恐怖のサンタ 日常編 16
本日の山田さん家のメインディッシュは唐揚でした。
部屋の隅から引っ張り出された丸テーブルの上、主菜と副菜らを中心に、円周上に主食、汁物が並んでいる。
山田家の五人はいつもの定位置に座り、辛うじて悪魔の魔手から逃れたペット二匹もテーブルの横、餌用の受け皿の前に陣取る。
皿の上には人間同様、唐揚が鎮座していた。
……都市伝説とはいえ、動物があんな脂っこいものを食べて大丈夫なのだろうか。
ちなみに、デビ田はその都市伝説としての性質上、食事を取る必要はないので、今もまだ俺のポケットに納まっている。
部屋の隅から引っ張り出された丸テーブルの上、主菜と副菜らを中心に、円周上に主食、汁物が並んでいる。
山田家の五人はいつもの定位置に座り、辛うじて悪魔の魔手から逃れたペット二匹もテーブルの横、餌用の受け皿の前に陣取る。
皿の上には人間同様、唐揚が鎮座していた。
……都市伝説とはいえ、動物があんな脂っこいものを食べて大丈夫なのだろうか。
ちなみに、デビ田はその都市伝説としての性質上、食事を取る必要はないので、今もまだ俺のポケットに納まっている。
「それでは皆さん、頂きます」
「「「「いただきまーす」」」」
「「「「いただきまーす」」」」
良子の掛け声で、食事が始まる。
興味の対象はまず食べ物へ、そして今日一日の話題へと移っていく。
子ライオンはものの二分で食事を終え、皿に残った油をなめとるのに余念がない。
流石百獣の王の胃袋。油すらも分解してしまうらしい。
興味の対象はまず食べ物へ、そして今日一日の話題へと移っていく。
子ライオンはものの二分で食事を終え、皿に残った油をなめとるのに余念がない。
流石百獣の王の胃袋。油すらも分解してしまうらしい。
「――――それで、明日は直希様の部屋にですねー」
「マゾのお姉ちゃん、ほとんど毎日入り浸ってるよね、誰かしらの家に」
「マゾのお姉ちゃん、ほとんど毎日入り浸ってるよね、誰かしらの家に」
一通り今日の話が尽きれば、話題は明日以降、未来の事が中心になる。
そんな団欒の光景を、俺は時折混じりつつも、ぼんやりと眺めていた。
――ああ、平和だ……。
そんな団欒の光景を、俺は時折混じりつつも、ぼんやりと眺めていた。
――ああ、平和だ……。
「――――ッテ違ェヨ! コンナ風ニ穏ヤカーニ話シテル場合ジャネェダロォガァァァァァァァアアアアアッッッ!!」
……が、そんな幸せ一杯胸一杯なひと時が、デビ田には気に入らないようだ。
「どうしたデビ田。そんないきり立ったら皺が増えるぞ」
「蛇ノ顔ニ皺ナンテネェヨ。ツーカソウジャネェ。『教会』ハドォシタ、『教会』ノ話ハヨォ!」
「……んー? そういえばそんなのあったね」
「アッタネ、ジャネェヨ鶏頭」
「なんだとこの蛇頭」
「蛇ノ顔ニ皺ナンテネェヨ。ツーカソウジャネェ。『教会』ハドォシタ、『教会』ノ話ハヨォ!」
「……んー? そういえばそんなのあったね」
「アッタネ、ジャネェヨ鶏頭」
「なんだとこの蛇頭」
睨み合うデビ田と佑香。頼むから静かにして欲しい。
「……教会? あの町外れにある?」
二人をよそに、良子が首を傾げる。
どうやら、良子は俺と同属らしい。
どうやら、良子は俺と同属らしい。
「ええと、その……教会というのは『あの』……?」
――しかし、沙希には何か思うことがあるようだ。
曇らせた顔に浮かんでいるのは、困惑と……恐怖?
曇らせた顔に浮かんでいるのは、困惑と……恐怖?
