…それは、「合わせ鏡に死に顔が映る」の契約者、佳奈美が、「組織」へ行くのはどうしたらいいだろうか、と悩みながら町を歩いていた時の事
「…佳奈美?どうしたんだ?」
「ふぇ!?…あ、Hさん?」
「ふぇ!?…あ、Hさん?」
きっ、と車が佳奈美のすぐ傍で止まって…そこから、彼女の担当黒服であるHが、顔を出した
黒塗りの…何と言うか、怪しく見えなくもない車なのは、やはり、「組織」の黒服だから、だろうか
黒塗りの…何と言うか、怪しく見えなくもない車なのは、やはり、「組織」の黒服だから、だろうか
「今、帰るところか?なら送っていくぞ」
「え、いいの?」
「あぁ。今は、何かと物騒だしな」
「え、いいの?」
「あぁ。今は、何かと物騒だしな」
Hの言葉に、佳奈美はんー…と、考えて
確かに、近頃学校町は色々と物騒なのも、事実
Hの言葉に、甘える事にした
……まさか、車の運転中にセクハラなんて、そんな危険なことはしてこないだろう、うん
そんな希望を抱きつつ、車の助手席に乗せてもらった
シートベルトを絞めつつ、ふと、疑問に思った事を口にする
確かに、近頃学校町は色々と物騒なのも、事実
Hの言葉に、甘える事にした
……まさか、車の運転中にセクハラなんて、そんな危険なことはしてこないだろう、うん
そんな希望を抱きつつ、車の助手席に乗せてもらった
シートベルトを絞めつつ、ふと、疑問に思った事を口にする
「…って言うか、Hさん、車の免許持ってたんだ?」
「まぁ、一応仕事で使うこともあるからな。外回りの仕事ある奴は、免許持ってる奴多いぞ」
「まぁ、一応仕事で使うこともあるからな。外回りの仕事ある奴は、免許持ってる奴多いぞ」
ほら、と免許証を佳奈美に見せるH
それを見て、佳奈美はあれ、と首をかしげる
それを見て、佳奈美はあれ、と首をかしげる
「…「広瀬 宏也」…?」
「ん?…あー、お前には教えてなかったか。俺の人間としての名前だよ」
「ん?…あー、お前には教えてなかったか。俺の人間としての名前だよ」
車を発進させるH
佳奈美を乗せているせいか、安全運転だ
佳奈美を乗せているせいか、安全運転だ
「そっか………あ、それじゃあ。その…そっちの名前で呼んだ方が、いい?」
「うん?」
「その…Hさん、じゃなくて」
「うん?」
「その…Hさん、じゃなくて」
人間の、名前で
H、という、まるで記号のような…いや、記号そのものの呼び名では、なく
…人間の名前で
H、という、まるで記号のような…いや、記号そのものの呼び名では、なく
…人間の名前で
佳奈美のその言葉に…Hは、一瞬、複雑そうな表情を浮かべて
しかし、その表情は、決して佳奈美には見せない
そうすることで、己の本心すら、欺き続けるように
しかし、その表情は、決して佳奈美には見せない
そうすることで、己の本心すら、欺き続けるように
「ま、どっちでも好きな方で呼んでくれや。俺はどちらでも構わないからな」
「そ、そう?」
「そ、そう?」
そうさ、と気軽に返事を返すH
角を曲がろうとした、その時
角を曲がろうとした、その時
「-------っ!?」
「にゃっ!?」
「にゃっ!?」
がくんっ、と
車が、揺れた
一瞬、ハンドル操作を誤りかけ、電信柱にぶつかりかける
車が、揺れた
一瞬、ハンドル操作を誤りかけ、電信柱にぶつかりかける
「え、Hさん、大丈夫?」
「あぁ、だいじょ………!?」
「ど、どうしたの?」
「あぁ、だいじょ………!?」
「ど、どうしたの?」
…今の角は、無事曲がれた
だが
だが
「……心して聞けよ」
