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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-65

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


0 エーテルの精霊/自由 (前篇)



独り廊下に立っていた

広く、長い廊下だった

一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える

振り向くと、そこには扉があり
その大きさから考えて、重さや厚みも相当なものだと思えたが

何よりも印象的なのは───

    0

 エーテルの精霊

    自由

───と刻まれている事だった

大きな扉を見据え、逡巡することなく足を踏み出す

扉を前に
息を吐き、そして吸う
両手を扉へと着き、脚、腰、背、腕へと力を込めていく

ゆっくりとだが動き始め
隙間から微かに光が漏れ出てくる

その光の中へと身を滑り込ませると、視界が開けた───

*



扉が開かれて現れたのは広い空間

ただの広い部屋と言っても良い
見回してみると、体育館ほどの広さはありそうだ

黒い床は大理石だろうか、磨かれ光沢がある
上を見上げると、何も無く天井すら見えない
これといった照明器具も無い様に見えるが……
ぼんやりとした光が部屋の隅々まで照らしていた

最奥の中央には玉座
玉座としか表現出来ない様な大きな椅子が据えられている

だが、今までのものとは明らかに違う要素があった

玉座の横に黒衣の人物が立っている
尊大に、見下ろす様な視線がこちらへ向けられているのがはっきりと分かる

「輪廻転生の少年……愚者の部屋へ、ようこそ」

もったいぶった口調で男
警戒しながらも近づき、観察していく

「愚者、ゼロ番のカードの部屋……」
「その通り、愚者にしては察しがいいな」
「貴方は誰?」
「我はアレイスター・クロウリー」
「アレイスター……クロウリーだって?」

聞き覚えのある名前
黒衣、まるで神官の様な出で立ち
年齢は30~40才程度に見える

「世間では、20世紀最大の魔術師と言われているそうだ……実際その通りだと思うがね」
「……20世紀最大の魔術師」
「ま、我等に自己紹介など必要あるまい」
「そうかもしれない……貴方が誰であろうと、ボクのやる事に変わりは無い」
「だろうな」
「ボクは自分の望みを叶えてみせるよ」
「出来るならばご自由に……さて……この旅はここで終わりとなるわけだが、気に入ってくれたかね?」
「気に入るだって?……いや……そうだね、感謝してるよ」
「それは良かった」

男は満足そうに、深く頷く

「何が目的なの?」
「目的?……全く……愚者はこれだから困る」
「ボクが愚かなのは認めるよ……でも、だからこそ教えて欲しいんだ」
「我はお前の望みを叶えているだけだ」
「ボクの望み?」
「そうだ」
「なら、今までやってきたことは、現実になる?」
「さあ、どうだろうな」

肩を竦めながら、男は嗤う

「ひとつ聞くが……あの男……」
「あの男?」
「お前の契約者に……あそこまでする価値があるのか?」
「あるよ」
「我には、ただの人間にしか見えんが……」
「マスターは極普通で善良な人だよ……それ以上でもそれ以下でもない」
「ならば何故?」

投げかけられる疑問、だが答えは明白

「世界の大多数を占める善良な人々、そんな彼等の家庭に生まれたなら……不幸ではないんだ」
「至上の幸福を得られずとも、不幸でなければ良いと?」
「それで十分だったんだ……ボクにとってはそれで十分だったんだよ」
「随分と欲が無いのだな」

男の言葉に首を振る
十分に欲深いと自覚しているからだ

「6日に1人だよ」
「何がだ?」
「2009年度の虐待による子ども達の死亡数は67人だった……6日に1人のペースで死んでいるんだよ」
「だから何だと?」
「そのうち、0歳の子どもは39人、生まれたその日に死んだ子は16人だった」
「可哀想なことだな……」
「一度、子を……した親は……二度目も……やる」
「……」
「もちろん全員じゃ……ない……でも、中にはそういう……親がいるんだ」
「それで?」
「ボクは彼等の様な子の代わりに殺されてきた」
「それが輪廻転生の力と役割というわけか」
「子を死なせておいて平気でいられる様な大人を怨んでいたよ」
「……そうか、あの男は違ったと……そういう事か」
「うん……だから、それだけでボクは救われた」
「なるほど」
「創られて……生まれてきて良かったと……そう思えた」
「お前は、生きる意味を知ったというわけだ」

おどけた様に男は言う

「そうだね……そして、こんなチャンスはもう二度と来ないと思う」
「分かったよ……お前の気持ちは十分に分かった」
「だから、ボクはこれで良いんだ……マスターに恩を返したいんだ」
「ふん……ならば見るがいい、お前の変えた未来をな」

