喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
憂国者
輪とボクサーが仲良く遊んでいるのを見つめる視線が二つ
白髪混じりの口髭を綺麗に整えた中年の男
そして、眼鏡をかけた神経質そうな男の二人だ
そして、眼鏡をかけた神経質そうな男の二人だ
どこからともなく現れ、輪とボクサーに向かい歩を進める
明確な目的を持った、迷いのない足取り
明確な目的を持った、迷いのない足取り
「輪廻転生の都市伝説だな?」
口髭の中年が問い掛ける
白い軍服を着た二人は、紛れも無く旧日本軍・海軍所属の将校
輪とボクサーは、慎重に観察しながらも相手との距離を測る
白い軍服を着た二人は、紛れも無く旧日本軍・海軍所属の将校
輪とボクサーは、慎重に観察しながらも相手との距離を測る
眼鏡の男が言葉を継ぐ
「君に恨みはないが、訳あって同行してもらう」
「同行?……そんなこと、誰が許すってんだよぉ」
「そちらの君には関係の無いこと……そして、拒否権は無い」
「同行?……そんなこと、誰が許すってんだよぉ」
「そちらの君には関係の無いこと……そして、拒否権は無い」
眼鏡の男が、チラとボクサーを見やり言う……が
「ボクは、貴方達について行く理由も無ければ、この町から離れる気もない!」
輪もまた、自分の意志を伝える
「だ、そうだ……どうする?このまま帰るかヤりあうか……」
「ならば、仕方あるまい……力ずくで奪うまでよ」
「ならば、仕方あるまい……力ずくで奪うまでよ」
張り詰めた空気が、場を支配する
*
「待っていただこうか」
緊迫を破る声……だが、口調は穏やかで自然と皆の視線が男へと移る
カシマだ
カシマだ
「貴様……カシマ……か?」
「おぅ、カシマさんいいところに来たなぁ」
「カシマさん、この人たちがボクを連れ去ろうとしているんだけど」
「おぅ、カシマさんいいところに来たなぁ」
「カシマさん、この人たちがボクを連れ去ろうとしているんだけど」
ふぅ、と息を吐きながら輪も声を掛ける
「遅れてすまない……夢見が悪くてな……さて、話は大体聞かせてもらった、手を引いてもらえないだろうか」
カシマがやんわりと提案し、口髭の中年が答える
「カシマよ……輪廻転生を護る意味など無いだろうに」
「確かに……」
「流石はカシマだ、話が早くて助かる」
「ワタシには輪廻転生を護る意味も必要も無い……」
「では、引き渡して頂こう」
「断る」
「……済まない、もう一度言ってくれないか……よく聞き取れなかった」
「断ると言った」
「何故だ?」
「ワタシが護っているのは、都市伝説ではない……この少年個人──輪個人だ」
「ふん、詭弁だな」
「ワタシが語るは真実のみ」
「確かに……」
「流石はカシマだ、話が早くて助かる」
「ワタシには輪廻転生を護る意味も必要も無い……」
「では、引き渡して頂こう」
「断る」
「……済まない、もう一度言ってくれないか……よく聞き取れなかった」
「断ると言った」
「何故だ?」
「ワタシが護っているのは、都市伝説ではない……この少年個人──輪個人だ」
「ふん、詭弁だな」
「ワタシが語るは真実のみ」
静寂が辺りを包む
「ふはははは! 相も変わらず生真面目な男だな!」
「ワタシはこういう冗談は好きではありません、艦長殿……ご無沙汰しております」
「ワタシはこういう冗談は好きではありません、艦長殿……ご無沙汰しております」
カシマは頭を下げながらも警戒を解かない
だが、艦長と呼ばれた口髭の中年からは既に先程までの威圧感は無く
柔和な表情で言葉を吐きだす
だが、艦長と呼ばれた口髭の中年からは既に先程までの威圧感は無く
柔和な表情で言葉を吐きだす
「久しいな、カシマよ」
「あの時以来となりますから……」
「そうだな、時の流れは早いものだ……その後、具合はどうだ?」
「一時は消えかけましたが、今では契約者を得る事ができました」
「そうか……契約したか」
「今のワタシにもまだ護れるものがあると、恥を忍んで生き永らえております」
「それで、その少年だが……お前が護る程の価値があるわけだな?」
「はい」
「そうか……では、諦めよう」
「あの時以来となりますから……」
「そうだな、時の流れは早いものだ……その後、具合はどうだ?」
「一時は消えかけましたが、今では契約者を得る事ができました」
「そうか……契約したか」
「今のワタシにもまだ護れるものがあると、恥を忍んで生き永らえております」
「それで、その少年だが……お前が護る程の価値があるわけだな?」
「はい」
「そうか……では、諦めよう」
無言で付き従っていた眼鏡の男が一瞬だが顔をしかめる
「宜しいのですか、艦長」
「構わん」
「では、我等の行く末はどうされるおつもりですか?」
「他を当たるか……いや、いっそのこと幕を引くのも一つの選択肢と言えよう」
