それは、幸せだった頃の記憶
もう、二度と戻らない時間の、暖かだった記憶
もう、二度と戻らない時間の、暖かだった記憶
「さっちゃんはね、さちこって言うんだほんとはね……」
少年が、自分よりも少し幼い少女の手を引いて歩きながら、歌を歌っている
古ぼけた服を着た少年、彼に手を引かれて、少女、さっちゃんは幸せだった
自分と契約してくれた少年
彼と一緒に居られるのが、とても幸せだった
古ぼけた服を着た少年、彼に手を引かれて、少女、さっちゃんは幸せだった
自分と契約してくれた少年
彼と一緒に居られるのが、とても幸せだった
しかし、さっちゃんは知っていた
人間は、あっと言う間に大人になってしまって、自分達を置いていってしまうことも
人間は、あっと言う間に大人になってしまって、自分達を置いていってしまうことも
「… おかしいね さっちゃん」
歌っていた少年
さっちゃんより少し大きいくらいだった少年は、何時の間にか背が伸びて、体つきが逞しくなっていっている
中学校に、通い始めたくらいの頃だ
さっちゃんより少し大きいくらいだった少年は、何時の間にか背が伸びて、体つきが逞しくなっていっている
中学校に、通い始めたくらいの頃だ
「さっちゃんはね バナナが大好き ほんとだよ ……」
ずっと一緒にいたい
そう、強く願っていた
けれど、契約者はどんどん大人になっていって
そして、さっちゃんは子供のまま
いつかは、自分は置いていかれてしまう
そう、強く願っていた
けれど、契約者はどんどん大人になっていって
そして、さっちゃんは子供のまま
いつかは、自分は置いていかれてしまう
「…さっちゃんはね 遠くへ行っちゃうって ほんとかな …」
違う
遠くへ行っちゃうのは、自分じゃない
いつか行ってしまうのは、契約者のほう…
遠くへ行っちゃうのは、自分じゃない
いつか行ってしまうのは、契約者のほう…
何時の間にか、立派な大人になっていた契約者
つながれていた手は、何時の間にかさっちゃんを抱き上げていた
つながれていた手は、何時の間にかさっちゃんを抱き上げていた
「寂しいね さっちゃん…」
「おにーたん」
「ん?」
「おにーたん」
「ん?」
歌い終えた契約者
さっちゃんは、彼をじっと見つめる
さっちゃんは、彼をじっと見つめる
「おにーたんは…さっちゃんのこと、忘れない?」
さっちゃんの、その問いかけに
契約者は、笑う
契約者は、笑う
「何言ってんだよ。忘れるも何も、俺たちはずっと一緒だろ?」
「うん、そうだけど…」
「うん、そうだけど…」
そうだけど
不安そうなさっちゃんに、契約者は安心させるように笑いかけ、頭を優しく撫でてくれる
この撫でてくれる大きな手が、さっちゃんは大好きだった
不安そうなさっちゃんに、契約者は安心させるように笑いかけ、頭を優しく撫でてくれる
この撫でてくれる大きな手が、さっちゃんは大好きだった
「約束だ。俺は、何があっても、さっちゃんを忘れねぇ」
「…ほんと?」
「あぁ」
「…ほんと?」
「あぁ」
約束だ
そう言って、笑ってくれる契約者
さっちゃんは、ようやく安心したように笑った
そう言って、笑ってくれる契約者
さっちゃんは、ようやく安心したように笑った
「っと、ただいまー………ん?この匂いは」
「あぁ、お帰りなさい」
「あぁ、お帰りなさい」
帰ってきたさっちゃんと契約者を、彼の友人の中で一番年上の青年が出迎えた
なにやら、家の中がなんともいい匂い
食欲を誘うそれは……焼肉!!
なにやら、家の中がなんともいい匂い
食欲を誘うそれは……焼肉!!
