誘拐と人食い 03
「ふむ、そちらの方は進展があったかの?」
「昨日の今日であるわけ無いっス。そんでもって、無いからこっちから聞きにきてんだこのエロ爺」
相変わらずにやにやと助平な笑みを浮かべた老人を、羞恥と敵意の混ざった視線で睨み付ける梨々
もっともそういうリアクションがこの老人を喜ばせているのだが
ちなみに本日の支給品は伸縮タイプの包帯が二本だけだった
「まあこちらも昨日の今日だしの。さほど情報は入ってきとらん」
「恥ずかし損かいあっしは!?」
「まあ待て、さほどと言うたろ」
老人は助平な笑みをやや押さえて、口頭で数人の女性の名前を羅列する
「知っとる名はあったかの?」
「……いや、無いっスね」
「今回の商品リストは子供が中心じゃて、やはり関わりは薄いと思っとったがまあそんなとこかの」
その言葉に、梨々はすうっと目を細める
「爺さん、子供は買わねっスか?」
「稚児趣味は無いのでな。エロい事ができんもん買ってどうするんじゃ」
「いや、自分好みに育てて~みたいな昔のエロ貴族みたいな真似とかしてるかと思ったんスけど」
「一度やってみたんじゃが、ありゃダメじゃ。娘とか孫とかに対するみたいな感情が湧いてぶっちゃけ勃たん。まあついでに建てた全寮制の学校はまだ運営しとるがの」
「ついでで建つもんなんスか、学校……売られてる女の子、全部買い付けて助けれるんじゃないっスか?」
「そこまでできるわけなかろうが。儂に出来るのは精々趣味の範囲内じゃて。分け隔て無い救いなんて、神様とかにでも任せときゃええ」
相変わらずこの老人の基準がいまいち判らないし、判りたくもない
梨々は老人の言葉が本心である事を読み取りながら、呆れたように溜息を吐いていた
「昨日の今日であるわけ無いっス。そんでもって、無いからこっちから聞きにきてんだこのエロ爺」
相変わらずにやにやと助平な笑みを浮かべた老人を、羞恥と敵意の混ざった視線で睨み付ける梨々
もっともそういうリアクションがこの老人を喜ばせているのだが
ちなみに本日の支給品は伸縮タイプの包帯が二本だけだった
「まあこちらも昨日の今日だしの。さほど情報は入ってきとらん」
「恥ずかし損かいあっしは!?」
「まあ待て、さほどと言うたろ」
老人は助平な笑みをやや押さえて、口頭で数人の女性の名前を羅列する
「知っとる名はあったかの?」
「……いや、無いっスね」
「今回の商品リストは子供が中心じゃて、やはり関わりは薄いと思っとったがまあそんなとこかの」
その言葉に、梨々はすうっと目を細める
「爺さん、子供は買わねっスか?」
「稚児趣味は無いのでな。エロい事ができんもん買ってどうするんじゃ」
「いや、自分好みに育てて~みたいな昔のエロ貴族みたいな真似とかしてるかと思ったんスけど」
「一度やってみたんじゃが、ありゃダメじゃ。娘とか孫とかに対するみたいな感情が湧いてぶっちゃけ勃たん。まあついでに建てた全寮制の学校はまだ運営しとるがの」
「ついでで建つもんなんスか、学校……売られてる女の子、全部買い付けて助けれるんじゃないっスか?」
「そこまでできるわけなかろうが。儂に出来るのは精々趣味の範囲内じゃて。分け隔て無い救いなんて、神様とかにでも任せときゃええ」
相変わらずこの老人の基準がいまいち判らないし、判りたくもない
梨々は老人の言葉が本心である事を読み取りながら、呆れたように溜息を吐いていた
―――
都市伝説の扱う異空間は、概ね独立した位相のものが多い
だがこの空間は近似した能力を持つものが様々なラインを通じてアクセスが可能な、ある意味ではもう一つの世界、『電脳空間』である
ネットロアや情報体、通信に関わる都市伝説が飛び交うこの世界で、一人の少女が小さな事務机に向かっている
