それは、昔の話
『…こうして、ご先祖様は、小瓶の中の魔人の力を借りて、危機を脱出する事ができたのでした…』
和装の女性が、布団に潜る少女に、昔話を聞かせていた
この家に代々伝わる、昔話を
この家に代々伝わる、昔話を
『小瓶の魔人は、どうなったの?』
『ご先祖様が幸せになったのを見届けた後、小瓶の中に戻ったそうよ』
『ご先祖様が幸せになったのを見届けた後、小瓶の中に戻ったそうよ』
少女の問いに、女性はそう答えた
『魔人の入った小瓶は、どこにいったの?』
『今でも、この屋敷に保管されているのよ』
『………私も、その小瓶が見たい!』
『今でも、この屋敷に保管されているのよ』
『………私も、その小瓶が見たい!』
そう言って、布団から起き上がろうとした少女
しかし、女性によって、そっと布団に戻されてしまった
しかし、女性によって、そっと布団に戻されてしまった
『まだ駄目よ。あなたが大人になったら、見せてあげる』
『大人になるまで、待たなきゃ駄目なの?』
『大人になるまで、待たなきゃ駄目なの?』
不満そうな少女を宥めるように、寝かしつけるようにしながら
女性は、ゆっくりと続ける
女性は、ゆっくりと続ける
『魔人の小瓶は、この家に伝わる至宝。あなたが大人になって、日景家の次期当主候補となった、その時に、その小瓶の管理を託します。ですから、それまで我慢するのですよ?』
『……はぁい、お婆ちゃん』
『……はぁい、お婆ちゃん』
不満はあるようだったが、祖母の言葉には逆らえないのだろう
少女は渋々、引き下がるしかなかったのだった
少女は渋々、引き下がるしかなかったのだった
やがて、少女は小瓶の魔人の存在を信じなくなった
そんな者が存在するはずがない、と
そんな者が存在するはずがない、と
しかし、後に都市伝説と契約し、大人になろうとしていた少女は、小瓶の魔人が存在するかもしれないと考えるようになった
けれど、その時既に、少女は小瓶の魔人と出会う権利を失っていた
けれど、その時既に、少女は小瓶の魔人と出会う権利を失っていた
てちてちと、立派な日本庭園を少女……否、少年が駆ける
くるり、少年は振り返って、その人物がちゃんとついてきているかどうか、確認する
くるり、少年は振り返って、その人物がちゃんとついてきているかどうか、確認する
「翼にーちゃん、こっちだよー」
「っと……待てっての、武」
「っと……待てっての、武」
少年、武の後をついていっていた青年、翼は、和服に下駄と言う恰好にも関わらず、身軽に走るその様子に小さく苦笑した
慣れのせいなのだろうが、自分には、あぁ言う芸当は無理だ
和装やら下駄やらに、昔からてんでなじみがないのだ
…今にして思えば、母は意図して、その手の物を自分に買い与えていなかった気がする
恐らくは、この家での生活を、思い出さない為に
慣れのせいなのだろうが、自分には、あぁ言う芸当は無理だ
和装やら下駄やらに、昔からてんでなじみがないのだ
…今にして思えば、母は意図して、その手の物を自分に買い与えていなかった気がする
恐らくは、この家での生活を、思い出さない為に
「………」
一瞬、考え込み、しかし、すぐに振り払う
わかっているのだ、いつかは解決しなければならない問題であると
だが、今の翼には、その事までを考える余裕はなかった
……今は、ただ、学校町を騒がせている父親を、どう止めるか…それ以外のことを考えることは、難しい
家事をしている間や、アルバイトをしている間は、そちらに集中して、その事を忘れられるのだが
そのような時間が、いつまでも続く訳ではなく
結局、翼はまた、考え込んでしまうのだ
わかっているのだ、いつかは解決しなければならない問題であると
だが、今の翼には、その事までを考える余裕はなかった
……今は、ただ、学校町を騒がせている父親を、どう止めるか…それ以外のことを考えることは、難しい
家事をしている間や、アルバイトをしている間は、そちらに集中して、その事を忘れられるのだが
そのような時間が、いつまでも続く訳ではなく
結局、翼はまた、考え込んでしまうのだ
…自分の手で、父親を殺すしか、止める手段はないのだろうか、と
「……翼にーちゃん?」
ぺと、と
何時の間にか傍に来ていた武が、翼に脚にくっつく
…気づかぬうちに、脚を止めてしまっていたらしい
武が、心配そうに翼を見あげてくる
何時の間にか傍に来ていた武が、翼に脚にくっつく
