喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
III 万能の主の娘/慈悲
やはり、独り廊下に立っていた
広く、長い廊下、一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える
振り向くと、扉
「さて……次は何かなっと」
マスターから貰ったタロット・カード
そして、それらに対応した扉の刻印
そして、それらに対応した扉の刻印
今度は───
III
万能の主の娘
慈悲
───と刻まれていた
「万能の娘……3って何だったかな……女教皇……じゃなくて女司祭、それとも女帝だったかな?」
眺めていた時の記憶を掘り起こす
女帝から連想される人物を思い描きながら、扉を押す
女帝から連想される人物を思い描きながら、扉を押す
隙間から光が漏れる
眩しい光の中にまた、飛び込む───
眩しい光の中にまた、飛び込む───
*
辺りは暗く、夜だと判る
満月にはまだ早い月
満月にはまだ早い月
次第に暗順応が進み、見えなかったものが見え始める
自分の位置する場所からは、街の灯りが足元より下にある様に見えた
つまりは高い建物の上にいる
見上げれば月、天井がない事から屋上と判断
自分の位置する場所からは、街の灯りが足元より下にある様に見えた
つまりは高い建物の上にいる
見上げれば月、天井がない事から屋上と判断
そして佇む、黒衣の麗人
「ここが……ジャックの世界か……」
気分に任せて、そんな台詞を口にするも気付かれ、振り返る黒衣の人物
「誰です?……ん……貴方は……これは、一体……」
間違いなく、ジャック・ザ・リッパーである
「貴方は一体……本当に輪?貴方なのですか?」
問いかけられる
「うん、ボクだよ……確認するけど、ジャックだよね?」
ジャックは左手を顎に当てて思考を巡らす
「輪、貴方……しかし、本当にこんな事が?……何かの都市伝説?」
どうやらジャックの世界では、自分がここにいる事に異常を感じるらしい
「あのさ、ボクってこの世界ではどうなっているの?」
「“この世界では”ですか?それはどういう意味……いや、待って下さい」
「え?何?」
「今年は、西暦では何年ですか?」
「2010年だけど?」
「なるほど……そういう事ですか……解かりました」
「分かったって……どういうことなの?」
「輪、貴方のいる時代からすれば、この時代は……ずっと先の未来です」
「未来?!……でも、そうか過去にも行けた……有り得るのかも」
「“この世界では”ですか?それはどういう意味……いや、待って下さい」
「え?何?」
「今年は、西暦では何年ですか?」
「2010年だけど?」
「なるほど……そういう事ですか……解かりました」
「分かったって……どういうことなの?」
「輪、貴方のいる時代からすれば、この時代は……ずっと先の未来です」
「未来?!……でも、そうか過去にも行けた……有り得るのかも」
よく考えてみれば、最初のボクサーさんにあった時も
時間軸としては、限りなく現在に近いが、ほんの少し先の未来の様にも思える
時間軸としては、限りなく現在に近いが、ほんの少し先の未来の様にも思える
次の図書館はいつだったのか?あれだけでは判断がつかない
もっとよく観察しておくべきだったと後悔だけが浮かぶ
もっとよく観察しておくべきだったと後悔だけが浮かぶ
だが、カシマさんとの世界が過去だったのは間違いない
そして、今回はずっと先の未来だという
未来というならば、この姿の、子供のままの自分に異常を感じるのも当然かもしれない
未来というならば、この姿の、子供のままの自分に異常を感じるのも当然かもしれない
「どうやら何かの事件に巻き込まれている様ですね」
「う~ん、事件なのかなぁ……タロット占いしてもらっただけなんだけど……」
「タロット占い……ですか」
「うん、占い師のお姉さんに頼んでさ」
「それは……記憶がありますね」
「ホント?!」
「……確か、貴方が……私にタロット・カードの使い方を聞いてきたので」
「ああ、そっか……うん、そうだったね……それで、分からないって言われて……」
「あまりに残念そうな顔をするので……占い師にツテがないわけでもない……と」
「そうそう!それだよ!夢の国事件の時に出逢った占い師さんがいるって!」
「ええ……確かにその様な話の運びでしたね」
「う~ん、事件なのかなぁ……タロット占いしてもらっただけなんだけど……」
「タロット占い……ですか」
「うん、占い師のお姉さんに頼んでさ」
「それは……記憶がありますね」
「ホント?!」
「……確か、貴方が……私にタロット・カードの使い方を聞いてきたので」
「ああ、そっか……うん、そうだったね……それで、分からないって言われて……」
「あまりに残念そうな顔をするので……占い師にツテがないわけでもない……と」
「そうそう!それだよ!夢の国事件の時に出逢った占い師さんがいるって!」
「ええ……確かにその様な話の運びでしたね」
未来のジャックならば、この状況がなんだったのか知っているかもしれない
「ボクどうなってるの?この後、無事に戻れる?」
「……それは……言えません」
「何で?!」
「理由は3つあります」
「それは教えてもらえること?」
「ええ、まず1つ目は、私の不用意な言葉で未来を変えてしまうのは避けるべき事態だということ」
「なるほど……」
