「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 悪意が嘲う-15

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だれでも歓迎! 編集
 笑い声が聞える
 化け物の笑い声が
 耳障りだ、笑うな
 貴様は、ただ、私の役に立てば良い

 その為だけに、私は貴様と契約したのだから
 その為、だけに

 私は今を捨て、過去を取り戻す事に、決めたのだから






 じゅるり、じゅるり
 悪魔の囁きの7つの首の一つは、マゾの喉笛に噛み付き、そこから「欲望」と言う名の栄養素を吸い上げ続けている
 …このままでは、一撃で消滅でもさせない限り、悪魔の囁きはいくらでも再生を続けてしまう
 そんな状態が続けば、いかに朝比奈 秀雄がその年齢に似合わぬ強靭な肉体を得ていたとしても、体が持たなくなる

 黒服は、マゾを咥えている首を狙って、光線銃を放った
 が、それは悪魔の囁きの表面を軽く焼いただけで…すぐに、その傷は再生を始めてしまう
 光線銃程度の攻撃では、既に悪魔の囁きは怯まなくなっている

 けたけたと、不気味に笑い続ける悪魔の囁き
 それは、朝比奈 秀雄を攻撃から護り、かつ、近づく者に自分からも攻撃を仕掛けてくる
 …もはや、悪魔の囁きの本質からも、外れた存在になりつつあっていた
 既に朝比奈から離れたとは言え、「黄金伝説」のドラゴン達と多重契約していた影響が、悪魔の囁きにも出た結果なのかもしれない
 うねりながらけたけた不気味に笑う姿は、竜と悪魔が混ざり合ったような、奇妙な印象を与えてくる

『サァサ、ゴ主人様、遠慮ナク戦ッチマエェエエ!!』
「…煩い、喋るな。貴様はただ、私の盾になっていろ…!」

 己が契約している存在に、やや苛立ちを感じた様子の声をあげながら、朝比奈は自分を取り囲む者達を殲滅しようと、戦い続ける
 身体能力を強化させている望や詩織の攻撃すら避け、受け止め、逆に鋭い攻撃を放ち続ける
 応戦する側も、いまだ致命的な一撃こそ受けていないが、このままでは力に押し切られてしまう

 咥えられているマゾサンタを、どうにか引き剥がさなければ………事態は、好転しそうにない

「ったく、どこまでも厄介な…!」

 翼のそのボヤキは、果たして朝比奈に向けられたものだったのか、それとも、マゾに向けられたものだったのか
 「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力を発動し、悪魔の囁きを睨みつけながら、朝比奈の懐にもぐりこんでいく
 狙いは、マゾを咥えている、首
 …決して、マゾを助けようという考えからではない
 いや、結果的にはそうなるのだが…単に、悪魔の囁きの再生を止めるという目的のみでの、行動だ
 触れただけで……いや、近づいただけで、重度の火傷を負いそうな程までの高温に達した翼の拳が、マゾを咥えている悪魔の囁きの、顎を捕らえた

 じゅうっ!!と、ゴムが焼けるような不快な臭いが辺りに立ち込めた
 そのまま、首を焼き切ろうとするように、マゾを咥えた首の頭の付け根に手刀を浴びせる
 ずぷ、と、まるでバターでも切っているかのように、翼の手刀が、マゾを咥えた悪魔の囁きの首に食い込んでいって…

『---甘ァアアアアアアアイ!!!!!』
「っんな!?」

 ぐるり、と
 別の首が、翼の体に巻きつき、捕らえた
 じゅぅううううううう………!と、鉄をも溶かすほどの高温に達している体に巻きついた事で、激しくダメージを負いながらも、悪魔の囁きは翼を離さず、がっちりと巻きついて動きを封じてくる

「……お前は、そこで大人しくしていろ」
「っの、糞親父……!?」

 朝比奈を睨みつけ、巻き付く首から逃れようとする翼
 しかし、巻きついてきている首は焼かれるダメージを物共せずけたけたと笑い、翼を見下ろしてくる

『暴レルナヨォ?オ前ハ、ゴ主人様ノ願イヲ叶エル為ニ、必要ナンダカラナァ!?』
「ッ誰が、糞親父なんかのために……っ」
『ソウ言ウナヨォ?ゴ主人様ニトッテハ、人生捨テテノ決断ナンダカラヨォ!!』