「すっごく嫌な予感がするよ!?」
「うん、まぁ予感的中な訳だが……ブレーキが効かねぇ」
「すっごく嫌な予感がするよ!?」
「うん、まぁ予感的中な訳だが……ブレーキが効かねぇ」
………
…………
……………
…………
……………
「えぇえええええ!!??そ、それって…」
「とりあえず、あれだ。しっかり捕まってろ」
「とりあえず、あれだ。しっかり捕まってろ」
佳奈美にそうつげ、ハンドルを切るH
交差点を飛び出してきた車とぶつかりかけたが、事なきを得る
…ついでに言うと、アクセルもおかしくなっているのだろうか
スピードが、勝手に上がり続けている
交差点を飛び出してきた車とぶつかりかけたが、事なきを得る
…ついでに言うと、アクセルもおかしくなっているのだろうか
スピードが、勝手に上がり続けている
「……っかしいな。さっきまで、普通にブレーキ効いてたんだが」
「で、でも、今は効いていないんだよね!?」
「あぁ、ついでに言うと………っ!?」
「で、でも、今は効いていないんだよね!?」
「あぁ、ついでに言うと………っ!?」
まただ
車とぶつかりかける
車とぶつかりかける
いや、むしろ
車が、こちらに迫ってきたような………?
車が、こちらに迫ってきたような………?
「…佳奈美」
「は、はい!?」
「今日、何か拾い物しなかったか?」
「ひ、拾い物!?」
「は、はい!?」
「今日、何か拾い物しなかったか?」
「ひ、拾い物!?」
ブレーキの効かない、スピードが上がり続ける車
とにかく、人のいない方向、いない方向へと走らせる
佳奈美の家からは遠ざかってしまうが、仕方ない
とにかく、人のいない方向、いない方向へと走らせる
佳奈美の家からは遠ざかってしまうが、仕方ない
「ほら、あからさまに呪われてそうな人形とか札とか」
「そんな怪しい物拾わないよ!?って言うか、そんなの見つけても見なかった事にするよ!?」
「OK、それからもそうしてくれ……と、なると、遠隔攻撃かそれとも…」
「そんな怪しい物拾わないよ!?って言うか、そんなの見つけても見なかった事にするよ!?」
「OK、それからもそうしてくれ……と、なると、遠隔攻撃かそれとも…」
いや
待てよ
拾っては、いなくとも…
待てよ
拾っては、いなくとも…
「…鞄の中でもポケットの中でも、下着の中でもどこでもいい!何か、入れた覚えのないもん入ってないか!?」
「少なくとも、下着の中にはないと思うよ!?」
「少なくとも、下着の中にはないと思うよ!?」
突っ込みつつ、慌てて鞄の中を調べ始める佳奈美
スプリングコートのポケットも探って、そして
スプリングコートのポケットも探って、そして
「…あ、あれ…何、これ…」
…それは
とある人気ゲームの、カードゲーム版の…とある、カード
そのカードから、明確な都市伝説の気配を
そして、悪意を感じて……Hは、ぞくりと悪寒を感じた
それは、決して、自分と佳奈美を意図的に狙った悪意ではなく
あくまでも…無差別にばら撒かれた、悪意
意図して狙われたのでないならば、その契約者が誰でもいい
まずは、この状況をどうにかしなければ
とある人気ゲームの、カードゲーム版の…とある、カード
そのカードから、明確な都市伝説の気配を
そして、悪意を感じて……Hは、ぞくりと悪寒を感じた
それは、決して、自分と佳奈美を意図的に狙った悪意ではなく
あくまでも…無差別にばら撒かれた、悪意
意図して狙われたのでないならば、その契約者が誰でもいい
まずは、この状況をどうにかしなければ
「貸せ、ってかこっち渡せ!」
「あ、う、うん!」
