「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-告白-06

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「それからその強盗はどうなっちまったんだ?」
「……死んだ」
 いや、殺した。
 Tさんはそう言うと真正面から俺を見据えた。俺は咄嗟に目を逸らそうとして、何故かその目から視線を逸らすことが出来なかった。
「俺はその後、≪夢の国≫に殺されかかって≪ケサランパサラン≫に助けられ、契約者に会うまでの間、拾われた≪組織≫で戦い主体の生活を送っていた」
 分かるか? と諭すような口調でTさんは言う。
「俺は契約者が思っているよりも遥かに血で汚れている……」
 ああ、なんで目が逸らすことが出来なかったのか分かった。
 Tさんの目、なんか寂しそうに見えるんだ……。 
「実際に今回の件ではっきりとその目で見て分かっただろう? 俺は必要ならば人も殺す。おそらくはこれからもだ」
 だから、とTさんは俺に緩やかに告げた。
「契約を破棄しよう」
「なんでだよ!?」
 反射的に言った俺にTさんはおや? という顔をした。
「契約者は、目の前で人殺しをした俺に対して忌避を感じていたのではなかったのか?」
 ……は?
「なんでそうなるよ? Tさんが人を殺してようと俺はいきなりTさんを嫌ったりなんかしないぜ?」
 Tさんは嗜虐趣味で殺しをしないって今までの付き合いが証明してるしな。それにTさんが殺しをしたらその責めは俺のもんでもあるはずだ。俺はTさんの契約者なんだから、それくらいは一緒に背負わせて欲しい。
「大体、都市伝説相手なら今までだって目の前で何人も吹き飛ばしてんじゃねえか」
「確かにそうだが。……だが人と都市伝説とではやはり人の死に感じる生々しさの方が大きいだろう?」
 そりゃ、モノによっちゃリカちゃんみたいなただの人形とかもいるし、人が傷ついた時に流す血と、そういうのが傷付いた時に漏れだす棉を同じように考えろって言われりゃあそいつは無理ってもんだけどさ、
「それでも……俺はそれでもTさんやリカちゃん、夢子ちゃんたちが死んだら泣くぜ? だいたいなんで俺がTさんを嫌がってるなんて思うんだよ? 俺、いつそんなそぶりをした?」
 俺がTさんを嫌がるわけがないのに、なんでそんなことを思ったのか、そこが分からない。だから質問して野郎の真意を質す。
 Tさんは俺の言葉に珍しくも虚を突かれた顔になり、一瞬返答に窮した。
 そして難しい顔をし、何やら唸りながら片方の手指で眉間を押さえ、もう片方の掌を俺へと突きだし、
「待て、ではなぜ今回の事件の後からいきなり様子が変わった? 俺は、契約者は目の前で殺人を犯した俺を避けているものだと思って、俺の存在が契約者の負担になるようならばいっそ契約を破棄させた方がいいのではないかと思ったんだが……」
 事態が掴めないとでもいうような声を発した。
「避けてるって……ば、テメ、そりゃちげえよっ!」
 俺も俺で自分の行動がTさんに与えていた影響にびっくりだ。
「だが明らかに契約者は俺を避けていただろう? 俺と居るのが好ましくないと感じたのかと思っていたんだが……浅井も契約者が不安がっていたと言っていたし、今回血を多量に見て思うところでもあったのかと……」
「う、それは……」
 不安に思ってたのは本当だけど理由が違う。一瞬言おうか言うまいか迷い、でもこのまま言わないのははっきりしなくて良くないと考え――ているつもりのテンパった頭で考えをまとめたつもりになる。
 息を吸って、吐き出し、Tさんを見つめ返した。そのまま挑むように口を開く。