「諦めると?」
「既に、我等が何かを変えられる様な時代ではないのかもしれぬよ」
「……潮時、ですか」
「そうよな、潮時だ」
「分かりました……その旨、兵員にも伝えて宜しいですか?」
「頼む」
「構わん」
「では、我等の行く末はどうされるおつもりですか?」
「他を当たるか……いや、いっそのこと幕を引くのも一つの選択肢と言えよう」
「諦めると?」
「既に、我等が何かを変えられる様な時代ではないのかもしれぬよ」
「……潮時、ですか」
「そうよな、潮時だ」
「分かりました……その旨、兵員にも伝えて宜しいですか?」
「頼む」
眼鏡の男はきびすを返そうとするが、カシマと視線が合い足を止めると
眼鏡の位置を直し、言う
眼鏡の位置を直し、言う
「カシマ……あの時の事、よもや忘れてはおるまいな?」
語気の鋭い詰問に、カシマは困った様な顔で言葉を返す
「副官殿、以前にもお答えしましたが自分は」
「貴様の答えなど訊いてはおらん、憶えていればそれで良い!」
「貴様の答えなど訊いてはおらん、憶えていればそれで良い!」
遮る様に言い放つと、今度こそ踵を返して去っていった
「すまんな、アレも悪い男ではないのだがな」
「……」
「さて、カシマよ……大方の想像は付いているだろうが……」
「艦長殿らも都市伝説としての存在が消えようとしている……と?」
「……」
「さて、カシマよ……大方の想像は付いているだろうが……」
「艦長殿らも都市伝説としての存在が消えようとしている……と?」
艦長は、カシマから少年へと視線を移し
「カシマが消えかけたという話は、今聞いた通りだが……君も知っているな?」
自分へと向けて発せられた言葉に、輪は頷く
「うむ、我等もカシマ同様"今の日本は平和か?"という都市伝説だ……
そして、我等もまたカシマの言った通り、カシマ同様に消えようとしている……時代の流れよな」
そして、我等もまたカシマの言った通り、カシマ同様に消えようとしている……時代の流れよな」
輪廻転生の力があれば、輪廻転生の力を自分達に取り込むことが出来れば
自分達が消えようとも、輪廻し転生出来るのではないかと考えた
自分達が消えようとも、輪廻し転生出来るのではないかと考えた
出来るかどうかは分からない……だが、彼らはそう考えたのだという
*
「もし、輪廻転生が人々を恐怖におとしいれるだけの者であったなら
我等は躊躇い無く、この案を実行するつもりでいた」
我等は躊躇い無く、この案を実行するつもりでいた」
だが、そこにカシマが立ちはだかった
「我等と端を同じくするカシマが護るというのだ……
ならば、我等もまた彼を護る側におらねばなるまい」
ならば、我等もまた彼を護る側におらねばなるまい」
そう言って、深々と頭を下げ
「我等の都合で迷惑を掛けた事、許されざる事かとは思うが
私も多くの部下を預かる身、簡単に彼らの消失を受け入れるわけにもいかず……どうかご容赦頂きたい」
私も多くの部下を預かる身、簡単に彼らの消失を受け入れるわけにもいかず……どうかご容赦頂きたい」
と、輪へと謝罪した
「艦長さん、頭を上げてください……ボクのことを諦めてくれるなら良いんです」
「ご容赦頂けるか……」
「……でも」
「ご容赦頂けるか……」
「……でも」
続く言葉を待つ
「ボクのことは諦めてもらわないと困るけど、存在を諦めるのはまだ早いと思うんだ」
「……では……まだ、我等にも出来ることがあると?」
「例えば活動の拠点を広島や長崎とかにするのは?」
「ふむ、確かに……だが、それならば既に行っている」
「じゃあ地道にインターネットで工作するのは?」
「インターネットか……確か前にも……そう、先程の眼鏡の副官だが……
あやつが諜報活動に利用したことがあったのだが……」
「……では……まだ、我等にも出来ることがあると?」
「例えば活動の拠点を広島や長崎とかにするのは?」
「ふむ、確かに……だが、それならば既に行っている」
「じゃあ地道にインターネットで工作するのは?」
「インターネットか……確か前にも……そう、先程の眼鏡の副官だが……
あやつが諜報活動に利用したことがあったのだが……」
どうも、説教臭いせいか食いつきが悪かったらしい
他にも、暗号板かと思い入り込み……
やたらと食いつきが良いと思ったら、何やら精神的外傷を受けたこともあったらしい
その後しばらくの間
"馬鹿な、この私が艦長とだと?!" "裏2ちゃんねるだと?……しまった!罠か!!"
"現代の婦女子は腐っている……これ以上読んでは、精神が……"
等々、医務室のベッドで毎晩うなされていたらしい
他にも、暗号板かと思い入り込み……
やたらと食いつきが良いと思ったら、何やら精神的外傷を受けたこともあったらしい
その後しばらくの間
"馬鹿な、この私が艦長とだと?!" "裏2ちゃんねるだと?……しまった!罠か!!"
