「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 首塚-70b

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「…そう言う訳で。僕は、翼と真の友人だ。ある筋では「仲介者」とも呼ばれている…ご理解いただけただろうか?」
「あぁ。それと、ものすっごい甘いもんが好きな事を理解した」

 バケツプリンを食べつつ、自己紹介してきた直樹の様子に
 思わずそんな事を言い放ってしまったTさんの契約者である舞だが、彼女の言葉は事実なので否定しようがない

「疲労回復には甘い物が良いと聞くのだが」

 舞の言葉にそう答えつつ、直希はまた、その大きな大きなプリンにスプーンを伸ばしている
 ぷるんっ、と震えるバケツプリン
 女性としては、ちょっと憧れなメニューではあるのだが…食べているうちに確実に体が冷えそうだ
 ついでに言うと、直希のような小柄で細い人間が食べきれるメニューにも見えないのだが

 だが、直希自身が疲労しているのも、また事実
 この場所に移動してくる前に、直希があの場にいた全員が悪魔の囁きにとり憑かれていないか、「光輝の書」の力を使って調べたのだ
 結果は、全員卵も植え付けられておらず、とり憑かれてもいないと言うほっとするもの
 が、代わりに、いまだちゃんと使いこなせぬ力を無理矢理使った反動で、直希が疲れきったわけで
 疲労回復に甘い物を摂取するのはまぁ、間違っていないのだが


 とまれ、ここは喫茶店「兎の尻尾」
 直希がオーナーを勤めているこの店は、大きな看板も出していないし特に宣伝活動もしておらず、住宅街にひっそりと建っており、客は少ない
 よって、今回のような状況で集まるには、わりと最適な場所である

「なるほど…で、そちらの少女だが」
「「変態ストーカー」」

 きっぱり
 Tさんが、マゾサンタの紹介を促そうとしたのだが…真と直希が、ほぼ同時にそう言いきって自己紹介を防いでしまった
 なお、現在、店のシャワーを借りている翼(タオルだけでは、タコ妊娠の粘液が取りきれなかった)がこの場にいたら、多分、二人と同時に同じ事を口走ったのだろう

「あぁっ!?自己紹介すらさせてもらえない!?………でも、そんな冷たさがまた素敵………!」
「アフ、ヘマハ、ボヤ起こさない程度に火力アップ」
「はぁうっ!?私のハートも燃やされる!?」

 ついでに言うと、マゾは直希が呼び出したアフとヘマハによって、炎の鎖で絶賛束縛中である
 リカちゃんに見せていい光景ではないので、舞の背後の方でそれは行われていた
 これも、他に店内に客がいないからこそできる芸当だ

「…あの、放してあげてもいいのでは…」
「大丈夫だって、黒服さん。あれ、死なないから」

 心配そうにマゾサンタに視線をやっている黒服に、そう伝える誠
 そう言う問題でもないのだが、マゾがあの程度で死なないのは事実だから仕方ない

 …本当なら、マゾサンタのストーカー被害にあっている三人の意見により、マゾサンタはあの道に放置してこようかと言う事になっていたのだが
 タコ妊娠に襲われ、誠に心臓を握りつぶされかけ、オマケに全身黒こげになるほど焼かれた彼女を黒服が心配して声をかけてしまい、復活したマゾサンタは半ば地面を這いながら付いてきてしまったのだ
 なお、一応直希の検査の結果、マゾサンタはタコを妊娠した状態にはなっていなかった
 乙女の純潔は、ギリギリ護りきったらしい

「まぁ、趣味の問題には口を出さないとして、だ」

 できれば、舞には見せたくないが…と思いつつ 
 Tさんは、黒服に視線をやる

「黒服さん、あなたは悪魔の囁きの件について、調べると言っていたな?何か進展はあっただろうか?」
「…正直、悪い情報しか、入ってきませんね」

 どこか難しい顔をしながら、黒服はTさんに答える
 その通り、調べれば調べるほど、悪い情報しか入ってこないのだ

「6,7年程前からなのですが…ヨーロッパを中心として、世界各地で、今回のような悪魔の囁きがぽつ、ぽつ、と姿を現し始めているんです」
「俺に憑いてたような、長期間に人間にとり憑く悪魔の囁きがか?」