机の上の小さなパソコンがあり、使い込まれたキーボードの上を細く白い指が踊る度にこの世界中から様々な情報が集まってくる
ちなみに、この机もパソコンも実際に存在しているわけでなく、存在や行動、能力を表したアバターの一部に過ぎない
「『誘拐結社』は相変わらずだけど、今回の件に関してはシロかな……音門さんの言っていた女性は売買リストにも入ってないみたいだし」
通常空間では文字か音声でしか存在していない、都市伝説『犯人探しのチェーンメール』のアバターである橘あゆみ
本来のチェーンメールでは殺害された被害者の名前であるが、個として存在するために都市伝説内の固有名として強く結びついているのである
「携帯電話の方は通話できない状態ね。電池が切れるほどの時間は経ってないそうだし、壊れてる可能性が高いかも」
パソコンに併設された『PAmw-B38』と刻印された機械から吐き出された無数のメール情報が、モニタ上を滝のように流れていく
「しょうがない、無理矢理やってみよう」
対象の携帯電話が中継局に最後にアクセスしたであろう位置を割り出し、そこから周辺にある壊れているであろう基盤に無理矢理『力』を捻じ込んでメールを送信する
「場所は……下水道? 電話だけ捨てられたのかな」
あゆみがそう呟いた時
壊れたはずの携帯電話がメールを受信した事に近くに居た何者かが反応したのだろうか
携帯電話が完全に破壊された衝撃と共に送り込んだメール情報が霧散する
「……っ! これは、つまり……ターゲットの女性は、下水道のこのポイントに」
机に置かれたモニタの向こう側、広い空間に映し出された日本地図がどんどん一点に向かって拡大し、学校町の全景を映し出す
「反応があったポイントがここ……下水道の配管図は」
電脳空間にある様々なデータが引き出され、立体的な図面となって浮かび上がる
学校町の下水道は通常の配管の他に、一般人は踏み込めない都市伝説的な巨大地下迷宮としての一面もあり迂闊に踏み込める場所ではない
「助けるのは難しそうですし、音門さんに連絡はしておいた方が良さそうですね」
あゆみが通信端末に手を伸ばした、その瞬間
その手首が虚空から現れた軟体の触手に絡め取られた
「ひっ!?」
「あれ、このデータうちに関係ないじゃん。うちの腹探っといて関係無い事してるとか馬鹿なの? 死ぬの?」
送信のために圧縮中だった下水道の図面を眺めながら、二人の少年があゆみに語り掛ける
「たかだかチェーンメールに腹探られてるとか、うちの連中もどんだけズボラだよ。こんなんだから俺らがゲームに集中できねーんだっつーの」
「そりゃ俺ら以上の電脳空間のプロは、うちの組織にゃいないけどさぁ。昨日なんか二時間しか寝てねーのによー、二時間しかー」
「あ、あなた達、一体」
震える声でそう問い掛けるのが精一杯のあゆみの腕を、ずるりずるりと触手が這いずり締め上げていく
「電脳空間で俺ら知らないとかどんなモグリよ」
「『誘拐結社』の事探っといてその体たらく? ないわー、マジないわー」
虚空に浮かぶキーボードを軽やかな手捌きで弾き、振り上げた手でターンと軽快な音を立ててエンターキーを叩く
一本だった触手は四本に増え、絡め取られた腕を引き剥がそうと必死だったあゆみの四肢に更に絡みつく
「電脳世界の漆黒の闇天使、『闇プログラマー』と」
「神の左手と悪魔の右手を持つ神域の魔人、『スーパーハカー』さ」
一瞬、彼らが敵である事も自分が拘束されてしまっている事も忘れて「あ痛たたたた……」という気持ちが胸一杯に溢れ出す
だがそれすらも彼らの『本気を出す気力を削ぐ』という能力である事は、あゆみは勿論の事だが当の二人すら自覚は無い