…気づかぬうちに、脚を止めてしまっていたらしい
武が、心配そうに翼を見あげてくる
「どうしたの?どっか、痛いの?」
「…いや、なんでもない」
「…いや、なんでもない」
誤魔化すように笑ってやると、そう?と首を傾げてきた武
ぎゅう、と翼の手を握ってくる
ぎゅう、と翼の手を握ってくる
「ちゃんとついてこないと駄目なんだよ」
「わかったわかった。っと、引っ張るなって…」
「わかったわかった。っと、引っ張るなって…」
武に引っ張られていく翼
その間も、思考はただ……戦わねばならぬ父親の事で、占められていた
その間も、思考はただ……戦わねばならぬ父親の事で、占められていた
圧倒的な存在感を感じさせる、小瓶…その中の、都市伝説の気配
それに、黒服は内心、冷や汗をかいた
それに、黒服は内心、冷や汗をかいた
願いをかなえる魔人
…ランプの精が有名だが、そのバリエーションとして、小瓶に封じられた魔人の話も存在する
もっとも、小瓶の魔人で有名な話は、人間に恨みを抱く魔人が、漁師に騙されて再び小瓶に封じられる話だが…
……しかし、小瓶に封じられた魔人が、人間の願いをかなえると言う話が、ない訳でもない
そんな存在が、今、黒服の目の前にあった
…ランプの精が有名だが、そのバリエーションとして、小瓶に封じられた魔人の話も存在する
もっとも、小瓶の魔人で有名な話は、人間に恨みを抱く魔人が、漁師に騙されて再び小瓶に封じられる話だが…
……しかし、小瓶に封じられた魔人が、人間の願いをかなえると言う話が、ない訳でもない
そんな存在が、今、黒服の目の前にあった
…これほどの存在を、「組織」が今の今まで見逃して…
………いや
「組織」と言うものが出来上がる前から日景家はこの都市伝説を所有していたのだろう
黒服は、そう考えた
「組織」の歴史は、実際の所、あまり長くない
「薔薇十字団」や「教会」などと比べれば、その歴史はあまりにも短いのだ
「組織」ができる以前から、日景家がこの小瓶の魔人を所有し……隠匿し続けていたの、なら
「組織」がその存在を察知できていなくとも、おかしくはない
………いや
「組織」と言うものが出来上がる前から日景家はこの都市伝説を所有していたのだろう
黒服は、そう考えた
「組織」の歴史は、実際の所、あまり長くない
「薔薇十字団」や「教会」などと比べれば、その歴史はあまりにも短いのだ
「組織」ができる以前から、日景家がこの小瓶の魔人を所有し……隠匿し続けていたの、なら
「組織」がその存在を察知できていなくとも、おかしくはない
「…封印している、そう、仰いましたね?」
小瓶から感じるプレッシャーに抗いながら、黒服はそう、宗光に尋ねた
うむ、と宗光は頷いてくる
うむ、と宗光は頷いてくる
「『小瓶の魔人を起こすべからず。その夢を覚ますべからず。それが破られし時は、魔人自身が決める事』…そう、言い伝えられていましてな」
小瓶の中の魔人の眠りを守る事
小瓶の魔人を、日景家の者以外に渡してはならない
…それが、日景家当主が護るべき、勤めなのだと、宗光は言う
小瓶の魔人を、日景家の者以外に渡してはならない
…それが、日景家当主が護るべき、勤めなのだと、宗光は言う
「そのような貴重な物の存在を、何故、私などに知らせたのですか?」
「翼が、あなたの事を誰よりも信頼しているようだからな……それこそ、わしらよりも」
「翼が、あなたの事を誰よりも信頼しているようだからな……それこそ、わしらよりも」
黒服に、どこか羨ましそうな視線を向けて、そう言ってくる宗光
だが、その視線に混じっている感情は、羨むものばかりではない
…信用、してくれているようだ
だが、その視線に混じっている感情は、羨むものばかりではない
…信用、してくれているようだ
「ただ、この存在は内密に」
「翼に対しても、ですか?」
「…本来ならば、当主とその伴侶以外には、存在を隠しておかねばならぬものだからな」
「翼に対しても、ですか?」
「…本来ならば、当主とその伴侶以外には、存在を隠しておかねばならぬものだからな」
ただ、と
…宗光は、静かに続けた
…宗光は、静かに続けた
「もし……翼が、「都市伝説」の存在を知っているのならば…知らせても良いのでは、と、そう考えている。もっとも、この魔人と契約するという事に、考えがいたって欲しくはないが…翼なら、大丈夫だろう」
