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連載 - 恐怖のサンタ-x25

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uranaishi

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 25



 灰すら残さずに消滅した天使。
 その結果に驕るような事はせず、朝比奈は満足したように目を少しだけ細めた。
 次は、あの化け物の番だ。
 あの忌々しい化け物は、どうしてくれようか。
 天使のように一撃で葬り去るか、死ぬ前に毒で散々苦しめるか。
 朝比奈は、高ぶる感情のままに考えを広げ、再びビルの中へと視線を戻した。

(…………何だ?)

 そして、気づいた。
 誰かが、いる。
 朝比奈と翼たちとを繋ぐ直線状に、朝比奈の知らない少女が浮いていた。
 赤いワンピースが、風に揺られてはためいている。
 それが誰か、などという無駄な思考に朝比奈は時間を裂かなかった。
 少女は、翼を朝比奈の目から遮るように目の前に立ちふさがっている。
 それだけで理由は十分だった。
 朝比奈は、天使を殺したときと同じように息を吸い込み、体内で炎を練り上げる。
 その先に居る翼のために若干の手心を加えるつもりだったが、小柄な少女を吹き飛ばすには十分な威力だろう。
 少女は何か言い出そうと口を開いていたが、朝比奈はそれを無視した。
 まだ名も知らぬ少女に対して、朝比奈がその遺言を聞く理由も、そのためにわざわざ少女を延命させてやる理由も、ない。

「初めましてお義父様! 私マゾと申しまして――――」

 どこか少女の言葉に引っかかりを覚えたが、朝比奈はせり上がって来る火炎を眼下の少女へと吹きつけようとして。

「――――はりゃ?」

 突然、少女の肌が変色した。
 日焼けでもしたかのような、淡い緋色。
 その全身を覆う朱は、やがて黒く塗りつぶされていく。
 焼け焦げていく少女の身体。
 少女の驚いたような表情を見て、朝比奈はその現象の真因が少女では無い事を悟った。
 そして少女でないとすれば、その発生源は一つに絞る事ができる。
 「日焼けマシンで人間ステーキ」。その能力を行使できる人間は、この場にひとりしか居ない。
 しかし、なぜ、今彼がその力を眼前の少女に向けて使っているのか。
 そこまで考え、朝比奈は不審げに眉を潜めたが……もはや、喉元まで出掛かった炎を止める術は、なかった。
 次の瞬間、少女の身体が外側からも劫火の濁流に飲まれ、文字通り「蒸発」した。

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「…………遅かったか」

 山田が現場に到着したのは、マゾが焼き尽くされた少し後の事だった。
 もはや建物としての用を成していないビルへと入ると、マドカが見知らぬ男二人と共に佇立しているのが目に入ってくる。
 走り込んで来た山田を目で捉え、マドカはどこか驚いたような、困ったような顔をした。
 男二人は、どこか警戒した視線を山田に投げかけている。

「おや、あんたかい……今、あんたんとこの子が来てたんだけどね」
「ああ、見てた」
「そうかい、いや、わるいねぇ。うちの馬鹿共が二人揃ってあんな事をしちゃって」
「いや……問題ないだろ、多分」
「ですが、あんな状況になって生きていられるとは……」
「あんなんで死ぬんなら、誠や直希がわざわざ相談になんてしねぇよ」

 心配そうな表情をしている黒服の男の隣に立った青年は、苦々しげにマゾの消え去った後を見つめていた。
 その先では、ドラゴンが新たに増えた『敵』に対して憎悪の視線を向けている。
 ――――そして。
 そのドラゴンの頭の上には、なぜか蒸発したはずのマゾが乗っかっていた。

「…………何やってんだあいつ」
「知るか。知りたくもねぇ」

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 朝比奈は、確かに目の前の少女を殺したと思っていた。
 摂氏に換算すれば一体何度になるのかも分からないような、そんな灼熱の炎を受けて生き残れるはずがない。
 ましてや、事情こそ不明だが、同時に別方向からも同種の攻撃を受けて生き残るなど、本来ならば死んで当たり前。むしろ生き残っていたら不自然な程であるはずだった。

 しかし今、朝比奈の背には少女が乗っている。
 何の能力を使ったのか、その身体には傷一つ、埃一欠けらすらついていなかった。
 まるで、数秒前の少女が時間を越えて目の前に現れたかのような錯覚。
 といって、先の天使のような量産品ではないだろうと、朝比奈は思った。
 目を見れば分かる、なんてそれ自体が都市伝説的行為なのかもしれないが、少なくともついさっき見た少女はちゃんと自我を持っていたように思える。
 つまり、何らかの幻覚系の能力か、高速で移動してその場を逃れたか、はたまた本当に「再生」して死から蘇ったかしたのだろう。