「アァ、ソノ『教会』ガコノ町ニ来ルラシイゼェ?」
佑香とのガン飛ばしを切り上げ、デビ田がにやにやと笑う。
あれは人をいたぶっている時の顔だ。現に沙希の顔がさらに少し青ざめている。
あれは人をいたぶっている時の顔だ。現に沙希の顔がさらに少し青ざめている。
「おい待て、だから教会って何なんだ」
「アァ? サッキ説明シタジャネェカ」
「されてないぞ」
「アン? ……アァアァ、ソォダッタナァ、テメェガへたれタセイデ」
「それを言うならお前もだからな」
「ハッ! テメェニハ負ケルヨ、糞へたれ野郎」
「はっはっは。そのヘタレすら堕とせなかった元『悪魔の囁き』(笑)が何をおっしゃいますやら」
「アァン? 喧嘩売ッテンノカテメェ。何ダッタラテメェノ心ノ秘密片ッ端カラ暴露シテヤッテモイインダゼェ?」
「上等だ。その前に感覚共有したまま真冬の川で寒中水泳してやるぞこの野郎」
「……不毛ですねー、不毛」
「アァ? サッキ説明シタジャネェカ」
「されてないぞ」
「アン? ……アァアァ、ソォダッタナァ、テメェガへたれタセイデ」
「それを言うならお前もだからな」
「ハッ! テメェニハ負ケルヨ、糞へたれ野郎」
「はっはっは。そのヘタレすら堕とせなかった元『悪魔の囁き』(笑)が何をおっしゃいますやら」
「アァン? 喧嘩売ッテンノカテメェ。何ダッタラテメェノ心ノ秘密片ッ端カラ暴露シテヤッテモイインダゼェ?」
「上等だ。その前に感覚共有したまま真冬の川で寒中水泳してやるぞこの野郎」
「……不毛ですねー、不毛」
マゾにばっさりと切られる。
「……それで? 沙希ちゃん、教会って?」
ヘタレな男性陣に見切りをつけたのか、良子が沙希へと話を振った。
まだ対人での会話に慣れていない彼女は、顔を赤くしたり青くしたりせわしない。
――あの日、沙希が「同属殺し」ではなくなった日から、既に一年が経過しようとしている。
人との距離が掴めず、ただまごついているだけだった当時と今とでは無論、比べ物にならないほどの進歩が彼女にはある。
しかし、それでも1メートルも離れていないような至近距離での会話で流暢に話せるほど、彼女は成熟していなかった。
まだ対人での会話に慣れていない彼女は、顔を赤くしたり青くしたりせわしない。
――あの日、沙希が「同属殺し」ではなくなった日から、既に一年が経過しようとしている。
人との距離が掴めず、ただまごついているだけだった当時と今とでは無論、比べ物にならないほどの進歩が彼女にはある。
しかし、それでも1メートルも離れていないような至近距離での会話で流暢に話せるほど、彼女は成熟していなかった。
「ええと、あの、その……」
しどろもどろになりながら、沙希が口を開く。
「私も、以前、人伝に、聞いただけなんですが……」
デビ田は黙って、ポケットの中にとぐろを巻いている。沙希の話を静観する構えだ。
口を挟むつもりはないらしい。
口を挟むつもりはないらしい。
「……確か、西洋の方で、勢力を広げてる集団、だとか」
「集団っていうと、あれか、『組織』とか『占い愛好会』みたいな」
「後ノ方ハ微妙ダガ、『組織』ニハ結構近ェノカモシレネェナァ? 派閥ミテェノモアルラシイシヨ」
「ふぅん…………」
「集団っていうと、あれか、『組織』とか『占い愛好会』みたいな」
「後ノ方ハ微妙ダガ、『組織』ニハ結構近ェノカモシレネェナァ? 派閥ミテェノモアルラシイシヨ」
「ふぅん…………」
派閥があるからには、少なくとも小さい組織、なんて事はないのだろう。
ここ最近の奇妙な空気は、その「教会」が来るせいか。それとも既に「来ている」せいか。
