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連載 - 魔法少女銀河-01

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【不思議少女シルバームーン~第一話 第一章「天野昴と魔法少女」~】

世の中には人智を越えた出来事がある。
だが大半の人間はそれに気付かないで過ごしてしまう。
僕はそれを知っている。
しかし知っていることとそれに関わっていることはまったくの別だ。
何を知ろうと行動しなければなんの意味も無い。
実践できない知識や行動に移せない理念はそれこそ無意味。
お題目ばかりの正義や、弱者を庇護するための倫理なんて犬の餌にもなりゃしない。
僕は何も出来なかった。
しなかったんじゃない、できなかったんだ。
だからあの時の僕は間違っていない。
僕は何も出来ない、だから何もしない。
もし僕が何か出来てしまえば、あの時僕は手を伸ばさなかったことになる。
僕は見捨てたことになる。
僕は見捨てたんじゃない。
何もしないのは退屈だけど、それでもあれが間違いだなんて、僕は認められない。





「……遅刻しちまうな。」

僕は天野昴、小学六年生男子、オカルト話で有名な学校町の住人だ。
今日は思えば今朝からついていなかった。
朝は通学途中に交通事故に巻き込まれるし、
昼は給食のプリンが一つ足りなかった為に良い人キャラの僕は他人にプリンを譲らねばならなかったし、
たった今僕の乗った通塾用のバスがバスジャックされてしまうし。
退屈しのぎには丁度良いがどう考えても80km/hでバスは暴走している。

「妙な動きをするんじゃねえぞ!」
「少しでも妙な真似したら殺す!」

バスジャック犯はナイフを持った二人組。
何を思ってこんな馬鹿げたことをしているのか知らないが、
これからの日本を支えるであろう頭脳たるこの俺の勉強の邪魔をしないで欲しいものだ。

「うええええええん!」

泣き始める赤ん坊。

「うるせえ!」
「てめえさっさとそのガキを黙らせやがれ!」

泣く子も黙らせれない悪党か、三流以下だな。
僕がそんなことを思って二人組を眺めていると、何と二人が突然銃を取り出したのだ。
……何故其処で銃を取り出すのだろうか、馬鹿なのだろうか。




「こっちは銃を持ってるんだ!言うことを聞かないとドン!だぞ!」

そう言って男が床に向けて懐から取り出した銃を撃つ。
馬鹿止めろ、バスのエンジンに直撃したらどうする気だ。
あとどう見ても弾が少ない銃なんだから無駄弾を撃つべきではない。

「俺たちの要求は金だ!」
「それを人質に言ってどうする。」
「なんだとガキ!?」

……あれ?

「何が『それを人質に言ってどうする。』だこら!」

考えていることが口に出ていた!?
何時もこれだ、僕は思っていることをポロッと口に出してしまうくせがある。
当然それは毎回良くない結果を生んでしまう訳で……。

「このクソガキ!撃ち殺してやる!」
「だから何故そうなる。
 とりあえず銃を手に入れてはしゃぎたいだけだろこいつら。」
「好き放題に言うじゃねえか……!」

やべっ……、まただよ。
今日はやっぱり不幸だ。
自業自得って言った奴、表に出ろ。




そして僕に引き金が向けられる。

「正直気になるのですが、ここで弾を使ってしまって良いのでしょうか。」
「はぁ?」
「見たところそれはニューナンブだかっていうリボルバーの拳銃。
 警察から奪ったのでしょうか、リボルバーってことは六発しか弾が残ってない。
 さっき撃ったから五発かな?
 このバスにはざっと見たところで十人以上の人間が乗っていますよね。」

はっはっは、こうなればやけだ。
喋って喋って喋りまくってやる。

「数えてみてくださいよ。」
「んなもん知るか!」

ですよねー!
ここで犯人を話術で煙に巻くなんて漫画の登場人物じゃないんですからねー!
男の持つ拳銃の撃鉄が起きる。

「死ね!」
「…………まあ、良いか。」

退屈しのぎには丁度良い。
どうせ僕なんて死んでも良い命だし。

「あぶなあああああい!」

その時突然、時速80km/h以上で暴走するバスの窓ガラスを割ってバスの中に少女が侵入してきた。





少女は箒に跨っていた。

「危ないも何も……お前が危ないよ。なんだその危ない服装は。」
「大丈夫でしたかあなた!」

少女は無駄に露出度の高い謎の服装をしていた。

「魔法少女ルックです!」
「お、おいクソガキ!いいいいいきなり何なんだ!?」

二人組は俺に向けていた銃を少女の方に向ける。

「うるさいぞ悪党!」

少女はパンチラ(ちなみに黒、素晴らしい)も気にせずに犯人の二人組にハイキックを決め、
あっという間に大の男二人を倒してしまった。
もっと恥じらえ、あと魔法少女の癖に魔法を使わないなんてなんのつもりだ。

