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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い愛好会の日常-03

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uranaishi

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占い愛好会の日常 03


 占い愛好会の本部には、窓のない部屋がある。
 明るい外とは対照的に、酷く暗い室内。
 埃っぽいその部屋は、普段なら頼まれてでも入りたくないものだ。
 しかし、そんな部屋に小さなテーブルを置き、それを挟むようにして二人の人間が立っていた。

「ほっほ。たまには暗く狭い所も良い物じゃの」
「ただ埃っぽいだけだと思いますが」

 一人は、老人。
 もう一人は、二十代半ばくらいの女性だった。
 老人はいつものように白い布を、女性は周囲の闇に溶け込むような青黒いスーツを着用し、そして何故か、腰に鞘に収まった一振りの剣を下げていた。

「ふむ……闇はよいぞ。人の感情を昂ぶらせてくれる」
「この場では必要のない高揚でしょう」

 老人の言葉に、少し刺を含んで返す女性。
 呆れたように、彼女は老人を見る。

「大体、何故このような所で会話をしなければならないのですか」

 苛立ちを隠しもせず机を指で軽く叩くと、それに合わせて屋根から埃が落ちてくる。
 基本的に、この老人たちの住む家屋にそんな薄汚れた場所はない。
 ほぼ毎日、塵一つ残さぬよう大々的な掃除が行われているからだ。
 ただし、それはあくまで生活空間であり、時々しか人間の来ない部屋は別である。

「滅多に人が来ない事にかけては、この『物置』ほどよい部屋はないと思うがの」
「部屋に鍵をかけ、誰も入らないよう厳命さえすればほぼ同条件の部屋が出来上がると思いますが」

 整頓された箒やぞうきん。その他多々ある掃除器具に目をやり、女性が溜息をついた。
 何だかここで呼吸をするだけで身体に悪影響が出そうな気さえしてくる。

「ふむ……何をそんなにイライラとしておる。お前さんらしくもない」
「そうですね。どこかの誰かさんが朝食の支度を邪魔したせいで10分も遅れたせいですかね」

 暗に、というよりもほとんど「お前のせいだよこの野郎!」と言外に言われ、しかし老人がそれを気にする事はない。
 普段その能力で周囲の人間を守護する女性は、しかし平時とは違う冷ややかな視線で老人を睨む。

「大体、あれ程「手を出すな」と釘を刺しておいたはずですが。毎日小言を言わなければならない私の立場になってみてはどうですか」
「ならば言わなければよいじゃろう。あんまり怒っていると皺が増えると古今言われておる」
「……その元凶である長老にだけは言われたくないのですが」

 頬をひくつかせ、辛うじて女性は笑顔を保つ。
 この場で言い争っても仕方がないのだ。
 とにかくこの話し合いを素早く終わらせる。それが今の女性に要求された課題だった。

「……それで、わざわざこのような場所で行わなければならない程の秘密の会合の理由は何ですか」
「そうじゃな……」

 老人が、ぽつりと話始める。

「そろそろ酒池肉林という言葉を実体験してみたくての――――」
「解散ですか。分かりました」
「待て、待て。冗談じゃから人の話は最後まで聞くべきじゃろう」

 立ち上がった女性を、慌てて老人がひきとめる。
 ガタガタとけたたましい音が鳴り、ちょうど物置前の廊下を歩いていた「真実の口」の契約者が首をかしげたのだが、彼らが知る由もない。
 「秘密」でも何でもない会合だった。

「……今日も仕事が山積みですので、出来れば無駄話は避けたいのですが」
「分かっておる」

 埃まみれの老人は、目に見える範囲の埃を軽く払い、咳払いをする。
 しかし、周囲に埃が漂う中で行われた咳は逆効果でしかなかった。
 気管に大量の埃が入ってしまいむせ込む老人を見て、女性は呆れたように溜息をつく。

「ごほっ……お前さんは……けほっ……学校町と言うのを聞いた事があるかの……うげほっ!」

 老人の咳によって飛んでくる唾に注意しながら、女性は軽く眉をひそめた。
 一見すると「なにを言っているんだこの変態は」といった表情に見える。
 しかしその実、その目は泳ぎ、手は握っては開いてを繰り返していた。

「が、学校町、ですか? さて、知りませんね」

 学校町という単語に反応して、一人の都市伝説である男性の事が女性の脳裏に浮かぶ。
 意識してそれを表に出すまいとしているのだが、それが却って表面に動揺という形で現れていた。
 そんな明らかにうろたえる女性を前にして、ようやく喉の痛みが取れた老人は口の中で軽く笑った。

