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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-08

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「む? 辰也も負傷しているのか?」
 宏也と朝比奈、二人を相手にしだしたハンニバルを睨みつけ始めた直希が言う。
「困った。治癒能力持ちの天使を呼びたい所だが……あいにく、僕も今日はハンニバルと一戦交えた後で、あまり余裕がない」
 困ったように言う直樹の表情はよくよく見れば青ざめているのが見て取れた。
 舞とリカちゃんが慌て気味に、
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
「だいじょうぶなの?」
「レディに迷惑をかけることにはならないようにするよ」
 そう柔らかに笑む直希の疲労は今すぐ倒れるというほどのものでも無いだろう。
 Tさんは直希へと会釈し、
「青年、皆を連れて上の階へと上がれるだろうか?」
 尋ねる。
 送り届けて竜に乗せればあとは俺も加勢できるが、
「あ、ちょTさんてめ、一人だけ――」
 考えを察したのか舞がなにやら慌て始め、しかし、
「上の階か? 上がれなくもないが、上はダンピール大量発生中につき、現在戦場だが」
「うげ!?」
「上にも、いるのか」
 直希が戦場と言ったからには上でも誰かが戦っているのだろう。
 ……退く事すらできないか。
 こちらの戦場では動きを封じようとして脚を狙う宏也の攻撃を全て切り落としたハンニバルが宏也と朝比奈から距離をとり、巨大な穴を挟んで互いに睨み合っていた。
 その時、ハンニバルが背を向けていた扉に異変が起こった。
 ――あれは。
 その扉は先程≪ダンピール≫と思しきものが破ろうとしていた扉だった。
「なあ、Tさん、扉……」
「いつの間にか扉を叩く音は聞こえてこなくなっていたが……」
 今、その扉には亀裂がはしっている。崩壊は近いことだろう。
 さて、何が出るか……。
 思った瞬間、扉を破って大量の水が飛び出してきた。
「水!?」
 舞の驚きに、
「いや……」
 水以外にも流れて来ている。
 Tさんは目を凝らす。床に空いた穴から水は流れ落ちていく。その流れ落ちていく水の中に、
「人……? いや、≪ダンピール≫のなれの果てか」
「じゃあ≪ダンピール≫は……?」
「いないの?」
「そのようだが……Tさん」
「ああ」
 直希の声に答え、破壊された扉の向こうにあった空間を見据える。暗闇の向こう、そこに銀色の、目と思しき光があり、
 直後、その暗闇から水ではない何かが飛び出してきた。
「これは……?」
「タコか?!」
「随分と巨大だが――」
 広い部屋の四分の一を占拠しかねないほどの巨大な蛸が現れた。
 今回の非日常に自分たちを巻き込んだ蛇を連想させるそれに、Tさんは攻撃しようとして、
「――?」
 しかし蛸はこの場にいる中において迷う事なくハンニバルを選んで襲い掛かった。
「……H№2の手のものではないのか?」
「H№2は……そいつは、俺……が、殺し、た……」
 切れ切れの辰也の言葉にTさんは了解の意を示し、
 ではあれは?
 蛸の伸ばす八本の足は、しかし一瞬でその全てが切り落とされる。
 Tさんが発生した衝撃波を防ぐ先、蛸の残骸が水の流れに乗って穴に落ちていくのに合わせ、更にこの場に闖入するものがあった。
 それはナイフを構えた船員じみた服装の人間で、
「――くっくははぁははっ!」
 闖入者は奇声と共にナイフを振りかぶって狂ったような表情でハンニバルに襲い掛かった。それもまた、一瞬で剣で貫かれる。
 ハンニバルは剣を突き込んだまま思案気に、
「先ほど流れてきた水……これは、海水か? そして、巨大な蛸……クラーケン? そして、狂える男、船員……これは」
 その背後に闇が生まれた。人一人を飲み込むのに十分な闇。闇そのものとしか言いようのないそれは、ハンニバルを飲み込もうとその体に近づき、しかしハンニバルはその接近を感じ取ったのだろう、突き刺していた船員らしき男の体をその闇に放り投げ、自身は素早くその闇から離れて、まるで左半身を庇うように前に出た。右腕が少し闇に触れ、その全てがまるではじめからそこに存在していなかったかのように消滅する。
「っ」
 ハンニバルは瞬時に失った右腕を再生して剣を振るう。その切っ先は闇を避けたハンニバルの背後に回りこみ、攻撃しようと接近していた人影の首をあっさりと切り落とした。
 長い白髪をした男の首が鈍い音と共に地面に落ちて転がる。
 それはTさんの足元まで転がってきて、
「うわ!?」
 舞が悲鳴をあげた。
「≪マリー・セレスト号≫の契約者、といったところか。はて、その契約者に恨まれるような事をした覚えはないな……?」
「お前のことだから、どうせあちこちで恨み買いまくってるんじゃないのか?」
 軽い嫌味と共に、宏也が攻撃を繰り出す。
 その襲いかかる髪を次々に切り落とすハンニバル。朝比奈が追撃に炎のブレスを吐きつけたが、それはハンニバルを焼き尽くしきれず、すぐに再生される。二人がかりの攻撃集中攻撃を受けて、なおハンニバルの余裕は崩れる様子がなかった。
 状況はこちらに傾かんか……。
 考えながらTさんは白髪の男の首を見下ろす。あの蛸の挙動といい、狂った船員といい、あれらがこの男の喚んだものであるなら、ハンニバルに相応の恨みをもつ者であったようだが、
「Tさん、これ、さすがに死んでる、よなぁ……」
「舞、あまり見るな」
「そうだね、レディが見ていて気持ちのいいものじゃあない」
 後方では恵が首に怯えている気配も伝わって来る。
 ……仏には悪いが蹴り飛ばさせてもらおうか。
 小さく息を吐き出しながら思っていると、
「いや、まぁ、生きてるんだがな」
 首が動いて小声で喋り出した。
「生首が……」
「しゃべったの」
 舞達の驚愕を余所に生首は続ける。
「あー、悪い、誰でもいいから、俺のこの首、あっちの胴体まで投げてくんね? ……ハンニバルの野郎に気づかれないように、もっかい不意を撃ちたいから」
「Tさん、この首なんか勝手な事しゃべってるぜ」
「……Tさん、穴に放り投げてしまっても構わないと僕は思うが」
「ん、俺も同感だ」
 直希と頷き合うが一応は味方らしい、辰也がやや警戒するように生首を睨んで誰何する。
「……誰だ?」
「誰でもいいだろ? ようは、俺もハンニバルの糞野郎が憎いんだよ。あいつを殺すんなら、一枚噛ませろ」
 軽い調子の生首はこう続けた。
「……俺は、ハンニバルの不死身の秘密を、知っている」
 ハンニバルと同じように、死ににくい能力を持っているのだろう白髪の生首は銀色の目をしていた。扉の奥に見えたあの光はこれだろう。
「だから、協力するから協力してくれ……あの野郎の、息の根を……止める」
 軽い調子だった生首は一転、憎々しげに言うと、ハンニバルの不死の秘密を語った。


