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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ドクター-73

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ドクター73


辺りを窺うように、ちょこんと頭を突き出す鼠が一匹
ひくひくと鼻を動かしながら、物陰から飛び出して走り出す
「よもやここまで追い詰められようとは」
中華黒服の身体の一つであるその鼠は、人間の身体であれば舌打ちの一つでもしそうな声で唸る
多くの人間の肉体を乗っ取り、並列思考をしながら同時に活動する術を駆使してきた彼だが、人間の身体は既に全滅している
だが流石に動物の身体まで乗っ取れるとは戦っていた相手は想定していなかったようで、結果としてこうして追っ手の目を欺き逃げ遂せる事が出来たのだ
もっともこれも、万が一の時の保険程度にやった手慰みで、役に立つ事があろうとは本人も思っていなかった事である
「さて、次こそは確実な成功のために充分以上の策を練らねばな」
人の気配が無い事を確認しながら、ちょろちょろと駆けていく鼠
その行く先に突然、二つの影が立ちはだかった
「おおっと待ちな」
「黙ってここを通ろうたぁ随分と図太い野郎だな、アァ?」
片方はエメラルドグリーンの瞳をした銀色の長い毛並をした猫
ペルシャ猫の一種で、毛色からチンチラと呼ばれる種である
片方は南アメリカ原産の齧歯類、やはりこちらもチンチラである
「ここいら一帯は俺のシマだ、挨拶も無しに通すわけにゃあいかねぇなぁ?」
「ンだとコラ、誰のシマだ誰の。決着(ケリ)つけんぞコラ」
一転して視殺戦を繰り広げる不良チンチラ達
その隙を突いて牙を剥き飛び掛ろうとした鼠の背中を、何者かがぱしりと押さえ付けた
「ぐ、うっ!?」
ぱし、ぱしと脳を揺らされる打撃を受け、まともに歩けなくなった瞬間
眼前には既に鋭い牙が迫っていた
「ちっ、キングじゃねーか!」
「あいつの前で喧嘩(ゴロ)ってる余裕なんかあるか! 逃げるぞ!」
二足歩行でもしそうな勢いで逃げ出す不良チンチラ達など気にした様子もなく
鼠を捕まえた子ライオンはあぐあぐと咀嚼した後にあっさりごくんと飲み下し、満足そうにけぷりと喉を鳴らし
人知れず隠れ残った一つの邪悪が、あっさりとその胃袋に消えたのであった

―――

「なあ、ユニコーンの力で憑かれている彼女の身体を治す、みたいな事はできないのか?」
「それを考えもしたが、無理だそうだ」
犬メイドの言葉に、ユニコーンが申し訳なさそうに首を振り、ヘンリーがそれを言葉で伝え、『太歳星君』が言葉を補うように語る
「当たり前であろう。木星の対にして五行の一つ、霊脈丸ごと一つの為す存在がそう簡単に祓えてたまるものか」
「だけどあの黒服連中は、そんなあんたを操ろうとしてたんだろ? 制御する手はあるんじゃないか?」
「例えばの、川がここに流れていたとしよう。溝を掘り流れを変えたり分けたりは知識と技術と時間と力があれば可能であろうが……川そのものを丸ごと動かす事などできるか? それは川自身にも無理な事であろう」
寝転がったまま、太股をかりかりと掻きつつ語る『太歳星君』
「さて、そこな二人は結局どうするのかの? 儂としてはとっとと帰って寝れるのは有難い故、どのような攻撃でも無碍にはせんぞ?」
二人、呂布とエリカは先程からずっと問答を続けていた
「お前の力は確かに強かろう、だがそれをそのまま返されてはその身は持たぬ、そうだろう?」
「それはあなたも一緒でしょ? 気合で神様だけ斬れるかもしんないけど、そんな威力が返ってくるだけでもどう考えても即死コースじゃない」
「俺は戦では死なん。例え俺の万倍強い相手だろうと斬って捨てるのみ」
「そーいうの矛盾って言うの。私ならどんな強い反撃でも即座に癒せる力だってあるんだから」
「即座に死んではそんな力も発揮できまい。引っ込んでいろ」
「むむむ」
「何がむむむだ」
お互い、自分なら平気だ、返せば犠牲になるのは自分で充分だという言い分を一歩も譲らず
「儂の身体となっておるこの女、それほど大事な身分なのかのぅ?」
「呂布……あの武人だけど。あいつに身体を貸している契約者の恋人で、それを取り戻すために戦ってたらしいからな」
「それだけの理由か」
犬メイドのその言葉に『太歳星君』は目を丸くする
「良い時代になったものだの」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだの。儂の存在がよく知られた時代でこの状況なら、適当な奴隷でも連れてきてこの身体ごと首を落とさせ、国の為の犠牲は二人で済んだ、めでたしめでたし……といったところか」
木を切る時は、建物を建てる時は太歳の方位に注意せよ
無闇な都市開発と自然破壊を戒めるかのような、自然との共存を暗に示すかのようなその存在は
あれこれ考えを巡らせる者達を、どこか嬉しそうに微笑を浮かべ見守っていた