「……それは……言えません」
「何で?!」
「理由は3つあります」
「それは教えてもらえること?」
「ええ、まず1つ目は、私の不用意な言葉で未来を変えてしまうのは避けるべき事態だということ」
「なるほど……」
「2つ目は……ズルはいけません、ということです」
「ズル……楽をしてはダメっていうこと?」
「ええ、そういう事です」
「……ダメ?」
「そんな顔をしてもダメなものは……はぅ……心が揺らぐのでやめて……下さい」
「ごめん……でもちょっと不安で……」
「……くぅ……た、例えば、貴方の予知は限定的な力です」
「え?……うん、ほんの僅か先の失敗……一瞬しか見えないよ」
「予知で失敗が分かっていても、必要な実力が備わっていなければ回避できませんね?」
「……うん」
「ですから、そこには努力がある」
「まぁ……そうだね」
「ですが、今回の件は私の言葉次第で努力が損なわれる可能性があります」
「自分で答えを探さないと……いけない?」
「ええ……貴方なら大丈夫、きっと出来るはずです」
「もし、ボクが間違った未来を選択したら……ジャックや皆は……」
「それも問題ありません」
「どうして?」
「貴方が考えて決めた未来ならば、そう悪いものでもないでしょうから」
「……自信……ないよ?」
「自信など後からついてくるモノですよ」
「そっか、自信なくても良いのか……うん、なんか気が楽になるね」
「ええ、十分に悩んで、努力し、成長した貴方を未来で待っていますよ」
「ズル……楽をしてはダメっていうこと?」
「ええ、そういう事です」
「……ダメ?」
「そんな顔をしてもダメなものは……はぅ……心が揺らぐのでやめて……下さい」
「ごめん……でもちょっと不安で……」
「……くぅ……た、例えば、貴方の予知は限定的な力です」
「え?……うん、ほんの僅か先の失敗……一瞬しか見えないよ」
「予知で失敗が分かっていても、必要な実力が備わっていなければ回避できませんね?」
「……うん」
「ですから、そこには努力がある」
「まぁ……そうだね」
「ですが、今回の件は私の言葉次第で努力が損なわれる可能性があります」
「自分で答えを探さないと……いけない?」
「ええ……貴方なら大丈夫、きっと出来るはずです」
「もし、ボクが間違った未来を選択したら……ジャックや皆は……」
「それも問題ありません」
「どうして?」
「貴方が考えて決めた未来ならば、そう悪いものでもないでしょうから」
「……自信……ないよ?」
「自信など後からついてくるモノですよ」
「そっか、自信なくても良いのか……うん、なんか気が楽になるね」
「ええ、十分に悩んで、努力し、成長した貴方を未来で待っていますよ」
どこかで聞いたことのある様な言葉だった
強くなったカシマさんを現代で待つと言った自分と同じなのだと……
そう思い至り、少しだけ目頭が熱くなる
そう思い至り、少しだけ目頭が熱くなる
「さて、3つ目ですが……知らない方が楽しいという事もある、ということです」
「知らない方が楽しい……かぁ」
「どうです?納得できましたか?」
「うん!」
「知らない方が楽しい……かぁ」
「どうです?納得できましたか?」
「うん!」
自分のいる時代に比べ、ジャックは柔らかくなっている様に思える
とても良い変化だと感じた
とても良い変化だと感じた
だがそこで、年上の女性の優しさに母性を探している自分に気づく
そういえば、占い師のお姉さんにも同じ事をしてしまった様に思う
成熟した思考をしているつもりでも、やはり自分は子供なのだ
そういえば、占い師のお姉さんにも同じ事をしてしまった様に思う
成熟した思考をしているつもりでも、やはり自分は子供なのだ
幾度となく繰り返した転生で、母親となった女性に愛された記憶はひとつもない
心の隙間を埋める為、年上の女性に優しさを求めているのかもしれない
だから
思わず、自分にはマザコンの属性があるのかと自問してしまう
心の隙間を埋める為、年上の女性に優しさを求めているのかもしれない
だから
思わず、自分にはマザコンの属性があるのかと自問してしまう
「大丈夫……同年代の女の子も普通に可愛いと思えるし、大丈夫……」
「……輪?」
「いや、そういう問題ではなくて……」
「……輪?」
「いや、そういう問題ではなくて……」
などと考えながら、頭を左右に振り否定する
「嗚呼……もう!ちがう、ちがう、ちがう!!そうじゃなくて!!」
思春期を自覚して余計に恥ずかしくなる
「輪、好きな子でも出来ましたか?」
「ち、違うよッ!!」
「隠さなくとも良いでしょうに……」
「隠してないって!!」
「ふふふ、冗談です」
「ち、違うよッ!!」
「隠さなくとも良いでしょうに……」
「隠してないって!!」
「ふふふ、冗談です」
そう言ってジャックはくすくすと笑った
「……はぁ……ボクって、なんていうか……まだまだ未熟なんだなぁ」
「成長の余地があるという事です」
「だと良いんだけど……ね」
「成長の余地があるという事です」
「だと良いんだけど……ね」
溜息混じりに、屋上の柵に寄りかかる
「輪ッ……そこはッ!!」
ジャックの声
「え?……アレ?……」
体重を預けても抵抗を感じない柵
「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
こだまする悲鳴、視界は逆さま、浮遊感
暗闇の中、ビルから落下し……遠のく意識───