「日本にいるあの馬鹿弟子が今いる町なんじゃがの」
「し、知りませんね。大体、なぜ私があの占い師の事を気にしなければならないのでしょうか」

 あくまで冷静さを保とうとする女性を前に、老人は意地悪く一言付け加える。

「ふむ……馬鹿弟子とは言ったが、誰もあの占い師の事だとは言っていないんじゃがの」

 老人の言葉に、女性がびくりと身体を震わせた。
 はらりとその頭上から埃が舞い降りているのだが、それに気づいた様子もない。

「い、いいえ? ただ私は長老が馬鹿弟子と呼ぶのはあの占い師だけだと思っただけですので。他意はありません」
「……ほっほ」
「…………何でしょうか、その意味深な笑いは」

 睨む女性に老人は顔をそらす。
 近くにある箒のメーカーが気になって仕方がないんだよ、とそのポーズは訴えているが、ただ女性の視線から逃れているだけにしか見えない。
 数秒で老人は気まずくなり、視線を元へと戻した。
 未だ眼光を光らせる女性を見て、老人が安全を図るかのように少し距離を取る。

「……結論から言うとな」
「はい」

 さっさと言えよこの野郎、な視線を受け、老人はしかし、少し楽しげな口調で告げる。

「学校町に移住しようと思うんじゃが」

 一瞬、空気が停止した。
 女性は老人の言った言葉を咀嚼するように何度か首をかしげ

「…………はい?」

 怪訝な視線を、老人に向けた。
 視線で説明を求められた老人は、これまでの数千年の人生でも上位に入りそうな笑みを浮かべる。

「お前さんも知っておるじゃろう。近頃『悪魔の囁き』という都市伝説が学校町でのさばっておる」
「……そのようですね」

 それは暗に、以前から学校町の動向を探っていたという告白にもなるのだが、動揺した女性は気付かない。

「わしの未来ちゃんにも手をかけようとしおってな。さすがのわしも堪忍袋の緒が切れてしまっての」
「少なくとも『わしの』ではないと思いますが」
「そんな細かい事はよいじゃろう」

 遠方の占い師が聞いたら老人を殺しかねないような一言をさらりと口にして、老人は腕を組んだ。

「つまり、わしら『占い愛好会』も悪魔の囁きの討伐に乗り出そう、というわけでの」

 少し渋い顔を作って老人が言う。
 動揺させて判断力を失った所に畳みかけよう、という老人の策略である。
 この日のために何度も老人が無駄にシミュレーションを重ね、無駄に練り直した物だ。
 ふふんと己の策に酔いしれる老人を前に、しかしもちろん、そんな薄っぺらい策略はすぐに砕けた。

「……建前はいいので、本音をどうぞ」
「学校町には美男美女が多い。穴場じゃと思う」

 言ってから、老人ははたと気づく。

「なっ、何を言わせるかっ」
「本音を言わせただけですが」
「卑怯な…………」

 たじろぐ老人を見て、女性は小さくため息をつく。
 そのまま、女性は剣を差した腰へと手を伸ばした。
 いい加減相手をするのに飽き、自分を刺すつもりか、とさらに一歩下がろうとする老人を前に、女性の手は鞘を通り過ぎ、何か別の物を取りだした。
 胸の高さにまで上げ、片手で開いたそれは、小さな一冊の手帳。
 拍子抜けする老人を前に、もう一方の手でペンを握った女性は、真剣な目で尋ねた。

「……それで、出航はいつにしますか」
「…………ふむ?」

 首をかしげる老人を前に、女性はすらすらと手帳に文字を記入していく。

「荷物をまとめる時間や移住中の家の管理者を探す手間を鑑みると推奨日時は今から一週間後。長老は自分で飛行するとして、三人分のチケットを取る必要もありますね」
「…………ふむ」
「移住先は学校町○×マンションの105、6号室。構いませんか」
「…………ふむ」

 ○×マンションと言えば、あの占い師たちが住むマンションでもある。
 ついでに言えば、105号室はその部屋の隣だ。

「今から他の二人にも伝えましょう。時間がありません。早々に準備を済ませるべきです」
「…………ふむ」

 手帳に文字を刻み、予定を立て、ついでにちょっと目を輝かせる女性。
 そんな彼女を見て、老人は小声で結論を下した。
 恋は人を盲目にする、と。


【終】











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