同族殺しの口裂け女 05
きっかけは、些細なことだった。
「放課後、屋上へ続く階段が一段増えている」なんて、どこにでもある七不思議。
それをちょっと確かめてやろう、なんて思わなければ、少年は今でも日常を謳歌していられたかもしれない。
「放課後、屋上へ続く階段が一段増えている」なんて、どこにでもある七不思議。
それをちょっと確かめてやろう、なんて思わなければ、少年は今でも日常を謳歌していられたかもしれない。
少年は、少しだけオカルトに関心を持っていた。
と言って、別段それはあくまで趣味であり、ちょっとした興味以外の何でもない。
休日に週刊「超常現象」を買うために書店を巡ったり、心霊スポットをちょっとだけ覗きに行く程度の、数ある趣味の一つ。
と言って、別段それはあくまで趣味であり、ちょっとした興味以外の何でもない。
休日に週刊「超常現象」を買うために書店を巡ったり、心霊スポットをちょっとだけ覗きに行く程度の、数ある趣味の一つ。
「あ……あぁ……」
だから、少年は目の前の光景にただ呆然としていた。
吐き気を催すような、鼻を突く鉄の匂い。眼前に広がる、色彩鮮やかとは到底形容しがたい、どす黒い赤。
その全ての中心に、一人の女性が立っていた。
屋上へと続く階段の、その13段目から飛び出した女性。
その夕陽を受け、どこかぼんやりと立つ女性の、その口元を見て、少年はようやく恐怖を感じた。
吐き気を催すような、鼻を突く鉄の匂い。眼前に広がる、色彩鮮やかとは到底形容しがたい、どす黒い赤。
その全ての中心に、一人の女性が立っていた。
屋上へと続く階段の、その13段目から飛び出した女性。
その夕陽を受け、どこかぼんやりと立つ女性の、その口元を見て、少年はようやく恐怖を感じた。
「く、口裂け女…………っ」
驚愕で顔をゆがめ、少年が喘ぐように叫ぶ。
血に濡れた赤い服に、顔を横に切るように、口の端から耳の下にまで伸びた一本の線。
今週の「超常現象」でちょうど一面を飾っていた一人の都市伝説が、少年の目に前に存在していた。
血に濡れた赤い服に、顔を横に切るように、口の端から耳の下にまで伸びた一本の線。
今週の「超常現象」でちょうど一面を飾っていた一人の都市伝説が、少年の目に前に存在していた。
「………………」
無言で、口裂け女は周囲をゆっくりと見渡す。
13段目にいる口裂け女に対して、少年がいるのは1段目。
今から全速力で逃げれば、気付かれずに逃げられるかもしれない、そんな距離だ。
13段目にいる口裂け女に対して、少年がいるのは1段目。
今から全速力で逃げれば、気付かれずに逃げられるかもしれない、そんな距離だ。
(そ、そうだ。逃げよう、うん、そうしよう)
このままでは、その先に何が待っているかは目に見えている。
だから少年は、逃げるべきだった。
何よりもまず、命を優先するべきだった。
だから少年は、逃げるべきだった。
何よりもまず、命を優先するべきだった。
(――――でも)
しかし、少年は少しだけオカルトが好きだった。
日曜日くらいにしか活動しないけれど、それでも少しだけ、オカルトが好きだった。
だから一瞬、少年はほんの少しだけ、思ってしまった。
日曜日くらいにしか活動しないけれど、それでも少しだけ、オカルトが好きだった。
だから一瞬、少年はほんの少しだけ、思ってしまった。
(もう少しだけ、見ていても――――)
そしてその一瞬は、唯一の道を断ってしまった。
このまま逃げかえり、布団の中で震え、全てを忘れる道を。
全てを忘れ、再び日常へと戻る、その道を。
このまま逃げかえり、布団の中で震え、全てを忘れる道を。
全てを忘れ、再び日常へと戻る、その道を。
「…………あ」
――――少年は、口裂け女と目が合ってしまった。
「あ、えと、あの…………」
ばくばくと、心臓が跳ねる。
少年は、少しだけ勇気を振り絞ろうとした。
口裂け女と話すべく、言葉を選びながら口を開く。
少年は、少しだけ勇気を振り絞ろうとした。
口裂け女と話すべく、言葉を選びながら口を開く。
「あ……えっと……」
でも、それだけだった。
少年はそれ以上、先へは進めない。
生命の危機を前にして、少年は余りにも若すぎた。
少年はそれ以上、先へは進めない。
生命の危機を前にして、少年は余りにも若すぎた。
「………………」
恐怖で固まる少年を見て、口裂け女は少しだけ口を動かした。
小さすぎる声で呟かれた言葉は、少し離れた少年へと届かない。
しかし言うだけ言って、口裂け女は少年に背を向けた。
口裂け女の向かう先にあるのは、屋上。
小さすぎる声で呟かれた言葉は、少し離れた少年へと届かない。
しかし言うだけ言って、口裂け女は少年に背を向けた。
口裂け女の向かう先にあるのは、屋上。
「あ……え…………?」
死の恐怖に耐えていた少年は、背を見せた口裂け女に拍子抜けしたような感覚を覚えた。
恐怖で竦んでいた足の緊張が消え、その場にへたり込みそうになる。
一歩一歩階段を上る口裂け女は、そんな少年を気にした様子もない。
恐怖で竦んでいた足の緊張が消え、その場にへたり込みそうになる。
一歩一歩階段を上る口裂け女は、そんな少年を気にした様子もない。
口裂け女が屋上へと続く扉の向こうに消えるまで、少年は結局、その場から動く事は出来なかった。
後を追う事も、逃げる事も。
少年はただ、無力だった。
後を追う事も、逃げる事も。
少年はただ、無力だった。
「なんだったんだ…………?」
少年は少し、後悔もしていた。
恐怖に怯える少年を見た、口裂け女の表情が頭に浮かぶ。
何だかそこには、諦めや寂しさがあったような、そんな気がしていた。
少年はしかし、口裂け女の消えた扉を見つめる事しか、出来ない。
恐怖に怯える少年を見た、口裂け女の表情が頭に浮かぶ。
何だかそこには、諦めや寂しさがあったような、そんな気がしていた。
少年はしかし、口裂け女の消えた扉を見つめる事しか、出来ない。
少年はその日、本物の「非日常」と遭遇した。
それが果たして彼の人生にどう関わってくるのか。
それは誰にも、少年にさえ、分からない。
それが果たして彼の人生にどう関わってくるのか。
それは誰にも、少年にさえ、分からない。
【終】