喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
物語
カラン・コロン……カラン・コロン……帰還を告げるベル
「カシマさん!おかえりなさい!!」
「軍人さん、おかえりなさい」
「おぅ!カシマさん、おかえり!」
「軍人さん、おかえりなさい」
「おぅ!カシマさん、おかえり!」
皆がカシマの帰還を祝う
ただひとりを除いて……
ただひとりを除いて……
「……遅かったですね」
「ジャック……」
「ジャック……」
それは、寝ずに看病を続けていた、一番心配していたであろうジャックだった
「……待ちくたびれて寝てしまいましたよ」
「心配を掛けてすまない……」
「……」
「心配を掛けてすまない……」
「……」
ムッとした表情だったが、それはカシマに対してというよりは
彼が覚醒した時に、自分が眠ってしまっていた事に対する憤りだった
彼が覚醒した時に、自分が眠ってしまっていた事に対する憤りだった
「オレは……」
二人から距離を開けつつも
カシマの次の言葉を聞き逃すまいとしていた皆が
"オレ"と言ったカシマに驚き、目を見開く
カシマの次の言葉を聞き逃すまいとしていた皆が
"オレ"と言ったカシマに驚き、目を見開く
「やはり、おかしかったのだろうか……」
一同の態度に気付いたカシマが、困った様に言葉をもらす
だが、皆が掛ける言葉を探す暇も無く、ひとりが声を掛けていた
「おかしくありません」
ためらい無く放たれる言葉、ジャックだ
「ワタシがオレに変わろうと、カシマはカシマのまま、本質は何一つ変わりありません
貴方も言っていたではありませんか、外見で測る事はしないと……それと同じです
私も貴方を表面的な事で測る事はしません……オレに込めらている想いは……
私達への親しみ……大事なのは言葉に込められた想いです
だから、カシマ……貴方は何も変わってはいない……
寝ていた私を起こさずに、ひとりで勝手に行ってしまう様なところや
帰る場所にここを選ぶところも……少なくとも私にとっては……何一つ……
それに、私の国の言葉ではワタシもオレもI、キミもオマエもyouです……瑣末な事ですよ」
貴方も言っていたではありませんか、外見で測る事はしないと……それと同じです
私も貴方を表面的な事で測る事はしません……オレに込めらている想いは……
私達への親しみ……大事なのは言葉に込められた想いです
だから、カシマ……貴方は何も変わってはいない……
寝ていた私を起こさずに、ひとりで勝手に行ってしまう様なところや
帰る場所にここを選ぶところも……少なくとも私にとっては……何一つ……
それに、私の国の言葉ではワタシもオレもI、キミもオマエもyouです……瑣末な事ですよ」
ジャックの言葉に今度はカシマが目を見開く
「瑣末な事……か……オレもそれなりの覚悟をもって言ったのだがな……
そうか、瑣末な事か……うむ、そうだな……瑣末な事だ」
そうか、瑣末な事か……うむ、そうだな……瑣末な事だ」
次第にカシマの顔は穏やかなものへと戻っていく
それを見て、皆もまた穏やかな表情へと戻っていく
それを見て、皆もまた穏やかな表情へと戻っていく
「まぁ……私にかかればこんなモノです」
フフンと得意げにジャック
「うむ、流石はジャックといったところか……」
頷くカシマ
「どうです?惚れ直しましたか?」
冗談交じりにジャック
「ああ、惚れ直したよ」
深く頷くカシマ
「でしょう?────────────えっ?!!」
三番目に目を見開くのは、ジャック
「惚れ直したと言った」
再び、平然と言ってのけるカシマ
「私の知っているカシマのままで、変わってはいなくて、カシマは嘘をつけなくて……」
ボフンと音が聞こえてきそうな程に、急激に顔を真っ赤に染めていくジャック
「オレが語るは真実のみ……よく知っているだろう?」
そう言うカシマの顔は、とても優しい表情だったが
周囲からの視線を感じた為か
ごまかす様に口元へと拳をあてコホンと咳払いをする
周囲からの視線を感じた為か
ごまかす様に口元へと拳をあてコホンと咳払いをする
空間が広がり、世界は皆へと返される───幻視
くるくると回りながらソファーへと倒れ込むジャックを皆が微笑ましく見つめる中
