誘拐と人食い 09
深夜の学校町
終電間近の駅のトイレに、やや疲れた顔の男が少々慌てた足取りで駆け込んでいく
「ふいー、外周りはめんどくさいなぁ」
溜息を吐きながら、ズボンを下ろして便座に座り込む男、『馬鹿は死ななきゃ治らない』の契約者、葉霞南八
今日も今日とて仕事に励み、合間合間に『もげろ』の契約者、最上椿に職場のある5階の窓から放り投げられたりする日々である
もっとも、課長が「心臓と胃に悪い」泣きそうな顔で懇願するので、窓から放り投げられる回数はやや減ったのだが
「ここんち仕事のミスも減ってきた事だし、最上さんに怒られる回数も減少傾向。惚れ直される日も近いってもんだ」
この男は馬鹿である限り絶対に死ぬ事が無く、致命傷を負っても平然と活動が可能でいつの間にか傷も回復しているというギャグ漫画のような能力である
そんな彼に都市伝説としての存在意義を叩き折られ、復讐に燃える都市伝説が一体
彼がこのトイレに入るのを虎視眈々と待ち構えていた
「げ、紙が無い!?」
南八がペーパーホルダーに手を掛けると、入った時には丸々と残っていたはずのトイレットペーパーが無くなっていた
「ぐぬぅ、ポケットティッシュとか使って詰まらせたら最上さんに怒られそうだな……誰か入って来ないもんか」
かといってあまりトイレに長居してると、やはり仕事に戻った折に椿に怒られるのは明白である
そんな心配をしていたところに、トイレの入り口のドアが軋んで開く音がした
こつこつと足音を立ててトイレに入ってきた気配に、南八は喜び勇んで声を掛ける
「赤い紙と青いk」
「ちょっと今入ってきた人! 予備のトイレットペーパー取ってくれませんかね! いやぁ、丁度切れてたのに気付かなくて!」
奇妙な沈黙がトイレの中に漂う
気を取り直したように個室の外にいた気配が咳払いをし
「赤い紙t」
「聞こえてましたかー! 予備が無ければ適当な個室のやつで! ちょっと上から投げ入れてくれればいいですから!」
再びの沈黙
何か堪えるように呻き声を上げる気配に、南八は首を傾げる
「あk」
「ああ! もしかして今もう出しちゃってます? そっちが済んでからで構いませんよ!」
「台詞を最後まで言わせろよっ!?」
どかんと個室の扉を蹴り、天井と仕切りの間によじ登って怒鳴り込む『赤紙青紙』
「ぬおっ!? 貴様はいつぞやの痴漢! か弱い女子を守ったヒーローに逆恨みし復讐にやってきたのか!」
「お前の何処がヒーローだよ!? 今度こそきっちり殺してやるべく、修行を積んできた俺の力を見せてやる!」
言うが早いか、虚空から突然現れた巨大な注射針のような物騒な代物が、南八の首目掛けていくつも飛来する
「のわぁっ!?」
狭いトイレの個室、しかもズボンとパンツを下ろした状態の南八にそれを避け切れるはずも無く
ぶつりぶつりと生々しい音を立ててその首筋に突き刺さり、鮮血を撒き散らした
止め処もなく溢れ出す鮮血が、びちびちと音を立てて個室の壁や床を赤黒く染めていく
「答えなくても殺してやるさ! お前は血を全部抜かれて真っ青になって死ぬのさ!」
血溜まりにどちゃりと倒れ込む南八を眺め、ゲラゲラと笑い声を上げる『赤紙青紙』
だが
「葉霞っ! いつまでトイレ入ってるつもりだっ!」
怒鳴り声と共に堂々と踏み込んでくる椿の姿
「な、お、お前、ここは男子トイレだぞ!? 非常識だろう!」
「仕事が詰まってる時に非常識もクソもあるか。というかお前の方がよっぽど胡散臭いだろう」
「お……お前も俺をただの変質者扱いするのか! ただの人間扱いするのか! 殺す、殺してやる!」
個室の仕切りから飛び降りて、鎌を抜き放つ『赤紙青紙』
椿は慌てた様子も無く、何かを掴むような手付きをして
「……ん?」
何かおかしいかのように首を傾げる
「何をしたいのか判らんが、死ねっ!」