 誠の言葉に、黒服は頷き

「はい…それまで、そのような性質を持つ悪魔の囁きは、確認されていません」

 少しずつ、少しずつだが
 そのような報告が、世界各地で増え始めている

「恐らく、その頃から、悪魔の囁きが契約者を得るか何かして、能力を強化したのだと思われます」
「んー、それはわかるんだけど。どうして、それが世界中で見付かるようになったんだ?」
「いっぱいふえたの?」

 舞が首をかしげ、リカちゃんが真似して首をかしげる

「恐らく、その頃と同時に卵をばら撒き始めただろうと思われます。一人の中で卵が孵れば、そこから爆発的に卵は広がっていきます。たとえ、孵った卵が一割に満たなかったとしても、
 この数年で相当な数の悪魔の囁きが生まれてしまったのかと」

 一つ、放り投げられた悪意が、無限に増殖していくような
 そんな、タチの悪い事態
 まるで、何者かが、その広がり具合を実験でもしているかのように、あちこちで卵が広がり続けたのだ

「先月、学校町内にて、ファーザー・フロストが人々を襲うという事件がありました。そのファーザ-・フロストは2年前からロシアで失踪していたのだそうで…
 悪魔の囁きにとり憑かれた事に本人が気づき、他の方に迷惑がかからない場所で抗い続けていたそうなのですが、結局飲み込まれてしまい、学校町まで流れてきたのだそうです」
「へ?2月にそんな事件あったのか?」

 きょとん、とする舞
 彼女の知っている限り、そんな大騒ぎは聞いてないが…

「バレンタインの一週間前だよ。知らなかったのか?」

 ようやく、粘液を流し終わったのか
 店の奥から、翼が出てきた
 風呂上りの上気した肌に誠が見とれ、目にも止まらぬスピードの右ストレートをくらったりしているが、それはわりとどうでもいい

「ん~…?」
「舞、あの日は朝から酷く寒かったからと、休日なのをいい事に、1日家に篭り切りだっただろう」
「…あ、そう言えば」
「おねーちゃん、ずっとテレビ見てたの」

 ぽん、と思い出した様子の舞
 …ある意味、それで良かったのだろう
 あれに巻き込まれていては、命の危険もあったのだから

「「組織」内部でも、悪魔の囁きにとり憑かれてしまった者が数名、出ています。幸い、大事に至ったのは一度だけでしたが…」
「…幸い、じゃねぇだろ。お前も望も殺されるところだったんだぞ」

 ぼそ、と
 低い声で、黒服の言葉を聞いてそう呟いた翼
 低い、低い……どこまでも、憎悪が篭った冷たい声
 翼の、そんな聴きなれぬ声に、一瞬、舞がびくりと、違和感でも感じたように体を震わせた
 あの時の事件を思い出し、顎砕き飴契約者への憎悪を思い出している翼の様子に、黒服が慌てて話の流れを変えようとする

「…とにかく。「組織」では、悪魔の囁きの卵や、とり憑かれた初期の状態ならば、それを駆除できる薬を開発しています。早い段階で見付かれば、対処は可能です」
「藤崎ほどに、症状が進んでいる場合は?」

 いい加減体が冷えてきたのか、ホットココアを口にしつつ、直希が首をかしげる
 その疑問に、黒服は困ったように答えた

「…残念ながら、翼達の話を聞いている限りでは、彼女はかなり深く、悪魔の囁きにとり憑かれてしまっているように思えます。とり憑かれた期間はわかりませんが、駆除するのは難しいかと…」

 つまるところ
 藤崎 沙織にとり憑いた悪魔の囁きを駆除するには、以前、誠にとり憑いていた悪魔の囁きを倒した時のように、悪魔の囁きにのみ、ダメージを与えていくしかない
 正直、かなり方法が限られてきてしまう