カシマはマスターへと声を掛ける
カシマはマスターへと声を掛ける
「時にご主人、この店の以前の屋号は何と?」
「昔の屋号かい?……え~とね……ことむけ庵というんだ」
「ことむけ庵……ですか……なるほど」
「昔の屋号かい?……え~とね……ことむけ庵というんだ」
「ことむけ庵……ですか……なるほど」
納得した様子で深く頷くカシマに
興味を惹かれたマスターが言葉を繋ぐ
興味を惹かれたマスターが言葉を繋ぐ
「由来が分かるのかい?」
「恐らく……漢字では、平和の平に国と書いて"平国庵"」
「平国庵か……ふむ」
「恐らく……漢字では、平和の平に国と書いて"平国庵"」
「平国庵か……ふむ」
鹿島神宮に在る国宝、布都御魂剣───
一振りすればたちまち国中が平穏になる霊剣とも伝えられるそれは
平国剣(ことむけのつるぎ)とも呼ばれることもあるという
平国剣(ことむけのつるぎ)とも呼ばれることもあるという
───平国庵
鹿島の姉であり、かつて、カシマの妻であった女性とその夫もまた
この国の平和を願い、この屋号を付けたのだろう
この国の平和を願い、この屋号を付けたのだろう
戦争により人生を隔てられた者達が、時を超え、その心を伝えてくる
きっと、自分が刀を振るうよりも多くの人に平穏をもたらしたのであろう
そう想いながらカシマは店内を見回す
そこには、自分を受け入れてくれる、待ってくれている者達の笑顔があった
そう想いながらカシマは店内を見回す
そこには、自分を受け入れてくれる、待ってくれている者達の笑顔があった
『またひとつ、この店を護る理由が増えてしまったな……』
カシマも笑みを浮かべる、晴れわたった空を思わせる様な笑みだ
*
夢───思い出す、何度でも
"いつでも観て良いんだ、家族の記憶ってやつはさ"
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
「お前の事を、お前の心の強さを信じている……超えてゆけ、ワタシを」
「……」
「託して良いな?」
「……」
「託して良いな?」
カシマが問う
「断る」
鹿島が答える
「?!」
「断ると言った」
「何故だ?」
「そんな事を望んでいないからだよ」
「このままでは、どちらかが消える可能性があるのだぞ!」
「ああ、そうだな……だから、俺が消えると言っているんだ」
「何を馬鹿なことを……そんな事をワタシが許すとでも思っているのか!!」
「勝ったのは俺だ……さっきの約束、もう忘れてしまったのか?先輩」
「何?!……だが、それは……」
「約束通り、俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「……くっ」
「俺は、先輩のやりそうな事は大抵、想像できるんだよ……先輩ならどうするか……いつも、そう考えて行動してきたんだ」
「こんな事の為に、わざわざ、あんな勝負を……約束をさせたというのか……」
「ああ、そうだよ……俺が消えると言ったところで、認めてはくれなかっただろうからな」
「断ると言った」
「何故だ?」
「そんな事を望んでいないからだよ」
「このままでは、どちらかが消える可能性があるのだぞ!」
「ああ、そうだな……だから、俺が消えると言っているんだ」
「何を馬鹿なことを……そんな事をワタシが許すとでも思っているのか!!」
「勝ったのは俺だ……さっきの約束、もう忘れてしまったのか?先輩」
「何?!……だが、それは……」
「約束通り、俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「……くっ」
「俺は、先輩のやりそうな事は大抵、想像できるんだよ……先輩ならどうするか……いつも、そう考えて行動してきたんだ」
「こんな事の為に、わざわざ、あんな勝負を……約束をさせたというのか……」
「ああ、そうだよ……俺が消えると言ったところで、認めてはくれなかっただろうからな」
自信と誇りに満ちた顔で、鹿島は言い放つ
「不満があると言うのならば、何度でも勝負を受けよう
だが、何度でも俺が勝つ! 俺は負けない!
実力に差が無いというのなら、想いの差が勝敗を分ける!
ならば、俺は、今の先輩に負けはしない!