「何だよ、今日の晩飯は随分と豪勢なんだな?」
「この子がね、宝くじで10万当てたのよ」
「この子がね、宝くじで10万当てたのよ」
金粉の契約者が、カーバンクル契約者の少年の頭を撫でる
少年は照れたような表情を浮かべて、カーバンクルを抱きしめている
少年は照れたような表情を浮かべて、カーバンクルを抱きしめている
「あぅあぅ、だから、お前が無事定職に就けたお祝いもかねて、豪華に焼肉なのですよ!こいつに感謝しろなのです!」
「何で、赤いはんてんが偉そうなんだよ」
「何で、赤いはんてんが偉そうなんだよ」
さっちゃんを降ろし、さっちゃんの契約者はうりうりと赤いはんてんにちょっかいを出す
赤いはんてんは、嫌そうにその手から逃れると、自分の契約者の傍に逃亡する
赤いはんてんは、嫌そうにその手から逃れると、自分の契約者の傍に逃亡する
「まぁまぁ。この子が宝くじ買った時、赤いはんてんも一緒だったから」
のほほん、と赤いはんてんの契約者が、赤いはんてんを撫でながらそう答えた
赤いはんてんが、頭を撫でられ、嬉しそうに頬を赤く染める
赤いはんてんが、頭を撫でられ、嬉しそうに頬を赤く染める
「あぅ、私だって、宝くじ当たったのです!」
「はっはっは。末当の300円だがね」
「あぅぅ!余計なこと言うななのです!赤マント!」
「はっはっは。末当の300円だがね」
「あぅぅ!余計なこと言うななのです!赤マント!」
ぺちぺちぺち
どうやら、ちゃっかりこの焼肉会に参加する気らしい赤マントをぺちぺちぺち、と赤いはんてんが叩く
どうやら、ちゃっかりこの焼肉会に参加する気らしい赤マントをぺちぺちぺち、と赤いはんてんが叩く
「さぁ、さっちゃんたちも帰ってきましたし。食べましょうか」
「あぅ?私はもう食べてるですよ。お肉が焦げたら勿体ないのです」
「っちょ、てめ、俺が主役なんだろ!?主役差し置いて食うなよ、おい!?」
「いやぁ、早く焼きたかったから。ほらほら、さっさと席につきなさいよー」
「あぅ?私はもう食べてるですよ。お肉が焦げたら勿体ないのです」
「っちょ、てめ、俺が主役なんだろ!?主役差し置いて食うなよ、おい!?」
「いやぁ、早く焼きたかったから。ほらほら、さっさと席につきなさいよー」
女性陣におちょくられつつ、さっちゃんの契約者が席につく
さっちゃんも、当たり前のようにその膝に座った
さっちゃんも、当たり前のようにその膝に座った
いつもの、平和な光景
あの地獄のような施設から出てからの、皆の日常
さっちゃんにとっても幸せな、大切な大切な、時間
あの地獄のような施設から出てからの、皆の日常
さっちゃんにとっても幸せな、大切な大切な、時間
自分の契約者だけじゃない
みんな、大好きだった
一人ぼっちだったさっちゃん
そのさっちゃんにとって、みんなは家族のようなもので
全員が支えあい、生きてきた彼らもまた、さっちゃんを家族のように迎えてくれて
みんな、大好きだった
一人ぼっちだったさっちゃん
そのさっちゃんにとって、みんなは家族のようなもので
全員が支えあい、生きてきた彼らもまた、さっちゃんを家族のように迎えてくれて
とても、とても
幸せだったのだ
幸せだったのだ
もう、戻らない時間
幸せだった時間
幸せだった時間
消え行く間際、その頃の時間を夢に見て
(…おにーたん、約束…ちゃんと、護ってね?)
さっちゃんの事、ちゃんと、覚えていてね?
願うように、そう呟きながら、さっちゃんの意識は薄まっていって……
願うように、そう呟きながら、さっちゃんの意識は薄まっていって……
『……忘れるわけ、ねぇだろ?』
最後に、聞こえてきた声は
『行こう、さっちゃん』
誰よりも愛しい、かつての契約者の声
もはや、感覚など、残っていなかったはずなのに
もはや、感覚など、残っていなかったはずなのに
そっと、さっちゃんの頭を……あの、大きな手が、撫でてくれた感触を、確かに感じて
幸せを感じながら……さっちゃんは、その意識を永遠に眠らせたのだった
幸せを感じながら……さっちゃんは、その意識を永遠に眠らせたのだった
fin