「じゃあ、俺が焼けばいいだろ?どうせ、狙われてるのは俺みたいだし」

 黒服の隣の席に腰をおろしながら、けろりとそう答える翼
 ただ…若干、無理をしているようにも見えた
 誠の時に続けて、再び自分が知っている人物が悪魔の囁きにとり憑かれた上、狙われたのはまた自分
 ショックを受けていない訳ではないのだ

 だが、翼はそう言った考えを、なるべく表に出そうとしない
 全て自分の中に抱え込んで、自分だけで何とかしようとしてしまうところがある
 …翼は隠し事が苦手だから、付き合いの長い者や、勘がいい者にはすぐにバレてしまうのだが

「そうですが…翼、無理はしないでくださいね」
「あぁ、平気だって。今度、藤崎と会ったら…その時に、終わらせるから」

 大丈夫だ、と
 そう言ったその言葉は、黒服に言い聞かせているようでいて、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる言葉だった

「その時は、僕も手伝うぞ?」
「俺も。出来る限り、傍にいるからな」

 直希と誠の、その言葉に
 翼は、小さく首を振る

「大丈夫だって、俺一人で充分だから」
「でも、チャラい兄ちゃん。相手が物量作戦できたら、ちょっとヤバいんじゃないのか?」

 舞の言葉に、翼はう、と反論できずにいる
 …事実、先ほどの戦いで、大量のタコに圧し掛かられ、焼ききるのに時間がかかってしまった
 相手が、大量のタコを放ってきたり…誰かから借り受けているらしいコーク・ロア支配型の被害者を大量に連れてこられた場合、押し切られる危険がない訳ではない

「そう言う事だから。俺は、お前が断っても、お前を助けるからな」

 翼の手を握って、そう言った誠
 軽くジャブをくらっているが、懲りた様子はない

「その点に関しては、僕も同じだ。僕や姉さんは、いつだって無条件で君の味方だ。君の身に危険が及ぶならば、いつでも力になろう」

 バケツプリンを半分ほど食べ進めた直希が、誠の言葉に続いた
 彼の姉の事も引き合いに出されて、うぅ、と翼はますます押し黙る

 …それでも、素直に友人達の助けを承諾する事が、翼はできない
 翼は、自分の事で他人を危険な事に巻き込むことが、どうしてもできない
 小学生の頃、誠を初めクラスメイト達を都市伝説の引き起こした事件に巻き込む形になってしまい、恐ろしい思いをさせてしまった、と言う経験が、それを躊躇わせてしまうのだ

 それを、わかっていて
 誠も直希も、協力を惜しもうとしない
 三人全員が都市伝説契約者となっている今なら、なおさらだ

「いい友達もってんじゃん、チャラい兄ちゃん」

 ちょっと、ッアー、な匂いがしなくもないけど
 …そんな言葉は、舞は喉の奥に飲み込んでおいた
 うん、そう言う世界もあるのだ

 ……と、ここで
 黒服から聞いた情報などを頭で整理していたらしいTさんが、再び口を開く

「…ところで、黒服さん。あの藤崎という女性だが…「意図的」に悪魔の囁きを植え付けられた、という可能性はあるだろうか?」

 Tさんの、その問いかけに
 ぴくりと…かすかに、翼が体を跳ねらせた
 そんな翼に気遣うような視線をやって…一瞬、迷いを見せながら、黒服は答える

「確証は、ありません。ですが……私個人の考えとしましては、藤崎 沙織さんもまた、何者かによって意図的に悪魔の囁きを植え付けられた可能性が、あります」

 翼と関わりのある人間が、二人も悪魔の囁きにとり憑かれ、翼を襲った
 それが偶然とは、黒服はどうしても思えない
 何者かの明確な悪意を、はっきりと感じるのだ

「大丈夫だとは思いますが…今度、念のために、翼が高校生だった頃の同窓生に、悪魔の囁きがとり憑いていないか、調べてみようと思います…確か、藤崎さんは、翼とは三年間、同じクラスでしたね?」
「あ、あぁ」
「僕や誠と同じで、三年間一緒だったな」