都市伝説との契約のことも、知っているのか
…もっとも、相手は願いかなえる魔人
この手の存在が人間に契約を持ちかけてくるのはよくある話だ
その存在が伝えられている家なら、知っていても、おかしくはない
…もっとも、相手は願いかなえる魔人
この手の存在が人間に契約を持ちかけてくるのはよくある話だ
その存在が伝えられている家なら、知っていても、おかしくはない
「…大門さんや」
じ、と
宗光と、千鶴が…まっすぐに、黒服を見つめ
そして、告げてくる
宗光と、千鶴が…まっすぐに、黒服を見つめ
そして、告げてくる
「翼の事、よろしく頼んだ。あの子は、あのろくでなしの娘のせいか、少々、世間から外れて生きようとしてしまう面はあるが…本当に、いい子ですので」
「…それは、私も認識しています」
「…それは、私も認識しています」
髪を染め、言葉づかいを荒くし、世間から外れるようにして生きていても
その、根っこの優しさまで、曲げてはいない
決して、曲がる事はない
……それが、翼だから
その、根っこの優しさまで、曲げてはいない
決して、曲がる事はない
……それが、翼だから
「たとえ、あなた達の言葉がなくとも…私は、あの子達を護ると、決めていますから
翼も、望も
大切な家族であり、契約者である二人を
必ず、護りぬいてみせる
大切な家族であり、契約者である二人を
必ず、護りぬいてみせる
以前は、命に変えても、とそう考えていた
だが、今は…共に生き続け、護り続けたいと
そう、強く願うのだ
だが、今は…共に生き続け、護り続けたいと
そう、強く願うのだ
黒服の言葉に、一瞬、宗光が複雑そうな表情を浮かべたのだが、黒服はそれには気づいていない
…くすり
千鶴が、小さく笑った
千鶴が、小さく笑った
「…本当、翼さんは良い人にめぐり合えましたね。お陰で、マドカに育てられ……いえ、あのロクでなしは翼さんをロクに育てもしなかったようですが、それでも、真っ直ぐに育ってくれたのでしょう」
「そうだな………マドカには、もっと、子供との接し方と言うか、育て方を教えるべきだった
「そうだな………マドカには、もっと、子供との接し方と言うか、育て方を教えるべきだった
ふぅ、と
ため息をついた、宗光と千鶴
千鶴は、そっと、魔人の入った小瓶を再び布で包みだしていた
…小瓶が視界から消えた事で、少し、圧迫感が消える
ため息をついた、宗光と千鶴
千鶴は、そっと、魔人の入った小瓶を再び布で包みだしていた
…小瓶が視界から消えた事で、少し、圧迫感が消える
「…あんな母親だと言うのに…母親と呼ばれる資格すら、危ういと言うのに。翼は、あんな事を頼んできたのだからな」
「……そうですね…翼さんの思いを無駄にしない為にも、私たちも、もう少し丸くなるべきなのかもしれませんが……」
「……?どう言う事ですか?」
「……そうですね…翼さんの思いを無駄にしない為にも、私たちも、もう少し丸くなるべきなのかもしれませんが……」
「……?どう言う事ですか?」
宗光と千鶴の言葉に、小さく首をかしげる黒服
千鶴は、困ったように微笑み、言って来る
千鶴は、困ったように微笑み、言って来る
「初めて、この日景家に来た時…翼さん、私たちがマドカを勘当したときの話を聞いて………私達に、頼んできた事が、あるのですよ」
…この時、語られた、その内容が
黒服の、マドカに対する態度を、ほんの少し、軟化させるに至った事に
翼が気づくのは、まだ、もう少し先の話
黒服の、マドカに対する態度を、ほんの少し、軟化させるに至った事に
翼が気づくのは、まだ、もう少し先の話
「…願いかなえる魔人、なぁ」
日景家から、戻ってきて
黒服から小瓶の魔人の話を聞いて、翼は考え込む
黒服から小瓶の魔人の話を聞いて、翼は考え込む
「宗光さん達が仰るには、朝比奈 マドカは、一応、その話を祖母から……翼から見れば、ひいお婆さんになりますね。その方から、昔話として聞かされていたそうなのですが。翼は、彼女からその話を聞いたことは?」
「…いや、ねぇな。あったかもしれないけど、覚えてねぇや」
「…いや、ねぇな。あったかもしれないけど、覚えてねぇや」
小さく、首を左右に振る翼
…残酷な事を聞いてしまった、と黒服は後悔する
そもそも、マドカから母親らしい事をほとんどされなかった翼だ
親から寝物語を聞かされる経験も、ないだろう
…残酷な事を聞いてしまった、と黒服は後悔する