 少女は、朝比奈の背で密かに何か作業をしている。
 朝比奈は、少女が彼の背に乗る前から、その存在に気づいていた。
 何らかの空間移動能力でその背に向かう存在を、確かに感じていたのだ。
 しかし、朝比奈はそれを振り払おうとはしなかった。
 それは何も、少女に対する興味や同情からの行為ではない。
 少女が死んだと思っている朝比奈を出し抜こう……そんな事を考えているだろう少女の幻想を、最大限その効果を発揮できる場面で壊してやろうと言う、そんな残酷な加虐心から来たものである。

 しかし……少女は一体、何をしているのか。
 先ほどから背の鱗に身体を擦り付けてうはーとか言ったり、やひゃーとか言ったり、その行動にある程度の人目を憚る風はあるのだが、どうにも「隠そう」という意思が見られない。
 朝比奈には、この少女の思考回路が全く理解できなかった。

「いやー、さすがはドラゴン。こんなざらざら、人口のものでは中々――――わひゃぁっ!?」

 そして、理解できないものは早々に駆逐するに限る。
 朝比奈は、その巨体の右半身ををビルの中へと沈めるように、斜めに傾げた。
 当然、その上に乗っていた少女は重量に逆らえるはずもなく、朝比奈の上を転げ落ちていく。
 ……いや、本当ならば先ほど見せたような空中浮遊の能力を少女は持っていたのだが、あえて彼女はそれを使わなかった。
 単にそれは、彼女の願い。
 肌理の粗い鱗の上を転がる際に走る衝撃に悦びを感じた、変体の欲望である。
 もちろん、永遠にその上を転がり続ける事はできない。
 朝比奈の背を下り、尾を下り、少女はついに宙へと放り出された。
 ただ、それは少女にとって想定内のこと。
 すぐに浮遊能力を使って、少女は宙に停滞しようとして。

「――――はれ?」

 少女はようやく、すぐ目の前に竜の尾が迫ってきている事に気がついた。

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「…………豪快に飛ばされたなぁ」
「大丈夫、なんでしょうか……?」
「アレが死んだら世界が少し平和になる。影響としてはそんなとこだろ」

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 …………今度こそ、本当に、殺せたと、思っていたのだが。

「いやいやいやー、そういえばまだ挨拶が済んでいませんでしたねお義父様。私マゾと申しまして翼様とは三ヶ月ほど前からお付き合いをさせて頂いておりましてですね――――」

 朝比奈の背中の上で、少女が三つ指をついて座っていた。
 この少女の体重からも、先ほどの尾の威力からも、どう考えてもその飛距離は一日や二日で戻ってこられるようなものではなかったはずだ。
 それなのに、少女はここにいる。
 怒りを通り越して、朝比奈はどこか冷静に少女を眺めていた。
 今までの事を考え、少女に最も有効な手立てを考案する。
 ――――傷をつけても、無意味。
 ――――遠くへ飛ばしても、戻ってくる。
 ――――ならば。
 ならば、毒で冒せば、どうなるのだろうか。

「翼様との馴れ初めはクリスマスでしてね…………ああいやすいません、これは誠様と直希様でした。ああ、この御二方はですね――――」

 首を巡らせ、背の上で延々と離し続ける少女を見やる。
 そして、そっと少女に猛毒の息を、吹きかけた――――

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 空から、赤い何かが降って来た。
 ビル四階分の加速度を得て地面へと墜落してきたソレは、ぐしゃりと嫌な音を立てて落下する。
 つい先ほど別の少女二人によっても行われた、コンクリート版リアル犬神家。
 詩織が同じような状況になっていた事を知らず、ぴくぴくと痙攣しているソレ――マゾを見て、青年は顔を顰めた。

「…………そういやあの糞親父、毒も使うんだったか」
「あぁ、そういえばマゾ、毒には耐性持ってないんだよなぁ」

 マゾの身体は、「傷つかない」のではない。
 「傷ついた身体が、自動で元の状態に戻る」のである。
 だから傷が大きければ大きいほどそれだけ再生は遅れるし、毒のように少しずつ身体を蝕んでいくタイプでは、毒そのものが抜けきるまでもがき苦しむ事になる。
 不死身とされるマゾの弱点、それが毒だった。

「……まぁ、マゾはその内起き上がるからいいとして」

 哀れなマゾを視界から外し、山田は頭上を見上げた。

「問題は、こっちだよなぁ…………」

 マゾが無闇に接触を試みた男、朝比奈 秀雄。
 今は巨大なドラゴンを形取っている彼は、山田たちを怒りに満ちた目で睨んでいた。

【続】


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