ?」
そう言って浅井は青年を見る。青年はやや不愛想に答える。
「娘が出来たことが無い……分からん」
浅井はそうかい、と頷くと、
「じゃあ契約者の娘っ子と励め」
くっくくと笑う。青年が呆れたようにため息を吐くのを楽しげに見て、夢子へと声をかけた。
「王様さん」
「はい」
呼びかけた夢子へと浅井は頭を深々と下げた。
「とんだ迷惑をかけたな」
「いえ、……私が悪いのですから」
や、と遮り浅井は言う。
「俺たちは王様の事を知った時に割り切るべきだったんだ。それをここまでやっちまったのは俺たちのわがままだ。すまねえ」
夢子が何かを言おうとするのに先んじて少女が口を出した。
「まったくだぜ」
浅井を見据え、
「なんで復讐なんだよ、さっちゃんがいたんだろ?」
「ああ、居てくれたなおかげで無気力に死んでいかずに済んだんだが」
「貴方とさっちゃんが互いの傷を癒しあう道もあったのではないのですか?」
黒服の言葉に浅井は目を丸くして、あー、と心底まいったような声を吐きだして手で顔を覆った。
「そいつをするには俺は馬鹿すぎたなー……くそ、馬鹿だな、まったく……なんでそれをしなかったんだろうな」
笑い、髪を掻きまわす浅井の目も白く濁っている。
終わりが近い。誰もがそう感じた。
か細い声で浅井へとしがみついているさっちゃんが言う。
「……ねえ、≪夢の国≫……、さっちゃんね、さっちゃんの歌だから、わすれちゃう事が歌われてるから、だから全部知っても無かったことにしちゃうのが怖かったから、戦っちゃって、ごめん、ごめんなさい」
「いえ、私も……すみません」
拒絶ではないいらえが返ったことが嬉しいのかさっちゃんは表情を緩め、顔をあげた。
呼びかける。
「ねえ、地下トンネルのお兄ちゃん」
「なんでしょう?」
返事のあった声の方へと顔を向け、さっちゃんはもう何も映しはしない目で黒服を見据え、弱々しい声で問うた。
「いま、しあわせ?」
「……はい、とても」
誠実な答え、幸せの肯定。それを受け取った彼女は、
「そっか……よかったぁ……みんな、さっちゃんたちの、こと…………わすれちゃう……かな?」
薄れて行く意識の中で問う。
「貴女たちのことは忘れません。絶対に」
「お兄たんたち………………おぼえてて……くれてるかな?」
返ってくるのは彼女にとって安心できる答えばかりだ。
「皆、特に彼が貴女を忘れるわけがありませんよ」
「そうだぜ…………しっかり俺を……紹介してくれよ」
「……うん」
古い知り合いが見守り、父と慕う契約者の腕の中、彼女は笑み、
「みんなに……地下トンネルのお兄ちゃんは……しあわせだよって……つたえる…………ね」
腕の中で命が一つ終わる感覚があった。浅井は見えぬ目でそれを大事に抱きしめ、最期に礼を述べた。
「…………止めてくれて、ありがとな…………あの世で怒られるネタが……減った気がするわ……」
緩く笑って、静かに息を引き取った。
「なんでいきなり血ぃ吐いてんだよ!?」
答えは本人からあった。
「容量オーバーか、放射線か呪いか……なんにせよもう長くはねえわな」
青年が付け加えるように言う。
「契約できる限界を超えていたんだ。今こうして正気を保っていることそれ自体が奇跡と言っていい」
そのどこか割りきった口調に耐えきれず、少女が訊ねる。
「Tさんは治せないのかよ?」
青年が答えるより早く浅井が首を振った。
「…………無理だ。俺の身体はもうそこいらじゅうが放射能に汚染されてる上に人間のそれと違った構造になっちまってるし、呪いだらけで薬も何も効きゃしねえ。――まあ寿命とでも思うしかねえな」
呟く浅井へ少女が言う。
「おっちゃんまだ三十くらいじゃねえのかよ!? 寿命とか早えよ!」
「あん? ああ……≪放射能による突然変異≫でな、動きやすいように30代位にまで若返ってたんだ。本当の歳は50も後半だぜ?」
ほら、娘っ子を拉致った時に下手したら孫みたいなもんだって言っただろ?
