---悪魔の囁きの騒動が終結してから、数日後
学校町 北区の霊園にて
学校町 北区の霊園にて
「…本当に来たのですか」
若干、嫌そうな顔でそう告げる
歓迎されていないその様子にも、将門は笑うだけだ
歓迎されていないその様子にも、将門は笑うだけだ
「まぁ、そう言うな、盟主よ。約束の物は持ってきたぞ」
…ちゃぷり、瓢箪型の入れ物に入れられた酒が、音を立てる
あの騒動の最中、将門は盟主に約束した
--盟主でも、飲食できる物を持ってくる、と
そんな物、あるはずがない、と盟主は考える
盟主は、実体化できない
物に触れているように見えても、それはポルターガイスト現象で動かしているだけにすぎず…触れる事など、できていないのだ
しかし、あの時の将門の言葉に、嘘はなかった
嘘は、感じられなかった
そして、事実、将門は酒と、そのつまみになるような物を持ってきて見せたのだ
………あとは、本当に、盟主がそれに触れられるかどうか、だが
あの騒動の最中、将門は盟主に約束した
--盟主でも、飲食できる物を持ってくる、と
そんな物、あるはずがない、と盟主は考える
盟主は、実体化できない
物に触れているように見えても、それはポルターガイスト現象で動かしているだけにすぎず…触れる事など、できていないのだ
しかし、あの時の将門の言葉に、嘘はなかった
嘘は、感じられなかった
そして、事実、将門は酒と、そのつまみになるような物を持ってきて見せたのだ
………あとは、本当に、盟主がそれに触れられるかどうか、だが
とぷり、将門が、持ってきた杯に、酒を注ぐ
盟主はそれを、いつものようにポルターガイスト現象で持ち上げ、自分の口元まで持ってきた
盟主はそれを、いつものようにポルターガイスト現象で持ち上げ、自分の口元まで持ってきた
……触れられるはずがない
自分はもう、何百年も、飲食とは無縁の生活を送ってきている
飲食せずとも生きられる体
だが、それでも……かつては、人として生まれたその身
何かを食べたい、飲みたいという欲求がない訳ではない
叶わなかった、その願い
叶う、訳が…
自分はもう、何百年も、飲食とは無縁の生活を送ってきている
飲食せずとも生きられる体
だが、それでも……かつては、人として生まれたその身
何かを食べたい、飲みたいという欲求がない訳ではない
叶わなかった、その願い
叶う、訳が…
「………!」
…口元にふれた、それ
冷たい酒の感触を……盟主は、確かに感じた
く、とそれを飲み込もうとする
酒は、盟主の口内へと注がれて…ゆっくりと、彼女の体に染み渡る
冷たい酒の感触を……盟主は、確かに感じた
く、とそれを飲み込もうとする
酒は、盟主の口内へと注がれて…ゆっくりと、彼女の体に染み渡る
「……飲めた……」
「言っただろう。お前でも飲食できる物を用意する、と」
「言っただろう。お前でも飲食できる物を用意する、と」
くっく、と将門が笑う
自分の分の杯に注いだ酒を、ぐい、と将門は飲み干した
自分の分の杯に注いだ酒を、ぐい、と将門は飲み干した
「どう言う事です?」
「なぁに。昔、仇討ちを手伝った者の身内に、贖物司がいた。そちらとの縁がまだ続いていてな」
「…なるほど。贖物、ですか」
「なぁに。昔、仇討ちを手伝った者の身内に、贖物司がいた。そちらとの縁がまだ続いていてな」
「…なるほど。贖物、ですか」
贖物
形代、などと呼ぶこともある
罪の償いや自分自身の身代わりとして、差し出す物品
穢れを移して何者かに差し出されるそれ
それは、神に差し出される場合も多い
形代、などと呼ぶこともある
罪の償いや自分自身の身代わりとして、差し出す物品
穢れを移して何者かに差し出されるそれ
それは、神に差し出される場合も多い
神に差し出された物品に、神が触れなくては意味がないだろう
だから、盟主でも、触れる事ができる
盟主は、この学校街の土地神的な性質を持っているのだから
だから、盟主でも、触れる事ができる
盟主は、この学校街の土地神的な性質を持っているのだから
「つまり、あなたは、その知り合いの贖物司…と言っても、今はそんな役職はありませんから、その子孫でしょうが。それに、わざわざこれらを用意させたと?」
「あぁ。その者は、我等祟り神と縁が深くてな。お前のように、通常では飲み食いできぬ者にも、代々贖物として飲食物を提供しているからな」
「あぁ。その者は、我等祟り神と縁が深くてな。お前のように、通常では飲み食いできぬ者にも、代々贖物として飲食物を提供しているからな」
…この男もまた、妙な縁を持っている
あの、お人好しな「組織」の黒服程ではないものの…この祟り神の人脈もまた、底が知れない
何かの目的の元、集結したならば……それは、大きな勢力となり得るのだろうか?