そして、先輩は、まだ、この世界に必要なヒトなんだ!
先輩には、今を! この時を! 必要とされるこの時代を! 生きてもらう!!
俺はその為に、今、ここにいるんだ!!」
だが、何度でも俺が勝つ! 俺は負けない!
実力に差が無いというのなら、想いの差が勝敗を分ける!
ならば、俺は、今の先輩に負けはしない!
そして、先輩は、まだ、この世界に必要なヒトなんだ!
先輩には、今を! この時を! 必要とされるこの時代を! 生きてもらう!!
俺はその為に、今、ここにいるんだ!!」
揺るぎない意志が、カシマを打ちのめす
どんな斬撃よりも、速く、重く、強く、確かに、カシマの心を捉える
どんな斬撃よりも、速く、重く、強く、確かに、カシマの心を捉える
想いに気圧され、片膝ををつく
今度こそ、カシマは負けを認めざるを得なかった
今度こそ、カシマは負けを認めざるを得なかった
自身の想い、自責の念とその優しさから、義弟の存在を護ろうとしたカシマ
カシマを想う、自身の為に、姉の為に、皆の為に、カシマの存在と記憶を護ろうとした鹿島
心で、想いの差で、負けたのだ
カシマを想う、自身の為に、姉の為に、皆の為に、カシマの存在と記憶を護ろうとした鹿島
心で、想いの差で、負けたのだ
"それは、一度手放したものを、もう一度掴み取る力"
失ったもの──腕ではなく、想い──を、再び手にしようとする意志
傷痍軍人の鹿島が最後に求め、得た力、想いの力だった
それは特別な能力ではなく、ただの心の強さ、ただの想いの強さ
傷痍軍人の鹿島が最後に求め、得た力、想いの力だった
それは特別な能力ではなく、ただの心の強さ、ただの想いの強さ
*
- ♪ON YOUR MARK (試験運用中)
*
「良いんだよ、先輩……俺は満足しているんだ……
先輩がいれば助かる人がいたかもしれないって……知って欲しかった
必要とされているって事……もっと、理解して欲しかった
俺達がいた事を忘れないで欲しかった
俺の事、父の事、母の事、姉の事……
思い出してもらえて……嬉しかった
俺達と共に過ごした記憶が、幸せな記憶だったって事を思い出して欲しかったんだ
俺にとっての夢──幸せってのは、家族の笑顔だった……
だから、何よりも護りたかったんだ
先輩の中にある記憶を、記憶の中の家族の笑顔を護りたかったんだ……
俺は……俺達は……幸せだったんだ……俺達家族は、幸せだったんだ」
先輩がいれば助かる人がいたかもしれないって……知って欲しかった
必要とされているって事……もっと、理解して欲しかった
俺達がいた事を忘れないで欲しかった
俺の事、父の事、母の事、姉の事……
思い出してもらえて……嬉しかった
俺達と共に過ごした記憶が、幸せな記憶だったって事を思い出して欲しかったんだ
俺にとっての夢──幸せってのは、家族の笑顔だった……
だから、何よりも護りたかったんだ
先輩の中にある記憶を、記憶の中の家族の笑顔を護りたかったんだ……
俺は……俺達は……幸せだったんだ……俺達家族は、幸せだったんだ」
成すべき事を成した男の顔だった
自身の心に克ち、家族の記憶を護り
心・技・体、ほんの一瞬、わずかにでも、目標であるカシマを追い抜いたのだ
思い残す事など何処にあろうものか
心・技・体、ほんの一瞬、わずかにでも、目標であるカシマを追い抜いたのだ
思い残す事など何処にあろうものか
万感の想いを込め
鹿島は、義兄へと手を差し伸べる
鹿島は、義兄へと手を差し伸べる
「ワタシも……いや……オレも、幸せだったよ……まるで、夢の様だった」
カシマが差し出された義弟の手を掴む
「いい夢……観れただろ?」
「ああ……最高の上映だった……」
「いつでも観て良いんだ、家族の記憶ってやつはさ」
「ああ……最高の上映だった……」
「いつでも観て良いんだ、家族の記憶ってやつはさ」
繋がる手と手、心と心
「……ああ……そうだな……本当に……すまない……」
「良いんだよ、先輩……でも、もう忘れないでくれよ?」