"現代の婦女子は腐っている……これ以上読んでは、精神が……"
等々、医務室のベッドで毎晩うなされていたらしい
「嗚呼……書き込む板の選択を誤ってしまったんだね……」
「そうか……選択を誤っていたのだな」
「たぶんその話、暗号板じゃなくて801板だと思うんだよね」
「801板……確かに暗号の様だな……危険なのかね?」
「不用意に入り込むと精神が汚染されると言われていて、もう都市伝説レベルだよ」
「ふむ、その様な危険な所があるとは……気を付けるとしよう」
「うん、一度失敗してもまだ二度目も三度目もあるよ」
「不思議と説得力を感じるものだな……実感が伴っているという事か」
「まぁ……何度も繰り返して来ているからね……」
「……そうか、そうであったな……すまぬ」
「いいんだよ、今は凄く幸せだからね」
「よし、また皆で模索して行くとしようぞ」
「頑張ってね」
「ああ、ありがとう……さて、出港の準備をするとしよう」
「すぐに発つの?」
「着いたばかりだ、数日は休息と準備に充てる事となろう」
「そっか、じゃあまた会えるかもね」
「その時はまたご教授願おう」
「ははは、またね艦長さん」
「また会おう、少年……では、カシマ、そちらの青年も元気でな」
「そうか……選択を誤っていたのだな」
「たぶんその話、暗号板じゃなくて801板だと思うんだよね」
「801板……確かに暗号の様だな……危険なのかね?」
「不用意に入り込むと精神が汚染されると言われていて、もう都市伝説レベルだよ」
「ふむ、その様な危険な所があるとは……気を付けるとしよう」
「うん、一度失敗してもまだ二度目も三度目もあるよ」
「不思議と説得力を感じるものだな……実感が伴っているという事か」
「まぁ……何度も繰り返して来ているからね……」
「……そうか、そうであったな……すまぬ」
「いいんだよ、今は凄く幸せだからね」
「よし、また皆で模索して行くとしようぞ」
「頑張ってね」
「ああ、ありがとう……さて、出港の準備をするとしよう」
「すぐに発つの?」
「着いたばかりだ、数日は休息と準備に充てる事となろう」
「そっか、じゃあまた会えるかもね」
「その時はまたご教授願おう」
「ははは、またね艦長さん」
「また会おう、少年……では、カシマ、そちらの青年も元気でな」
敬礼するカシマに背を向け歩き出す
艦長は去り行く途中、
思い出した様に踵を返し、声を張り上げる
思い出した様に踵を返し、声を張り上げる
「おっと、言い忘れていたが!輪廻転生の少年を捜索している内に気付いたことがある!
このところ、何物かにより都市伝説が立て続けに負傷させられている!
同じ通り魔により負傷したと思われる都市伝説は全て少年型の都市伝説だった!
少年も気を付けるのだぞ!良いな!」
このところ、何物かにより都市伝説が立て続けに負傷させられている!
同じ通り魔により負傷したと思われる都市伝説は全て少年型の都市伝説だった!
少年も気を付けるのだぞ!良いな!」
「わかったよ~!忠告ありがとうね~!」
大きく手を振り応える
「少年の都市伝説を狙った犯行か……」
「気を付けるって言っても、携刀しておくことくらいかなぁ……」
「気を付けるって言っても、携刀しておくことくらいかなぁ……」
カシマと輪は視線を交わし、思案する
「謎の通り魔ねぇ……意外とどっかですれ違ったことのあるヤツだったりするんだよなぁ」
ぎょっとする二人、だが……
「でもよぉ……考えたってしょうがないよなぁ……頭使うと疲れるから嫌だぜぇ」
ボクサーが発したのんきな一言に掻き消される
「む、もうこんな時間か……朝稽古はこれまでにして引き上げるとしよう」
「そうだね……じゃあ、今夜またルーモアで!」
「うむ」
「よっしゃ!今夜は宴会だもんなぁ!」
「逢魔ヶ刻からだからね、ボクサーさん遅れないでよ」
「おぅ!今日の為にかなり絞って来たからなぁ!」
「じゃあね!」
「そうだね……じゃあ、今夜またルーモアで!」
「うむ」
「よっしゃ!今夜は宴会だもんなぁ!」
「逢魔ヶ刻からだからね、ボクサーさん遅れないでよ」
「おぅ!今日の為にかなり絞って来たからなぁ!」
「じゃあね!」
今夜はマスターの帰還を祝い、関係者を招いての宴会が催される
規模は小さいが、マスターとサチと輪が用意した軽食と
皆が持ち寄ったお酒で、楽しい時を過ごす事が出来るだろう
それを思うと、輪は自然と高揚するのを感じていた
規模は小さいが、マスターとサチと輪が用意した軽食と
皆が持ち寄ったお酒で、楽しい時を過ごす事が出来るだろう
それを思うと、輪は自然と高揚するのを感じていた
三人はそれぞれの道へと散っていく
近づきつつある雨雲に、ある種の予感を抱きつつも
誰もが春の柔らかい日差しに心を遊ばせていた
誰もが春の柔らかい日差しに心を遊ばせていた