「ちげえよ、ばか……ただ、俺は……Tさんが好きだってあのおっちゃんと話してる内に気付かされちまって……で、どうしたらいいかわかんなくなって、だな……」
 視界の中、Tさんの表情が驚きから理解に移っていく。同時に俺は顔どころか体全体が熱くなるのを感じて思わず顔を伏せ、
「いや、別にそういう意味じゃなくて、いや、違うかどうかと言えば……」
 しどろもどろになって自分でも何を言っているのかわからない状態になっていると、Tさんが助け舟を出してくれた。俺の両肩に手を置いて諭すように言う。
「落ち着け」
「……お、おう」
 Tさんは確認を取るように質問する。
「……俺が本当に怖くはないか? おそらく、俺と居るとこれからもいろんなことが起こるぞ」
「望むところだよ。騒ぎは楽しめる質だしな」
 それに、と会心の笑顔を見せてやる。
「Tさんと居れるんならさ、それが俺にとっちゃあ幸せなことなんだ」
 Tさんは目を丸くした。それから何かを噛みしめるような感慨深げな表情で「ありがとう」と呟き、
「俺もだ」
「へ?」
「お前が俺の、幸せだ」
 俺という存在が、Tさんにとってそうであってほしいと望んでいた言葉を言った。
「え? ……うそ?」
「なぜそうなる?」
 呆れた顔をしたTさん。
 いや……だって……。
「だってTさん、人を不審者扱いしたりするし馬鹿馬鹿言うし、すぐ俺を置いて危険地帯に行こうとするし、マッドガッサーの時とかもなんか俺を守るべき群れの中の一人で特に特別じゃないっぽいこと言ってたし…………」
 それに……。
「ガス食らった時、迫ったら気絶させられたし……」
 それでどうせ俺の事なんざなんとも思っちゃいないと思って、Tさんにこの気持ちを伝えると今のこの心地良い関係も壊れちまいそうで、それが不安で告白出来なかったわけなんだが……。
 うわ、自分で言ってて悲しくなってきた……。
 自然と浮かんできた涙を必死にこらえているとTさんが、く、と笑った。
「な、何がおかしいよ!?」
 目の前で俺の両肩を掴んだままのTさんは「いや、すまない」と言うと、
「それは冗談の類や良い意味での馬鹿で、置いて行くのは契約者を危険地帯に連れて行きたくないからだ。
 群れ発言云々の時は確か契約者一人を指して大事な幸せ。と言ったつもりだったのだがな」
 ちなみに俺の中ではそれで俺側の思いは伝えたつもりだったのだが。と付け足すTさん。んなもん分かるかよ、くそっ。
「じゃあ、ガスの時のは?」
 勢い込んで問いかける。その勢いで目に溜まっていた涙が零れた。
「ガスなんかで正体を失っている時にするのは卑怯だろう」
 Tさんは指先で俺の涙を拭うと、もう一度、はっきりと言い聞かせるように言う。
「お前は俺の幸せだ」
「う……」
 堂々と言われると、はずい。そのくせなんか泣ける……。
「お前が幸せなら、俺もまた幸せだ」
 泣くな泣くなと頭を撫でられる。
「……Tさん、光出さないのな」
 「幸せ」と言えばTさんが都市伝説になった時に同化した≪ケサランパサラン≫の能力を発動するキーワードだったはずだ。
 ああ、とTさんは掌を見て、
「別に言葉を発すると否応なく出てくるような力でもないからな。それに、」
「わっ!?」
 手が俺の背中に回されて、Tさんに抱き寄せられた。
「俺が手ずから、幸せにしなければならん」
 この役は誰にも譲らん。そう言いきった。
「じゃ、じゃあ……さ」
 Tさんの胸におしつけられていた顔を上げる。目の前にはTさんの顔があり、全身の体温が上がっていくのを感じる。呼吸も緊張のせいで乱れ気味だ。
「じゃあ……今、その……キス、して……」