 けたけたと、悪魔の囁きはどこか意地悪く笑い
 そして、続ける

『俺ト契約スルマデハ、今ノ状態ニ……オ前ヤ、アッチニ居ル女トヤリ直ス事モ、考エテタミタイダケドヨォ……願イヲ叶エル手段ガアルンダッタラ、ヤッパリ、ソレヲ諦メタクハナインダッテヨォ!!』
「………っ!?」

 悪魔の囁きが口にした、その内容に
 一瞬動揺したように、翼は動きを止めた

 Tさんや望、詩織の攻撃を、朝比奈を庇って受け止めながら、悪魔の囁きは笑い続けている

『…願イヲ叶エル存在。ソンナモンガアルナラ、手ニ入レタイダロォ?ゴ主人様ハ、ソンナ存在ガアル事ヲ知ッテモ、モウ手ニ入レルノハ不可能ダッテ諦メテタケドナァ…
 …俺ガ力貸スッテ言ッタラ、未練ガ戻ッタミタイデヨォ!!復讐心モ、折角抱タイノニ忘レヨウトシテ、勿体ナカッタカラナァ!!願イヲ叶エテ、復讐モ果タス。ソレガ出来タラ最高ダロォ!?』
「………余計な事は喋らなくていい、化け物」

 5円玉のチェーンを避けながら、忌々しげにぼそりと呟く朝比奈
 ハイヨ、とけたけた笑い…悪魔の囁きの、その翼に巻きついている首の先端、頭が……にゅう、と翼の顔に近づき、覗き込んでくる

『オ前ニモ、叶エタイ願イガアルンジャナイノカァ?折角ダカラ、オ前モコッチニ来イヨォ。魔人ニ、願イヲ叶エテモラオウゼェ?』
「……俺、は」

 叶えたい願い
 それを指摘され、動揺が走る

 そんな願いが、ない訳ではない
 「小瓶の魔人」の話を聞いた時、心が揺れ動かなかった訳ではない
 願いを叶える手段が……どんな願いでも叶える存在が、あるのだとしたら
 そんなものが、存在すると聞かされたなら
 人は、心動かさずには、いられないから

 けたけたけたけたけたけたけたけた
 間近で聞えているはずの悪魔の囁きの不気味な笑い声が
 なぜか、酷く遠くで響いているように、翼には聞えた



「翼っ!」

 悪魔の囁きの長い首に巻きつかれた翼を助けようと、そちらに駆け寄ろうとする黒服
 しかし、急接近してきた朝比奈に邪魔され、それは叶わない
 繰り出される攻撃を、セレスタイトの結界で防御
 続けて襲い掛かってきた悪魔の囁きの首二本の攻撃も、同じ結界で防いだ

 視界の端を、小さな手鏡が弧を描いて飛んでいく
 朝比奈の真上に放り投げられたその手鏡から、望の5円玉のチェーンが襲い掛かる

 だが、朝比奈は人間離れした動きで、それを避けた
 望の能力をある程度把握しているのだろうか
 決して、望の能力をくらわないようにしている

「あぁ、もう、まだるっこしいわね……!ちょっと、そこのちっちゃいの。あんた、悪魔の囁きなら、あれの部下よね!?」
『チッチャイノ言ウンジャネェヨちびっこ!ソレト、俺様ハモウアンナ野郎ノ部下ジャネェ!!』
「っそれじゃ駄目じゃないの、役立たず!!」

 ヤカマシイ!と山田の頭の上から、望の暴言に抗議するデビ田
 とは言え、山田にしがみ付くのに必死で、その抗議にすら集中できていないようだが

「…黒服さん、このままでは、キリがない。いざとなれば、朝比奈 秀雄もろとも、撃ち抜く事も視野に入れなければならないが…」
「………「黄金伝説」のドラゴンを無理矢理引き剥がした反動のある身に、これ以上のダメージは与えたくありませんが…」