「皆さんもう大丈夫!魔法少女シルバームーンが貴方たちをお助けしました!」

シルバームーンはバスの乗客の避難誘導をしている。
彼女はさりげなく乗客の身体にステッキを当てている。
乗客はステッキが身体に触れる度に能面のような表情になってバスを出て行った。




「くそ……。」

男達が立ち上がって銃を彼女に向ける。

「危ない!」

僕は咄嗟に男達に体当たりをした。
銃弾はあらぬ方向に逸れてバスの天井を貫く。
事態に気付いたシルバームーンは跨っていた箒で男達をバスの外まで殴り飛ばす。

「大丈夫ですか!?」
「問題無いよ、それより僕にはこれから塾があるんだ。
 さっきからやってる妙な魔法は俺にかけないでくれ。勉強も忘れちまいそうだ。」
「……え?」
「いや、魔法だろそれ?お前が魔法少女と名乗っているんだし。」
「いや確かにそうですけど……、なんでそんな普通にしていられるんですかと。」
「ちょっとだけ、契約者の知り合いが居た。ああいうものが世にあるなら魔法使いだって居てもおかしくない。」
「…………むぅ。解ったよ。そもそもバス全体にも軽い暗示魔術をかけてたのになあ?
 ほら、行って行って!もうすぐ組織の人が来ちゃうから!」
「ああ、ありがとう。」

僕はバスを降りてそそくさと現場から逃げ出した。

「……あ、しまった!あんた私のパンツ見たでしょ!
 どうせ暗示かけて忘れられるからあれだけ派手にやってたのに!」

今更気付いたのか、バーカ。悪いがこれは心のブルーレイディスクに収めさせて貰うぞ。
僕は犯人達の懐から拳銃を抜き取ってそそくさと逃げ出した。





さて翌日、僕は何時も通り小学校に通っていた。
昨日のバスジャック事件は新聞紙にはまったく載っていなかった。
恐らく魔法少女が出張ったせいで組織に隠蔽されたのだろう。

「……ねえ」
「…………ねえ昴君!」
「えっ、ん、何?」
「もー、ボケッとしてたでしょ?」
「今日転校生来るんだってよ。」
「へー、そうなんだ。」

冬休みの直前に転校生か。
妙なものだ、まあ確かに冬休み後よりはまえの方が転校には丁度良いだろうが……。
僕たちは転校生が男か女か、どんな人間かを同級生と空想した。
正直どうでも良いけど。
チャイムが鳴る。
担任が何時も通りの無機質な顔をぶら下げて教室に入ってくる。
彼の後ろには女の子が一人立っていた。

「今日は皆に紹介したい子がいる。」
「朝月朔夜です、先週までは北海道の学校に通ってました!
 短い期間になるかも知れませんが仲良くしてくださいね!」
「げげっ。」
「あっ!」
「なんだ朝月、お前昴の知り合いだったのか。じゃああいつの隣の席に座ってくれ。」

転校生は――――魔法少女だった。
【不思議少女シルバームーン~第一話 第一章「天野昴と魔法少女」~】



【不思議少女シルバームーン~第一話 第二章「朝月朔夜と復讐鬼」~】

世の中に不思議なことなんて何も無い。
だが大半の人間はそれを知らずに何でも不思議で済ましてしまう。
私はそれを知っている。
知っているということは関わっていると言うこと。
知ってしまえば行動せずには居られない。
実践できない知識や行動に移せない理念なんて在る訳もない。
お題目ばかりの正義や、弱者を庇護するための倫理、偽善であろうと結構。
私は誰かのために出来る限りのことをしたい。
私はその為の力をおばあちゃんから貰った。
私は誰も見捨てない。
誰にも人の未来を奪うことは出来ない。
だから、昔憧れたテレビの魔法少女に、私がなる。



私の名前は朝月朔夜、小学六年生女子、オカルトそのものの都市伝説だ。
深夜、私は学校町の空を箒に跨って飛んでいた。
今日も世の為人の為にパトロールである。
空を飛ぶ私の後ろから追いすがるように一匹の蝙蝠が飛んでくる。
私の使い魔のバトンだ。

「お嬢様、今日も夜間飛行か?」
「なによバトン、付いてくるなって言ったでしょ?」
「ふん、君には悪いがヨツバさまの言いつけだ。」
「またお婆ちゃまの言いつけ?
 貴方は私の使い魔でしょ、私の命令を聞けばいいのよ!」
「う~ん、お嬢様は魔女としてはヨツバさまより遙かに下位だからな。
 命令も簡単に上書きされてしまうのだよ。」
「キー!悔しい!」
「人助けなどと言う愚昧な事を止めて修行に専心したらどうだね?」
「どうせ私ってば飛行魔術しかできないもん。」