ここ最近の奇妙な空気は、その「教会」が来るせいか。それとも既に「来ている」せいか。
「……でも、それだけでこんなに緊張するものなんですかね? 組織なんて目茶目茶ありますし、今更って気もしますがねー」
「ソリャ『タダノ』雑魚ノ集マリナラ大シタコトネェダロォヨ。モシ『教会』ガ『不可侵』ナンテ立場ヲ取ッテナケリャナァ」
「……不可侵って、どこかと協定みたいなものでも結んでるのかな」
「ソリャ『タダノ』雑魚ノ集マリナラ大シタコトネェダロォヨ。モシ『教会』ガ『不可侵』ナンテ立場ヲ取ッテナケリャナァ」
「……不可侵って、どこかと協定みたいなものでも結んでるのかな」
主菜を小皿に取り分けながら、良子が口を開く。
「知ラネェヨ。大体誰ガワザワザコンナごみミテェニ都市伝説ガ集マッテル所ニ来テェンダッテ話ダ」
「……ですが、今更、わざわざ今までの立場を変えて、やってくる以上は……何かあるんでしょうね」
「サァナァ」
「ふーん…………」
「……ですが、今更、わざわざ今までの立場を変えて、やってくる以上は……何かあるんでしょうね」
「サァナァ」
「ふーん…………」
「組織」並みの勢力を持った「教会」
そういえば昔、今の仕事を始める際、占い師から主要な組織の勢力図を見せられた時に、その名前を見たような気もする。
あの時は、「学校町にいれば関わる事はない」的な事を言われていたから、すっかり頭から抜け落ちていた。
そういえば昔、今の仕事を始める際、占い師から主要な組織の勢力図を見せられた時に、その名前を見たような気もする。
あの時は、「学校町にいれば関わる事はない」的な事を言われていたから、すっかり頭から抜け落ちていた。
「……あれ? でもデビ田は何でそんな事知ってるんだ?」
昔が昔だけに、沙希が知っているのは分かる。
しかし、生まれてからこの方片時も俺と離れなかったデビ田は、一体どうして「教会」の事を知っているのだろうか。
占い師から教えられたのは、まだデビ田と会う前の話だ。
いかに感覚を共有できる間柄とはいえ、流石に記憶の共有までは出来ないはずだが。
しかし、生まれてからこの方片時も俺と離れなかったデビ田は、一体どうして「教会」の事を知っているのだろうか。
占い師から教えられたのは、まだデビ田と会う前の話だ。
いかに感覚を共有できる間柄とはいえ、流石に記憶の共有までは出来ないはずだが。
「アァ? ……アー、ソリャ、アレダ。去年ノ五月ニテメェモ見タロ、俺様ノ『元』」
「『元』?」
「『元』?」
記憶を辿る。
去年の五月といえば、朝比奈秀雄が悪魔の囁きやコークロアをばら撒いた時期だ。
その時に見たもので、デビ田と関係のありそうなものといえば……。
去年の五月といえば、朝比奈秀雄が悪魔の囁きやコークロアをばら撒いた時期だ。
その時に見たもので、デビ田と関係のありそうなものといえば……。
「……あぁ、お前のパパ」
「ぱぱ言ウナ」
「ああ、パパは俺か。じゃあママだな」
「テメェハぱぱジャネェシ、アイツハ雄ダ」
「じゃぁパパじゃん……あれ? それじゃ俺がママ? え? 男×男? 何かおかしくね?」
「オカシイノハテメェノ脳ミソダ糞ッタレ」
「ぱぱ言ウナ」
「ああ、パパは俺か。じゃあママだな」
「テメェハぱぱジャネェシ、アイツハ雄ダ」
「じゃぁパパじゃん……あれ? それじゃ俺がママ? え? 男×男? 何かおかしくね?」
「オカシイノハテメェノ脳ミソダ糞ッタレ」
デビ田の「元」。詰まる所の生みの親。
「悪魔の囁き」は「卵」と呼ばれるものを人に植え付け、そこに宿主の「欲」が栄養として与えられる事で「孵化」する。