勢い良く踏み出し、鎌をその首筋に叩きつけようとしたところで
「危ない最上さんっ!」
「ぶべらっ!?」
個室から血みどろで這い出してきた南八に足首を掴まれ、受身も取れずに顔面をトイレの床に強打する『赤紙青紙』
「ほとんど血を抜いたんだから死ねよお前!? もうアレか! バラバラにしないと死なないのか!?」
足首を掴む南八を、自由な方の足でげしげしと蹴り付ける『赤紙青紙』
「お前なんぞに最上さんを傷付けさせてたまるもんかっ!? あの極上の絹のような柔肌は俺のもんだっ!」
「誰が貴様のものだ」
ごすりと脳天に抉りこまれる靴の踵
見事に全体重を乗せた踏み下ろしの蹴りに、ぴくぴくと痙攣しやがて動かなくなる南八
「これを仕留めたいなら、小難しい事をしないで思い切りブン殴った方がいいぞ。まあそれでもしばらく動かなくなるだけだが」
「いや今蹴ったから! 思い切り蹴ったから!」
有無を言わせぬ迫力を醸し出す椿に、『赤紙青紙』は恐怖に引き攣った顔で抗議の声を上げる
「で……誰が、誰を、殺してやるって?」
「申し訳ありませんでした」
即座に土下座を敢行する『赤紙青紙』
潰れたゴキブリのようにトイレの床に張り付いている南八にも、悪鬼羅刹が総動員されたようなオーラを放つ椿にも、もう勝てる気が全くしない
「殺すだのなんだの面倒臭い事は、私の見てないところでやれ。いいな?」
「は、はい……」
「ところで、だ」
男子トイレの中だというのに余りにも堂々とした振る舞いで、ついと視線を出入り口に向ける
「あいつらもお前の関係者か?」
人数にして5人か6人
日本人には見えない男女が、出入り口を塞ぐように立ち並んでいた
「い、いや、俺は全然知らないけど」
「そうか」
ぞろり、ぞろりと
逃げる隙間塞ぐように身を詰めてトイレの中に入り込んできた男女は、それぞれが鋭く尖った骨の武器を手にしていた
「ならお前も一緒に逃げるぞ」
「こ、この程度の連中なら!」
『赤紙青紙』は即座に腕を振り上げ、南八に打ち込んだものと同じ巨大な注射針を叩き込んだ
「血を抜かれて真っ青になってくたばれ!」
それを全く避けようともせず、その首筋で受け止め
「あ、あれ?」
血の一滴も出さずに、何事も無かったかのように針を引っこ抜いた
「……俺、もう都市伝説辞めたい」
「訳のわからない事を言ってる暇は無いぞ」
即座に飛び掛ってきた男女、『ソニー・ビーン一家』の子供達
様々な形をした武器や、今引っこ抜いたばかりの針を手に飛び掛ってきたところへ
「葉霞!」
「何でしょうか最上さん!」
声を掛けた途端に元気良く跳ね起きる南八
「私達の為に死ね」
一瞬足を止めた子供達に向けて、叩きつけるような一本背負いで放り投げる
だが子供達も只者ではない
背中から叩きつけられた決して小柄ではない南八の身体を、ややバランスを崩しながらもがっしりと受け止めた、が
その南八のどてっ腹に思い切り叩き込まれた椿のドロップキックが、南八もろとも子供達をまとめて床に叩き伏せた
「逃げるぞ!」
「え、あれ!? あいつはいいの!?」
「あいつは殺しても死なないから放っとけ」
倒しきれなかった子供達を殴り倒し蹴飛ばし、斬りつけてくる刃を掻い潜りながら、脱兎の如く逃げ出す椿と『赤紙青紙』
「痛い痛い痛いっ!? 刺すな、斬るな!? 服がボロボロになるだろうが! あだだだだっ!? 齧るな! 齧るのは女の子だけ許可するっ!?」
訳のわからない悲鳴を上げる南八をほったらかしにして、駅前の人通りの中に紛れ込むように駆けていった
「最上さーん! 流石にこれは俺もきついんですがーっ!? 助けてー!?」
それから数十分後、延々と止まない彼の悲鳴を聞きつけて野次馬が集まりそうになったため、『ソニー・ビーン一家』の子供達は止む無く撤退を強いられたのであった