しかしそのような能力が無くとも、この電脳空間においては無敵に近い存在である
「さて、どうしようかこいつ。『チェーンメール』とか割とたくさん居るから売れないしな」
「殺しても消えるだけだしつまんないし」
「とりあえず、さぁ……複数の男に強姦され、下腹部をメッタ刺しにされて殺されたんだっけ、『橘あゆみ』って?」
「その前に、妊娠三ヶ月だったはずだね」
げらげらと声を上げて笑う二人に、あゆみの顔から血の気が引いていく
「殺さないよ、安心しな」
「俺らに逆らう奴がどうなるか、見せしめにしなきゃなんないから」
「知名度もまだ足りてないって解ったしな」
「って、そういや前に表立って知名度上げるなってリーダーに怒られなかったっけ」
「『誘拐結社』のじゃねぇもん、『闇プログラマー』と『スーパーハカー』のだし何ら問題ナッシング」
二人の少年はくるりと振り返り
「というわけで、これから始まるのはそれなんてエロゲ? って展開になりまーす」
「エロゲだから有料ね? タダ見や邪魔はノーサンキュー」
具現化した障壁が轟音と共に三人のいる空間を電脳空間の全てから隔絶していく
視界も音もアクセスも全てを遮った後、世界は何事も無かったかのようにただ沈黙していた
だがこの空間は近似した能力を持つものが様々なラインを通じてアクセスが可能な、ある意味ではもう一つの世界、『電脳空間』である
ネットロアや情報体、通信に関わる都市伝説が飛び交うこの世界で、一人の少女が小さな事務机に向かっている
机の上の小さなパソコンがあり、使い込まれたキーボードの上を細く白い指が踊る度にこの世界中から様々な情報が集まってくる
ちなみに、この机もパソコンも実際に存在しているわけでなく、存在や行動、能力を表したアバターの一部に過ぎない
「『誘拐結社』は相変わらずだけど、今回の件に関してはシロかな……音門さんの言っていた女性は売買リストにも入ってないみたいだし」
通常空間では文字か音声でしか存在していない、都市伝説『犯人探しのチェーンメール』のアバターである橘あゆみ
本来のチェーンメールでは殺害された被害者の名前であるが、個として存在するために都市伝説内の固有名として強く結びついているのである
「携帯電話の方は通話できない状態ね。電池が切れるほどの時間は経ってないそうだし、壊れてる可能性が高いかも」
パソコンに併設された『PAmw-B38』と刻印された機械から吐き出された無数のメール情報が、モニタ上を滝のように流れていく
「しょうがない、無理矢理やってみよう」
対象の携帯電話が中継局に最後にアクセスしたであろう位置を割り出し、そこから周辺にある壊れているであろう基盤に無理矢理『力』を捻じ込んでメールを送信する
「場所は……下水道? 電話だけ捨てられたのかな」
あゆみがそう呟いた時
壊れたはずの携帯電話がメールを受信した事に近くに居た何者かが反応したのだろうか
携帯電話が完全に破壊された衝撃と共に送り込んだメール情報が霧散する
「……っ! これは、つまり……ターゲットの女性は、下水道のこのポイントに」
机に置かれたモニタの向こう側、広い空間に映し出された日本地図がどんどん一点に向かって拡大し、学校町の全景を映し出す
「反応があったポイントがここ……下水道の配管図は」
電脳空間にある様々なデータが引き出され、立体的な図面となって浮かび上がる
学校町の下水道は通常の配管の他に、一般人は踏み込めない都市伝説的な巨大地下迷宮としての一面もあり迂闊に踏み込める場所ではない
「助けるのは難しそうですし、音門さんに連絡はしておいた方が良さそうですね」
あゆみが通信端末に手を伸ばした、その瞬間
その手首が虚空から現れた軟体の触手に絡め取られた