 Tさんの言葉に、スーツの内側からパワーストーンを取り出しつつ、そう答えた黒服
 …朝比奈の様子を見る限り、悪魔の囁きによる無理な身体能力強化が、さらにその体にダメージを与えているようにも見えた
 できれば、悪魔の囁きだけをどうにかしたいところだが…

「あれほどの事をした相手でも、まだ、同情できるか」

 黒服の返事に、小さく苦笑しながら、そう言って来たTさん
 悪魔の囁きが放り投げてきた瓦礫を、白い結界が防ぐ

「………彼の運命を捻じ曲げ、悪事へと走らせた、原因は……………「組織」、ですから」

 かすかに俯き、そう答えた黒服
 軽く頭を振り、思考を振り払うと、取り出したパワーストーン…ガスピアイを、舞達の方へと放り投げた
 ぱし、と、リカちゃんがそれをキャッチする

「舞さん、それをマドカさんに!蝦蟇の油程の即効性はありませんが、傷を癒します!」
「わかった!」

 出来れば、そちらにまで攻撃が届かないようにはするつもりだが、いざとなれば身動きとりにくい状態は危険すぎる
 マドカの治療を舞に任せ、黒服は改めて、朝比奈に巻き付く悪魔の囁きを睨み付けた
 けたけたけた、けたけたけたけたけたけたと笑い続けている悪魔の囁き
 7本の首のうち、一本はマゾを咥え欲望を吸い上げ続け
 一本は、翼に絡みつき、何やら囁きかけてけたけた笑っている
 残り5本の首が、攻撃と、朝比奈のガードに回っている状況だ
 たとえ首を切り落としても、一本の首がマゾから欲望を吸い上げ続けている限り、即座に再生する

 つまりは、先ほど翼が試みたように、マゾを咥えている首を落とせばいいのだ
 だが、それも中途半端では、やはり即座に再生される
 …完全に、彼女を悪魔の囁きから引き剥がさなければ、勝機はない
 せめて、彼女が意識を保っている状態ならば良かったのだが、と黒服は考える

 ……実際には、意識があっても、悪魔の囁きの牙が食い込むその激痛を快楽として捕らえているマゾが、その状態から脱出しようとするかどうかはさておき、だ
 黒服は、そんな特殊性癖を理解できるような性格ではない

「Tさん、あの少女を咥えている首を狙って攻撃はできますか?」
「できなくもないが、他の首がガードに回るだろうし、朝比奈 秀雄も、そう簡単には狙わせてくれないだろう」
「…あまり、こう言う方法はとりたくはありませんが…」

 望にも、相談することがあるのか 
 軽く彼女を手招きしつつ、黒服は続ける

「……朝比奈 秀雄の理性に、賭けてみようかと思います」



 --一瞬、抱いた迷いを振り払う
 駄目だ、聞くな
 悪魔の囁きの本質は、囁きかけ、相手を堕落させる事
 その囁きに惑わされてはいけない

『ドウシタドウシタァ!?オ前ニモ、叶エタイ願イガアルンダロォ!?ゴ主人様ミタク、我慢ナンテヤメチマエヨォ!!』

 煩い、喋るな
 とにかく、自分を締め上げる首から逃れようとする翼
 「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力は発動され続けていて、翼の周囲の景色が熱気で陽炎のように揺れて見えるほど、その体温はあがっている
 だが、それでも、ダメージを即座に再生させる悪魔の囁きは、翼を離そうとしない
 こうする事で、黒服達からの本気の攻撃を防いでいるのと同時に……いつでも、朝比奈が翼をつれて、この場を脱出できるようにしているのだろう
 翼さえいれば……「小瓶の魔人」にいう事を聞かせられる可能性は、あるのだから

 自分が逃れなければ、黒服達の足を引っ張ってしまう
 何とか、巻きついてきている悪魔の囁きから逃れようとする翼
 …その、掌に
 ちょこんっ、と……小さな温かみが、乗っかってきて
 ちゅう、と、小さく鳴いた



 迫り来る光弾を、悪魔の囁きを盾にする事で防ぐ
 翼を確保できた今、この場は撤退してもいい
 だが…化け物を一人でも叩き潰さない事には、気がすまない
 暴力的な衝動が、朝比奈を支配する
 けたけた笑う悪魔の囁きの声が酷く耳障りで、それがさらに苛立ちを加速させた

