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連載 - 三面鏡の少女-55

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三面鏡の少女 55


暑い暑い夏の夜
じりじりと焼け付く昼間の暑さとは違う、纏わり付くような暑さ
町そのものの体力が消耗しているようなじっとりとしたような空気の中、どこか苛ついた様子で高級マンションのエントランスから出てくる宮定繰
「またですか」
それを待ち構えていたように立っていたA-No.18782が、やや呆れたような笑みを浮かべて彼女を迎える
「暑くて寝てらんないもの。なんか仕事ないの?」
「そんなに毎日は仕事はありませんよ。暑いならクーラーでもつけて寝て下さい」
「クーラー嫌いなのよ」
「扇風機とかは無いんですか」
「クーラーあるのに扇風機買わないわよ、うちの親」
「クーラー嫌いなんですよね?」
その言葉に、繰は露骨な苛立ちと嫌悪感を浮かべる
「うちの親が、私の好みなんか知ってるわけないでしょ」
「なかなかに複雑な家庭事情なようで」
「そんなわけないでしょ、単純極まりない事。私は親に興味がない、親は私に興味が無い、それだけよ」
繰が両親の顔を最後に見たのはいつだっただろうか
小学校に上がった頃には、それなりに顔を合わせていた記憶がある
だが、言葉を交わした記憶はほとんど無い
幼い頃からそれが当たり前で、仕方の無い事で
そして、仕方の無い事はいつか、どうでもいい事へと変わっていった
生活に不自由しない環境を与えてくれるだけの存在、それが繰にとっての親というものだった
「扇風機ぐらい買ったらどうですか、『組織』からの戦闘報酬も出てるんですし」
「あんたのとこからのお金は、今まで私が育つのに使った親の金を返すのに充ててんの。生活費も合わせたら結構カツカツなんだから」
今まで親から与えられたものは全て返済する、それが繰の目標の一つだった
そうでもしなければ、繋がってないに等しいのに存在する不気味な縁が切れないような気がして
「お互い、居ない方が都合がいい存在なの。最初からいなかった事にできるぐらいに割り切るには、少なくとも私はそうしなきゃ気が済まない。金の切れ目が縁の切れ目ってね」
「やっぱり複雑な家庭事情じゃないですか」
「あんたの理解力が足りないのよ」
そう言うと繰は、A-No.18782の腕を掴んでぐいぐいと引っ張りながら歩き出す
「暑くて寝れないのと学校で変な格好させられてるのとでイライラしてんの。何でもいいから暴れられる相手は居ないの?」
「そういうのが居たら、ちゃんとこちらからお呼びしてますよ……引っ張らないで下さい、夜遊びぐらいなら付き合いますから」
「そんなお金、使ってられないわよ。だからお金の掛からないストレス解消の相手を用意してって言ってるの」
「支払いは私が持ちますよ。担当者のメンタルケアもまあ仕事って事で」
「裏の仕事ならともかく、遊び回るのは都合が悪いわよ。一応女子高生なんだからね?」
「保護者同伴じゃないですか。まあそんなに遅くならない程度にはしておきましょうね?」
「むぅ……時々あんたのキャラがよく判らなくなるわ」
「『組織』の黒服ですし、ミステリアス系って事で一つ」
殺気だだ漏れの女子高生と笑顔の黒服の二人は、あれこれ喚き合いながら夜の町へと消えていった

―――

殺すだの喧嘩を売るだの物騒な単語がちらほらと漏れる少女と、それを笑顔で宥める黒服の男
そんな二人と擦れ違ったコンビニ袋を提げた男は、マンションのエントランスに入りエレベーターへと向かう
先程の少女が降りてきたのであろう、エレベーターは丁度一階で止まっており、男は悠々とそれに乗り込んだ
エレベーターの扉が閉まり一人になった男は、誰も居ないその空間に向かって独り言を語り出す
「うん、やっぱりこの町を滅ぼすキーワードは『家族』だよ。親子、兄弟、恋人、本物も偽者も義理もごっこも何でもいい」
上昇を続けるエレベーターの中で、男――安芸葉鳥は楽しそうに楽しそうに独り語る
「複雑に絡み合う『家族』という縁が、僕のドミノ牌を繋ぎ勢いを加速させる大事な要素だ。さっきの子も『家族』というキーワードに少し敏感にしてあげたら、ターゲットの子を発狂寸前まで追い込んでくれた事があったし」
コンビニの袋からチープな棒アイスを取り出すと、封を切ってすぐに口に運ぶ
「でもいつも一押しが足りないんだよね……ガスの子の時とか、竜の人の時とか、ダイヤの人とか。ずっとずっと丁寧に仕込んで、そこそこ大事にはなるけど、最後まで倒しきれない。もっともっと勢いをつけるには」
しゃくりとアイスを齧り、口の中に広がる甘さと冷たさを堪能し喉を潤して
        コロ         コロ
「少し大きめでも倒せる牌は、どんどん倒していこう。うん、それがいい」
そして彼は牌を並べ出す
誰にも気付かれないままに、少しずつ少しずつ巧妙に捻じ曲げて
たった一人の少女を苦悩させ絶望させ死に至らしめるために
この町全てを巻き込み滅ぼす事すら、そのための準備とするために


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