「ひっ!?」
「あれ、このデータうちに関係ないじゃん。うちの腹探っといて関係無い事してるとか馬鹿なの? 死ぬの?」
送信のために圧縮中だった下水道の図面を眺めながら、二人の少年があゆみに語り掛ける
「たかだかチェーンメールに腹探られてるとか、うちの連中もどんだけズボラだよ。こんなんだから俺らがゲームに集中できねーんだっつーの」
「そりゃ俺ら以上の電脳空間のプロは、うちの組織にゃいないけどさぁ。昨日なんか二時間しか寝てねーのによー、二時間しかー」
「あ、あなた達、一体」
震える声でそう問い掛けるのが精一杯のあゆみの腕を、ずるりずるりと触手が這いずり締め上げていく
「電脳空間で俺ら知らないとかどんなモグリよ」
「『誘拐結社』の事探っといてその体たらく? ないわー、マジないわー」
虚空に浮かぶキーボードを軽やかな手捌きで弾き、振り上げた手でターンと軽快な音を立ててエンターキーを叩く
一本だった触手は四本に増え、絡め取られた腕を引き剥がそうと必死だったあゆみの四肢に更に絡みつく
「電脳世界の漆黒の闇天使、『闇プログラマー』と」
「神の左手と悪魔の右手を持つ神域の魔人、『スーパーハカー』さ」
一瞬、彼らが敵である事も自分が拘束されてしまっている事も忘れて「あ痛たたたた……」という気持ちが胸一杯に溢れ出す
だがそれすらも彼らの『本気を出す気力を削ぐ』という能力である事は、あゆみは勿論の事だが当の二人すら自覚は無い
しかしそのような能力が無くとも、この電脳空間においては無敵に近い存在である
「さて、どうしようかこいつ。『チェーンメール』とか割とたくさん居るから売れないしな」
「殺しても消えるだけだしつまんないし」
「とりあえず、さぁ……複数の男に強姦され、下腹部をメッタ刺しにされて殺されたんだっけ、『橘あゆみ』って?」
「その前に、妊娠三ヶ月だったはずだね」
げらげらと声を上げて笑う二人に、あゆみの顔から血の気が引いていく
「殺さないよ、安心しな」
「俺らに逆らう奴がどうなるか、見せしめにしなきゃなんないから」
「知名度もまだ足りてないって解ったしな」
「って、そういや前に表立って知名度上げるなってリーダーに怒られなかったっけ」
「『誘拐結社』のじゃねぇもん、『闇プログラマー』と『スーパーハカー』のだし何ら問題ナッシング」
二人の少年はくるりと振り返り
「というわけで、これから始まるのはそれなんてエロゲ? って展開になりまーす」
「エロゲだから有料ね? タダ見や邪魔はノーサンキュー」
具現化した障壁が轟音と共に三人のいる空間を電脳空間の全てから隔絶していく
視界も音もアクセスも全てを遮った後、世界は何事も無かったかのようにただ沈黙していた
―――
滑り止めの小さな重りがついた紐を、くいくいと引っ張るまぐろ
それに合わせて赤い風船がぷかぷかと揺れる
「飽きないな、風船」
「うんっ」
眼球の無い不気味な、しかし無邪気な笑顔で頷くまぐろに、大は僅かに苦笑を浮かべる
契約して一緒に暮らすようになってからは、様々なものに興味を持ち色々な事を覚えていくまぐろ
そんな彼女に色々な事を教え日々の面倒を見ていると、まるで娘を育てているような気分にもなってくる
そしてふと思い出すのは、自分を命をあっさり売り飛ばそうとした父親の顔
酒と女と博打で身を持ち崩し、妻と息子に多大なる迷惑を掛けた上に死体も残さず何処かで野垂れ死んだ厄介者
彼にとって自分はどんな存在だったのか、そんな事を考えてしまう
「大、どうしたの?」
ふと気が付くと、まぐろのぽっかりと空いた眼窩が自分の顔を覗き込んでいた
「ああ、ちょっと考え事をな」
「風船、楽しいよ?」
少し不安げに、風船の紐を握らせようとしてくるまぐろ
