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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-05

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 竜が降り立ったのは廃工場のような建物の前だった。
 宏也は髪を解くと恵を抱えて竜から飛び降りる。Tさんも舞と共にそれに続いた。
「ここがハンニバルとかいう奴の基地?」
「ぼろぼろなの」
 リカちゃんが鞄から顔を出す。
「いや、カモフラージュだ。この中に下の研究施設に続く階段がある」
 宏也はそう言うと廃工場の中へと駆けて行った。
 廃工場の中、そこにはぽっかりと薄暗い孔を晒した階段があった。
 どこまでも下に続いていきそうな階段を見て舞が口許を引きつらせる。
「うげ、下見えねえ」
「長そうだな」
「ここがハンニバルの研究施設に続いている」
 そう言って躊躇いなく宏也は階段へと足を踏み出した。二の足を踏んだのか舞がTさんを見上げ、
「Tさん……」
「俺の後ろに隠れながら来るといい」
「お、おう」
「はいなの」
 そっとTさんの服の端をつまんでついて来た。
 そのまま階段を下っていくと、
「……声?」
 暗闇の底、闇の中に人が叫ぶような声が聞こえてきた。
「ハンニバルと辰也の声だ」
 宏也の言、Tさんは音が聞こえてくる位置に当たりをつけ、
「近いな」
「急ぐぞ」
「ああ」
 宏也とTさんを先頭に階段を駆け下って行く。声は階段を下れば下るほど鮮明になっていった。
「――それは、俺の名前じゃねぇっ!!」
 大声で叫ぶ青年の声、辰也の声だ。その語勢に恵が不安げな表情をする。
「名前、か……広瀬 辰也、だったか? H№360が、お前に与えた名前だったな」
 辰也に応えるように響いて来た声は年を取った男の落ち着いた、というよりも冷たく乾いた声だった。
 №360……髪の伸びる黒服さんが中央高校でかかってきたお嬢さんからの電話で呼ばれていた№だったか。そして、
「この声の主がハンニバルだな?」
「ああ」
 宏也の頷きに被さるように辰也の声が叫び返した。
「だが……今の俺には、その名前しか、ねぇ。てめぇらに名前を奪われた俺には……この名前しかないんだよっ!!」
 その声には疲労の色が窺える。
 劣勢か……。
 急がねば、そう思う間にそれぞれの武器が空を切る高音が聞こえてきた。その音に乗せるようにハンニバルの声がする。
「お前は、その名前があの男の……H№360が、人間であった頃の名前だと、知っているのか?」
「それくらい……わかってるよ!!」
 辰也の攻撃的な声は続く。
「だが……今の俺には、その名前しか、ねぇ。てめぇらに名前を奪われた俺には……この名前しかないんだよっ!!」
「……名前を? 我らは、お前から名前を奪ったつもりなどないのだがね」
「……俺だって……人間から、生まれたんだ。両親がいたんだ……そいつらが、俺につけた名前が、あるはずなんだよっ!!」
「……いいや、お前の名前は、H№96だ」
 ハンニバルの声は冷酷に響いた。
「何故なら、その名前は、父親である私が、お前につけた名前なのだから」