 光弾は、休む事なく襲い掛かってくる
 悪魔の囁きを盾にし、光弾を放ってくる対象を叩きのめすべく、接近しようとして

「………無駄な事を」

 己に近づいてくる気配に、気づき
 朝比奈は、悪魔の囁きに、そちらを攻撃させた
 いつの間に拾い上げていたのか、ロンギヌスの槍の穂先を手にした黒服が、朝比奈に接近してきていたのだ
 聖遺物であるそれは、悪魔的要素の強い悪魔の囁きにとっても、弱点になりうる
 恐らくは、それを使って悪魔の囁きを引き剥がそうとしているのだろうが…

「同じ手を食うと思ったか…化け物が」

 ぎろりと、黒服を睨みつける朝比奈
 三本の首の攻撃を、黒服はパワーストーンで作り出した結界で防いでいた
 半透明の壁が悪魔の囁きの牙を受け止める
 黒服の手に握られた、ロンギヌスの槍の穂先
 …だが、黒服はそれを今、使うつもりはなかった
 これは、朝比奈にこちらを向かせるための、ブラフ

 ……すぅ、と
 黒服は、小さく息を吸い込んで
 そして、歌うように、言葉をつむぎだす

「---思い出して御覧なさい。あなたの中の暖かな記憶を」

 黒服は、サングラス越しに、真っ直ぐに、朝比奈の目を見つめている
 その視線が、そして、言葉が
 朝比奈の心に訴えかける

「思い出して御覧なさい。あなたの中の、家族との、記憶を」
「…っ支配系の能力か…!?」

 黒服の言葉を耳に入れまいと
 その視線から逃れようとする朝比奈
 だが、遅い
 そして、その予測は外れている
 この黒服に、支配系の能力などない
 彼が今、使っている能力は…記憶操作の、一種
 失った記憶を呼び戻させる力だ
 朝比奈には、失った記憶など存在しない、だが
 …この能力は、記憶を引きずり出すキッカケに、なりうる

『バァアアッカジャネェノォ!?ゴ主人様ガ、ソンナモノデ揺ラグハズガァ………!!』

 悪魔の囁きの、耳障りな声が
 酷く、遠くへ、遠くへ、流れるような錯覚を覚えて…



 泣き声が聞える
 赤子の泣き声が

 マドカが、赤ん坊をあやそうとしているのだが…赤子は、一行に泣き止まない

「……子供をあやす事もできないのか、お前は」

 確か、あの日はたまたま、仕事が早く終わったのだった
 起きている赤子の…翼の姿を見るなど、久しぶりだった

「っう、煩いね!あんただってできないだろうに!」

 …そもそも、自分は赤子をあやした事などないのだから、できるかどうかはわからないが
 ただ、毎日あやしているはずのマドカが、全くそれをできないと言うのはどう言う事なのか
 かすかに呆れながらその様子を眺め続けるが、やはり、翼は泣き止まない

「…………貸せ」

 やり方など、わからないが
 少なくとも、マドカがやるよりはマシだろう
 そう考え、マドカから翼を取り上げた
 見よう見まねで、その小さな体を抱き、軽く揺らす

「………ぅ?……………あ~ぁ」

 ……泣き止んだ

「嘘っ!?」

 きゃっきゃっ、と腕の中で笑う翼
 激しい敗北感を感じたように項垂れるマドカを前に
 その笑う息子を前に……………なぜか、逆に自分があやされているような錯覚を、覚えた



 何故
 そんな事を思い出す?
 何故
 そんな事を………覚えていた?
 何故
 その記憶が、引きずり出された?