雰囲気に出していたつもりは無いのだが、内心を察したように元気付けようとしてくれているようだ
「それはまぐろが貰った風船だろ? 俺は大丈夫」
父親の事を脳裏から追い払い、いつもの落ち着いた顔でまぐろを抱き締め頭を撫でてやる大
この子がいるから自分は『大丈夫』なのかもしれない
「ねー」
「どうした?」
「お風呂ー」
「一人で入れるようになりなさい」
「やだー、契約者なんだからいつも一緒がいいー」
精神レベルは小学生の低学年ぐらいだが、なんだかんだで体は割と発育の良い高校生ぐらいの造形である
いくら娘や妹のように面倒を見てるからとはいえ、健康な二十代男子である大は流石に目のやり場に困るのだ
「水着つけるからー」
「それじゃ身体がちゃんと洗えないだろ」
「じゃあ水着なしで一緒に入るー」
「それじゃ結局変わってないだろ」
それからどたばたとじゃれあう事数分
結局、湯船の中で明後日の方向に視線を向けている大と、なにやら首を捻りながら頭を洗っているまぐろの姿があった
「頭洗ってー」
「自分で出来るようになりなさい」
「むずかし、いひゃ!? めー、めにあわがー」
「……今度、水泳用のゴーグルでも買ってくるか」
そんな、主にまぐろの声で賑やかな浴室の外で
ぷかりと浮いて天井に身を預けた赤い風船が、サーカスのロゴを見せるようにくるりくるりと回っていた
それに合わせて赤い風船がぷかぷかと揺れる
「飽きないな、風船」
「うんっ」
眼球の無い不気味な、しかし無邪気な笑顔で頷くまぐろに、大は僅かに苦笑を浮かべる
契約して一緒に暮らすようになってからは、様々なものに興味を持ち色々な事を覚えていくまぐろ
そんな彼女に色々な事を教え日々の面倒を見ていると、まるで娘を育てているような気分にもなってくる
そしてふと思い出すのは、自分を命をあっさり売り飛ばそうとした父親の顔
酒と女と博打で身を持ち崩し、妻と息子に多大なる迷惑を掛けた上に死体も残さず何処かで野垂れ死んだ厄介者
彼にとって自分はどんな存在だったのか、そんな事を考えてしまう
「大、どうしたの?」
ふと気が付くと、まぐろのぽっかりと空いた眼窩が自分の顔を覗き込んでいた
「ああ、ちょっと考え事をな」
「風船、楽しいよ?」
少し不安げに、風船の紐を握らせようとしてくるまぐろ
雰囲気に出していたつもりは無いのだが、内心を察したように元気付けようとしてくれているようだ
「それはまぐろが貰った風船だろ? 俺は大丈夫」
父親の事を脳裏から追い払い、いつもの落ち着いた顔でまぐろを抱き締め頭を撫でてやる大
この子がいるから自分は『大丈夫』なのかもしれない
「ねー」
「どうした?」
「お風呂ー」
「一人で入れるようになりなさい」
「やだー、契約者なんだからいつも一緒がいいー」
精神レベルは小学生の低学年ぐらいだが、なんだかんだで体は割と発育の良い高校生ぐらいの造形である
いくら娘や妹のように面倒を見てるからとはいえ、健康な二十代男子である大は流石に目のやり場に困るのだ
「水着つけるからー」
「それじゃ身体がちゃんと洗えないだろ」
「じゃあ水着なしで一緒に入るー」
「それじゃ結局変わってないだろ」
それからどたばたとじゃれあう事数分
結局、湯船の中で明後日の方向に視線を向けている大と、なにやら首を捻りながら頭を洗っているまぐろの姿があった
「頭洗ってー」
「自分で出来るようになりなさい」
「むずかし、いひゃ!? めー、めにあわがー」
「……今度、水泳用のゴーグルでも買ってくるか」
そんな、主にまぐろの声で賑やかな浴室の外で
ぷかりと浮いて天井に身を預けた赤い風船が、サーカスのロゴを見せるようにくるりくるりと回っていた