誘拐と人食い 02
学校町から二駅ほど離れ、やや山中へと車を走らせた場所に建つ豪奢な屋敷
重厚な作りの玄関扉の前に立ち、音門金融の社員である黒服の佐藤梨々は、重い溜息を吐いて呼び鈴を鳴らした
それに反応して、扉周辺に設置された十数台のカメラが一斉に梨々に照準を合わせる
「何度来ても慣れなっスね、これ……」
十数の物言わぬ冷たい機械の目に見据えられ、背中にじっとりと嫌な汗をかく
それからものの数秒後、分厚く重たい扉が音も無く開き、両脇に十数人のメイドが為す列の真ん中で、一人のメイドが深々と御辞儀をして梨々を迎えた
「いらっしゃいませ、音門様からの御使いと窺っております」
顔を上げ微笑んだメイドが手にしていたのは、一枚のエプロン
「ご主人様へのご面会は、こちらを着用の上でと言付かっております」
「また訳のわからん趣向っスね……まあこれぐらいで済むならいいっスけど」
滑らかで艶やかな高級そうな生地のそれを受け取り手早くエプロンを纏う梨々に、メイドはにこやかな笑顔で首を振る
「申し訳ありませんが、着用方法が違います」
「へ?」
そう言うとメイドは何処からともなく、竹と藤で編み上げた衣装籠を取り出し
「エプロン以外のお召し物はこちらへどうぞ」
「ふざけんなーっ!?」
すぱーんとエプロンを柔らかな絨毯に叩き付け叫ぶ梨々
「ご主人様は常に真剣でございます。主にエロスに対して」
「前に来た時は、上着脱いでシャツの襟元を緩めるだけで良かったっスよ!? 胸元を穴が開くほど見られたっスけど!」
「生憎と、ご主人様は取引については非常に公正な方ですので」
メイドがぱちりと指を鳴らすと、両脇に並んでいたメイド達が一糸乱れぬ動きで梨々を取り囲む
「前回、対価以上の情報を無断で持ち出した事に対するペナルティでございます」
梨々は自分の能力のオン、オフを自由に切り替える事が出来る
必要な時以外は煩いためにオフにしていたのだが、それが完全に裏目に出た
「に、逃げようと思えば、あんたら全員ぶっ倒して逃げる事も出来るっスよ?」
「それでは貴女が音門様からのお役目を果たせないと愚考致しますが」
メイドは笑みを崩さず、またぱちりと指を鳴らす
それと同時に周囲のメイドが一斉に裁ち鋏を取り出した
「お役目を果たせずお帰りになるか、素直にご主人様のご指示に従っていただくか……強制的に従っていただいた後、そのままのお姿でお帰りになるか。選択はご随意に」
「……自分で着替えるっス」
がっくりと項垂れた梨々に、メイドは笑顔で衣装籠を手渡し
「では、お召し物はこちらへ。ご安心下さい、ご主人様からは下着の回収や調理などは承っておりませんので」
「回収はともかく調理って何っスか!?」
「まずは少量のお湯で出汁を充分に」
「説明はいらねぇっスよ!? つーか助兵衛爺だとは思ってたっスけど出鱈目な変態っぷりっスね!?」
半泣きで服を脱ぐの梨々に、メイドは何一つ揺るぎの無い笑顔でこう返した
「お褒めに預かり恐悦至極に御座います。できればご主人様と面会の折にも、できるだけ蔑み罵る調子でお伝えいただけると大変喜ばれるかと」
「……絶対嫌っス」
重厚な作りの玄関扉の前に立ち、音門金融の社員である黒服の佐藤梨々は、重い溜息を吐いて呼び鈴を鳴らした
それに反応して、扉周辺に設置された十数台のカメラが一斉に梨々に照準を合わせる
「何度来ても慣れなっスね、これ……」
十数の物言わぬ冷たい機械の目に見据えられ、背中にじっとりと嫌な汗をかく
それからものの数秒後、分厚く重たい扉が音も無く開き、両脇に十数人のメイドが為す列の真ん中で、一人のメイドが深々と御辞儀をして梨々を迎えた
「いらっしゃいませ、音門様からの御使いと窺っております」
顔を上げ微笑んだメイドが手にしていたのは、一枚のエプロン
「ご主人様へのご面会は、こちらを着用の上でと言付かっております」
「また訳のわからん趣向っスね……まあこれぐらいで済むならいいっスけど」
滑らかで艶やかな高級そうな生地のそれを受け取り手早くエプロンを纏う梨々に、メイドはにこやかな笑顔で首を振る
「申し訳ありませんが、着用方法が違います」
「へ?」
そう言うとメイドは何処からともなく、竹と藤で編み上げた衣装籠を取り出し
「エプロン以外のお召し物はこちらへどうぞ」
「ふざけんなーっ!?」
すぱーんとエプロンを柔らかな絨毯に叩き付け叫ぶ梨々
「ご主人様は常に真剣でございます。主にエロスに対して」
「前に来た時は、上着脱いでシャツの襟元を緩めるだけで良かったっスよ!? 胸元を穴が開くほど見られたっスけど!」
「生憎と、ご主人様は取引については非常に公正な方ですので」
