ふと、気がついた瞬間、自分が見知らぬ場所にいる事を、サンジェルマンは自覚した
「ここは…?」
暗い、暗い、真っ暗な空間
上も下もはっきりしない、未知の空間
上も下もはっきりしない、未知の空間
……何かの、都市伝説の攻撃でも受けたか?
サンジェルマンが、警戒し始めた瞬間
サンジェルマンが、警戒し始めた瞬間
「か~~~~~~~~~~っらからからからからからからからからからからからからからからからぁ!!!」
空間に響く、笑い声
古びた燕尾服を纏い、山高帽を被った、葉巻を咥えた男が、いつの間にか姿を現していた
くるり、ステッキをまわしてくる
古びた燕尾服を纏い、山高帽を被った、葉巻を咥えた男が、いつの間にか姿を現していた
くるり、ステッキをまわしてくる
「よぉ~~~~~~っこそ!神々の交差点、「神の領域」に!!」
「…神の、領域?」
「そう言うこった」
「…神の、領域?」
「そう言うこった」
聞き覚えのある声
振り返ると…そこにいたのはイクトミだった
虚空に、そこに椅子でもあるかのように、当たり前のように座っている
振り返ると…そこにいたのはイクトミだった
虚空に、そこに椅子でもあるかのように、当たり前のように座っている
「あーぁ、来ちまったか、お前も」
「……………いっそ、こんなところ、知らない方がずっと幸せなのにねぇ?」
「……………いっそ、こんなところ、知らない方がずっと幸せなのにねぇ?」
足元からの、陰鬱な声
すぐ傍らに、小さな少年がしゃがみこんでいる
サンジェルマンに背を向けていて、その顔は見えない
すぐ傍らに、小さな少年がしゃがみこんでいる
サンジェルマンに背を向けていて、その顔は見えない
「イクトミ……ここは、一体?神の領域とは…」
「…言葉通りの意味だよ?そんな事もわからないの?」
「…言葉通りの意味だよ?そんな事もわからないの?」
イクトミの代わりに、足元の少年が答えてきた
馬鹿にしているような、突き放しているような、そんな声
馬鹿にしているような、突き放しているような、そんな声
あー、とイクトミが、やや面倒くさそうに声をあげる
「まぁ、そいつの言う通り、そのまんまだよ。本来ならば、「神」と呼ばれる存在だけが、入り込める場所。神の精神が、ほんの少し上位から世界を見下ろす場所。神々の精神が行き交う、神々の交差点」
「か~~~っらからからからから!小難しい事はさておき、ここは観客席であり、物語の脚本家達ともしかしたら遭遇できるVIPルームであり、色んな神様との交流場所なのであるよ!!」
「か~~~っらからからからから!小難しい事はさておき、ここは観客席であり、物語の脚本家達ともしかしたら遭遇できるVIPルームであり、色んな神様との交流場所なのであるよ!!」
やけにテンションの高い燕尾服の男が笑う
この姿……ハイチの死神、ゲデか
確か、「薔薇十字団」に所属している個体だったはず
この姿……ハイチの死神、ゲデか
確か、「薔薇十字団」に所属している個体だったはず
「なるほど、神々の、ですか…では、この少年も?」
「…………僕は、違うよ………………僕はおじさんと同じ、神様でもないのに、こんな場所に来る権利を手に入れてしまっただけの、ただの人間さ」
「…………僕は、違うよ………………僕はおじさんと同じ、神様でもないのに、こんな場所に来る権利を手に入れてしまっただけの、ただの人間さ」
サンジェルマンの言葉に、少年は吐き捨てるように答えた
…見れば、少年は先ほどから、ずっと、小石でも掴んで水面に落としているかのような動作を繰り返している
その度、空間に波紋が広がり続ける
…見れば、少年は先ほどから、ずっと、小石でも掴んで水面に落としているかのような動作を繰り返している
その度、空間に波紋が広がり続ける
「…ここは、そこの死神が言うとおり、観客席。登場人物の悲劇を嘲笑う脚本家と観客達の気配をかじる事が出来る、さいっていの場所だよ」
「慣れれば、脚本家に石投げてぶつけるくらいはできるけどな」
「からからからからからから、我輩達が味わう苦痛を、素敵な悪夢の中で味あわせるのであるよ!!」
「慣れれば、脚本家に石投げてぶつけるくらいはできるけどな」
「からからからからからから、我輩達が味わう苦痛を、素敵な悪夢の中で味あわせるのであるよ!!」
少年一人と神二人の言葉に、ふむ、とサンジェルマンは辺りを見回す
暗い空間
そこに、つい、と手を伸ばす
……掴んだのは、小さなカケラ
暗い空間