不機嫌そうに、吐き捨てる様にアレイスター・クロウリーは言葉を投げる

「ボクが変えた……未来……」
「エイワス……聞いていたな?……やるぞ」

アレイスターが言うと、視界が暗転し、次いで光に焼かれる

*



目を開くと数人の人影が見えた
若い男女と、生まれたばかりの小さな子供、3人だ
一人はマスターだとすぐに分かった
ならば、あの女性はマスター奥さんなのだろう
そして、あれが亡くなるはずの息子さん
自分の顔に少し似ている
逆だ
自分が……彼に似ているのだ
まだ小さく、無邪気な笑顔を振りまいている
つられて、夫婦も笑顔になるのが分かった
幸せそうな家庭
見ているこちらまで幸福な気持ちになる様な情景

場面が切り替わる

喫茶店内
忙しく動き回る女性、奥さんだ
マスターは一つ一つ丁寧に調理をこなしていく
来客のベルが鳴る
入ってきたのは子供だった
黄色いカバーが掛けられたランドセル、1年生なのだろう
にこにこと笑顔で、帰宅の挨拶を交わす
父親からも、母親からも、お客さんからも
おかえりと声を掛けられ、応える
皆が笑顔になった

場面が切り替わる


照りつける太陽
寄せては返す波
浜辺には、数え切れない程の海水浴客たち
マスターは、常に息子さんの傍にいる
パラソルの下で膝を抱え座る妻を確認し、手を振る
振り返される手
交わされる笑顔
視線を戻す途中に、溺れかけている子供がいた
周りの大人に声を掛け、子供を助ける様に頼む
息子さんを確認するマスター、少し離れつつある
まだ十分に間に合う
泳ぎ寄り、腕を回す
助けられた
今度は助けられた
ゆっくりと陸へ戻っていく二人

『約束……守ってくれたんだね……』

本当に良かった、これで全てが巧く行くはずだ
そう思った

『これで、お前の望みは叶えられたのか?』
『うん……これで、全てが……きっと……』

場面が切り替わる

早送りの様に
フラッシュバックする様に
場面が次々と切り替わっていく

ルーモア店内、サチが、カシマレイコの話をしている
勝ち誇る姫さん、カシマレイコが消し飛ぶのが一瞬だけ見えた
隻腕のカシマがサチと並んで歩く
カシマに拳を叩きつけるボクサー
ジャック・ザ・リッパーとすれ違うサチ達
クマの着ぐるみを切り刻むジャック
夢の国の王、革命
ボクサーに笑顔を向けるサチ
桃の入った箱を抱えて歩く魔術師
魔術師が傷ついた中年男性と語らう
カシマの背を見て、ジャックが悲しい表情を浮かべていた

そして、ルーモア店内
黒服の男達が店で働いている

『何で組織の黒服が?!……マスター達はどこにいるの?!』
『……少し時間軸を戻そう』

巻き戻っていく場面

*



薄暗い部屋
子供が布団に寝かされていた
途切れそうな、今にも止まってしまいそうな弱々しい呼吸
こけた頬、落ち窪んだ眼窩
周りを見回すと、椅子に座り電話をしている母親らしき女性がいる
話に夢中で、子供の方には興味が無いかの様だった
子供の体からは力が完全に抜け、首がごろりと母親の側に向く
母親はやっと気付いたのか、子供の方へと視線を向ける
一瞥し会話に戻る
確かに見ていたはずだ、子供の惨状を……
すでに子供の呼吸は停止していた

場面が切り替わる

車内
乗用車の後部座席に寝かされた子
昼間からギラギラと光る看板
駐車場に隣接するのは、パチンコ店だ
触れれば火傷しそうな程に熱せられた車体
誰もいない広い駐車場に、ぽつんと取り残されている子供
焦点の定まらない視線が彷徨い、ようやく止まる
そして、二度と動くことは無かった

『これは……』
『お前の姿だ……酷いものだな……』
『……がんばれ……ボクなら耐えられるはずだ……がんばれ』
『見てみろ……』
『今度は……ルーモアの近くだ、店を見てる……まさか、記憶が?』

*



店外から様子を窺う少年がいる
店内ではランドセルを背負った少年が笑っていた
帰宅したばかりなのだろう

『良かった……記憶は残るんだね……』
『お前は転生しても記憶が引き継がれる都市伝説だからな……その影響だろう』
『そうか……良かった……』
『店内のカレンダーを見ると……2009年の8月だな』
『これで、ボクは……?』