メイドがぱちりと指を鳴らすと、両脇に並んでいたメイド達が一糸乱れぬ動きで梨々を取り囲む
「前回、対価以上の情報を無断で持ち出した事に対するペナルティでございます」
梨々は自分の能力のオン、オフを自由に切り替える事が出来る
必要な時以外は煩いためにオフにしていたのだが、それが完全に裏目に出た
「に、逃げようと思えば、あんたら全員ぶっ倒して逃げる事も出来るっスよ?」
「それでは貴女が音門様からのお役目を果たせないと愚考致しますが」
メイドは笑みを崩さず、またぱちりと指を鳴らす
それと同時に周囲のメイドが一斉に裁ち鋏を取り出した
「お役目を果たせずお帰りになるか、素直にご主人様のご指示に従っていただくか……強制的に従っていただいた後、そのままのお姿でお帰りになるか。選択はご随意に」
「……自分で着替えるっス」
がっくりと項垂れた梨々に、メイドは笑顔で衣装籠を手渡し
「では、お召し物はこちらへ。ご安心下さい、ご主人様からは下着の回収や調理などは承っておりませんので」
「回収はともかく調理って何っスか!?」
「まずは少量のお湯で出汁を充分に」
「説明はいらねぇっスよ!? つーか助兵衛爺だとは思ってたっスけど出鱈目な変態っぷりっスね!?」
半泣きで服を脱ぐの梨々に、メイドは何一つ揺るぎの無い笑顔でこう返した
「お褒めに預かり恐悦至極に御座います。できればご主人様と面会の折にも、できるだけ蔑み罵る調子でお伝えいただけると大変喜ばれるかと」
「……絶対嫌っス」
―――
禿上がった頭と僅かに残った白い頭髪
やや大柄で引き締まった筋肉質の身体は、齢90を越えているとは思えない
「うむ、久しいの梨々ちゃん。相変わらず可愛いし、良い乳しとるのぅ」
その身体に五人ほどの半裸の女性を絡ませて、舐めるような視線で裸エプロンの梨々を眺めている
「あんまりにも良い乳しとったんで、ちょいと調べさせて貰ったが……いかんのぅ、情報取引に梨々ちゃんみたいなのが来ちゃあな」
「調べて出てくるもんじゃないっスよ……うちの元締めに聞いたんスか?」
「あの坊主が部下を売るような輩かね。儂のコネを舐めてもらっちゃ困るのぅ……むしろアレなら舐めて欲しいもんだがの」
ジョークと本気が2:8ぐらいで混ざったセクハラ発言に、梨々はうんざりとした顔で身体を隠すように椅子の上で丸まっていた
「ところで今日はどんな用件かの? 儂のハーレムに入りたくなった?」
「んなわけねっス。ここしばらく学校町で行方不明事件が多くて、『誘拐結社』の動向でも聞けないもんかと思って遣わされたっス。借金のカタに爺さんに売る予定だった娘も消えちまったっスよ」
「ふむ」
老人は記憶を手繰るように考え込む
その様子を見て梨々は自らの能力をオンにした
彼女は都市伝説そのもの
都市伝説よりも古くから存在する妖怪の血族、『さとり』の一人
相手の思考を読み取るという能力により、老人の考えている事が全て梨々の頭に流れ込んでくる
「ぶはーっ!?」
平静を装えって思考を読むつもりでいたのだが、流れ込んできた老人の思考に思い切り吹き出してしまう
「かかか、儂の『全裸健康体操第一・象さんの章』のイメージは気に入って貰えたかの?」
「こここここっちの質問について真面目に考えろジジイっ!?」
「勝手に思考を読まれるのはつまらん。儂は語るのも聞くのも好きでのぅ」
老人が姿勢を変えると、絡み合う女性達もまた思い思いに姿勢を変える
「海外ならともかく、国内の『誘拐結社』の連中が動くのはこれからかの。既に動いているなら、とっくに商品リストが届いとるはずだしの」
「……つまり、今起きてる行方不明には、少なくともそいつらは関わってない?」
「今までに、だの。近々商品を提供できるかもと挨拶には来とったからのぅ」
顎をさすりながら、老人はふむと唸る
「何か判ったら教えてやろう。その時は梨々ちゃんが聞きに来るとええ」
「またあっしっスか!?」
「音門の坊主んトコは若い女は梨々ちゃんだけじゃろ? 色々似合いそうな服を用意しておくからいつでも来るとええ」
「二度と御免じゃ色ボケジジイっ!?」
「おふう、もっとキツく罵ってええぞ? ええぞ?」
この老人には一生勝てない気がする
寿命とは無縁の妖怪の身でありながら、内心は完全に白旗を揚げてしまっていた梨々であった
やや大柄で引き締まった筋肉質の身体は、齢90を越えているとは思えない
「うむ、久しいの梨々ちゃん。相変わらず可愛いし、良い乳しとるのぅ」
その身体に五人ほどの半裸の女性を絡ませて、舐めるような視線で裸エプロンの梨々を眺めている
「あんまりにも良い乳しとったんで、ちょいと調べさせて貰ったが……いかんのぅ、情報取引に梨々ちゃんみたいなのが来ちゃあな」
