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連載 - 同族殺しの口裂け女-02

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uranaishi

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同族殺しの口裂け女 02



 学校町、繁華街の廃れた一角で。
 同族殺しは、黒服の去った先を見つめていた。
 どこか憎悪の含んだ、暗い視線。 
 そんな彼女の身体からは、パチパチと、青い稲妻が身体から時折漏れ出している。
 肉の焦げたような臭いが、辺りに充満していた。
 軽い前後不覚に陥った彼女は、今の状況をよく把握できてい。
 既に精神が崩壊しかけている彼女の脳は、単純な疑問にすら答えてはくれなかった。
 しかし、そんな彼女でも、一つだけ分かる事があった。
 自分が、あの口裂け女を取りこむ事が出来なかった事。そして、それがあの黒服によって引き起こされた事態だという事。

「黒服…………?」

 まだ狂気に取り込まれる前の彼女の記憶に、そんなものがいたような気がする。
 同族殺しがまだまともな口裂け女だった頃、彼女が「当たり前に」人間を殺そうとすると邪魔をした「組織」の構成員。
 つまりは敵だと、脳内の情報が警告している。
 しかし彼女は、その警告に対して注意を払わなかった。
 彼女が追うべきは、口裂け女。
 その過程で黒服が出てくるのなら、なぎ倒すだけ。
 わざわざ黒服を敵と見なした所で、彼女がより高みへ上る事も、その先にある目標へ近づく事もない。
 そんな寄り道などする意味はないと、彼女は脳内で判断していた。
 そう、標的は口裂け女、ただ一人だけ。

「……うふ、うふふふふふふふふ」

 暗く、暗く、同族殺しは笑う。
 今まで自分を恐れるだけだった他の奴らとは違う、あの口裂け女を想って。
 あの口裂け女は何だか違っていたと、同族殺しは思う。
 彼女と出会う前に一人歩いていた時の、どことなく満ち足りた表情。
 そして同族殺しを「綺麗」だと言ってくれた時の表情。
 死を目前に、一人の人間の名を呟いた時の表情。
 どれを取っても、今まで見た事の無いものだった。
 きっと、あの口裂け女を取り込めば自分も変わると、そんな幻想すら抱かせるあの女を思い、同族殺しはただただ、笑い続ける。

「うふふ……早く、貴女を私の物にしたい……」

 傷ついたあの女を抱えているのだ。
 あの黒服はまだ、そう遠くへは行っていないだろう。
 同族殺しの足なら、今から走れば恐らく追いつく事が出来る
 早くあの口裂け女の元へ走って、殺して、取り込もう。
 あの黒服が邪魔をするのなら、今度こそ殺せばいい。
 そう思い、同族殺しは一歩、前に踏み出して

「…………あら?」

 いつの間にか自分の周囲を囲まれている事に気づいた。
 先ほどの黒服と同じ格好をした男、そしてその契約都市伝説が合わせて10人ほど、彼女を取り囲むように立っている。
 ――――何故、気付かなかったのか。
 そんな事を考える思考力など、彼女に残されてはいない。
 分かるのは、「これ」が先ほどの黒服と同じ種類の人間である事、そして「これ」はまた自分を邪魔しに来た事。

「『同族殺しの口裂け女』、大人しく投降しろ。そうすればそちらに危害を加えるつもりはない」

 同族殺しのちょうど目の前にいる黒服が、無表情で彼女に伝える。
 ――――彼女は、知らない。
 何人もの口裂け女を飲み込み、そしてそれを己の内に蓄える彼女が、「組織」の研究員にとってどんなに魅力的に写るのか。
 ――――彼女は、知らない。
 目の前の黒服たちは、彼女を生け捕りにするためにわざわざ組織された、特別な部隊である事を。

「……また、邪魔をするの?」

 知らないが故に、彼女は黒服を睨みつける。
 あの口裂け女を連れ去った黒服が増援でも頼んだのだろうと、彼女は思っていた。
 とても、面倒くさい。
 ハエがたかる様なある種のイライラを、彼女は感じていた。

「我々はH-No.360とは違う。もし我々と共に来るのなら、お前に定期的に口裂け女を与える事も可能だ」

 実験の一環として、という言葉を黒服が末尾に付けることはない。
 言葉のみを見れば、一面では魅力的な提案。
 しかし同族殺しにとって、そんな事はどうでもよかった。
 彼女にとって重要なのは、「定期的に口裂け女を与える」という黒服の言葉。
 それは別に、彼女に協力の気持ちを起こさせはしなかった。
 彼女が思ったのは、ただ一つ。
 「与える」事が出来るのなら、すなわち黒服たちが口裂け女を「持っている」という、一つの事実。

「……ねぇ、私にそれ、頂戴?」

 くすくすと笑って、同族殺しは黒服に手を差し伸べる。
 今感じているこのイライラも、口裂け女を取り込めば何とかなるかもしれない。
 そんな事を、彼女は感じていた。
 差し伸ばされた手を見て、しかし黒服は無表情に、繰り返す。

「大人しく投降しろ。そうすればそちらに危害を加えるつもりはない」

 少し、周囲の輪が狭まっていた。
 取り囲んだ黒服も、都市伝説も、無言。
 普通の人間なら、そこにある種の異様さを感じていた事だろう。
 目の前の黒服を見て、縮まった輪を見て、口裂け女は差し伸ばしていた手を下した。