「元」というのは即ち「卵」を生み出した大本、悪魔の囁きの「本体」の事なのだろう。
「悪魔の囁き」は「卵」と呼ばれるものを人に植え付け、そこに宿主の「欲」が栄養として与えられる事で「孵化」する。
「元」というのは即ち「卵」を生み出した大本、悪魔の囁きの「本体」の事なのだろう。
「で? そのパパがどうしたって?」
「ダカラぱぱ言ウナ。……アノクソ野郎ナ、元ハクソチッチェ都市伝説ダッテノハテメェモ聞キタロ」
「あぁ……んぐ……そういえば……もぐ……そんな事も聞いたな」
「食イナガラシャベンナ。ツーカ食ウナ」
「いやだって無くなっちゃうし」
「ダカラぱぱ言ウナ。……アノクソ野郎ナ、元ハクソチッチェ都市伝説ダッテノハテメェモ聞キタロ」
「あぁ……んぐ……そういえば……もぐ……そんな事も聞いたな」
「食イナガラシャベンナ。ツーカ食ウナ」
「いやだって無くなっちゃうし」
「教会」の正体が分かった事で話に一区切りついたと思ったのか、山田家の他の面々は談笑を再開させていた。
つまり食事も再開されていたわけで。話しながら摘まないと俺の分がなくなってしまうわけで。
特に食べ盛りの佑香が凄い。幽霊なはずなのに一体どこに入って、どこで消化されるのだろう。
人体は神秘に満ちていると、俺は思う。
つまり食事も再開されていたわけで。話しながら摘まないと俺の分がなくなってしまうわけで。
特に食べ盛りの佑香が凄い。幽霊なはずなのに一体どこに入って、どこで消化されるのだろう。
人体は神秘に満ちていると、俺は思う。
「それに……もぐ……お前だって俺が空腹だったら……もぎゅ……感覚共有で苦しむじゃん?」
「アァアァ分カッタヨ糞ガ。ジャァ食イナガラ聞イテロ。……アノ糞ガチッチェ頃ナ、『教会』ニ消サレルンジャネェカッテビクビクシテヤガッタンダヨ」
「へぇ」
「アァアァ分カッタヨ糞ガ。ジャァ食イナガラ聞イテロ。……アノ糞ガチッチェ頃ナ、『教会』ニ消サレルンジャネェカッテビクビクシテヤガッタンダヨ」
「へぇ」
あの時に見た悪魔の囁きは、七つも首を持っている上、マゾの「欲」を吸収して滅茶苦茶強かった。
あれはやっぱり契約したから、なのだろうか。
あれはやっぱり契約したから、なのだろうか。
「シカモアノ契約者ノ方モドウカシテンジャネェノカ。どらごんナンテソコラ辺ニハイネェダロ。ドウ考エテモ『教会』辺リカラぱくってキタトシカ思エネェ」
「ほう」
「『教会』ノ野郎共ガ何デ来ンノカハ知ラネェガ、モシカシタラアノ糞契約者ガ目当テナノカモシレネェナァ」
「なるほど」
「ッタクヨォ? 半年以上経ッテカラ迷惑カケテクンジャネェッテ話ダ。糞ガ」
「ほー……良子、今日の唐揚おいしいな」
「そお? 今日は沙希ちゃんも手伝ってくれたんだよ」
「あ……はい、少しだけ……」
「そりゃ凄い。始めた当初なんて米の研ぎ方も知らなかったのに――――」
「ほう」
「『教会』ノ野郎共ガ何デ来ンノカハ知ラネェガ、モシカシタラアノ糞契約者ガ目当テナノカモシレネェナァ」
「なるほど」
「ッタクヨォ? 半年以上経ッテカラ迷惑カケテクンジャネェッテ話ダ。糞ガ」
「ほー……良子、今日の唐揚おいしいな」
「そお? 今日は沙希ちゃんも手伝ってくれたんだよ」
「あ……はい、少しだけ……」
「そりゃ凄い。始めた当初なんて米の研ぎ方も知らなかったのに――――」
管を巻くデビ田を残し、俺は歓談へと混ざる。
「大体アノ糞ハナァ――――」
自分ひとりの世界にでも入ってしまったのか、その後食事が終わってもしばらく、デビ田の愚痴は止まらなかった。
【Continued...】