そう、私は箒を使って空を飛ぶことしかできない。
あとは本当にちょっとした初級魔術の類だけだ。
占いとか、魔法薬とか、降霊術とか。あ、でもお父様に似たのか催眠暗示と使い魔の操作はちょっと得意。
素人を騙す程度にしか使えない。

「まったく、お母上に似て魔術に対するやる気が無いから困る。」
「お母様は看護婦さんとして働いているじゃない。職業に貴賎は無いわ!」
「笑わせる、駄人間如きを救って何になると言うのだ。
 お嬢様はお母上と違って才能にも溢れる魔女な訳であるから……」

まったくもう、本当にバトンも解らず屋だ。





「キャー!誰か助けて!」

遠くから悲鳴が聞こえてきた。
私はバトンの説教を無視して悲鳴の方向にまで飛んでいく。

「ま、待つのだお嬢様!」
「追いつけないあんたが悪いのよ!」
「おおおお、お待ちくださいお嬢様あああ!
 危のうございますうううう!」

無論無視。
悲鳴の聞こえた場所で地面に降りると口裂け女が若い女性を襲っていた。

「其処までよ悪党め!
 貴方のピンチに颯爽参上!愛と勇気と希望の戦士!
 プリティ魔法少女シルバームーン!」

名乗りを上げながら口裂け女に箒ごとぶつかる。
口裂け女は盛大に電信柱と衝突して鼻血を流しながら倒れる。

「なによあんた……?」
「お姉さん逃げてください!」
「あ、ありがとうございます!」
「あんたが誰か聞いているのよ!」
「悪党に名乗る名前は無い!」

むくりと起き上がる口裂け女、私は箒を持って彼女と退治した。
襲われていた女性が逃げ出したのを確認して、私は口裂け女との戦闘に移った。





「マジカルステージオープン!飛翔第一系統大空魔術!装填!」

私は箒を高く振り上げて呪文の詠唱を開始する。
その隙を突いて口裂け女が私めがけてまっすぐに突っ込んできた。

「今ね!」

箒が旋風を纏って激しく唸る。
私はその箒を思い切りよく口裂け女に叩き付けた。
ギャリギャリギャリギャリと肉と骨を削るような音と共に口裂け女の身体が砕け散る。
これが私の得意な箒を使った飛行魔術だ。
そもそもこの魔法は箒を媒体にすることで強烈な気流を発生させて飛行することが目的だ。
私が箒に載っていない状態でそれを過剰な魔力を注ぎ込んで発動させれば、箒はチェーンソーと同じような武器になる。
しかも私の普通の女の子と変わらない膂力も突風を吹かせてスイングの速度を高めることで補ってくれる。
無論、それほどの魔力を飛行魔術に注ぐなんて普通の魔女には不可能だ。
だが私は父から受け継いだ莫大な魔力、契約者で言うところの容量と心の力がある。
そして母や祖母が代々練り上げてきた魔法の技術がある。
だから私にはこの埒外の魔法(ボウリョク)を行使できるのだ。

「くそ!まだまだ消滅なんて!」
「いいえ、ここで終わりよ!
 マジカルオーケストラオープン!飛翔第二系統疾空魔術!装填!
 いっけえええええええええ!」

箒の最後尾に超超圧縮した大気の塊を生み出す。
そしてそれの圧縮を解いて一方向にのみ衝撃を逃がすことで推進力として口裂け女を箒で貫く。
その速度は防御不能回避不能、単純且つ圧倒的な物量作戦の前に為す術など無い。
口裂け女は悲鳴も上げることなく真夜中の空に消し飛んでしまった。





「今日も素敵に正義を執行!マジカル少女☆シルバームーン!」
「お、お嬢……置いて行かないでくれよ!」
「あらバトン、来るのが遅いわよ。」
「まったく困った人だ。」
「ああ、困った化け物だよ、お前らは。」
「――――!?」
「お前があの魔女の孫か……、十年探したがやっと見つけたぞ。」

私がバトンと合流したと同時に、黒い虎の仮面を被った男が出てきた。
低くて暗い声。
こんなどす黒い感情のこもった声を聞いたことがない。

「あの人の仇だ……、お前を倒して、あの魔女も殺す。死ぬより苦しい目に遭わせてから、な。」

男は私に向けて構えを取る。
何が何だか解らない。
お婆ちゃまが“あの人”とやらに何をしたというのだろうか。
あんなに優しいお婆ちゃまなのに。

「な、何言ってるの?人違いじゃ……」
「問答無用、お前はここで死ね。」

仮面の男は私に向けて襲いかかってきた。
【不思議少女シルバームーン~第一話 第二章「朝月朔夜と復讐鬼」~】




【不思議少女シルバームーン~第一話 第三章「魔法少女と亡霊少年」~】

転校生が学校に来た。
転校生は痛いコスプレで魔法少女を名乗り、悪人を懲らしめるのが趣味だった。
転校生のパンツは年齢に似合わない艶やかなブラックだった。

すばらしい!

