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連載 - 占い愛好会の日常-02

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uranaishi

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占い愛好会の日常 02


 とある中国の山中にある、大きな屋敷の中を、老人が一人歩いていた。
 だだっ広い、どこまで続いているのか分からない程のその廊下を、一定の歩調で進んでいく。
 廊下には特にこれと言った装飾はない。
 採光のために設置された窓が等間隔で並び、また床には赤い絨毯のようなものが敷かれている以外、特に目新しいものはない。
 和洋が見事なまでに邪魔し合っている老人の部屋とはえらい違いである。

「ふむ……面白くないの」

 そんな「普通」の廊下を見て、老人がつまらなそうに呟く。
 絨毯を畳にすればとか、照明をたいまつにすればだとか不穏な言葉がその口から洩れているが、実際共同の空間である廊下を改造する権利は、老人にはない。
 仮に住人全員で多数決を取り、改築案が通ればそのようになるのだが、今まで老人の要求が通った事は一度たりともなかった。

「床一面を鏡張りにする案も採用されなかったしの……」

 何でじゃろうな、なんて呟きながら、老人は廊下を進んでいく。
 老人が目指すのは、とある少し大きな扉を持った一室。
 それは朝食を取る前に老人の寄る、毎日の日課の一つだった。

「――――今日も精がでるの」

 扉を開けながら、老人が部屋の中へと踏み入れる。
 主に銀と白で統一された室内。
 金属の擦れ合う音や、何かの煮立つ音、そして断続的に動き回る人間の足音の響くその空間は、今朝の朝食を作る真っ最中の厨房である。
 そこでは小柄な少女一人、忙しそうにあちらこちらへと移動していた。

「忙しいから後にして欲しいっス!」

 見た目だけでいえば14、5歳くらいの少女は片目で老人を捉え、半ば叫ぶように言い放つ。
 少女の用意する朝食を食べる人数は彼女を含めて4人。
 もし普通の食卓なら、そこまで忙しくなる事はないだろう。
 ……そう、普通の食卓なら、だ。
 少女が用意しなければならないのは、4人という人数に対しておよそ50人前の量。
 約一名、とんでもない大喰らいがこの屋敷にはいるのだ。
 そんなハードな仕事をこなす少女に向けて、老人は笑って言う。

「ほっほ……邪魔になるような事はせんよ」
「ならそのわきわきと蠢いている手はなんなんスか……」

 少女の見た目は約15才。
 しかしそれはただ少女が童顔なだけで、正式な年齢は21歳なのだ。
 つまり、老人の射程圏内である。
 少しの間かき混ぜ続けなければならないのか、大きな寸胴鍋をかき混ぜ続ける少女の背後を取るように、老人が音もなく移動する。
 その手はわきわきと動き、その直線上には少女の起伏に薄い身体があった。
 普通ならロリに分類されそうなその身体も、しかし全てを「年齢」のみで判定する老人には通用しない。

「ほっほっほ……」

 不気味に笑う老人に、少女は焦ったように言う。 

「駄目っスよ、長老! もし一分でも朝食が遅れたら『あの人』が怒るんスから!」
「なに、わしが何十発か殴られればすむ事じゃろうて……」
「目が逝ってるっ!? 欲で目が逝ってるッスよ、この人!」
「ほっほっほっほ…………」

 わきわきと伸びる腕。
 少女も老人も低身長ながら、寸胴鍋をかき混ぜるために木製の台に載った少女に対して、その手はちょうど胸部へ向かう。
 それを首を軽く巡らせて見て、しかし少女は避けようとしない。否、避けられない。
 やがて、老人の掌は少女の胸数センチの所にまで辿り着き――――

「…………ふむ」

 ――――しかし、そこから先へと進むことはなかった。
 何かの力に抑えつけられている、という訳ではない。
 見えない壁に阻まれているかのように、老人の手はそこから先へは進まなかった。
 その状況を見て、老人は残念そうに溜息をつく。

「既に『彼女』の洗礼を受けた後じゃったか……」
「危なかったッス……」

 安心したように少女は溜息をつく。
 その間も少女の腕は寸胴鍋の中をかき混ぜ続けていた。

「いい加減に諦めたらどうッスか?」

 老人の腕が弾かれた事に安堵しつつ、少女が老人に尋ねる。
 少女がここへ来てから半年。ほぼ毎日こんな事が続いていた。

「ふむ、わしはいつかお前さんが『彼女』に会うのをうっかり忘れた時を虎視眈眈と狙っておるわけでな……」
「狙わなくていいッス。というか狙わないで下さい」
「ほっほっほ」

 笑いながら、来た頃はもっと初々しかったのにのう、と老人が寂しげに呟くと、さすがに慣れるッス、と返事を返された。

「ほら、作る邪魔ッスから、さっさと行くッスよ」

 犬を追い払うように腕を振る少女に、老人はかなり残念そうに手をひっこめた。
 空気が少しだけ揺らぎ、少女と自分の間にあった何かが消えるのが分かる。
 それが何なのか、老人は知っている。
 知っているが、それは老人にはどうしようもない物であり、「壁」であった。
 しかし、だからこそ老人はこの時を狙っていた。
 「壁」の取り払われた一瞬、今こそ少女の体を守る物は何もない。

「わしの必殺の一撃を受けてみよ!」

 弾丸のような速さで繰り出された一撃。
 少女の目でも捉えられないそれは、今度は少女のスカートへと真っ直ぐに向かう。

「…………やはり、無理かの」

 しかしそれは、少女に触れるか触れないかの瀬戸際で止まった。
 何かに阻まれたわけではない。
 にも関わらず、老人の腕はその先へは進まなかった。

「――なに馬鹿やってるんスか、長老」

 呆れたように少女は呟き、耐熱効果のある手袋を装備しながら、寸胴鍋の両端を握った。
 初めの頃にはそれだけでよろけていた少女も、今は筋肉がついてきたのかしっかりとした足取りでそれを運んでいく。

「こっちも急いでるんス。もう用がないのなら出て行って欲しいッスよ」

 少女から放たれた容赦のない言葉に、老人ががくりと膝をつく。
 先ほどの「真実の口」の契約者といい、何故こんなにもこの家での老人の地位は低いのか。
 それは老人のセクハラが原因なのだが、老人はその事に全く気付いていない。
 ついでに言えば、老人が膝をついたのは何もがっかりしたからではない。

「――――って何スカートの中覗こうとしてるんスか、あんたはーっ!」
「ほっほっほ……」

 老人の探究心に、果てはない。
 寸胴鍋を片手に右往左往する少女と老人。
 そんな光景は少しの間、続いた。

【終】









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