そこに、つい、と手を伸ばす
……掴んだのは、小さなカケラ
「………へぇ?もう見つけたんだ?……良かったね、才能あるんじゃないの?」
「あ、サンジェルマン、それは…」
「あ、サンジェルマン、それは…」
イクトミが、止めるよりも前に
そのカケラを覗き込み、サンジェルマンは苦笑する
そのカケラを覗き込み、サンジェルマンは苦笑する
「……なるほど、これが、本来私に訪れるはずだった「結末」ですか」
……そのカケラは、脚本
用意されていたけれど、その結末に至らず、打ち捨てられたもの
あったかもしれない現実の、到達しなかったカケラだ
用意されていたけれど、その結末に至らず、打ち捨てられたもの
あったかもしれない現実の、到達しなかったカケラだ
そのカケラの中身は……悲劇と惨劇
上田という青年に関わった者達、その事如くが死に絶え、不幸になっていく
残酷で残忍で残虐で、救いなんてこれっぽっちもない世界
その脚本では、サンジェルマンはレモンの「ラプラスの悪魔」の予知通りの結末を迎えていた
上田という青年に関わった者達、その事如くが死に絶え、不幸になっていく
残酷で残忍で残虐で、救いなんてこれっぽっちもない世界
その脚本では、サンジェルマンはレモンの「ラプラスの悪魔」の予知通りの結末を迎えていた
「…………ここには、その手のカケラは一杯あるよ?もっと探してみる?………見れば見るほど胸糞悪くなるのは確実だけどね」
「でしょうね。この辺でやめておきましょう」
「でしょうね。この辺でやめておきましょう」
ぽい、とカケラを放り投げるサンジェルマン
カケラは暗闇の中に、吸い込まれるように消えていく
カケラは暗闇の中に、吸い込まれるように消えていく
「ここは、来る気になればいつだって入り込める………ここに入り込めるのは、精神だけだから…好き好んで、こんなロクでもない場所に来るかどうかは別だけどね」
「現実世界とは、時間の流れも違うしな」
「ゆっくりじっくりお茶会しても、現実ではほんの数秒しか時間がたってないとかざらなのであるよ。か~~~っらからからからからからから!!」
「なるほど、ある意味で、ゆっくり思考をめぐらせるには最適な場所かもしれませんね」
「現実世界とは、時間の流れも違うしな」
「ゆっくりじっくりお茶会しても、現実ではほんの数秒しか時間がたってないとかざらなのであるよ。か~~~っらからからからからからから!!」
「なるほど、ある意味で、ゆっくり思考をめぐらせるには最適な場所かもしれませんね」
暗い空間
陰鬱な空間であるかもしれないが、むしろ、自分達の話し言葉さえなければ、無音の空間でもある
余計なものとて、あのカケラのように意識しなければ視界に入ってくる事もないのだろう
ある意味で、思考にふけるには最高の空間かもしれない
陰鬱な空間であるかもしれないが、むしろ、自分達の話し言葉さえなければ、無音の空間でもある
余計なものとて、あのカケラのように意識しなければ視界に入ってくる事もないのだろう
ある意味で、思考にふけるには最高の空間かもしれない
「……へぇ……………おじさんは、また、ここに来る気があるんだ?」
「神の領域なんて、本来、入り込めない場所に入り込めたんですしねぇ…それに」
「神の領域なんて、本来、入り込めない場所に入り込めたんですしねぇ…それに」
少年を見下ろすサンジェルマン
少年は、サンジェルマンを見ようともしない
ただ、空間に波紋を作り続けている
少年は、サンジェルマンを見ようともしない
ただ、空間に波紋を作り続けている
「あなたも、この場所を憎んでいながら、こうやって入り込んでいるのでしょう?お互い様ですよ」
「………僕は、危機回避に利用しているだけさ。残酷で残忍で残虐な舞台を好む、残酷で残忍で残虐な創造者達の好き勝手にされるなんて、御免だからね。それに波紋を作って台無しにしたい、ただ、それだけ」
「………僕は、危機回避に利用しているだけさ。残酷で残忍で残虐な舞台を好む、残酷で残忍で残虐な創造者達の好き勝手にされるなんて、御免だからね。それに波紋を作って台無しにしたい、ただ、それだけ」
その気になれば、ここはいくらでも未来を知る事ができる
絶望的な未来を突きつけられる可能性と隣り合わせ、とも言えるだろう
……この少年はそれを否定し続ける為に、ここにいるのだろう
サンジェルマンは、そう理解した
絶望的な未来を突きつけられる可能性と隣り合わせ、とも言えるだろう