そしてそんな転校生は転校初日に俺の知り合いという大嘘を吐いた。

「昴君久し振り!」
「え、ああ、おお……。」
「昴お前知り合いなのかよ!」
「朝月さんと昴君って友達なんだ~!」
「いや、昔ちょっとね……。」
「お父さんが知り合いなの!」

背中をこづかれる。
話を合わせろと言うことなのだろう。
魔法少女を敵に回したくないし、話くらいは素直に合わせておこう。

「あ、ああ!そうなんだ!家族ぐるみの付き合いって奴でさ!」

そう言って朝月朔夜の方をチラリと見る。
彼女はコクコクと頷いた。




その日は何とか周囲の人間を誤魔化して、彼女は「昴君の友達」ということでとりあえずのクラスにおける立ち位置を手に入れた。
只その為に僕の過去話をねつ造してくれたことだけは断固抗議したい。
放課後、僕と朔夜はお互いの事情を探るために二人で色々と話し合うことになった。
場所は彼女の家。いきなり攻撃された時の為にこっそり拳銃を持っていくことにした。
そんな訳で僕と朔夜は朔夜の家でお茶をしていた。
彼女の姉と思しき人が僕たちにお茶を出してくれた。
顔には常に優しい微笑みを浮かべる美人だった。

「あらあらうふふ、朔夜が転校初日に男の子を家に連れ込むなんて……。」
「ど、どうも朝月さんのお姉さん。僕は天野昴と言います。」
「あら残念、おばあちゃんよ。」

え゛っ
……えっ?
…………ええええええええ!?

「若く見られて嬉しいわぁ、それじゃあ邪魔な年寄りはさっさと退散するわね。」
「別にいて良いわよお婆ちゃま、この子、私の正体知っているし。」
「……なんですって?」

彼女の微笑みが凍り付く。

「朔夜、貴方あれ程正体を人間にばらすなと……」
「まままま、待って!?彼は既に都市伝説関係について知識を持っているみたいだったし!
 そこらへんは節度を持ってくれるかなっておもったの!
 それで一応厳重に口封じというか黙って置いて貰うのを頼んだりとか!
 これからのことについて話したりとかしたいなあって!」
「……ならまあ良いわ。」




「……見た目に反して怖い人だな。」
「あら、結構度胸有るのね。」
「天野君貴方何言ってるの!?怖いなら怖いって言わないでしょ普通!」

あっ、やべっ。

「いや、怖いですよ。僕みたいな無能力者じゃ貴方のような偉大な魔女には適いませんし。」

ええい、こうなればもう仕方ない。
確かに普通の場合怖いものを怖いとは言わない。
さも余裕が有って怖くないかのように振る舞ってやる!

「僕も都市伝説についての機密は守るようにしっかり教育されています。」
「教育、ねえ?」
「ええ、まあ契約こそしてませんが関係者ですから。」
「ならばまあ信じようじゃないか。都市伝説のことが表に出て困るのはお互い様だしね。」
「お、お婆ちゃま相手に一歩も引いてない……!」
「じゃあこれで用件①は終りだね、朔夜、次のこの子への用件は?」
「え、いや学校でちょっとばたついたから咄嗟に家族ぐるみのお友達という設定を……」
「馬鹿だね、嘘なんて吐くもんじゃないよ。
 じゃあその口裏合わせかい、お婆ちゃんも手伝ってあげるからさっさと決めちゃいなさい。
 その前にマフィンが焼けたから食べなさい。
 安心して、毒は入ってないわ。」

僕は甘い物が大好きだ。
とりあえず小学生らしく無邪気に素直に頂くことにした。




二時間ほど彼女の家にお邪魔した後、僕はおばあさんの車で送って頂くことになった。

「ごめんなさいね、朔夜がご迷惑をおかけたしたみたいで。」
「いえいえ、自分こそ素直に記憶消去されときゃ良かったんですけどね。」
「そうよねえ……。でもまあ関係者なんでしょ?
 じゃあどのみち一緒、一度こういう事に関わったら抜けられないわ。」
「ですよねえ……。」
「ところでさっきのマフィン、簡単な呪いをかけていたんだけど大丈夫?」
「えっ。」
「毒は盛ってないけどね。」

朝月のおばあさんがどうみても二十代の女性の顔で艶然と微笑む。
何をされたんだ……、今度こそ本当に恐怖で背筋に悪寒が走る。
そもそも朔夜だってあれを喰っていた、俺はそれを確認してからマフィンを食ったんだ。
自分の孫ごと呪いにかけたっていうのか?