「あ、う、うん!」
佳奈美から、カードを受け取る
どこかかくかくとした、愛らしいキャラクターの描かれたそのカード
Hは、小さく苦笑した
どこかかくかくとした、愛らしいキャラクターの描かれたそのカード
Hは、小さく苦笑した
「お前さんに、罪はないんだがね」
……だが、悪いが
この事態の原因は、このカード
だから、Hは車の窓を開け放つと……ぺい、と
そのカードを投げ捨てた
人気のない北区の道
カードは風に流されて飛んでいき、すぐに見えなくなった
この事態の原因は、このカード
だから、Hは車の窓を開け放つと……ぺい、と
そのカードを投げ捨てた
人気のない北区の道
カードは風に流されて飛んでいき、すぐに見えなくなった
がっ!と強くブレーキをふむ
耳に悪い音を立てて……
…………車は、ようやく止まった
耳に悪い音を立てて……
…………車は、ようやく止まった
「佳奈美、大丈夫か?」
「う、うん…さっきのカードが、原因だったの?」
「あぁ」
「う、うん…さっきのカードが、原因だったの?」
「あぁ」
とある人気ゲームの、カードゲーム
それの、とあるカードを持っていると……交通事故で、死ぬ
そんな、都市伝説
どこから発生した都市伝説かは不明だが、確かに、そんなものもあるのだ
それの、とあるカードを持っていると……交通事故で、死ぬ
そんな、都市伝説
どこから発生した都市伝説かは不明だが、確かに、そんなものもあるのだ
「誰か、その都市伝説と契約している奴が、お前さんのコートのポケットにカードを入れたんだろ………あそこで、お前を拾っておいて良かった」
そうじゃ、なければ
佳奈美は、交通事故にあって…死んでいたかもしれない
あそこで、佳奈美と見つける事が出来た幸運に感謝する
佳奈美は、交通事故にあって…死んでいたかもしれない
あそこで、佳奈美と見つける事が出来た幸運に感謝する
………ズキリ
一瞬、体内に激痛が走った
無意識に、あのカードから都市伝説の気配を感じ取ろうとしたせいだろう
体内が…「組織」の黒服の能力を使ったことで、崩れ出す
けほ、とHは小さく咳き込みだした
一瞬、体内に激痛が走った
無意識に、あのカードから都市伝説の気配を感じ取ろうとしたせいだろう
体内が…「組織」の黒服の能力を使ったことで、崩れ出す
けほ、とHは小さく咳き込みだした
「だ、大丈夫?」
佳奈美の呼びかけに、咳き込みながら頷く
ピルケースを取り出し、中からどす黒い錠剤を取り出し、飲み干し
…何とか、吐血する前に、症状を抑える事に成功した
ピルケースを取り出し、中からどす黒い錠剤を取り出し、飲み干し
…何とか、吐血する前に、症状を抑える事に成功した
「…体。どこか、悪いの?」
じっと
佳奈美に見つめられ、Hは小さく苦笑する
……彼女にだけは、知られたくない
知られてはいけない
そう考え、軽く首を左右に振った
佳奈美に見つめられ、Hは小さく苦笑する
……彼女にだけは、知られたくない
知られてはいけない
そう考え、軽く首を左右に振った
「いや、別に。大丈夫さ」
「でも……」
「でも……」
……あぁ、頼むから
そんな顔を、しないでくれ
そんな顔を、しないでくれ
「…あのね」
「うん?」
「どこか、悪いなら…本当、無理、しないでね?」
「うん?」
「どこか、悪いなら…本当、無理、しないでね?」
見あげてくる、その表情に感じる罪悪感
佳奈美を騙している事に、強い罪悪感を感じるようになったのは、いつからだ?
佳奈美を騙している事に、強い罪悪感を感じるようになったのは、いつからだ?