そう言っている間に浅井の髪の毛が一房抜け落ちた。
「こりゃあ……被曝の症状だな」
内臓も汚れまくりだしなぁと浅井は笑おうとし、咳き込み血を吐いた。
「おっちゃん……」
「そんな顔すんな、俺はやりたいようにやってすっきりしたんだぜ。人を呪わば穴二つってな。王様を盛大に呪った分報いを受けてんのよ」
そう言って黒服と青年を見る。
「……じゃあ、頼むぜ」
そう言ってさっちゃんを引き剥がそうとし、
「……いやだ」
さっちゃんは浅井の服の端を握りこんで張り付いた。
「こらこら、ぐずるんじゃねえ、さっさと契約を破棄するぞ」
困った顔をして頭を小突く浅井を、さっちゃんは彼女にとってのおとーさんを見上げ、涙声で言った。
「……お兄たんもいなくなって……おとーさんも遠くへ行っちゃったら、さみしいよ…………」
置き去りにされる子供そのものの不安げな表情で見つめる。
「忘れちまえばいい。俺みたいな奴憶えてたっていいこたぁねえよ」
さっちゃんは嫌々と俯き首を振る。
「……ったく、歌で遠くへ行くのはさっちゃんだろうよ」
寂しがるのは俺の役目なんだけどな。と浅井は頬の傷痕を指先で引っ掻きながら困ったように言う。
「同じだもん! ……遠くにはなれちゃうのは、いっしょだもん」
さっちゃんは言い、そして浅井の存在を確かめるかのように手を顔に這わせ、告げた。
「――それに、もう何も見えないから、おとーさんを感じてたい」
再び向けられた彼女の笑顔。しかしその目にはもう光が無かった。
「な!?」
浅井は気付き、さっちゃんを確かめる。彼女の身体には異変が現れ始めていた。その症状は浅井が受けているものとほぼ同じもので、
「……くそ、俺の命だけじゃ足りねえのかよ、あのクソ石……!」
都市伝説との限界を超えた契約の影響、もしくは破壊された彼の都市伝説の呪いが、さっちゃんにまで及び始めていた。
「これで……ずっといっしょだね」
「……ああ」
浅井は諦めたようにため息を吐いて優しく馬鹿野郎と言う。
「……娘の頼みとなりゃあ、断れねえよなぁ?」
そう言って浅井は青年を見る。青年はやや不愛想に答える。
「娘が出来たことが無い……分からん」
浅井はそうかい、と頷くと、
「じゃあ契約者の娘っ子と励め」
くっくくと笑う。青年が呆れたようにため息を吐くのを楽しげに見て、夢子へと声をかけた。
「王様さん」
「はい」
呼びかけた夢子へと浅井は頭を深々と下げた。
「とんだ迷惑をかけたな」
「いえ、……私が悪いのですから」
や、と遮り浅井は言う。
「俺たちは王様の事を知った時に割り切るべきだったんだ。それをここまでやっちまったのは俺たちのわがままだ。すまねえ」
夢子が何かを言おうとするのに先んじて少女が口を出した。
「まったくだぜ」
浅井を見据え、
「なんで復讐なんだよ、さっちゃんがいたんだろ?」
「ああ、居てくれたなおかげで無気力に死んでいかずに済んだんだが」
「貴方とさっちゃんが互いの傷を癒しあう道もあったのではないのですか?」
黒服の言葉に浅井は目を丸くして、あー、と心底まいったような声を吐きだして手で顔を覆った。
「そいつをするには俺は馬鹿すぎたなー……くそ、馬鹿だな、まったく……なんでそれをしなかったんだろうな」
笑い、髪を掻きまわす浅井の目も白く濁っている。
終わりが近い。誰もがそう感じた。
か細い声で浅井へとしがみついているさっちゃんが言う。
「……ねえ、≪夢の国≫……、さっちゃんね、さっちゃんの歌だから、わすれちゃう事が歌われてるから、だから全部知っても無かったことにしちゃうのが怖かったから、戦っちゃって、ごめん、ごめんなさい」
「いえ、私も……すみません」
拒絶ではないいらえが返ったことが嬉しいのかさっちゃんは表情を緩め、顔をあげた。
呼びかける。
「ねえ、地下トンネルのお兄ちゃん」
「なんでしょう?」
返事のあった声の方へと顔を向け、さっちゃんはもう何も映しはしない目で黒服を見据え、弱々しい声で問うた。
「いま、しあわせ?」
「……はい、とても」
誠実な答え、幸せの肯定。それを受け取った彼女は、
「そっか……よかったぁ……みんな、さっちゃんたちの、こと…………わすれちゃう……かな?」
薄れて行く意識の中で問う。
「貴女たちのことは忘れません。絶対に」
「お兄たんたち………………おぼえてて……くれてるかな?」
返ってくるのは彼女にとって安心できる答えばかりだ。