終電間近の駅のトイレに、やや疲れた顔の男が少々慌てた足取りで駆け込んでいく
「ふいー、外周りはめんどくさいなぁ」
溜息を吐きながら、ズボンを下ろして便座に座り込む男、『馬鹿は死ななきゃ治らない』の契約者、葉霞南八
今日も今日とて仕事に励み、合間合間に『もげろ』の契約者、最上椿に職場のある5階の窓から放り投げられたりする日々である
もっとも、課長が「心臓と胃に悪い」泣きそうな顔で懇願するので、窓から放り投げられる回数はやや減ったのだが
「ここんち仕事のミスも減ってきた事だし、最上さんに怒られる回数も減少傾向。惚れ直される日も近いってもんだ」
この男は馬鹿である限り絶対に死ぬ事が無く、致命傷を負っても平然と活動が可能でいつの間にか傷も回復しているというギャグ漫画のような能力である
そんな彼に都市伝説としての存在意義を叩き折られ、復讐に燃える都市伝説が一体
彼がこのトイレに入るのを虎視眈々と待ち構えていた
「げ、紙が無い!?」
南八がペーパーホルダーに手を掛けると、入った時には丸々と残っていたはずのトイレットペーパーが無くなっていた
「ぐぬぅ、ポケットティッシュとか使って詰まらせたら最上さんに怒られそうだな……誰か入って来ないもんか」
かといってあまりトイレに長居してると、やはり仕事に戻った折に椿に怒られるのは明白である
そんな心配をしていたところに、トイレの入り口のドアが軋んで開く音がした
こつこつと足音を立ててトイレに入ってきた気配に、南八は喜び勇んで声を掛ける
「赤い紙と青いk」
「ちょっと今入ってきた人! 予備のトイレットペーパー取ってくれませんかね! いやぁ、丁度切れてたのに気付かなくて!」
奇妙な沈黙がトイレの中に漂う
気を取り直したように個室の外にいた気配が咳払いをし
「赤い紙t」
「聞こえてましたかー! 予備が無ければ適当な個室のやつで! ちょっと上から投げ入れてくれればいいですから!」
再びの沈黙
何か堪えるように呻き声を上げる気配に、南八は首を傾げる
「あk」
「ああ! もしかして今もう出しちゃってます? そっちが済んでからで構いませんよ!」
「台詞を最後まで言わせろよっ!?」
どかんと個室の扉を蹴り、天井と仕切りの間によじ登って怒鳴り込む『赤紙青紙』
「ぬおっ!? 貴様はいつぞやの痴漢! か弱い女子を守ったヒーローに逆恨みし復讐にやってきたのか!」
「お前の何処がヒーローだよ!? 今度こそきっちり殺してやるべく、修行を積んできた俺の力を見せてやる!」
言うが早いか、虚空から突然現れた巨大な注射針のような物騒な代物が、南八の首目掛けていくつも飛来する
「のわぁっ!?」
狭いトイレの個室、しかもズボンとパンツを下ろした状態の南八にそれを避け切れるはずも無く
ぶつりぶつりと生々しい音を立ててその首筋に突き刺さり、鮮血を撒き散らした
止め処もなく溢れ出す鮮血が、びちびちと音を立てて個室の壁や床を赤黒く染めていく
「答えなくても殺してやるさ! お前は血を全部抜かれて真っ青になって死ぬのさ!」
血溜まりにどちゃりと倒れ込む南八を眺め、ゲラゲラと笑い声を上げる『赤紙青紙』
だが
「葉霞っ! いつまでトイレ入ってるつもりだっ!」
怒鳴り声と共に堂々と踏み込んでくる椿の姿
「な、お、お前、ここは男子トイレだぞ!? 非常識だろう!」
「仕事が詰まってる時に非常識もクソもあるか。というかお前の方がよっぽど胡散臭いだろう」
「お……お前も俺をただの変質者扱いするのか! ただの人間扱いするのか! 殺す、殺してやる!」
個室の仕切りから飛び降りて、鎌を抜き放つ『赤紙青紙』
椿は慌てた様子も無く、何かを掴むような手付きをして
「……ん?」
何かおかしいかのように首を傾げる
「何をしたいのか判らんが、死ねっ!」
