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三井(みい)という旧家に青年は生まれた。父は厳しくも頼りがいがあり、母は優しく、慈しみがある。そんなささやかな幸せと共にある家庭だった。
そこの一人息子であった青年はこの時まだ××という名の少年であり、都市伝説というモノの存在も知らなかった。
そして、彼が十になったある日、それは起こった。
「この家に≪ケサランパサラン≫があるのは分かってんだ!」
粗野な声と共に家に土足で上がり込んできた男たちは少年の父に拳銃を突きつけて喚いた。
「……何のことかな?」
銃口を突き付けられて尚冷静な様子を崩す事のない少年の父親へと男たちの内、リーダー格らしい背の高い男が威圧的に言う。
「聞いたんだよ。お前が幸せを恵んだ奴からな! おとなしく≪ケサランパサラン≫をよこせ!」
少年には分からない会話をする父と男たち。その間に母は少年を逃すために裏門へと連れて行った。
「さあ、××、ここから逃げるのよ」
そう言って戸に手をかけた母は怪訝な表情になり、
「開かな……?」
そして戸に小さく書かれている赤い文字に気付いた。
それは戸だけでなく家全体を囲うように、ひたすらこう続けられていた。
そこの一人息子であった青年はこの時まだ××という名の少年であり、都市伝説というモノの存在も知らなかった。
そして、彼が十になったある日、それは起こった。
「この家に≪ケサランパサラン≫があるのは分かってんだ!」
粗野な声と共に家に土足で上がり込んできた男たちは少年の父に拳銃を突きつけて喚いた。
「……何のことかな?」
銃口を突き付けられて尚冷静な様子を崩す事のない少年の父親へと男たちの内、リーダー格らしい背の高い男が威圧的に言う。
「聞いたんだよ。お前が幸せを恵んだ奴からな! おとなしく≪ケサランパサラン≫をよこせ!」
少年には分からない会話をする父と男たち。その間に母は少年を逃すために裏門へと連れて行った。
「さあ、××、ここから逃げるのよ」
そう言って戸に手をかけた母は怪訝な表情になり、
「開かな……?」
そして戸に小さく書かれている赤い文字に気付いた。
それは戸だけでなく家全体を囲うように、ひたすらこう続けられていた。
――ここから出して! ごめんなさい! ここから出して! ごめんなさい! ここから出して! ごめんなさい!
「まさか、彼らも契約者……っ!」
少年の母親が愕然と呟いた時、足音がした。振り返った少年の母はとっさに少年を庇うように抱きかかえ、それによって少年の視界が半ば塞がれた時、銃声が響いた。
倒れた少年の母親の向こう、少年の視線の先には右手に赤いクレヨン、左手には硝煙をたなびかせた拳銃を持った男が立っており、
「≪赤いクレヨン≫。これで周りからこの家は隠された部屋になった。中からは契約者である俺の許可がないと出れないぜ」
少年にはやはりよく分からないことを言いながら笑っていた。
少年の母親が愕然と呟いた時、足音がした。振り返った少年の母はとっさに少年を庇うように抱きかかえ、それによって少年の視界が半ば塞がれた時、銃声が響いた。
倒れた少年の母親の向こう、少年の視線の先には右手に赤いクレヨン、左手には硝煙をたなびかせた拳銃を持った男が立っており、
「≪赤いクレヨン≫。これで周りからこの家は隠された部屋になった。中からは契約者である俺の許可がないと出れないぜ」
少年にはやはりよく分からないことを言いながら笑っていた。
*
「やめろ!」
少年の父が叫んだ。引きずるようにして家の中へと連れて行かれた少年は荷物のようにぞんざいに運び込まれて放置された母の体にすがっていたが、それも男たちに引き離される。
「強情に≪ケサランパサラン≫を譲らないならば見せしめに二人の内一人、殺さないとならんでしょう?」
我々が本気だって分かってもらわなきゃあなりませんからね。と中肉中背の男が銃口を少年の母へと向けた。