……この少年はそれを否定し続ける為に、ここにいるのだろう
サンジェルマンは、そう理解した
「……さて、イクトミ、ここは、来る気になればいつでも来れるし。脱出する気になればいつでも脱出できますよね?」
「まぁな。お前らみたいな人間とか元人間の身でここに来た奴ぁ、たいてい二度と来ないんだけどな…そこの餓鬼みたいな例外はさておき」
「か~~~~っらからからからからからから!!かの「カラミティ・ルーン」も、一度来たきり二度とやってきていないであるよ!「こんなしみったれた空間俺様にふさわしくない」とか言ってたであるな!!」
「…うっわぁ、あれも来た事あったんですか、ここ…」
「まぁな。お前らみたいな人間とか元人間の身でここに来た奴ぁ、たいてい二度と来ないんだけどな…そこの餓鬼みたいな例外はさておき」
「か~~~~っらからからからからからから!!かの「カラミティ・ルーン」も、一度来たきり二度とやってきていないであるよ!「こんなしみったれた空間俺様にふさわしくない」とか言ってたであるな!!」
「…うっわぁ、あれも来た事あったんですか、ここ…」
一度だけ遭遇した、そして、出来る事ならば二度と関わりあいたくない存在の名前を聞いて、サンジェルマンは苦笑した
…間違っても、ここで顔をあわせたくないものだ
ゲデの言う通り、ここに姿を見せていないなら、問題ないかもしれないが
…間違っても、ここで顔をあわせたくないものだ
ゲデの言う通り、ここに姿を見せていないなら、問題ないかもしれないが
「からから、とりあえず、サンちゃんがまたここに来るというのならば!!サンちゃんも、ここの住人の仲間入りなのであるよ!!レェッツ!歓迎会!!!」
「待ってください。サンちゃんって何ですか、私のことですか?」
「からからからからからからからからから!!ここに出入りするからには、同じ釜の飯食った仲間!!フレンドリーに行くである!!」
「待ってください。サンちゃんって何ですか、私のことですか?」
「からからからからからからからからから!!ここに出入りするからには、同じ釜の飯食った仲間!!フレンドリーに行くである!!」
サンジェルマンの言葉を無視して、ゲデがハイテンションにくるくる回る
周りに、椅子とテーブル、ティーセットなどが具現化してきた
恐らくは、ここに出入りできる者が望めば、こう言う物はすぐに具現化するのだろう
サンジェルマンが軽くイメージしてみると、なるほど、彼の手元にお茶菓子が現れた
周りに、椅子とテーブル、ティーセットなどが具現化してきた
恐らくは、ここに出入りできる者が望めば、こう言う物はすぐに具現化するのだろう
サンジェルマンが軽くイメージしてみると、なるほど、彼の手元にお茶菓子が現れた
「…へぇ、本当に才能あるんだ………良かったね?その調子だったら、すぐに創造者とかとも遭遇できるかもよ……?僕らを不幸にして楽しがる、意地の悪い連中と、さ。きひひひひひひひひひ」
「お前な。もうちょい、ガッカリさせない言葉選んどけよ。一応、俺がなれない気をつかってやってるのに」
「お前な。もうちょい、ガッカリさせない言葉選んどけよ。一応、俺がなれない気をつかってやってるのに」
後ろ向きな発言しかしない少年に、イクトミは小さく苦笑して
サンジェルマンを見て、肩をすくめる
サンジェルマンを見て、肩をすくめる
「……さぁて、サンジェルマン?お前の歓迎会と行こうか。お前の「組織」での扱いとか、残留についてとかも話したいしな」
「おや、私が「組織」に残ってもいいのですか?」
「お前次第だけどな。俺としちゃあ、お前に抜けられたら面倒臭いし」
「おや、私が「組織」に残ってもいいのですか?」
「お前次第だけどな。俺としちゃあ、お前に抜けられたら面倒臭いし」
酒飲めなくなるのヤだし、と自分勝手な事を言ってくるイクトミ
このトリックスターめ、と苦笑しながら、サンジェルマンはゲデが出現させた椅子に腰掛けた
このトリックスターめ、と苦笑しながら、サンジェルマンはゲデが出現させた椅子に腰掛けた
さぁ、かみさまのおちゃかいがはじまるよ?
すてきなはなしあいといこうじゃないか?
ちぬれたぶたいをみおろせる、さいていでさいこうでさいあくのかんきゃくせき
ひとのこが、しょうきをたもちつづけることができるかな?
すてきなはなしあいといこうじゃないか?
ちぬれたぶたいをみおろせる、さいていでさいこうでさいあくのかんきゃくせき
ひとのこが、しょうきをたもちつづけることができるかな?
fin