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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-06

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            ●


 聞こえてきたゆっくりとした足音に俺は身を固くする。Tさんが庇うように前に出て階段を睨みつけた。
 後ろでは辰也の兄ちゃんが動こうとしてる身動きが聞こえるけど、あの怪我じゃあすぐには無理じゃねえかと思う。
「≪13階段≫は……」
「無理だろうな」
 Tさんの答えにやっぱりと思い、≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんが辰也兄ちゃんを護るように抱きかかえたのを見て俺も半ば覚悟を決める。
 さっき話に出てた≪ダンピール≫ってのが出てくるか、それとも姉ちゃんが襲われてたみたいなでっかい蛇が出てくるか……。
 何が出てくるのかと緊張していると、足音の主はゆっくりとした足取りのまま階段を下りきった。床にやたらと線が引かれた、試合会場みたいなこの部屋に現れたのは意外な事に辰也の兄ちゃんと同じくらいの年っぽい見た目をした顔色の悪い兄ちゃんで、
「――――っ!」
 そいつの顔を見て辰也の兄ちゃんが驚いたように息を飲んだ。そのまま切れ切れの声で言うのは現れた兄ちゃんの名前らしきもので、
「……ってん、ち……」
「へ? ……あの、兄ちゃんが?」
「……門条天地、か……」
 その名前はここ数時間の間に何回も聞かされた名前だった。


            ●


「……H№96……っ」
 イライラしてそうな口調で天地の兄ちゃんが辰也の兄ちゃんのナンバーを口にする。
 おいおい……。
 待てよ、と思う。
 確かいろんな話を合わせると天地の兄ちゃんと辰也の兄ちゃんは兄弟ってことになるはずじゃねえか、それがまたなんでこんな殺気立ってんだよ。
「……お前を、殺せば……先生も、認めてくれる…………先生に、捨てられずにすむ……」
 ……先生?
 顔色の悪いまま、なんかうわごとのように呟く天地の兄ちゃん。その兄ちゃんの周囲にいくつかの人影らしきものが現れる。
「≪モンスの天使≫か」
「うえっ、こんなところであんな無茶苦茶な天使の群れ出されんのかよ」
「……いや」
 Tさんの呟きに俺は目を天地の兄ちゃんの周囲に向ける。現れようとしていた天使の群れは、
「……あれ?」
 消えちまった……?
 現れようとしていた天使の気配がどこかに消えちまっていた。Tさんが「やはり……」と頷く。
「彼も状態がすぐれないようだな」
「おかおまっさおなの」
 あの顔色は伊達じゃないってことみたいだ。
「なんだよ驚かせやがって――っておい?!」
 天地の兄ちゃんはまた天使を喚び出そうとしているようだった。兄ちゃんの周囲が歪んでは元に戻るを繰り返している。
「………ん、ち……やめておけ……今度こそ、死ぬぞ」
「煩い……っ、先生に、見込まれた癖に…………≪組織≫を裏切った、恩知らずが……!」
「Tさん」
「このままではまずいな」
 Tさんはそう言うと、
「待て、青年」
 天地の兄ちゃんに鋭く声をかけた。
 天地の兄ちゃんはTさんを睨みつけてきた。Tさんは意に介さない様子で二人の間に割って入るように声をかける。
「彼を恨むのは、筋違いだろう」
「……ッ黙れ。何者かは、知らないが……邪魔するなら、容赦はしない……!」
 天地の兄ちゃんは自分が俺達に銃撃してきたことを知らないらしい。まああんな夜の校舎じゃあ俺達を確認するのは無理だろうしなぁ。
「容赦もなにもボロボロじゃねえか」
 とてもこれからだれかを襲いに行きますって状態じゃない。
「あんたの言う先生ってのが誰なのか、俺は知らねぇけど……先生に認められるってのが、そんなに大事かよ?」
「…………あぁ、そうだよ!!」
 焦ったような顔で叫び返された。
「先生が、認めてくれれば……見捨てられずに、すむ……先生に見捨てられたら、俺は……もう、≪組織≫に……いられない強硬派連中から、引き離されて…………穏健派の中じゃ、俺みたいな能力……使いどころがあるはずもない……先生だけが、俺に期待してくれていたんだ、先生が俺を見捨てないでくれれば、俺はまだ≪組織≫にいられる。≪組織≫から捨てられずにすむっ!!」
 感情をそのまま表に出したような叫びと置き去りにされた子供みたいな表情に俺は気圧された。
 Tさんが腕でさりげなく天地の兄ちゃんの射抜くような視線から俺を庇う。庇われた視線の先、兄ちゃんの声は、
「≪組織≫に居場所がなくなったら…………もう、俺には居場所なんて…………ない………」
 静かに続いて止まり、Tさんの腕が目の前から退いた。
 兄ちゃんの言う事はよく分からない、俺にとっての天地の兄ちゃんなんてトリガーハッピーの迷惑野郎という印象しかない。兄ちゃんが元気なら蹴りの一発でも叩き込みたいくらいには怨んでるし、ここまで兄ちゃんが追い込まれる理由もよく分かりはしない。
 だけど、兄ちゃんの言っている事には確実におかしいとろがある。
 だから訊ねてみようと口を開こうとすると、先にTさんが俺が訊こうとしたことをそのまま代弁した。
「青年。お前は、自分は≪組織≫にしか居場所がないというが……それは、真実か?」
「っ何を……」
「≪組織≫の他にもお前を必要としてくれる存在が。お前を気にかけてくれる存在は、ちゃんといるんじゃないのか?」
 そうだ。たとえば倒れた天地の兄ちゃんを命を狙われた事があったにも関わらず助けたっていうじゃねえか。≪組織≫にしか居場所がないなんてこたあないだろう。そう思いつつ天地の兄ちゃんのTさんへの返事を待つ、と。
「……駄目、だ………………直希に、迷惑は……俺が、勝手に……」
 へ?
 直希の兄ちゃん? 先の事件で会ったチャラい兄ちゃんや誠の兄ちゃんの友達の天使使いの兄ちゃんを思い出した。
 変な所で知り合いが繋がってんなぁ。そう思うけど、どうも天地の兄ちゃんは今の言葉で悩んでるみたいだ。
 Tさんが「いい傾向だな」と小声で呟くのを聞く。俺も内心頷いていると、湿った咳が聞こえた。
 この咳……。
 前に聞いた。血を吐く咳だ。振り向くと辰也の兄ちゃんが血を吐き出していた。