「その、あのね……」
小さく、小さく、俯いて
佳奈美が…告げる、その言葉に
佳奈美が…告げる、その言葉に
「私、ね…「組織」で、あなたの事、聞こうと思ったの……何だか、体調悪そうだし。どこか悪いのかな、って思って…」
全身の血の気が失せたような
そんな感覚を、感じた
そんな感覚を、感じた
「…「組織」に行って、か?」
「う、うん…その、「組織」にどう行ったらいいのかわからなかったから、まだ、行ってなかったけど…」
「……そうか」
「う、うん…その、「組織」にどう行ったらいいのかわからなかったから、まだ、行ってなかったけど…」
「……そうか」
良かった、と
ほっと、Hはため息をつく
ほっと、Hはため息をつく
「本当に、俺は大丈夫だから。「組織」になんて行く必要ねぇよ」
「で、でも、今だって、何か、薬飲んで…」
「……大丈夫なんだ」
「で、でも、今だって、何か、薬飲んで…」
「……大丈夫なんだ」
一瞬
佳奈美は、己の身に起きた状態を、理解するのが遅れた
先ほどまで見えていたHの顔が、見えなくなる
温かい感触…以前、寒さで凍え死にそうになった時、感じたような
ぎゅう、と抱きしめられているのだと
気づいたその瞬間、佳奈美は耳まで真っ赤になる
佳奈美は、己の身に起きた状態を、理解するのが遅れた
先ほどまで見えていたHの顔が、見えなくなる
温かい感触…以前、寒さで凍え死にそうになった時、感じたような
ぎゅう、と抱きしめられているのだと
気づいたその瞬間、佳奈美は耳まで真っ赤になる
「あ、え」
「………だから、よ」
「………だから、よ」
…そして
Hが口にする、その言葉が、酷く弱々しいような、気がして
言葉を、飲み込んでしまった
Hが口にする、その言葉が、酷く弱々しいような、気がして
言葉を、飲み込んでしまった
「お前が、「組織」になんて行く必要ねぇよ…」
「え……そ、その」
「………行かないでくれ」
「え……そ、その」
「………行かないでくれ」
ぎゅう、と
しっかり、しっかり
強く、強く、抱きしめられて
しっかり、しっかり
強く、強く、抱きしめられて
「頼むから…お前は、これ以上「組織」に近づかないでくれ」
それは、懇願の言葉
「俺なんかの、為に……あんな場所に、行こうとしないでくれ」
頼むから
どうか、行かないでくれ
あそこには、まだ、悪意がたまりすぎている
佳奈美のような、何も知らない少女が、あんな場所に行ったら
強硬派や過激派に、おかしな事に利用されてしまう可能性が高い
どうか、行かないでくれ
あそこには、まだ、悪意がたまりすぎている
佳奈美のような、何も知らない少女が、あんな場所に行ったら
強硬派や過激派に、おかしな事に利用されてしまう可能性が高い
それだけは、それだけは
何としてでも、防ぎたい
あんな連中に、佳奈美を好きにさせて溜まるか
何としてでも、防ぎたい
あんな連中に、佳奈美を好きにさせて溜まるか
「「組織」になんざ行かなくとも、知りたい事があったら、俺が教えてやるから…だから。頼むから、「組織」には、行くな」
行かないでくれ
懇願の言葉を口にして、佳奈美を抱きしめるH
その表情は、佳奈美には見えなくて
懇願の言葉を口にして、佳奈美を抱きしめるH
その表情は、佳奈美には見えなくて
佳奈美は、どうしたら良いのか、わからず
…ただ
Hの体が、かすかに、震えているような気がして
…ただ
Hの体が、かすかに、震えているような気がして
………ぎゅう、と
その体を、落ち着かせるように…抱きしめ返したのだった
その体を、落ち着かせるように…抱きしめ返したのだった
この時
漏れ出した、Hの言葉は
全て、彼の嘘偽りない本音で
漏れ出した、Hの言葉は
全て、彼の嘘偽りない本音で
この時
Hが感じた、佳奈美への感情は
Hが目逸らし続け、自分を偽り続けてきた………その、真実の感情で
Hが感じた、佳奈美への感情は
Hが目逸らし続け、自分を偽り続けてきた………その、真実の感情で
それを、真正面から突きつけられて
Hの中で………作るつもりのなかった、未練が
確かに、生まれた
Hの中で………作るつもりのなかった、未練が
確かに、生まれた
生まれて しまった
to be … ?