勢い良く踏み出し、鎌をその首筋に叩きつけようとしたところで
「危ない最上さんっ!」
「ぶべらっ!?」
個室から血みどろで這い出してきた南八に足首を掴まれ、受身も取れずに顔面をトイレの床に強打する『赤紙青紙』
「ほとんど血を抜いたんだから死ねよお前!? もうアレか! バラバラにしないと死なないのか!?」
足首を掴む南八を、自由な方の足でげしげしと蹴り付ける『赤紙青紙』
「お前なんぞに最上さんを傷付けさせてたまるもんかっ!? あの極上の絹のような柔肌は俺のもんだっ!」
「誰が貴様のものだ」
ごすりと脳天に抉りこまれる靴の踵
見事に全体重を乗せた踏み下ろしの蹴りに、ぴくぴくと痙攣しやがて動かなくなる南八
「これを仕留めたいなら、小難しい事をしないで思い切りブン殴った方がいいぞ。まあそれでもしばらく動かなくなるだけだが」
「いや今蹴ったから! 思い切り蹴ったから!」
有無を言わせぬ迫力を醸し出す椿に、『赤紙青紙』は恐怖に引き攣った顔で抗議の声を上げる
「で……誰が、誰を、殺してやるって?」
「申し訳ありませんでした」
即座に土下座を敢行する『赤紙青紙』
潰れたゴキブリのようにトイレの床に張り付いている南八にも、悪鬼羅刹が総動員されたようなオーラを放つ椿にも、もう勝てる気が全くしない
「殺すだのなんだの面倒臭い事は、私の見てないところでやれ。いいな?」
「は、はい……」
「ところで、だ」
男子トイレの中だというのに余りにも堂々とした振る舞いで、ついと視線を出入り口に向ける
「あいつらもお前の関係者か?」
人数にして5人か6人
日本人には見えない男女が、出入り口を塞ぐように立ち並んでいた
「い、いや、俺は全然知らないけど」
「そうか」
ぞろり、ぞろりと
逃げる隙間塞ぐように身を詰めてトイレの中に入り込んできた男女は、それぞれが鋭く尖った骨の武器を手にしていた
「ならお前も一緒に逃げるぞ」
「こ、この程度の連中なら!」
『赤紙青紙』は即座に腕を振り上げ、南八に打ち込んだものと同じ巨大な注射針を叩き込んだ
「血を抜かれて真っ青になってくたばれ!」
それを全く避けようともせず、その首筋で受け止め
「あ、あれ?」
血の一滴も出さずに、何事も無かったかのように針を引っこ抜いた
「……俺、もう都市伝説辞めたい」
「訳のわからない事を言ってる暇は無いぞ」
即座に飛び掛ってきた男女、『ソニー・ビーン一家』の子供達
様々な形をした武器や、今引っこ抜いたばかりの針を手に飛び掛ってきたところへ
「葉霞!」
「何でしょうか最上さん!」
声を掛けた途端に元気良く跳ね起きる南八
「私達の為に死ね」
一瞬足を止めた子供達に向けて、叩きつけるような一本背負いで放り投げる
だが子供達も只者ではない
背中から叩きつけられた決して小柄ではない南八の身体を、ややバランスを崩しながらもがっしりと受け止めた、が
その南八のどてっ腹に思い切り叩き込まれた椿のドロップキックが、南八もろとも子供達をまとめて床に叩き伏せた
「逃げるぞ!」
「え、あれ!? あいつはいいの!?」
「あいつは殺しても死なないから放っとけ」
倒しきれなかった子供達を殴り倒し蹴飛ばし、斬りつけてくる刃を掻い潜りながら、脱兎の如く逃げ出す椿と『赤紙青紙』
「痛い痛い痛いっ!? 刺すな、斬るな!? 服がボロボロになるだろうが! あだだだだっ!? 齧るな! 齧るのは女の子だけ許可するっ!?」
訳のわからない悲鳴を上げる南八をほったらかしにして、駅前の人通りの中に紛れ込むように駆けていった
「最上さーん! 流石にこれは俺もきついんですがーっ!? 助けてー!?」
それから数十分後、延々と止まない彼の悲鳴を聞きつけて野次馬が集まりそうになったため、『ソニー・ビーン一家』の子供達は止む無く撤退を強いられたのであった