 誠と藤崎の共通点は、それだ
 それだけ、翼と関わっている事になる
 …悪魔の囁きを植え付けられた条件は、それかもしれない
 確証は、まだ、ないが

「そう言えば、あのポケモンっぽいドラゴンに乗ってた子供。あれ、その藤崎って人をねーちゃん、って呼んでたよな?弟か?」
「いや、藤崎に弟はいなかったはずだ。兄貴ならいたと思うが」
「あれは、実のお姉さんって言うより、慕っている年上の女性をそう呼んだ、って感じじゃないでしょうか?」

 ぶらんっ、と
 炎の鎖に絡めとられ、悶えているうちに逆さ吊り状態になっていたマゾが、ここで会話に参加してきた
 …ちゃんと、スカートがめくれないよう一生懸命抑えているあたりは乙女である
 恋する乙女として、そう言う感情は何となく感じ取れるようだ
 単なる偶然かもしれないが

「だとしたら、藤崎は運がいいのかもしれないな。コーク・ロア支配型を使役している者は、捕らわれそうになったり情報を漏らそうとすると、口封じされるらしいからな」
「…何らかの都市伝説よって操られた犬や、巨大なライオン型の都市伝説。それらに、皆さんが遭遇したゲームから生まれた都市伝説に口を封じられた、と言う報告がありますね」

 少し悲しそうな表情で、直希の言葉に頷く黒服
 もう、結構な数の人間が、口封じされてしまっている
 それだけ、残りのコーク・ロア支配型の契約者達は…彼らにその能力を与えた人間に、近いと言う事か

「……だったら、藤崎を正気に戻すのも、急いだ方がいいな」
「でしょうね。彼女の場合、タコ妊娠に意識を飲まれかけている点も、心配です」

 藤崎の身を心配している翼と黒服の言葉に、そこまで心配する価値はないだろうに、と誠がぼそり、呟いたが
 それは、翼と黒服の耳には届かなかったらしい

「コーク・ロアか。その問題は、悪魔のささやきの騒動と連動していると考えていいのか?」
「そのようです……お恥ずかしい事に、コーク・ロア支配型契約者の増大に関しましては、どうも「組織」内部による何者かの手引きもあるようで…」

 かすかに、頭痛を覚えた様子の黒服
 …何者かが、都市伝説の契約書を誰かに大量に横流ししたらしいのだが、その犯人は未だに見付かっていない

「Tさんたちも、どうかお気をつけください。まだ、相手の戦力が完全にわかっていませんし…」
「…敵の大ボスが、まだわからないからな」

 マッドガッサーの騒動の時は、むしろ騒動の大元が前面に出て暴れていた
 が、今回の敵は、裏に裏にと隠れるタイプのようだ
 そう簡単に、尻尾を出してくれるかどうか

 …一同が、考え込む中
 翼は、俯いて…かすかに、暗い考えにとり憑かれかける

 狙われたのが、自分だとして
 まさか、自分を狙う為だけに、相手が色んな人間を巻き込んでいるのだと、したら?
 …まさか、と思いつつも
 感じ取った悪意の大きさに、小さく身震いする

(……いや)

 そんなものに、怯えていてはいけない
 自分は、黒服と望を、護らなければいけないのだから
 家族を、護らなければいけないのだから
 たとえ、どんな相手からの、どんなに大きな悪意が向けられていようとも
 自分は、それから逃げる訳には行かないのだ

 出来うる限り、誰の手も借りずに事を済ませたい
 翼は、そう考えるのだった











 …一同が、喫茶店「兎の尻尾」で話し合っていた頃
 学校町 駅

「……ココが、学校町か」

 そこに
 一人の男が降り立った
 まるで人形を思わせる、美形の西洋人男性だ
 道行く女性達が、思わず彼に視線を奪われている

 だが、彼はそれを全く気にした様子なく
 ニヤリ、端整な顔立ちに笑みを浮かべていた

「さぁて……ボスから呼ばれた事だし。好き勝手やらせてもらおうか」
『ソウサァ!!好キ勝手ニヤラセテモラオウジャネェカァ!!』
「アァ、そうさ………滅びよビッチ」

 くっく、と男は笑う


 この日、学校町にまた一人
 悪魔の囁きを宿した男が、降り立ったのだった



to be … ?




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