            ●


 西洋剣、不死、蘇る刀身……まあ考えないではなかったが……。
 生首が語ったハンニバルの不死の正体にTさんは得心した。
 ならばこそのあの違和感か。
 先程のハンニバルは敢えて宏也の攻撃を喰らいにいく程の余裕を見せていたにも関わらず、体全体を覆い尽くそうとする攻撃に対しては左半身を庇っていた。
 それは、
 あの鞘を破壊されないため。
 なぜならば、
「あの鞘、≪エクスカリバー≫の鞘こそがハンニバルの不死性の正体だからだな」
 ≪エクスカリバー≫、アーサー王が持つという伝説の剣の名称だ。そしてその鞘は剣よりも価値があるとされ、身につけている限り一滴の血も流す事がないという伝承がある。
 それが故の不死性。
「じゃああの鞘ぶっ壊しちまえばいいんだな?」
「ああ、そうすれば状況は大きく変わる」
 舞に答えながら打開の策を思案する。直希もまたハンニバルの腰の鞘を睨みながら、
「不死の秘密を知られていないとハンニバルが思っている今……」
「あれを奪うか破壊するのに有効な手は……」
 直希とTさんの思考は同時に同じ結論を出した。
「――奇襲」


           ●


 Tさんが戦場から飛んでくる流れ弾を防ぐ一方、直希は分厚い書物、≪光輝の書≫を開きながら恵に声をかける。
「レディ、すまないがその電話と君の力を貸してもらいたい」
「え、あ……う、うん」
「お前ら……一体何を」
「あーもう辰也の兄ちゃんは無理に動こうとすんなって、また血ぃ吐くぞ?」
「うごいちゃめっ、なの」
 尚も何か訊きたそうな辰也にTさんは概要を説明する。
「すまないが髪の伸びる黒服さんと朝比奈秀雄に注意喚起をしてもらいたい。辰也の声に一番髪の伸びる黒服さんは鋭く反応するだろうし、ハンニバルの注意も引き付けられる」
「わかった」
 頷いた辰也に頷き返したTさんは生首を拾い上げ、
「生首の御仁、胴体まで首を放り投げればいいんだな?」
「おう、頼む」
「わかった。――この生首が自らの胴体まで飛んでいけば幸せだ」
 立案から筋立て、準備まで一分とかかることはなかった。
 しかしその間にも戦況は進んでいく。現場では宏也の治癒不良が顕著になっていた。
「Tさん、あの黒服さんだが……」
「分かっている。急ごう、玄宗直希」
 そして状況は開始された。


