かさかさ、かさかさ、かさかさかさ
蜘蛛が走るよかさかさかさ
おやおや坊や、どうしたの?
怖がらなくても大丈夫
蜘蛛はどこにだっている
だから
蜘蛛が走るよかさかさかさ
おやおや坊や、どうしたの?
怖がらなくても大丈夫
蜘蛛はどこにだっている
だから
いつでも見られているんだから
今更怖がる必要なんて、ないんだよ??
今更怖がる必要なんて、ないんだよ??
……それは、ハーメルンの笛吹き契約者 上田 明也が、日本に戻る少し前の事
「………ん?」
視線を、感じた
覚えのある視線だ
そう、以前、一度感じた事のある視線
覚えのある視線だ
そう、以前、一度感じた事のある視線
部屋の中を見回す
メルも穀雨も、今はもう寝ている時間だ
一応警戒しながら、その視線の主を探し
メルも穀雨も、今はもう寝ている時間だ
一応警戒しながら、その視線の主を探し
「…また、お前か」
かさかさ
壁を這いまわる、一匹の蜘蛛を見つけた
壁を這いまわる、一匹の蜘蛛を見つけた
「俺は蜘蛛が苦手だって言ったろ。今度こそティッシュで潰して捨てるぞ」
『OK、落ち着け。俺がちょいと意識を借りているだけの罪のない蜘蛛だから、無駄に殺すなって』
『OK、落ち着け。俺がちょいと意識を借りているだけの罪のない蜘蛛だから、無駄に殺すなって』
頭に響いた声
…テレパシーか
意識を借りている、という言葉から、蜘蛛に変身して入り込んだのではなく、たまたま部屋の中か、それとも傍にいた蜘蛛の意識に接続しているという事か
……以前、蜘蛛の姿で現れた時も、あれはただの蜘蛛を媒介にしていただけにすぎないのかもしれない
…テレパシーか
意識を借りている、という言葉から、蜘蛛に変身して入り込んだのではなく、たまたま部屋の中か、それとも傍にいた蜘蛛の意識に接続しているという事か
……以前、蜘蛛の姿で現れた時も、あれはただの蜘蛛を媒介にしていただけにすぎないのかもしれない
イクトミ
アメリカの、主にスー族の民話に頻繁に登場する蜘蛛の神であり、ネイティブアメリカンの神話を代表するトリックスターの1人
以前、上田の前に愉快な理由で現れ、何となく上田と気があった相手である
アメリカの、主にスー族の民話に頻繁に登場する蜘蛛の神であり、ネイティブアメリカンの神話を代表するトリックスターの1人
以前、上田の前に愉快な理由で現れ、何となく上田と気があった相手である
「何の用だ?っつか、できれば人間の姿をとって欲しいんだが」
『いやー、そうしたいのは山々なんだが……今、俺の本体はワイフによって拘束されている。そっちに行くの無理』
「何やった。何やって拘束された!?」
『いい事を教えてやろう。男たる者、たとえワイフがいようとも、据え膳を食わずにいられるか』
『いやー、そうしたいのは山々なんだが……今、俺の本体はワイフによって拘束されている。そっちに行くの無理』
「何やった。何やって拘束された!?」
『いい事を教えてやろう。男たる者、たとえワイフがいようとも、据え膳を食わずにいられるか』
駄目だ、このエロ蜘蛛神
早く何とかしないと
早く何とかしないと
『ま、そう言う訳で、用件だけ言うな…………尾なしの犬に気をつけろ』
「……尾なしの犬?」
「……尾なしの犬?」
イクトミの言葉に、眉を潜める上田
かさかさ、かさかさ
イクトミの意識を宿した蜘蛛は、そんな上田の様子を気にすることなく、這いまわっている
かさかさ、かさかさ
イクトミの意識を宿した蜘蛛は、そんな上田の様子を気にすることなく、這いまわっている
「どう言う事だ?」