そもそも、マドカから母親らしい事をほとんどされなかった翼だ
親から寝物語を聞かされる経験も、ないだろう
「…申し訳ありません」
「だ、大樹が謝る事ねぇよ」
「だ、大樹が謝る事ねぇよ」
謝罪してきた黒服に、慌ててそう言った翼
…そして、ふと、心配になったのか
やや不安そうに、黒服に尋ねる
…そして、ふと、心配になったのか
やや不安そうに、黒服に尋ねる
「…なぁ……その、小瓶の魔人の話。親父は、知ってると思うか?」
「……わかりません………朝比奈 マドカが、その話を彼にした事があるかどうか。そこにかかってしますが…」
「……わかりません………朝比奈 マドカが、その話を彼にした事があるかどうか。そこにかかってしますが…」
…彼女の場合、酔った勢いで話してしまって、それを忘れている可能性も捨てきれない
つまり、朝比奈 秀雄が、願いをかなえる魔人の存在を、把握している可能性は、ある
つまり、朝比奈 秀雄が、願いをかなえる魔人の存在を、把握している可能性は、ある
……そうなると
朝比奈 秀雄が、日景家の実権を、握ろうとしているのだと、したら
その理由には、たあd、表向きの権力を手に入れることだけではなく
…小瓶の魔人を手に入れること
それも、理由に入っている可能性がある
朝比奈 秀雄が、日景家の実権を、握ろうとしているのだと、したら
その理由には、たあd、表向きの権力を手に入れることだけではなく
…小瓶の魔人を手に入れること
それも、理由に入っている可能性がある
むしろ
それが、狙いだと、すれば
ここまで執拗に翼を狙う理由に、説得力が出来てしまう
それが、狙いだと、すれば
ここまで執拗に翼を狙う理由に、説得力が出来てしまう
「…大樹。爺ちゃん達、親父に狙われたりしないだろうか…?」
「……念のため、「薔薇十字団」に、日景家の人間の護衛を頼んで見ます。「組織」には、小瓶の魔人の存在を隠す意味でも、頼めませんから…」
「…わかった。ありがとう」
「……念のため、「薔薇十字団」に、日景家の人間の護衛を頼んで見ます。「組織」には、小瓶の魔人の存在を隠す意味でも、頼めませんから…」
「…わかった。ありがとう」
礼を述べてきた翼に、むしろ、それくらいしかできない事を謝罪したくなった黒服
しかし、口を開こうとした、その時……携帯に、着信が入った
すみません、と一言告げてから、電話にでる
この番号は…Tさんからだ
しかし、口を開こうとした、その時……携帯に、着信が入った
すみません、と一言告げてから、電話にでる
この番号は…Tさんからだ
「…Tさん?どうかなさったのですか?」
『あぁ、少々話が………朝比奈 マドカ。今、彼女がここにいてな』
「-------っ」
『あぁ、少々話が………朝比奈 マドカ。今、彼女がここにいてな』
「-------っ」
何という、タイミングだろう
昼間、翼の祖父母から、あんな話を聞かされた、その後にとは
黒服の反応に、首を傾げてきた翼に、苦笑してみせる
昼間、翼の祖父母から、あんな話を聞かされた、その後にとは
黒服の反応に、首を傾げてきた翼に、苦笑してみせる
「……いえ、何でもありませんよ、翼………Tさん、少々、お待ちください」
…話が少しでも、翼に漏れたくない
あんな話を聞いた後ではあるが…翼は、朝比奈 秀雄のことで、精神的に負担を抱えている最中だ
その最中に、朝比奈 マドカのことまで考えさせたくない
あんな話を聞いた後ではあるが…翼は、朝比奈 秀雄のことで、精神的に負担を抱えている最中だ
その最中に、朝比奈 マドカのことまで考えさせたくない
翼に、話が聞こえないよう部屋を移動して…黒服は、話を再開させる
「…失礼………朝比奈 マドカが、どうかしましたか?」
『彼女と、会って話してもらいたい事があるのだが』
『彼女と、会って話してもらいたい事があるのだが』
…Tさんからの、その提案に
黒服は、動揺を覚えながらも、それを押し隠し………宗光達から聞いた話の事も考えながら
冷静を装い、対応していったのだった
黒服は、動揺を覚えながらも、それを押し隠し………宗光達から聞いた話の事も考えながら
冷静を装い、対応していったのだった
…まだ、その時には早い
それでも、いつかはその時を迎えなければならない
その事実に、悩みながら
それでも、いつかはその時を迎えなければならない
その事実に、悩みながら
to be … ?