「それとも奥さんを治しますか? ≪ケサランパサラン≫にはそれくらいできると聞いたことがあるんですが?」
その言葉に少年の父は口惜しそうに答える。
「私にはそこまで≪ケサランパサラン≫を使いこなせない」
≪赤いクレヨン≫を持った男がソイツは残念、と馬鹿にしたように笑い、
「俺がもっとうまく使ってやるから寄越せよ」
とナイフで少年の頬をはたきながら脅した。
「早くしないと」
背の高い男の保つ拳銃から銃弾が放たれ、少年の母が着弾の衝撃に震えた。
「――息子さんも、奥さんと同じように殺してしまいますよ?」
父親が母親の名前を叫ぶ声を聞きながら、少年は自らを押さえつけていた男を振りほどき、母親へと走り寄った。
既に母に息は無く、流れ出る血が少年の両の手を浸すのみだった。
少年の父親はそれを見て、悲痛な顔をし、
「……分かった」
少年は、父親の諦観のこもった声を聞いた。
「そうか、渡す気になったか」
嬉しそうな男たち。少年には何が何やら分からず半ば呆然としている間に事態が動いている。
気付けば、目の前に父がいた。
父は優しい、どこか謝罪するような表情で告げる。
「成人してから譲るつもりだったんだがな……私にはこんなことしかできない。どうか幸せになってくれ」
同時に少年の父の胸元から小さい光が現れた。
「≪ケサランパサラン≫だ!」
男たちが喜色を帯びた歓声を上げ、手を伸ばす。しかし≪ケサランパサラン≫は男たちをすり抜け、少年の肩へと落ち着いた。
「どういうことだ!? ああっ?」
銃を少年の父へと向ける男、父は笑って、
「聞いたことはないか? ケサランパサランを持っているということはあまり人に知らせないほうがいいと言われていて、そのため代々密かにケサランパサランを伝えている家もあるという伝説を」
少年の頭を撫で、
「何代前か知らないが三井の家系は≪ケサランパサラン≫に気に入られたらしい……この家の者にしか契約できんのだよ」
これで息子は殺せないな? そう男たちに言った瞬間、少年の父に銃弾が撃ち込まれた。
「どうする?」
倒れ伏した少年の父親を無視して、中肉中背の男がリーダー格の男を振り返る。
「ここまでやって何も手に入らねえんじゃ割に合わねえよ」
リーダー格の男は未だ熱が残る拳銃を、父の身体を抱き、声をかける少年に押し付けた。
「おい、ガキ。そいつの使い方、わかってんだろうな?」
腕の中で体温を失っていく父を感じながら、少年は契約と共に唐突に頭に入って来た知識におびえつつ、頷いた。
少年の父が叫んだ。引きずるようにして家の中へと連れて行かれた少年は荷物のようにぞんざいに運び込まれて放置された母の体にすがっていたが、それも男たちに引き離される。
「強情に≪ケサランパサラン≫を譲らないならば見せしめに二人の内一人、殺さないとならんでしょう?」
我々が本気だって分かってもらわなきゃあなりませんからね。と中肉中背の男が銃口を少年の母へと向けた。
「それとも奥さんを治しますか? ≪ケサランパサラン≫にはそれくらいできると聞いたことがあるんですが?」
その言葉に少年の父は口惜しそうに答える。
「私にはそこまで≪ケサランパサラン≫を使いこなせない」
≪赤いクレヨン≫を持った男がソイツは残念、と馬鹿にしたように笑い、
「俺がもっとうまく使ってやるから寄越せよ」
とナイフで少年の頬をはたきながら脅した。
「早くしないと」
背の高い男の保つ拳銃から銃弾が放たれ、少年の母が着弾の衝撃に震えた。
「――息子さんも、奥さんと同じように殺してしまいますよ?」
父親が母親の名前を叫ぶ声を聞きながら、少年は自らを押さえつけていた男を振りほどき、母親へと走り寄った。
既に母に息は無く、流れ出る血が少年の両の手を浸すのみだった。
少年の父親はそれを見て、悲痛な顔をし、
「……分かった」
少年は、父親の諦観のこもった声を聞いた。
「そうか、渡す気になったか」
嬉しそうな男たち。少年には何が何やら分からず半ば呆然としている間に事態が動いている。