「大丈夫よ、死にはしないわ。そういう呪いじゃない。」

この際死ぬのは怖くない。

「ただ少しだけ私の言うことを聞いてもらいたいから……ね。
 貴方も都市伝説に関わる人間なんでしょ?
 だから記憶を消すような無粋な真似はしない。」

黒い蝙蝠の紋章が右手を這い回る、これが呪いか。
でもちょっと格好良いな、と思って見とれていたらすぐに消えてしまった。




「じゃあ一体何を……?」
「ただ、あの子を守ってやって欲しいの。
 貴方も見たでしょう?あの子が無鉄砲に正義の味方なんてやってる姿。
 私も心配でねえ……、でも一々あの子について回るのも無理だし。
 だから貴方には“私に対してハッタリをカマした大胆さ”と
 “無能力者と思わせておいて拳銃をわざわざ用意している小ずるさ”を生かしてあの子を助けて欲しい訳よ。
 簡単でしょう?その上、上手く行けばあの子に彼氏ができて正義の味方なんて馬鹿なことも忘れるかも知れない。
 ……それに、共犯にしてしまえば裏切るも情報を漏らすもへったくれもないしね。」
「いや別に僕は朔夜さんと恋愛関係とかそういうのは……。
 あの子と仲良くするというのはやぶさかではないですけど……。」
「祖母である私が言うのはなんだけど、あの子結構可愛いし気立ても良いわよ。
 まあ少し怠惰でドジなところはあるけど、それはまたチャームポイントでしょ?
 君が真面目タイプの人間らしいことは少し調べて解っているから丁度良いわ。
 ね、お願い。」

困った、僕は美人に弱い。
という冗談はさておき、大分困ったことになった。
恐らくさっきかけられた呪いの内容は『(私の言うことを聞けば)死にはしないわ』だろう。

「ああ、呪いの内容が気になっているの?」
「え、あ、はい。」
「正直ね、可愛らしい。私がもうちょっと若かったらお相手したかったわ。
 呪いの内容はシンプルよ、あの子が死んだら貴方も死ぬ。
 あの子が精神的に苦しめば貴方も苦しむ。
 一緒にマフィン食べてたじゃない。呪いのために二人で同じ行動して貰う必要が有ったのよね。」
「…………おおぅ」

そういうことだったのか。




「でもなんで俺なんですか。」 
「だって貴方死ぬのを怖がらないもの。丁度良いわ。
 護衛には命を平然と張れる人間じゃないと。」
「そんな滅茶苦茶な……。大体僕が朔夜さんの為に命なんて……」
「いいや、かけるね。だって貴方は全てのことがどうでも良いと思っている。
 目的意識が0なんだもの、何でも良いから、脅されてでも良いから目的を与えられれば貴方は機械のようにそれをこなすわ。」
「そんな馬鹿な……。」
「だって、貴方はそういう風に作られた生き物だもの。」
「な、なんでそんなこと解るんです?」
「悪いわね、さっき魔法で記憶を覗かせて貰ったわ。
 其処で見た貴方の働きも、今のお願いの理由ね。」
「……やれやれ。解りましたよ。まあ退屈しのぎにはなりそうだ。」
「よしよし、偉いぞ少年。お姉さんが頭を撫でてあげよう。」

僕の頭に朔夜のおばあさんの手が触れる。
身体の中から何かが抜けていくような感覚がした。

「それじゃあ一つ目の呪い解呪完了、じゃあしっかり頼むぞ。」

え?

「何時かけた呪いが一つと言った?私は感覚と命の共有以外にも色々しているよ。」
「なんてこったい……。」




車が僕の家の前に止まる。

「それじゃあ頼んだよ。」
「はい、解りました……。」
「ああそうだ、私の名を名乗ってなかったね。」
「え?」
「朝月ヨツバ、今度からは名前で呼んでね。」
「はぁ……。」

僕は車から降りて、ヨツバさんにお辞儀をして家の中に入った。
家には誰も居ない。

「おい少年、誰もいないと言うことはないぞ。」
「へ?」

声が聞こえる。
どこからだ。

「ここだよ、ここ!ここ!」

声のする方向、俺の右腕を見る。
先ほどの蝙蝠の入れ墨だ、消えたと思っていたのに……?
そして入れ墨が……喋ってる?