            ●


「辰也、駄目だ……無理、するな」
「……少しは、無理しなきゃいけねぇ状況だろうがよ……」
 吐血している辰也の兄ちゃんに≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんが慌てて声をかける。
 おいおい……。
 辰也の兄ちゃんも天地の兄ちゃんも、いろいろと限界っぽいじゃねえか。
「こりゃ、髪の伸びる黒服さんに味方するにしても一度兄ちゃん達連れて出た方が良くね?」
「そうだな」
 Tさんが答えた時、出し抜けに金属がなにかしら鈍器でぶん殴られるとんでもない音が響いた。
「なんだ!?」
 ビクリと背筋を伸ばし、音のした方を見る。音源は髪の伸びる黒服さんが崩してハンニバルとかいうおっちゃんと落ちて行った穴を挟んだ更に先、そこにある扉からしていた。音は途切れず連続して響いて来る。
「な、何の音だ?」
「……ッ多分、ダンピール、だろ」
 辰也の兄ちゃんが答える。
 扉を力任せに破ろうとするかのような音はとめどなく続く。一秒の間だってない。
 これは……。
「一体だけ、というわけではないらしいな……」
 やっぱりっ。
「Tさんっ!」
「あぁ……」
 呼びかけに答えながらにいちゃん達を見回すTさん。このままじゃなんかやばそうだ。とりあえずへばってる二人を殴り倒してでもとっとと退散しなきゃと思っていると、
「……っ」
 うめき声を出して上半身を起こした辰也の兄ちゃんが天地の兄ちゃんを見つめた。説得するように口を開いた。
「……≪組織≫に育てられた子供にだって……≪組織≫以外で生きる生き方だって、ある」
「……っ、戯言を……」
 違う、Tさんはそうやって生きている。俺の内心に同調するように辰也の兄ちゃんが反論する。
「現に、俺がそうだろうが……他にも、うまく≪組織≫を逃れて……生きている連中は、わりといるもんだ」
 扉が叩かれる音を背景に辰也の兄ちゃんの声は続く。
「≪組織≫以外に……自分を必要としてくれる存在が思い当たったなら、そっちに頼っても……いい、だろうが。迷惑かける、と思うなら……今は迷惑かけてでも、後でその借りを返せばいいだろ」
「……っんな、事」
「それとも、お前を必要としている奴は、それを許さない心の狭い奴か?」
 天地の兄ちゃんの表情が固まる。兄ちゃんを必要としている人ってのはそんな心の狭い人じゃないみたいだ。表情が迷うように揺れているのを見てそう思う。
「……で、も……せんせ、は……」
「そいつが」
 辰也の兄ちゃんが言葉を繋ごうとし、
「そいつが……ハンニバルが、お前の母親を……」
 そこまで言って言葉は途切れた。
 先生ってのはハンニバルって奴のことだったのか。だとしたら、
「最悪だな」
 思った事をそのまま吐き捨てる。
 だって天地の兄ちゃんや辰也の兄ちゃんの母親の門条晴海って人はハンニバルって人に――、
 身体に悪寒が走る。浅く身体を抱いて一つ息を吐く。女としては嫌な話だ。晴海って人はどういう気分だったんだろうか?
 扉を叩き続ける音は続いている。今のところ唯一の障害である天地の兄ちゃんは、多分俺でも苦もなく殴り倒せるだろうけど……。
 どうしようか? そう思いながらTさんを見た。




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