あの、お人好しな「組織」の黒服程ではないものの…この祟り神の人脈もまた、底が知れない
何かの目的の元、集結したならば……それは、大きな勢力となり得るのだろうか?
「……仇討ちを手伝った、といいましたね………その、あなたが手を貸した、相手は」
「…仇討ちをとげた直後、我の力に飲み込まれることを拒否し、我に、己を斬るよう懇願してきた」
「…仇討ちをとげた直後、我の力に飲み込まれることを拒否し、我に、己を斬るよう懇願してきた」
だから、切り捨てた、と
短く答える将門
短く答える将門
祟り神、「首塚」平将門
人の身では、この大きすぎる存在と契約しても、耐えられない
激しい復讐心を持っていれば、極短い期間であれば、耐えられる場合もある
しかし、その復讐を遂げてしまえば…最早、その身は耐え切れず
平将門と言う存在に飲み込まれるか、命を落とすか
その、どちらかなのだ
人の身では、この大きすぎる存在と契約しても、耐えられない
激しい復讐心を持っていれば、極短い期間であれば、耐えられる場合もある
しかし、その復讐を遂げてしまえば…最早、その身は耐え切れず
平将門と言う存在に飲み込まれるか、命を落とすか
その、どちらかなのだ
祟り神となって以降、この男は、どれだけの人間の復讐に手を貸してきたのか
……そして、その度に
己と契約した存在を飲み込んだり、命を奪ったりしてきたのだろう
……そして、その度に
己と契約した存在を飲み込んだり、命を奪ったりしてきたのだろう
己の契約者の命を奪うという行為は、将門の本心ではないはずだ
……だが、契約したが故に、結果的にそうなってしまうのだし
…そうするしか、なかったのだろう
切り捨ててくれ、と懇願されたならば、将門はそれに答えるしかなかったのだろうから
……だが、契約したが故に、結果的にそうなってしまうのだし
…そうするしか、なかったのだろう
切り捨ててくれ、と懇願されたならば、将門はそれに答えるしかなかったのだろうから
(…それを考えれば……今の「首塚」と言う集団は、この男にとって、さぞや心地のいいものなのでしょうね…)
将門が持ってきた酒のつまみを口にしつつ、そんな事を考える盟主
たとえ、契約者という仲間が出来たとしても、それはいつか、自分という存在が、その仲間の命を奪ってしまう
だが、今の「首塚」と言う集団は、契約者ではなく、将門の部下として集まった集団
……将門が、己の手で、命を奪わずともすむ仲間
それらとの交わりは、長く生き続けた祟り神にとって、たとえ刹那の時間であったとしても、安らぎなのかもしれない
たとえ、契約者という仲間が出来たとしても、それはいつか、自分という存在が、その仲間の命を奪ってしまう
だが、今の「首塚」と言う集団は、契約者ではなく、将門の部下として集まった集団
……将門が、己の手で、命を奪わずともすむ仲間
それらとの交わりは、長く生き続けた祟り神にとって、たとえ刹那の時間であったとしても、安らぎなのかもしれない
(……だから。「首塚」に何かあれば、容赦しないのですね)
祟り神 平将門は、「首塚」を汚す者を祟る
それは、「首塚」と言う「場所」だけではない
…いまや、「首塚」と呼ばれる組織、集団すらも、この祟り神が護ろうとする範疇に入っている
……それだけではなく
「首塚」傘下に直接入ってはいなくとも、ある程度の関わりさえあれば、そちらを害しても、祟る
それは、「首塚」と言う「場所」だけではない
…いまや、「首塚」と呼ばれる組織、集団すらも、この祟り神が護ろうとする範疇に入っている
……それだけではなく
「首塚」傘下に直接入ってはいなくとも、ある程度の関わりさえあれば、そちらを害しても、祟る
…祟り神としての力が及ぶ範囲が、広がっている、事実
「…より厄介で迷惑な存在になっていっている、という事なのでしょうね」
「む?何か言ったか?」
「いえ、何も」
「む?何か言ったか?」
「いえ、何も」
せめて
この学校町で、あまり騒ぎを起こさないで欲しい、と
盟主は心から、そう願うのだった
この学校町で、あまり騒ぎを起こさないで欲しい、と
盟主は心から、そう願うのだった
fin