「……やっぱり、邪魔しに来たのね」

 イライラはもう、限界にまで到達していた。
 対する黒服は、無表情。
 同族殺しについて徹底的に調べ、策を練り、それを行なえるだけの優秀な黒服だけを集めた。
 黒服にとって、目の前の口裂け女は既に敵ではない。ただの捕獲対象だ。
 保健所に連れ去られる犬のように、町中をうろつく猫のように、牙こそ向けるが、大した事の無い存在。
 故に黒服は、目の前の存在を恐れずに続ける。

「大人しく投降しろ。そうすれば――――」

 ……しかし、黒服の言葉は途中で途切れた。
 黒服の目の前に、影。
 アイアンクローの要領で、黒服の顔をその長い指で掴んだ同族殺しの口裂け女が、そこにいた。
 ざわり、と周囲にどよめきが走り、その全員が持っていた銃を同族殺しに向かって構えた。
 しかし、同族殺しに掴まれ、ふらふらと揺れる同僚を前に、同僚に当たる事を危惧して標準がぶれる。
 ……彼の集めた黒服は、結局その程度だったのだろう。
 同僚ごと同族殺しを撃つ事の出来ない、まだ人間味のある黒服。
 それは、穏健派と呼ばれる派閥が台頭してきた事による、確かな弊害だった。

「あ、がっ……」

 その間もめりめりと、黒服の顔に入り込んでいく同族殺しの指。
 その痛みに黒服は歯を食いしばり、懐へと手を入れた。
 取りだしたのは、近未来的な一丁の光線銃。
 本来相手の動きを止めるためのこの銃も、この至近距離で当たれば確実に相手を殺す事が出来るだろう。
 それを、震える手で同族殺しへと向ける。

「――――ねぇ、私、きれい?」

 しかし、それが射出される事はなかった。
 燃え盛る橙色の炎。
 同族殺しの尋ねたその一瞬で、黒服は火だるまになっていた。

「ぎゃぁあああああああああああああああっ!?」

 無表情だった黒服の絶叫が、辺りに響き渡る。
 同族殺しが手を離すと、どさり、という音とともに黒服が崩れ落ちる。
 のたうちまわり、絶叫を続ける黒服。
 それも次第に弱く、小さくなっていく。

「くそ……っ!」

 黒服が同族殺しの手から離れた事で、一人の別の黒服が口裂け女に標準を合わせた。
 同時に、周囲の黒服も銃を構える。
 生け捕りなどにこだわっている状況ではない。
 そう判断し、彼は引き金に指をかけ

「――――え?」

 さくり、と何かが黒服の喉に刺さっていた。
 彼に見えたのは、目の高さにまで上げ、銃を構えた手を、そしてその先にある喉を貫くような、黒い一閃。
 血に濡れ、半ば錆びた鎌が、黒服の喉元を捉えていた。
 流れる鮮血を見て、喉から突き出た木の柄を見て
 黒服は、とさりと倒れた。

「なっ……黒服っ!?」

 その光景を前に、横にいた都市伝説らしき女が黒服の元へとかけよる。
 跪き、黒服を抱き寄せようとした、彼女の胸に
 一本の日本刀が、突き刺さった。

「…………あ、え?」

 何が起こったのかも分からず、ただ彼女の体から力が抜ける。
 そのまま折り重なるように、黒服の上へと倒れ込んだ。

「くそっ、何故当たらないっ!?」

 周囲を取り囲んでいた一人の黒服が、思わず叫ぶ。
 既に同族殺しに向けて、彼らは何度も銃を撃ち込んでいた。
 炎に包まれた同僚の一人が倒れた時点から、何度も、何度も。
 しかし四方から放たれたそれは、同族殺しを捉えるどころか完全に見切られ、なおかつ仲間二人がさらに倒されてしまっていた。
 つまり、三人。
 この一分にも満たない時間で、二人の黒服と一人の都市伝説が、その命を落としていた。

「報告と違うじゃないかっ!」

 また別の黒服が、銃を撃ちながら叫ぶ。
 彼らに与えられた報告書では、この「同族殺し」は光線銃を避ける事は不可能となっていた。
 それを避けるだけの速さが同族殺しにはないと、そう判断されていたのだ。
 しかし、蓋を開けてみれば銃は避けられ、味方は殺されるという凄惨な結果。

「うふ、うふふふふ……」

 笑いながら光線を避け、手に持った凶器を投げては命を狩る同族殺し。
 彼らは、失念していた。
 この町は都市伝説の宝庫であり、もちろん口裂け女も大量に存在する事を。
 彼らは、知らなかった。
 既に同族殺しがこの地で10人以上の口裂け女を殺し、飲み込んでいる事を。
 同族殺しは、この町へ来る前と比べて格段に速く、そして強くなっていた。

「このままじゃ埒が明かないっ! 一旦退くぞっ!」

 そして彼らは、運も悪かった。
 同族殺しは今、口裂け女を取り逃した事で苛立っていた。
 同族殺しは今、口裂け女を逃がした黒服にも少しだけ、苛立っていた。
 いつもならこのまま退く彼らを見逃す同族殺しも、今だけは別。

「ねぇ――――」

 同族殺しは、彼らを逃すつもりなど、ない。

「――――私、きれい?」

*********************************************

「――――次のニュースです。
 本日正午過ぎ、学校町南区で大規模な停電、またその数分後に大きな爆発がありました。
 幸い現場付近は無人で死傷者はおらず、警察はガス漏れが原因とみて捜査を進めています。
 では、次のニュースです――――」 

【終】









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