「入れ墨などではない!我が名はバトン・ザ・ノーブル十一世!
 代々朝月家に仕える誇り高き使い魔である!」

平面ガエル……じゃない、平面蝙蝠だああああ!?





「へ、平面蝙蝠!」
「平面蝙蝠言うな!これは本体ではない!
 ただヨツバさまのお言いつけで貴様に我が分身がとりついているだけだ!」
「寄生獣+ど根性ガエルとは……。」
「人の話を聞け!」
「うるせえ。サトウカエデみたいな名前しやがって。」
「それはメープル!」
「佐藤さんって呼ぶぞ。栗みたいな形しやがって。」
「あああああ!黙れクソガキ!誰が栗みたいな口してるだって!?」
「良いのかよ誇り高き使い魔様がそんな言葉遣いして!だって栗に似てるんだもん。」
「うるせえ!こっちは駄目人間と共同生活せねばならぬのだ。
 腹が立って仕方ないわ!あと栗に似ているってのは良く言われるから腹立つんだよ!」
「そういえばヨツバ様……ってヨツバさんのことか?栗の件については受け入れろ。」
「そうだ!大魔女たるヨツバ様に遣わされたのだ!
 貴様がしっかりお嬢様の手伝いをするかどうか監視するためにな!」
「くそっ、結局あいつ俺を信じてないんじゃねえか!」
「まあそれ以外にも役割はあるが……、今はまだ口にする時ではない。」

もったいぶるなよ……。
こういうのってこいつが言わないせいで大抵後からろくでもないことになるんだよ。

「さて少年、早速だがお嬢様が魔法少女活動にいそしんでいる。
 急いで現場に急行してくれたまえ。行かないと俺もお仕置きされる。」
「くそっ、解ったよ!」

やれやれ、妙なことになってしまった。
僕はとりあえず自転車に乗って、バトンの誘導に従って朔夜の元に向かった。
【不思議少女シルバームーン~第一話 第三章「魔法少女と亡霊少年」~fin】


【不思議少女シルバームーン~第一話 第四章「亡霊少年と復讐鬼」~】

「十年前、俺がまだ子供だった頃。
 家出をして夜の町を彷徨っていたら一人の魔女に襲われた。」
「それがお婆ちゃんだって言うの!?」
「ああ、そうだ!」
「そんな訳無いわ!だって、お婆ちゃんはとっても優しい人だもん!」
「いいや、確かにそうだった!しかも襲われた俺を助けてくれたおじさんまで殺したんだ!
 過去に一度奴を倒そうとして返り討ちに遭っているからな!」
「そんな話、私は絶対に信じない!」
「黙れ人殺しの孫め!」

なんだか今日はついてない、口裂け女を退治したと思ったら仮面の男に絡まれてしまった。
さっさと始末しようと箒に纏った疾風をまだ距離の空いている仮面の男に叩き付ける。
だが風は男の目の前で霧のように掻き消えてしまった。

「――――――え、なんで!?」
「やはりお前はまだ成長しきってないらしいな、一気に叩きつぶす!」

咄嗟に箒に捕まって空中に飛び上がる。
近づかれたら確実に倒される。

「とう!」

虎の仮面を付けた男は空高くジャンプして私と一気に距離を詰める。

「喰らえ!」

男の手刀が箒に叩き付けられ、箒が乾いた音を立てて折れる。





「外した、か。」

壁を、電柱を、宵闇を、ありとあらゆる物を踏み台にして仮面の男が飛びかかってくる。
身体強化を覚えていない私では反応が間に合わない。
さらに箒が折れてしまった以上、自在に攻撃をすることも出来ない。