―――

「必要無い、俺だけで片は付く」
「それじゃ万事丸くは収まらないって言ってるでしょ、もー」
何やら話はまとまったらしく、戟を手にした呂布と両手の指をぱきぱきと鳴らすエリカが『太歳星君』の元へやってくる
「ふむ、手筈は整ったか」
「俺にはどうでもいい事なのだがな」
そう言うと呂布は、天を仰ぎ叫ぶ
「今この場に措いて、主従の契り即ち契約を解する!」
僅かにその姿が揺らめいたかと思うと、呂布の身体から大柄な青年が弾き出されるように飛び出してきた
それまで意識を明け渡していたせいか、ぐったりとしたまま身動き一つせずその場に倒れている
「女中、その男、元・契約者をそっちに連れて行け。邪魔だ」
「そりゃこんな状態じゃそうするが……お前さんは契約者無しで大丈夫なのか?」
「実体の無い相手を斬るのだ、こちらの方が都合が良い」
「反動が契約者に及ぶと困るからって素直に言えばいいのにねー」
「黙れ」
霊体のようなもののはずなのに、先程までと何も変わらない存在感を発しながら、呂布は方天画戟を構える
「俺は俺のやり方でやる。お前が何をしたいのかは判ったが、俺の邪魔だけはするな」
「邪魔じゃないって言ってるでしょー、おねーさん信用無いのかな? かな?」
呂布の背後に立ち、その背中に手を伸ばすエリカ
「ふむ、そうきたか。上手くいくといいの」
『太歳星君』は既に何をしようとしているのか理解した面持ちで、欠伸混じりに立ち上がり呂布の前に立つ
「さて、残すは二人の技量次第といったところか。心して掛かるが良い」
これから叩き斬られようというのに、その態度は全く変わらない
「俺は貴様に怨みも憎しみも、ましてや情けも哀れみも持たん。在るのはただ『俺が神を斬れるか』、ただそれのみよ」
そう語り終えたその時には、既に方天画戟は振り下ろされていた
風に揺れる梢の音を背に、『太歳星君』は笑みを浮かべた
「見事」
女の身体はそのままに、弾け飛ぶように現れた肉塊が真っ二つに斬り裂かれ、音も無く地面に落ち染み込むように消えていく
「ごっ、ぐぶっ!?」
それと同時に実体の無い呂布の身体もまた、袈裟懸けに斬り裂かれた
その巨躯を肩から腰まで、肉も骨もはらわたも全てを轢き潰し消し飛ばす威力は、万倍の言葉に引けは取らないものだった
「オッケイ、よく頑張ったねー!」
エリカの手が、呂布の残った背中に触れ
それと同時に呂布の身体が瞬時に元の姿を取り戻す
そして、呂布の喉から血反吐と共に怒声は放たれる
「馬鹿が! 早い!」
「え――」
攻撃が返ってきた瞬間に回復すれば
自分がやろうとしていた時の考えがあったせいか、エリカの手は無意識に『祟りが返ってきた瞬間』に呂布に触れていた
祟りの瞬間に呂布を支えたその手が、肩の辺りで轢き潰されその身体を離れた
「なるほど、我々がここに来たのも意味があったという訳だ」
エリカの背に触れる、尖ったものの感触
その身に受けた祟りの余波を祓い、受けたはずの傷を瞬く間に癒したのは、ユニコーン
「うわー、びっくりした」
ぺたりとその場に尻餅をつき胸を撫で下ろすエリカと、その傍らに膝を付き治ったばかりの腕に心配そうに触れるマステマ
「そんな気楽なもんか、バカ」
「あれ? 心配させちゃった?」
「当たり前だ」
近付かれるのも憚られる雰囲気を醸し出す二人からそそくさと離れ、犬メイドの元へやってくるヘンリーとユニコーン
「さて、事は全て片付いたのかね?」
「へ? ああ、ちょっと待ってくれ」
ヘンリーに言われ、犬メイドは自分の『耳』に意識を向ける
「呂布が道中で斬って捨てた分以外は、『組織』の方で片付けたみたいだな」
「それでは早々に退散した方が良さそうだな。ここにも『組織』の手が掛かるだろう、こんな派手な有様では」
空家が一つ丸々消滅し、そこには天に向かい聳え立つ大樹、地面は草に覆われてそれらは一部血に染まっている
こんな有様を一般人に見られては、どんな噂が立つか判ったものではない
一行は三々五々その場を離れ
残された大樹の元へ二人の黒服が立つ
「お疲れ様」
「あでぃおーす」
一本の大樹が立つ空き地は誰にも気付かれずその場に残る事となる
そこに建っていた空家は、管理していた不動産屋の記録と従業員の記憶から消え
降って湧いたように帳簿に増えた、その空家分の売上の辻褄合わせにてんてこ舞いの騒ぎになるのだが、それはまた別の話