            ●


 沈黙があった。階段は目の前で終わっている。ハンニバルの研究施設へと着いたのだ。
 しかしその奥からは先程のような叫び声と冷たい声の応酬は聞こえなかった。
「……信じられない、と言う表情をしているな?」
 ハンニバルのその声を漏れ聞き、Tさんは宏也と恵をそっと窺う。恵はハンニバルの言葉に驚いているようだが宏也の方は憎々しげな表情をしている。
 髪の伸びる黒服さんは知っていたようだな……。
 そう思いながら歩を進める。ゆっくりと、階下の二人に気取られぬように。
 ハンニバルの声は続いていた。
「母体である門条晴海を捕らえ、私自らが種付けし、はじめに生まれた子供。それがお前だ」
「な――」
 叫びかけた舞の口を手で封じ、驚きに目を見開いた彼女に静かにしているように目で合図する。
 同時に門条晴海・門条天地・辰也の関係に自身も驚きを覚えていた。
「門条晴海は、研究所内にて二人の男子を産んだ………そして、三人目をその身に宿している状態で、研究所を脱走した……まだ赤子であった、二人目の子供を連れて、な。
 門条晴海は、お前を研究所に置き去りにした。一番私の血を濃く受け継いだであろうお前が残された事は、私にとって実に都合がよかった」
 そういうことか。
 H№の実験に供された門条晴海と辰也、そして晴海と同じ門条の姓を持つ天地の繋がりがはっきりした。
 つまり、
 兄弟同士殺し合いをさせていたということか。
 それも本人たちも知らず知らずのうちにだ。
 そして門条晴海に施していた実験……っ。
 舞やリカちゃんの耳には入れたくない話だ。気を失わせてしまおうかとも思うがそうするとこの場で動けない人間が出て来てしまう。それは得策ではないし、そこまで過保護にしなくてもこの子たちなら大丈夫だという信頼がある。
 だが道徳的によろしくはないな……恨むぞ、髪の伸びる黒服さん。
 歯噛みしながら階段に視線を走らせる。
 ≪13階段≫は発動していないか……。
 ならば行こう。そう宏也に手振りで合図して舞にはその場で待つように指示する。と、階下ではハンニバルが依然として饒舌に語っていた。
「……あぁ、死なれては困るぞ。H№96。お前は、私の実験の最高傑作。私の不死性をある程度受け継いでいるが故に、他の実験体よりも投薬実験を行いやすく……その成果が、確実に現れている。お前自身が、自身を研究材料に出来るよう、薬物の知識も与えた」
 その声には愉悦の色があり、辰也の声は先程から全く聞こえてこない。
「さて、どうするか………まずは、二度と反抗せぬよう、その意思を削ぐか」
 この言葉の意味は――
 いかん……っ!
 思うと同時、宏也とTさんは残りの階段を飛び降りた。
 飛び降りた先の視界にはハンニバルと思しき壮年の男が剣を辰也の体に突き刺している光景が映った。
 致命っ、
 判断を下した瞬間、横を何かが駆けて行った。
 恵だ。
 ――彼女の進路の危難を払えれば幸せだ!
 そう願ったと同時に鈍い音を伴ってハンニバルが手にした剣が根元からへし折られた。
 辰也の身体が床に落ち、すぐさまハンニバル自身を剣をへし折ったもの――宏也の髪の毛が絡みつき、引き裂き始める。
「……ッ恵、辰也の治療を頼んだ!!」
 叫びながら宏也は階段から部屋へと飛び出し、そのままハンニバルを引き裂きながらその余波で床を崩落させるとハンニバルを巻き込んで階下へと落とし込み、落下したハンニバルを追いかけるように宏也もその穴へと飛び込んでいった。
「――――ッ辰也!!」
 加護を纏った恵が崩落の余波を逃れ、抱きかかえた鞄から≪ジャッカロープ≫を呼び出しながら泣き出しそうな表情で駆け寄った。それを確認しながらTさんは崩落した床へと意識を向ける。
 不死身の狂人、看板通りの人物ならばあの程度で死ぬという事は……ないだろうな。
 髪の伸びる黒服さんは大丈夫だろうかと思っていると、
「Tさん!」
「お兄ちゃん!」
「……待てと指示したのに」
 苦笑でやってきた舞とリカちゃんを迎え、≪ジャッカロープ≫の乳を瀕死の辰也に与えようと四苦八苦している恵を手伝うように言う。
 ……さて、ここからどうする?
 最低限、宏也に頼まれた事は達成できた。全員をここから脱出させる事も可能だろう。自分達が逃げる事も向こうは了承済みだ。
 しかし、
 いきなり巻き込んでおいて舞とリカちゃんにいらん事を聞かせた落とし前をつけさせん事には気が晴れんな……。
 そのためには彼に死んでもらっては困る。
 そんな事を思いながらTさんはいくつかの行動方針を思案し始めた。


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