「――――ガンド!」

簡単な呪いの魔術を指から放つ。
少しでも時間稼ぎになれば幸いなのだが……。

「効かん!」

呪いの弾丸は黒い尾を引きながら私の元へはじき返される。
折れた箒で無理矢理飛行し、それを咄嗟に躱す。

「これでも喰らいなさい!」

量産型の使い魔である大量の蝙蝠を飛ばして男を攻撃する。
男は頭の近くに飛んできた物だけを払いのけて私に疾走してくる。

「シルバースター!」

星形の光弾を飛ばすがこれも無効化される。
今更気付いたが、あの男は魔力を無効化あるいは反射することができるらしい。
だがそのことに気付いた時にはもう遅かった。



「これでトドメだ!」
「お嬢様、危ない!」
「邪魔だ!」
「――――――――あ」

男の膝蹴りが鳩尾を捉えた。
咄嗟に私を庇うようにバトンが飛んでくるが握りつぶされてしまった。
呼吸が出来なくなり、胃の中の物が逆流する。

「ふん、所詮はこの程度と言うことか。
 こいつは捕まえて人質にでもしておこうか。
 あの魔女にも、あの男にも、俺をあの時殺さなかったことを後悔させてやる!」

男の手が私に向けて伸びる。
逃げようとして折れた箒に手を伸ばすが思うように身体が動かない。

「そうだな、でもその前に溜まりに溜まった恨みをこいつで晴らすのも……」

男は私を片手で軽々つまみ上げると拳を思い切り振り上げた。
お腹が焼けるように熱い。
地面に放り投げられて腕を踏みつけられる。

「助け……て、おばあ……」
「さて、死ぬより苦しんで貰おうか。まずはお前の希望の象徴から……。」

せっかく夜なべして作った衣装を破かれた。
どうしてこうなったんだろう……。
こんな筈じゃなかったのに……?
男が馬乗りになって私の顔に拳を振り下ろしてくる。





「パーフェクト、こうなる筈と睨んでいたんだ。」

聞き覚えのある声が聞こえる。振り下ろされた拳は私の目の前で力を失った。
目の前の男のマスクが子供の小さな手によってはぎ取られる。
乾いた音が三回響く。
何か暖かい液体が顔について、その後マスクをはぎ取られた男がその場に崩れ落ちる。
息はしていない。
……死んでる?
私に歩み寄って手をさしのべる少年――天野昴――は笑っていた。

「いやー、手が痺れるの何のってなあ。
 僕は肉体派じゃあないのに。」
「あ、あなた……!殺したの?」
「殺したさ、君を助けるため、それと暇潰しにはなりそうだし。」
「え、あ、……貴方、が、殺した……?暇潰しって……。」

暇潰しで人を撃ち殺した……?
そんな言葉に対する疑問も次の言葉で吹き飛ぶ。

「それにしてもナイスブラジャー、上の方も黒だとは思わなかったぜ。」
「―――――最っ……低!」
「え?僕今何か言った?」
「何か言った?じゃないわよ馬鹿!死ね!変態!
 感謝の気持ちも二遊間貫通殺人ライナーよ!」
「成る程、つまり名センターによるレーザービームが見られるのか。」

何故助けに来たのかは解らないが……、とりあえず感謝はしなくても良い気がする。





「しかしなんでこんな反応を……ああ、そうか。癖なんだよ、つい本音がポロっと出ちゃうの。
 その下着があまりにも年齢不相応で……、なんていうの?ギャップがまたキュンキュン来る感じ。」
「死ねば良い!死ねば良いのに!……痛ッ!」
「おいおい、そんな腕を振り上げるなよ。見てたけど折れてるだろ?」
「……まさかあんたずっと見てたの?」
「いやあ、子供の身長だとあのマスク引っぺがせないじゃん?
 お前あのマスクが弱点だって気付いてなかったろ?
 そもそも都市伝説なんて高い能力を持っていれば持っているほどなにがしかの弱点も有るんだ。
 吸血鬼とか見てみろよ、解りやすいだろ?
 タイガーマスクの力を持つ都市伝説が一時期出回ったらしいからな。
 あれはその生き残りだろ。
 あの虎仮面も恐らく【マスクを付けている間は無敵】とかそういう能力だ。
 ならマスクをはぎ取れる一瞬を待てばいい。」
「……えー。」

何なのだろうこの人は、なんか気持ち悪い。

「お前、馬鹿だろ。」
「な、なんですって!?」
「ほら、おんぶだおんぶ、お前その身体じゃ歩けないし箒には乗れないだろ?
 丁度僕の家誰も居ないし、お前の婆ちゃんに電話して迎えに来て貰うよ。
 ったく、自転車また取りに来ないと。」

私は一発昴の背中を叩いた後、仕方なく彼の家まで連れて行かれることにした。
【不思議少女シルバームーン~第一話 第四章「亡霊少年と復讐鬼」~fin】




【不思議少女シルバームーン~第一話 エピローグ「魔法少女と亡霊少年」~】

僕が朝月を助けた数日後。
僕と朝月はなんだかんだでよく喋るようになっていた。

「おはよう昴君!」
「おはよう……。」

蹴られた、ちゃんと演技しろということだろう。

「やあおはよう朔夜ちゃん!」

頷かれた。
これで良いらしい。
転校二日目からそのスポーツ万能ぶりで朔夜は学校に馴染んでいた。
あれだけ大怪我した翌日にサッカーで男子相手にハットトリックを決めたのだ。
「キュウユウ」であるところの僕としてもじつに喜ばしいことである。
帰り道が同じ方向の友人が居ない僕は帰り道まで彼女が吐いてくるのが非情にうざったいがまあ良い暇潰しだと思おう。