「ああ……ああ、約束しよう」
「良いんだよ、先輩……でも、もう忘れないでくれよ?」
「ああ……ああ、約束しよう」
カシマが掴む手に、地に着いた膝に、力を込め立ち上がる
「先輩は約束を必ず守る……そうだよな?」
「ああ、そうだ……オレは約束を必ず守る」
「うん、信じているよ」
「ありがとう」
「ああ、そうだ……オレは約束を必ず守る」
「うん、信じているよ」
「ありがとう」
ふたりは言葉を交わす
昔の様に、穏やかに
昔の様に、穏やかに
「それと、これ……やっぱり、先輩にはこっちの方が似合っていると思う……」
「これは……そうか……すまない……」
「これは……そうか……すまない……」
手渡されたのは、海軍の軍服、白き軍装
「じゃあ……後は任せる……生きて、生き続けて……幸せにな……義兄さん」
鹿島の顔に、浮かぶは笑顔
少年の日のあどけなさを残し、英雄に憧れ、香取を、カシマを目指した男の笑顔
消え行く、姿、形
だが、想いは永遠
桜花舞う───幻視
強くも優しい風が桜花を運び、カシマを包み込む
儚いとは、人の夢と書く
だが、散り行く桜は人の心に強く残り、人の夢は永く語り継がれる
ならば、儚さこそが幻想
故に、鹿島の夢──家族の笑顔──もまた永く残るはずだ
鹿島の想いが、記憶が、技能が、魂が、今、カシマの一部となる
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
隻腕のカシマ───ひとの夢に現れ、国の未来を憂い
平和を求め、家族を想う、白き軍装の───都市伝説
平和を求め、家族を想う、白き軍装の───都市伝説
今、ここに、再び、目覚める
*
カシマは思い出す、何度でも
人として生きた時代、幸せな時代
戦争が家族を隔て、繋がりを断ち切り、悲しみを生んだ時代
戦争が家族を隔て、繋がりを断ち切り、悲しみを生んだ時代
そして、考える
確かに戦争は多くのものを奪った
だが、それでも全てを奪っていったわけではなかった
だが、それでも全てを奪っていったわけではなかった
人々の歩みを止めるのは
他人から与えられた絶望ではなく
絶望に対する、自身の心の内にある諦め
他人から与えられた絶望ではなく
絶望に対する、自身の心の内にある諦め
人々の歩みを進めるのは
他人から与えられた希望ではなく
希望を掴み取ろうという、自身の心の内にある意志
他人から与えられた希望ではなく
希望を掴み取ろうという、自身の心の内にある意志
こうして今、この国は在る
多くの者達が諦めぬ意志をもって生き抜いたからだ
多くの者達が諦めぬ意志をもって生き抜いたからだ
平和とは、たったひとりの英雄によって護られているわけではない
英雄に憧れ、英雄を目指す、多くの者達によって支えられ
優しさを失わず、未来を諦めず、他者を愛せる
そんな、ただただ普通に生きようと思う、ごく普通な者達の努力によって成されるのだ
そんな、ただただ普通に生きようと思う、ごく普通な者達の努力によって成されるのだ
そして、その想いに触れた者の中からは
その想いを護ろうと、引き継ごうと想う者も出てくるだろう
その想いを護ろうと、引き継ごうと想う者も出てくるだろう
こうして、人と人とが繋がってゆく
繋がった者達は
友人となることもあれば、恋人になることもある
同志となることもあれば、師弟となることもある
友人となることもあれば、恋人になることもある
同志となることもあれば、師弟となることもある
それらはまるで
家族の様に見えることもあるだろう
家族の様に見えることもあるだろう
故に、この物語は───
名も知らぬ他人がすれ違う場所
親しき者たちが約束を交わす場所
親しき者たちが約束を交わす場所
時に別れの舞台となり
時に出逢いの舞台となる
時に出逢いの舞台となる
───人と人とを、心と心とを繋ぐ物語
『喫茶ルーモア』
これは───
───家族の物語だ
喫茶ルーモア / 隻腕の鹿島 篇 ─ 終 ─