「調べて出てくるもんじゃないっスよ……うちの元締めに聞いたんスか?」
「あの坊主が部下を売るような輩かね。儂のコネを舐めてもらっちゃ困るのぅ……むしろアレなら舐めて欲しいもんだがの」
ジョークと本気が2:8ぐらいで混ざったセクハラ発言に、梨々はうんざりとした顔で身体を隠すように椅子の上で丸まっていた
「ところで今日はどんな用件かの? 儂のハーレムに入りたくなった?」
「んなわけねっス。ここしばらく学校町で行方不明事件が多くて、『誘拐結社』の動向でも聞けないもんかと思って遣わされたっス。借金のカタに爺さんに売る予定だった娘も消えちまったっスよ」
「ふむ」
老人は記憶を手繰るように考え込む
その様子を見て梨々は自らの能力をオンにした
彼女は都市伝説そのもの
都市伝説よりも古くから存在する妖怪の血族、『さとり』の一人
相手の思考を読み取るという能力により、老人の考えている事が全て梨々の頭に流れ込んでくる
「ぶはーっ!?」
平静を装えって思考を読むつもりでいたのだが、流れ込んできた老人の思考に思い切り吹き出してしまう
「かかか、儂の『全裸健康体操第一・象さんの章』のイメージは気に入って貰えたかの?」
「こここここっちの質問について真面目に考えろジジイっ!?」
「勝手に思考を読まれるのはつまらん。儂は語るのも聞くのも好きでのぅ」
老人が姿勢を変えると、絡み合う女性達もまた思い思いに姿勢を変える
「海外ならともかく、国内の『誘拐結社』の連中が動くのはこれからかの。既に動いているなら、とっくに商品リストが届いとるはずだしの」
「……つまり、今起きてる行方不明には、少なくともそいつらは関わってない?」
「今までに、だの。近々商品を提供できるかもと挨拶には来とったからのぅ」
顎をさすりながら、老人はふむと唸る
「何か判ったら教えてやろう。その時は梨々ちゃんが聞きに来るとええ」
「またあっしっスか!?」
「音門の坊主んトコは若い女は梨々ちゃんだけじゃろ? 色々似合いそうな服を用意しておくからいつでも来るとええ」
「二度と御免じゃ色ボケジジイっ!?」
「おふう、もっとキツく罵ってええぞ? ええぞ?」
この老人には一生勝てない気がする
寿命とは無縁の妖怪の身でありながら、内心は完全に白旗を揚げてしまっていた梨々であった
―――
学校町の商店街に、一際派手な一行が鳴り物を響かせて行進していた
飾り立てられたトラックに描かれたのはサーカスの絵
跳ね回る道化師達が道行く人々にチラシを、子供達には風船を配って回っている
「……風船」
「何だ、欲しいのか?」
買い物を終え荷物を下げた大の服の裾を引きながら、まぐろが無い目を輝かせて大の顔とサーカスの一団を交互に見ていた
「子供に配ってるやつみたいだし、俺が貰いに行くのもな」
少々困った顔で眺めていると、視線の先にいた風船を持った道化師が跳ねたり転びかけたりしながら駆け寄ってくる
聞こえたのか、大がそう思って声を掛けようとしたその時
道化師が風船を一つ、まぐろに差し出した
笑顔の化粧の下にも笑顔を浮かべ、まぐろに風船の紐を握らせるとその頭をぽんぽんと叩き
道化師は手を振りながら騒ぎの只中へと戻っていった
風船の紐をくいくいと引っ張りながら、おおと喜ぶまぐろを尻目に大は微妙な顔をする
「見えてたのか」
見えるのは都市伝説か、契約者か、霊感の強い人間だけ
あの道化師はそのどれだったのだろうかと考えながら、はしゃぐまぐろのの手を引いて帰途に着くのであった
飾り立てられたトラックに描かれたのはサーカスの絵
跳ね回る道化師達が道行く人々にチラシを、子供達には風船を配って回っている
「……風船」
「何だ、欲しいのか?」
買い物を終え荷物を下げた大の服の裾を引きながら、まぐろが無い目を輝かせて大の顔とサーカスの一団を交互に見ていた
「子供に配ってるやつみたいだし、俺が貰いに行くのもな」
少々困った顔で眺めていると、視線の先にいた風船を持った道化師が跳ねたり転びかけたりしながら駆け寄ってくる
聞こえたのか、大がそう思って声を掛けようとしたその時
道化師が風船を一つ、まぐろに差し出した
笑顔の化粧の下にも笑顔を浮かべ、まぐろに風船の紐を握らせるとその頭をぽんぽんと叩き
道化師は手を振りながら騒ぎの只中へと戻っていった
風船の紐をくいくいと引っ張りながら、おおと喜ぶまぐろを尻目に大は微妙な顔をする
「見えてたのか」
見えるのは都市伝説か、契約者か、霊感の強い人間だけ
あの道化師はそのどれだったのだろうかと考えながら、はしゃぐまぐろのの手を引いて帰途に着くのであった