「そういえばあんたも中央中学に行くの?」
「いや、まあ……。」
「じゃあ中学も一緒か……。貴方みたいな変態と一緒かと思うと気が滅入るわ。」
「あはは、僕は退屈しなくて良いけどね。」

繰り広げられるのはそんな普通な日々の普通の帰り道での会話。




「そういえばあんたさ、両親はどうしてるのよ?」
「母さんは居ない、父さんは仕事で家を空けている。
 中堅どころの作家でね、多分作品名も聞いたことはあるんじゃないかな?」
「へー、まあ私本は読まないけどね。」
「そうは言っても魔女は魔術書くらい読むんじゃないのかい?」
「お婆ちゃまは沢山本を読んでるわ。でも私は読まない。魔術書も。」

おかしい、魔女とは本来勤勉な生き物ではないのだろうか。
実に興味深い。

「じゃああのチェーンソーみたいな魔法は何なんだ?」
「適当に思いついたからやった。」
「なんかやたら名前長くしてなかったっけ?」
「格好良いからつけた。」
『マジカルオーケストラオープン!飛翔第二系統疾空魔術!装填!』
「なるほど、これが格好良いとは中々素晴らしいセンスだ。」
「ななななななな!?なんで!?」
「面白そうだからボイスレコーダーで撮っておきました。」
「止めて!止めてそれ恥ずかしいから!」
「マwwwwジwwwカwwwルwオーケストラwwwwww」
「いやあああああああ!」
「飛wwww翔www第二w系ww統wwwww」
「やめてええええ!」
「疾wwwwww空wwwwwwwww魔wwww術www」
「馬鹿ァ!死んじゃえ!あんたなんか死ねば良いんだ!」
「ソウ☆テン!」
「らめええええええええええええええ!」

駄目だ、こいつ面白すぎる。




そもそも僕はヨツバさんから魔女っ子だか魔法少女だかをこいつが止めるようにさせろと命令されている。
その方法は特に限定もされていないし、こうやって遊ぶ玩具も手に入ったのだから零石一鳥である。
あの日の僕はどうやらラッキーだったようだ。

「ごめんごめん、流石に弄りすぎたよ。」
「うぅ……酷いわ。」
「謝るから許してよ。ごめんね?」
「も、もうしない?」
『マジカルオーケストラオープン!飛翔第二系統疾空魔術!装填!』
「いいいいやああああああああああ!」
「へっへっへっ、良いリアクションしやがるぜ。」
「うわああああん!もう一緒に帰って上げないもんね!」
「別に良いけど、ヨツバさんの言いつけに背いて良いのか?」
「う、うぐぅ……。」

ヨツバさんは朔夜が魔法少女を止めるように説得してきたそうだ。
だがいずれも失敗したとのことで最終手段として俺を使うつもりらしい。
そう、彼女は『日常生活でも僕の側に居て絶対に僕と一緒に魔法少女活動を行う』ことを条件に朔夜の魔法少女活動を許したのだ。
いやーヨツバさんマジウィッチ。

「ほらほら、泣かないの。
 コーヒーおごって上げるから。」

自動販売機を指さす。
僕が金を入れると朔夜はミルクたっぷりのカフェオレに手を伸ばす。
僕はそれより速くブラックのボタンを押した。






「あ!私それじゃなくて……」
「いやー、俺も飲みたくなってさ、ブラック美味しいよなあー。
 カフェオレなんて子供だよなー。」
「…………。」

ガコン
彼女は物も言わずにブラックを選ぶ。
しかも、よりによって、彼女は無糖を選んだ。
馬鹿だ、極めつけの馬鹿だ。
彼女はそれに口を付ける。

「…………。」

いやー、いい顔してるなあ!
僕はあんな顔した女の子が最高に好きだよ!

「悪魔ぁ……!」

駄目だ、にやけが収まらない!
朔夜ちゃん可愛いよ朔夜ちゃん!

「さて、道草してるとヨツバさんに怒られるよ?
 急いで飲んじゃおうよ!」

僕は持ってきていたコーヒーフレッシュをこっそり自分のコーヒーに混ぜる。
ブラックなんて飲むのは大人ぶりたがるガキか徹夜覚悟の受験生及び社会人だけだ。
缶をゴミ箱に捨てて彼女の手を引いて歩き始める、僕と彼女の家までの道が真っ直ぐ続いていた。
【不思議少女シルバームーン~第一話 エピローグ「魔法少女と亡霊少年」~fin】



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