―――

「で、何でお前ら全員ここに居るんだ!?」
犬メイドのセーフハウスにて、台所で中華鍋を振るいながら叫ぶ犬メイド
「何か文句でもあるのか」
炊飯器の飯を直に平らげながら、呂布が問い返す
「なんかすいません、俺達のせいで」
ベッドに横たわる女と、傍らに控えた呂布の契約者が申し訳なさそうに頭を下げる
「いやあんたらは行くとこも無いし大変そうだからいいんだけどな?」
「俺も行くところは無い。それに平将門との決着もある、しばしこの町に留まる事になろう」
「お前は中国帰って同時代出の軍神とでも戦ってろよ!?」
「そうそう邪険にする事も無いだろう、何だかんだで共に一つの事件を潜り抜けた仲なのだからな」
「だからって、何でお前までしれっとここにいるんだよヘンリー!?」
「細かい事は気にするな。少々真面目にやっていたら膝枕分が足りなくなってしまい、助力を求めに来た次第だ」
「膝枕分って何だよ!? お前は膝枕されなきゃ栄養失調でも起こして死ぬのか!?」
「その通りだ!」
「胸を張って言う事か!」
そんなやり取りの傍らで、また別の会話も続いていた
「全く……お前の力は強いかもしれないが、それでも無茶は無茶としてちゃんと考えて行動しろと」
「もー、終わった事なのにずっとその話ばっかり。反省してるよ」
「そこも人ん家でイチャイチャすんな!? つーかお前らは何の用だ!」
「いや何、小悪霊をどうするか相談しようと思ったんだが。随分とお前に懐いてるし」
「アレは懐いてるって言って良いのか!? 毎晩どんだけ必死に触手責めから逃れてると思ってんだコラ!?」
「それでも霊を扱う能力無しにあそこまで意思疎通できるのは充分凄いんだが。どうだ、今後とも一緒に過ごしてみるのは」
「ぜってぇ嫌だっ! つーか俺もうイギリス帰るんだよ! 所属組織に報告とかしてねぇんだよ! つーか今回のどう報告すりゃいいんだよマジで!?」
「女中、飯が尽きたぞ」
「もう自分で炊けよ!? 畜生、一件落着したはずなのに全然事が収まった気がしねぇよ!」
犬メイドの悲鳴は防音設備の整った部屋から漏れる事は無く
彼女の抱えた面倒事は、まだしばらく収まる事は無さそうだった


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