『さぁてね?俺にわかるのは、お前が日本に帰った時……それが、お前にとって不吉な存在になりうる、って事だけだな。命に関るかどうかは確定事項じゃないからわからねぇ』
『さぁてね?俺にわかるのは、お前が日本に帰った時……それが、お前にとって不吉な存在になりうる、って事だけだな。命に関るかどうかは確定事項じゃないからわからねぇ』
…卑猥な伝承が多いイクトミだが、しかし、こんな言い伝えも存在する
それは、白人の圧迫が強まってきた頃に成立したとされる民話だ
イクトミは、風に乗って各地の部族の間を飛び回り
それは、白人の圧迫が強まってきた頃に成立したとされる民話だ
イクトミは、風に乗って各地の部族の間を飛び回り
『白い座頭虫がやってくる。彼らは嘘吐きで、強欲で、途中の全ての部族を食いつくし、土地をむさぼりながら、ゆっくり進み、お前たちも踏みつけにするだろう』
という、警告のメッセージを流したのだ
それは、即ち…白人の襲来を予知するような、言葉
なお、この言葉は、スー族の英雄的酋長が晩年に残した呪詛と、申し合わせたようにぴったり符号しているとも言う
それは、即ち…白人の襲来を予知するような、言葉
なお、この言葉は、スー族の英雄的酋長が晩年に残した呪詛と、申し合わせたようにぴったり符号しているとも言う
…その話の曲解か、と上田は判断した
軽い予知能力のようなものを持っているのだろう
それを使って、上田のなんらかの危険を感知したようだ
軽い予知能力のようなものを持っているのだろう
それを使って、上田のなんらかの危険を感知したようだ
「警告感謝するがね。どうして、俺にそんな警告を?お前は「組織」の者なんだろう?俺は敵じゃないのか?」
『ま、確かに俺は「組織」所属ではあるが、まぁ、この通りいい加減なんでね。別にお前を殺すつもりもないしそんな能力もないしな』
『ま、確かに俺は「組織」所属ではあるが、まぁ、この通りいい加減なんでね。別にお前を殺すつもりもないしそんな能力もないしな』
かさかさかさ
蜘蛛が……じ、と上田を見つめる
蜘蛛が……じ、と上田を見つめる
『それに……………お前みたいな奴は、生かしていた方が面白そうだし?』
「酷い奴だな」
「酷い奴だな」
イクトミが笑った気配が、伝わってくる
『ま、そう言うなって』
「…できれば、その尾なしの犬のことは詳しく聞きたいんだがな」
『そうだなー。つっても、俺も詳しくは感知しきれてな………………あ、やべ、意識が本体にないのバレ……………っ』
「…できれば、その尾なしの犬のことは詳しく聞きたいんだがな」
『そうだなー。つっても、俺も詳しくは感知しきれてな………………あ、やべ、意識が本体にないのバレ……………っ』
-----っふ、と
唐突に…テレパシーが、切れた
唐突に…テレパシーが、切れた
かさかさ
蜘蛛は、先ほどまでの動きと違い…上田の視線を避けるように、逃げ出し始める
蜘蛛は、先ほどまでの動きと違い…上田の視線を避けるように、逃げ出し始める
「…あれ?おい、中途半端なところで切るなっ!?」
蜘蛛にそう訴えるが、蜘蛛はかさかさかさかさかさかさ
…部屋の隅に、逃げ込んでしまった
あの蜘蛛の中に、もはやイクトミの意識は、ない
…部屋の隅に、逃げ込んでしまった
あの蜘蛛の中に、もはやイクトミの意識は、ない
「…………まったく」
中途半端な予言ほど、たちの悪いものはない
上田は小さくため息をつきながら、夕蜘蛛は親でも殺せ、との事で、そっとその蜘蛛をつぶしたのだった
上田は小さくため息をつきながら、夕蜘蛛は親でも殺せ、との事で、そっとその蜘蛛をつぶしたのだった
fin?