 ――そうしてくれれば俺は幸せになるから。
 二人で幸せになろう?

 そう言って、目をつぶり、顔を上向け、ん、とTさんに口付けを強請った。


            ●


「ちゅーするの?」 
「ですね」 
 リカちゃんと夢子が話し合う。
 今、二人の前には≪夢の国≫内部カメラにて撮影されている映像が複数展開されており、各画面が二人を様々な角度から映していた。
 当然、≪夢の国≫の王の所業である。
 無事に告白できたみたいでなによりですね。
 そう思いながら夢子はリカちゃんの目を塞いだ。
「なにもみえないの」 
「子供は見ちゃだーめ」
 不満そうに言うリカちゃんに笑いかけて夢子は画面の向こうに言葉をかける。
「しっかり言葉にしなきゃ伝わらない事もあるんですよ?」
 それに応えるようなタイミングで映像の内、一つが唐突に切れた。
「あれ?」
 夢子が見る先、次々と画面の映像がブラックアウトしていく。
 最後に残った映像は上気した顔を上向けて目を瞑っている少女と向かいあっている青年の、真正面の映像であった。青年は映像に向かって声を出さずに口を開く。
 ――こ、こ、ま、で、だ。
 読みとりやすいようにゆったりと口の動きのみで紡がれた無音の言葉には最後に笑みが添えられ、映像が途切れた。
 ありゃ……気付かれてましたか。
「うーん、寺生まれってスゴいねー」
「スゴいの」
 二人でまた頷き合い、夢子は満面に笑みを湛えたまま立ち上がった。
「それではお二人が帰ってきた時のためにお料理でも作りましょうか」
「おりょうり、がんばるの!」
 まずはやっぱり赤いご飯でしょうか……?
 夢子はメニューを考えながら台所へと歩いて行った。


            ●


「こう、なんだ……? 触れ合ってたとこが、痺れるような、むず痒いような……」
 腕の中で赤くなりながら俯き、なにやらぶつぶつ呟いている少女に青年はしれっと告げる。
「顔が赤いぞ」
「う、うるせぇっ!」
 少女はバッ、と勢いよく上気した顔を上げると、
「ともかく! これで俺たちはあれだ! 今までよりもちょっと深い関係になったってことか!?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ今後勝手に契約の破棄とかそういうの禁止な!」
「……ああ、承知した」
 青年は笑みで了承し、なにやら呻いている少女を見かねてその肩にもう一度触れた。≪夢の国≫の一角を指さし、
「あそこを見ろ」
「へ?」
 青年が指さした先、そこには世界一有名なネズミがカメラを構えて物陰から覗いていた。
 一瞬時間が止まる。
 世界一有名なネズミは、ハハッ! と笑うと卒然、身を翻して逃げ出した。
「……はい?」
 ようやく止まった時が動きだしたらしい少女が不可解気な声を上げる。
「夢子ちゃんには何を話すか言ってあるからな、おそらくこうなることを読まれていたのだろう。固定カメラは破壊したんだが、まさかあのような伏兵がいようとは……」
 いや、驚きだなと全く驚いていない声で青年。少女はなるほど、と一つ頷き、
「……つまり?」
「おそらく全て撮られているな。一般的なビデオだからリアルタイム送信はされていないだろうが」
 少女はへー、と答え数秒、青年の言葉の意味を咀嚼し、
「っ! ちょ、Tさん! とっ捕まえに行くぞ!」
 青年の腕の中から抜け出すと世界一有名なネズミが消えて行った方向を指さし叫ぶ。
「わかったわかった」
 青年は苦笑しながら少女の横に並び、手を差し出した。

「行こうか――舞」
 青年の手を取ろうとしていた少女――伏見舞は、思わず動きを止めた。

「どうした?」
「初めて……名前、呼ばれた」
 半ば呆然と舞が言うと青年は、ん、と頷き、
「関係が変わったのだからな。契約者という呼称もないだろう」
 不満か? と青年が訊ねると、舞は首を横に振る。
「ううん。なんか近くなった気がして良い感じ……だ」
 そう言って青年の手を取り、「待ちやがれ!」と大声を上げながら、青年を引っ張るように駆ける。
 繋がれたその手には少々不格好なペンダントが巻きつけられ、揺れている。壊れてしまったペンダントの代わりに夢子に渡すのだろうそれを見て青年は笑んだ。
 青年は誰か、複数の名前を口の動きだけで呟き、

「――俺は、幸せだよ」

 舞を眩しい物でも見るように目を細めて見ながら言った。
 彼の身の内に融けた≪ケサランパサラン≫が一瞬光った。


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