「買って嬉しいはないちもんめ!!」

 聞えてきた歌声で、思考が現実に引き戻される
 ぶちぃっ……!と、太い何かを力任せに引きちぎる音が響く
 見れば、肩に、10円玉を背負ったハツカネズミを乗せた翼が、己に巻きついてきていた悪魔の囁きを、力任せに引きちぎっていた
 …通常の人間の力で出来る芸当ではない、何らかの能力で、身体能力を強化されたのだろう
 小さく舌打ちしながら、再生し始めた悪魔の囁きの首に、再び翼を捕らえさせようとするが

「燃えろぉ!!」

 ごぉう!!と
 翼の右手が、炎を纏い出した
 「黄金伝説」のドラゴンの力を使っていた朝比奈の炎のブレスを受け止めた、厨2病との多重契約の炎
 顎砕き飴の騒動以降、1日に使用できる回数が上がったとは言え、いまだ乱発はその命に関る炎の力を惜しげもなく使い…翼はマゾと、マゾを咥える悪魔の囁きに、その炎を叩き付けた
 灼熱の業火が、一瞬、マゾを消し炭に変える
 消し炭に変えられた体は、同じく消し炭となった悪魔の囁きから、一端離れる
 離れていく

『ッチィイイ!!!』

 別の首がマゾの喉笛に噛み付こうとするが、しかし

「っ破ぁ!!」

 Tさんの放った光が、その首を切り落とした
 そして、視界が光に包まれ…マゾの姿が、消えた
 否
 再生したマゾの体が、床に半分以上埋め込まれたのだ
 通常なら窒息死するところだが、マゾなので生きているだろう
 むしろ、その窒息死しかねない息苦しさを快楽と捕らえかねない
 …どちらにせよ、悪魔の囁きが、マゾを捕らえることが……不可能に、なったのだ

『グ、ァ………畜生ガァ!?』
「…っち……役立たずが」

 再生能力を失った悪魔の囁き
 一本の首が切り落とされ、一本の首が消し炭に変えられた状態で苦しむ悪魔の囁きの様子に舌打ちする朝比奈
 だが、首はまだ5本残っている
 まだまだ、十二分に戦える!!

「…やってくれたな、化け物が…!」

 目の前の黒服を、朝比奈は睨みつける
 黒服によって、過去の記憶を呼び戻された
 …そのほんの一瞬の隙で、この惨状
 その隙を作り出した黒服を、朝比奈は殺意の篭った眼差しで睨みつけ


 しかし
 記憶が疼く
 呼び戻された記憶が……何か、違和感を訴えかけてくる
 己の行動に感じる、違和感、迷い
 それが、朝比奈の行動を、鈍らせる


「…あなたは、確かに復讐を望んだかもしれません。失ってしまった大切な人を、取り返したいとも願ったでしょう。ですが、それは……………手に入れた家族を捨ててでも、成し遂げたい願いでしたか?」
「何を……っ!喋るな、化け物!!私は……っ」


 私、は


 私が欲しかったもの、は


「…………っ」


 記憶が疼く
 感じる違和感

 叩きつけられた離婚届
 それを持ったまま、仕事で、ヨーロッパに向かって
 ……自分は
 それを、どうした?
 それを、どうするつもりだった?

 …自分は
 日本に、戻ったら
 ……何をするつもりだった?


『……ッゴ主人様!避ケロォ!!』
「!?」

 悪魔の囁きが叫ぶ
 再び、呼び戻されていた記憶が、決定的な隙を作り上げた

 悪魔の囁きがそれを防ごうとはするが……防ぎきれない
 「はないちもんめ」の能力で身体能力を強化された翼の、「厨2病」との多重契約の炎を纏った拳が、朝比奈に襲い掛かる
 それを避けるには、同じく、こちらは悪魔の囁きの能力で身体能力を強化している朝比奈自身が避けるしかない

 だが
 朝比奈は、それを避けられなかった
 ………避けようと、しなかった
 己に向かって、拳を振り上げている翼
 その顔が、一瞬、泣いているように見えて
 それが、翼が赤子だった頃、泣いていた記憶と、ダブって

 向かってくる翼を、拳を
 避ける事が、できず

「………っんの、馬鹿親父がっ!!」

 --っご!!と
 翼の拳が、朝比奈に突き刺さる

『ッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??』

 ごぉう!!と
 灼熱の炎が……悪魔の囁きの全身を、包み込んだ
 炎は、朝比奈には一切のダメージを与えず、ただ悪魔の囁きだけを焼く
 ドラゴンのブレスすら受け止めるほどの炎に包み込まれ、しかし、悪魔の囁きはまだ死なない
 死ねない
 マゾから欲望吸い上げ、能力をあげてしまった悪魔の囁きは、気が狂いかねないほどのダメージをくらいながらも、まだ、死ねないでいた