店内を覗き見ていた少年が動く
自分の想像していたものとは違っている様に感じた
どこか……いびつな雰囲気が漂っている

カラン・コロン……カラン・コロン……来客を告げるベル

「「いらっしゃいませ」」

ガラガラの店内に、どこかホッとした表情のマスターと奥さん

「ボクの……そいつは……場所じゃない……そこは……」

二人は揃って眉をひそめる
今までにも色んな客が来たが
少年は、その中でもかなり異質な雰囲気を纏っている

「その子が……いなければ……ボクがここにいたはずなのに……」

その言葉でハッとするマスター
この少年は、息子を好ましく思っていない
そう感じたのだろう

「その子がいなくなれば?……ああ、そうだね、試してみれば分かるよね……」

少年の手には鈍色の刃

「どいてよ、マスター……危ないよ?」
「君……危ないから、その刃物を置きなさい……ね?」
「大丈夫だよ……ボク、マスターを守れるように鍛錬したんだからさ……」
「何を……言っているんだ……君は、一体……」

息子を庇う様に立ちはだかり、視線を少年へと向ける
その瞳には、恐怖が浮かんでいるのが感じ取れた

「何で庇うの?……その子……本当は死ぬはずなんだよ?」
「この子は私達の大切な息子なんだ……死なせなんてしない……」

少年の瞳に暗い炎が揺らめいた

「違うよ!!……そこは、ボクの居場所なんだ!……返せよッ!!」

突如、駆け出す
マスターの脇をすり抜ける様に

刃が煌き、血飛沫が舞う

少年は背に突き立った刀を素早く引き抜く

「なん……で……何でッ?!何でっ!!」

少年の顔が苦しみで歪む

「な……なんで……ダメだよ……そんなの……違うんだ……こんなこと……違う」

息子に覆い被さるマスターの姿
その背からは大量の血が流れ出している

「あなた……?……いやァぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

奥さんの叫び声が店内にこだまする

「ぼ、ボクは悪くない……悪くないよね?……勝手に間に入っただけで……」

これは少年の望んだ結果じゃない
少年が殺すのは、あくまでもマスターの息子───死ぬはずだった子供

「じ、事故だッ!……ボクは……ボクは悪くないッ!」

マスターの息子と少年の眼が合う

「そうだよ……コイツが悪いんだよ……本当はコイツが死ぬはずだったんだから!!」

少年──輪──は、子供を睨み付ける
憎しみの篭った、濁った眼で……

「お前のせいだよ……全部、お前のせいなんだッ!!」

*



『そんな……ボクが……マスターを……ボクが……殺……す!?』
『人の運命は、そう簡単には変わらないものだ』
『そんな……』
『2009年の8月……例の魔法使いが、お前の契約者を殺してしまった……あの日のことだ』
『死ぬという運命は変わらない!?……じゃあ、あの魔術師さんが関わらないこの未来では……』
『生き返りはしないだろうな』
『……ぁ……ぁぁ……ぃゃ……そんな……ボクは……ボクが過去を変えたから!?』
『そうだな、お前が過去を変えた結果がこれだ』
『全ての責任を……息子さんのせいにして?』
『歪んでいるな』
『最低だ……ボクは最低だ……こんなコトをしたかったわけじゃないのに……』
『本当に最低だな、お前は』
『……はぁ、はぁ……ぅ……ぁぁ……ぅぁ……』

吐き気がした
最悪の結末だった
胃が痙攣し、空っぽの消化器から酸っぱい味の液体が上がって来る

『ぉえっ……ぉぶっ……はぁ、はぁ……』
『お前は耐えられなかったんだよ……あの子が幸福である影で、自分が苦しんでいる事に』

息が苦しい
心臓がバクバクと音を立てて拍動し、空回りする
肺は全く酸素を取り入れてはくれない

『愚かだな……愚者の部屋、この部屋に適合する人物として相応しい愚かさだ』

溺れる様な感覚
まるで生きるのを拒否するかの様だった

『……ひゅ……はぁ……ぁ……かはっ……ん……ぁ……』

何も見えない
何も聞こえない
何も出来ない
何も……何も……何も……何も……何も……

何の意味もない

自分のしてきた事は、過去を変えた事は

何の意味もない

全てを手に入れる?

愚かな考えだった

全てを失う、の間違いだ

最も敬愛する人を、自分の手にかけてしまったのだから……

『うぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ嗚呼あっぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』



*


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