            ●


 直希の≪光輝の書≫から天使が一体現れる。それが構える槍の先に恵の携帯電話を突き刺し、宏也と朝比奈秀雄がハンニバルの視線からの遮蔽物になるタイミングで、
「っ宏也、朝比奈、伏せろ!!」
「貫け、ゾフィエル」
 辰也の声に反応して身を伏せた二人の頭上を天使が駆け、天使が構えた槍がハンニバルの心臓を貫いた。ハンニバルは自身に刺さった槍の柄を掴み、
「無駄だというのが……!?」
 槍の切っ先に刺さっている携帯に気付いた。
 しかし、
「遅、い」
 携帯を握った恵の声。同時にTさんが生首を放り投げた。
 閃光、爆音、衝撃が場を揺らし、ハンニバルの上半身が吹き飛ぶ。一瞬がら空きになる下半身、だが次の瞬間には上半身はすぐに再生をはじめる。宏也が髪を伸ばすが、間に合わな――
「闇に飲まれろぉ!!!」
 首と胴体が繋がった白髪の男が再生し続けるハンニバルに接近し、先程も現れた闇を出現させて飲み込もうとする。
「――っ!」
 再生しきったハンニバルはその闇を回避、返す刀で白髪の男の脳天をハンニバルの剣が貫いた。
「っがっ!? ……の、やろ。死ねぇけど、痛覚はそのままなんだからな……っ」
「それは、私もそうだがね………ふむ? ≪マリー・セレスト号≫に、不死に結びつくような逸話があったかな?」
 白髪の男の脳天から剣を抜こうとするハンニバル。その剣を、白髪の男は素手で掴んだ。
「……何の真似かね?」
「っは……こうしなくても、抜けないだろう、けど、な……」
 剥き出しの刃を掴む手から血が伝ってゆく。
「こうすりゃ、てめぇもまともに動けねぇだろうし……てめぇの最強の眼も、見えない場所からの攻撃にゃあ、無意味だろうよっ!!!」
 白髪の男の体を背後から宏也の髪が貫いた。
 予想外であろう場所からの攻撃にハンニバルの反応が遅れる。それでも何とか対処しようと身を動かそうとするハンニバルに、散々切り捨てられ、もう意志を持って動く事の無い筈の髪が絡まった。
「――!?」
「その髪、切れても尚拘束する意志を見せたら幸せだろう?」
 Tさんの小さな口の動きは読まれたかどうか、結果としてハンニバルの防御は間に合わなかった。加速した宏也の攻撃がハンニバルの左腕を切り捨て、続く動作でハンニバルの腰から下げられた鞘を奪った。
「っが……っ!?」
 切り裂かれた腕の付け根から激しく出血するハンニバル。その傷が再生しない。
「っの、貴様……!?」
「それが貴様の不死の秘密か」
 続けて朝比奈の爪先がハンニバルの右肺をえぐった。やはり、再生しない。
「がぁあああああああああああああああああ!!!???」
 鞘を奪われて痛覚が正常にでも戻ったか、ハンニバルの絶叫が部屋中に響き渡った。
「いやぁ、こっちの考えを読んでくれて感謝感謝。ついでに、よく気づいたな、あいつの不死身の秘密」
「……そりゃ、あれだけ庇い続けてるのを見りゃ、な」
 ハンニバルに貫かれた脳天も、宏也にえぐられた体も、即座に再生させている白髪の男、そしてそれに答えるハンニバルの鞘を奪った宏也の傷も、まるで先ほどまでのハンニバルのように再生していっている。
「持ち主だけじゃなく、持った奴なら誰彼構わず治すのかよ、これは」
 古びた、けれど、立派な装飾のその鞘だ。ハンニバルの持つ剣の柄には顎から炎を噴き出す二匹の蛇が掘られている。
「……≪エクスカリバー≫、か」
 その鞘を奪った今、ハンニバルの不死性は失われ――
「――ッ鞘を、よこせ!!!」
「っ!?」
 一瞬でハンニバルは宏也へと踏み込んでいた。大振りな、しかし高速の一太刀が鞘を絡めていた髪を切り落とし、ハンニバルは鞘をその手に回収する。
 直後にハンニバルの身体中の傷が再生した。
「――っ」
 宏也の舌打ちが響き、一見した状況は元に戻った。
 しかし、
「――っは、ようやく焦りが出たなぁ?」
 宏也が嘲弄交じりの笑みを浮かべる。
「貴様ら……!」
 余裕の態度が消え去り、怒りを声と表情ににじませるハンニバル。
 形勢が傾いたな……。
 Tさんは思い、ハンニバルを見る。
 そう、もう不死身の正体は割れた。それさえ抑え込めれば、
「あとはただの狂人……」
 この場で戦闘し得る者にとってただの狂人では、
「役者不足だ。そうだろう? ハンニバル」
 彼が報いを受ける刻限は、刻一刻と迫っていた。





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