『グ、ァ……ゴシュジ、様……モット………モット、願エ、望メェ……!!ゴ主人様ノ欲望ノ力ガアレバ、俺ハァ………ッ』
「…………い」

 翼に殴られた痛みが、朝比奈のダメージが蓄積していた体に…決定的な、ダメージを与えていた
 体が、もう動かない

 そして
 翼に殴られた、痛みが
 記憶の疼きを、加速させた

「これ以上…私に囁きかけるな、化け物………っ、貴様との、契約を……解除する………!」
『------ンナァ!?』

 契約が
 繋がりが、解除される

 朝比奈との契約が解除された悪魔の囁きは…決定的な支えを失って
 勢いを増していく炎に、ただ、体を焼かれ続ける


 ……過去に、囚われはした
 だが、今の家族と、生き様とも、思った
 日本に帰ったら、鳥井との事は誤解であると、きちんとマドカに離そう
 翼にも……今までのことを、せめて、謝罪だけでも、しよう
 もう、無理かもしれないが

 せめて、もう一度
 あの時、笑ってくれたように
 家族が、笑ってくれたならば
 彼女が…門条 晴海が、かつて自分に向けてくれていたような
 それと同じ種類の、笑顔を……見せてくれた、ならば

 自分は、もう、過去に囚われずにすむのではないか


 馬鹿な妄想だ
 自分勝手な願いだ
 だが、確かに……そう、願ったはずだったと言うのに

 何故、こんな化け物の囁き程度に、自分は惑わされたのか


「………所詮………私は化け物以下、か………」

 なんと、滑稽だろうか
 自分は所詮、忌み嫌う化け物にいいように扱われただけではないか
 利用していたつもりで、いいように利用されていただけではないか

 滑稽な己の無様な姿に、朝比奈は自嘲するように、笑って
 何か、言葉を紡ぎかけたが、それは音をなすことなく
 ……そのまま、意識を暗闇へと、沈めた



『ガ、ァ、ア…………』

 メラメラと、悪魔の囁きの巨体が燃え続けている
 朝比奈から引き剥がされ、その巨体を破壊され尽くした床の上で、のたうち回らせている

「…今度こそ終わった、か…?」

 頭の上でぐったりとし始めたデビ田の様子を気にしつつ、山田が呟く
 燃え続ける悪魔の囁きの体
 最早、助からないだろう

 …それでも、まだ油断はできない
 一行は、燃え続ける悪魔の囁きを警戒し続ける

『…………ッハ』

 その、悪魔の囁きが

『ッハ、ハハハ……ッヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハアハハハハハハハハハアハッハッハッハハハハハハァ!!!!!!!』

 狂ったように、笑い出した 
 燃え続ける体の苦痛にのたうち回りながら、それでもけたけたけたけた、笑い続ける

『ザァアアアアアンネェエエエン!!!ゴ主人様トナラ、世界ヲアァット言ワセル悪事ヲ出来ルト思ッタンダケドナァ……ゴ主人様ナラ、ヤッテクレルト思ッテ、チョイト歪ムノニ一押シタノニナァアアア!!!』

 何とも無念
 そうとでも言うような言葉だが、だが、悪魔の囁きは楽しそうで

『マァ、イイサァ!!!俺ガ手伝ッタカラ、ゴ主人様ハジュブウウウブンニ悪党ニナッタシナァ!!楽シカッタゼェエエエ!!』

 意識を失った朝比奈を見下ろすように、最後にその体を起こし
 けたたけたけたけた、狂気の笑い声を、悪魔の囁きは上げ続ける

『アバヨォ、ゴ主人様ァ!!!今度ハ地獄デ会オウゼェエエエ!!!!』

 けたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけた
 狂ったように、悪魔の囁きは笑い続け
 炎につつまれたその体を踊り狂わせ続け……


 その巨体は、灰すら残す事なく
 火の粉に混じって、光と化して、この世から消滅した




to be … ?



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