「皆、特に彼が貴女を忘れるわけがありませんよ」
「そうだぜ…………しっかり俺を……紹介してくれよ」
「……うん」
古い知り合いが見守り、父と慕う契約者の腕の中、彼女は笑み、
「みんなに……地下トンネルのお兄ちゃんは……しあわせだよって……つたえる…………ね」
腕の中で命が一つ終わる感覚があった。浅井は見えぬ目でそれを大事に抱きしめ、最期に礼を述べた。
「…………止めてくれて、ありがとな…………あの世で怒られるネタが……減った気がするわ……」
緩く笑って、静かに息を引き取った。
●
夢うつつに彼が見たものは困ったような、嬉しいような顔をして、駆け寄る童女を迎え入れる数名の男女と、彼らの隣に居る、
「パパ」
「あなた」
彼の、大切な大切な――――――――
「パパ」
「あなた」
彼の、大切な大切な――――――――
●
「Tさん……」
Tさんは無言でおっちゃんとさっちゃんの二人を見ている。
「仕方がありませんでした……彼が復讐を決意し、力を得た時からこうなることは避けられませんでした……」
それでも救いたかったと言う黒服さん。
ああ、まったく、その通りだよな……。
「私が彼らの大切な人を殺したから……」
「二人の大切な人を殺したのは夢の国の創始者、そして彼らを殺したのは俺と彼の契約した都市伝説だ」
沈んだ声で言う夢子ちゃんの頭にTさんが手を置いて諭した。
更に何か言おうとする夢子ちゃんを遮るようにTさんは簡潔に言う。
「丁重に弔ってやろう」
「……はい」
黒服さんの所に弔いの相談をしに行くTさんの背中は妙にやるせない感じがして、
「Tさん!」
俺は声をかけた。
振り返ったTさんに駆け寄るために背を向ける前に、一度おっちゃんとさっちゃんに頭を下げる。そして振り返り、
「んなぼっろぼろのなりでふらふらしてちゃ見てて怖えよ。ほら、夢子ちゃんもこっち、逆っ側頼む!」
「あ、はい」
二人で両側から支えてやった。Tさんは若干自由に動けないことに眉をしかめながら、
「すまん」
疲れた声で言った。
「いえ、こちらこそ、また助けて頂いて」
長く続きそうだった上にまた空気が重くなりそうだったから途中で遮ることにした。
「感謝しろよ」
「いたいのいたいのとんでけ~」
言葉を途中で止められて「あ……」と何か言いたげな夢子ちゃんの背をTさん越しにポンと叩く。夢子ちゃんは何か察したのか、ただ「はい」とだけ答えた。
「それにしてもあんの怪獣もどきと戦って勝つんだからやっぱり寺生まれはすげえな!」
そう殊更に大声で言いつつ、顔を袖で擦る。
最後に見たおっちゃんとさっちゃんの姿は寄り添う仲の良い親子に見えて、何故だか泣けた。
Tさんは無言でおっちゃんとさっちゃんの二人を見ている。
「仕方がありませんでした……彼が復讐を決意し、力を得た時からこうなることは避けられませんでした……」
それでも救いたかったと言う黒服さん。
ああ、まったく、その通りだよな……。
「私が彼らの大切な人を殺したから……」
「二人の大切な人を殺したのは夢の国の創始者、そして彼らを殺したのは俺と彼の契約した都市伝説だ」
沈んだ声で言う夢子ちゃんの頭にTさんが手を置いて諭した。
更に何か言おうとする夢子ちゃんを遮るようにTさんは簡潔に言う。
「丁重に弔ってやろう」
「……はい」
黒服さんの所に弔いの相談をしに行くTさんの背中は妙にやるせない感じがして、
「Tさん!」
俺は声をかけた。
振り返ったTさんに駆け寄るために背を向ける前に、一度おっちゃんとさっちゃんに頭を下げる。そして振り返り、
「んなぼっろぼろのなりでふらふらしてちゃ見てて怖えよ。ほら、夢子ちゃんもこっち、逆っ側頼む!」
「あ、はい」
二人で両側から支えてやった。Tさんは若干自由に動けないことに眉をしかめながら、
「すまん」
疲れた声で言った。
「いえ、こちらこそ、また助けて頂いて」
長く続きそうだった上にまた空気が重くなりそうだったから途中で遮ることにした。
「感謝しろよ」
「いたいのいたいのとんでけ~」
言葉を途中で止められて「あ……」と何か言いたげな夢子ちゃんの背をTさん越しにポンと叩く。夢子ちゃんは何か察したのか、ただ「はい」とだけ答えた。
「それにしてもあんの怪獣もどきと戦って勝つんだからやっぱり寺生まれはすげえな!」
そう殊更に大声で言いつつ、顔を袖で擦る。
最後に見たおっちゃんとさっちゃんの姿は寄り添う仲の良い親子に見えて、何故だか泣けた。