気付けば、目の前に父がいた。
父は優しい、どこか謝罪するような表情で告げる。
「成人してから譲るつもりだったんだがな……私にはこんなことしかできない。どうか幸せになってくれ」
同時に少年の父の胸元から小さい光が現れた。
「≪ケサランパサラン≫だ!」
男たちが喜色を帯びた歓声を上げ、手を伸ばす。しかし≪ケサランパサラン≫は男たちをすり抜け、少年の肩へと落ち着いた。
「どういうことだ!? ああっ?」
銃を少年の父へと向ける男、父は笑って、
「聞いたことはないか? ケサランパサランを持っているということはあまり人に知らせないほうがいいと言われていて、そのため代々密かにケサランパサランを伝えている家もあるという伝説を」
少年の頭を撫で、
「何代前か知らないが三井の家系は≪ケサランパサラン≫に気に入られたらしい……この家の者にしか契約できんのだよ」
これで息子は殺せないな? そう男たちに言った瞬間、少年の父に銃弾が撃ち込まれた。
「どうする?」
倒れ伏した少年の父親を無視して、中肉中背の男がリーダー格の男を振り返る。
「ここまでやって何も手に入らねえんじゃ割に合わねえよ」
リーダー格の男は未だ熱が残る拳銃を、父の身体を抱き、声をかける少年に押し付けた。
「おい、ガキ。そいつの使い方、わかってんだろうな?」
腕の中で体温を失っていく父を感じながら、少年は契約と共に唐突に頭に入って来た知識におびえつつ、頷いた。
*
それから数カ月、少年は水と食料だけを与えられ、男たちの欲望を叶えるために生かされていた。
「ははは! また大当たりだ!」
「こっちも大儲けですよ!」
「今度は何を当てに行く!? なんだって大勝ちだぜ!?」
「……」
ギャンブルをしては大勝ちをし、大金を手にしては狂ったように笑っている男たちを見て、少年は≪ケサランパサラン≫の受け渡しが成立した時に己の中に入って来た、≪ケサランパサラン≫の幸せが招いた不幸についての知識に思いを馳せた。
≪ケサランパサラン≫を飼っていることをあまり人に教えない方が良い。まさにその通りだと少年は思う。なぜならば、
もたらしてくれるはずの幸福が、それを求める人間によって不幸へと変わってしまうから……。
≪ケサランパサラン≫も大変だなと少年は同情する。
「おい、ガキ! 今度はこれを当てろ!」
男が、家族を殺して少年のささやかな幸福を奪った男が、宝くじを少年の前でひらつかせた。
少年は頷きつつ、ふと考えた。
逃げられる……かな?
力の使い方はこの数カ月で完璧に学んだ。自分はどうやら≪ケサランパサラン≫との相性が父よりも良いようだ。……だから、
できる……。
そう確信し、少年は祈った。それが少年が初めて≪ケサランパサラン≫に心から願ったことだった。
「ははは! また大当たりだ!」
「こっちも大儲けですよ!」
「今度は何を当てに行く!? なんだって大勝ちだぜ!?」
「……」
ギャンブルをしては大勝ちをし、大金を手にしては狂ったように笑っている男たちを見て、少年は≪ケサランパサラン≫の受け渡しが成立した時に己の中に入って来た、≪ケサランパサラン≫の幸せが招いた不幸についての知識に思いを馳せた。
≪ケサランパサラン≫を飼っていることをあまり人に教えない方が良い。まさにその通りだと少年は思う。なぜならば、
もたらしてくれるはずの幸福が、それを求める人間によって不幸へと変わってしまうから……。
≪ケサランパサラン≫も大変だなと少年は同情する。
「おい、ガキ! 今度はこれを当てろ!」
男が、家族を殺して少年のささやかな幸福を奪った男が、宝くじを少年の前でひらつかせた。
少年は頷きつつ、ふと考えた。
逃げられる……かな?
力の使い方はこの数カ月で完璧に学んだ。自分はどうやら≪ケサランパサラン≫との相性が父よりも良いようだ。……だから、
できる……。
そう確信し、少年は祈った。それが少年が初めて≪ケサランパサラン≫に心から願ったことだった。
「こんな人たち、いなくなっちゃえば幸せなのに……」