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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-28

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 封筒を渡し終えて、俺達は鶴見のじいちゃんの家を出た。
 川沿いに歩いて、早く徹心のおっちゃんの所に戻ってTさんが集めてきているだろう情報を聞こうと思いながら、俺は「そう言えば……」と千勢姉ちゃんに訊ねた。
「鶴見のじいちゃんが言ってたけど、治水の時に使っていた雲の竜って?」
「叢雲の事だな。川が少し派手に暴れていたのでな、しばらくの間川の水量を調節してやっていたんだ」
 千勢姉ちゃんはそう言ってケウの毛に巻かれた≪壇ノ浦に没した宝剣≫を手のひらで叩いた。
「あの雲ってそんな事もできるのか?」
「叢雲の雲気とは転じれば水気、その場に目に見える雲が無かろうと、私は空気中からでも自分自身の水分からでも叢雲を使役できる。そして叢雲が御せる水量は膨大だ。川の一つくらいどうと言う事は無いよ」
「そんな事をして大丈夫だったの?」
「無論堂々と行うわけにはいかんさ。しかし、この街の自治体には≪治験モニター≫や≪神智学協会≫討伐の件で多少無理を通してもらっていたからな。その分の返礼だ。
 徹心の異界に余分な水はしばらくプールさせていたから、工期が終わるまではあそこがとんでも無いことになっていたが苦労したのは徹心だけだから問題無い。結果として治水は無事に成功。鶴見は徹心に対して感謝の念を抱くようになったわけだ」
「その縁を恃んでの、今回の無茶な要請なのね?」
「ああ、一応認識阻害用の道具は≪組織≫から持ってきて使うつもりだが、最悪認識阻害をぶち抜くような戦闘になりかねんし、間違っても迷い込む人間が居てはならんからな」
「あの封筒が無事に渡ったって事はさ、これでこの街で暴れても警察とかに捕まる事は無いって事?」
 あの封筒の中身は確かそんな事を書かれていたはずだ。それを了承して徹底させると約束した鶴見のじいちゃんも凄いけど、臆面も無くこんな事を頼む姉ちゃん達も凄まじい。
 千勢姉ちゃんはああ、と答えた。
「一部地域ではな。徹心の読みが外れて今回指定した箇所で怪しい所が見つからなかった場合はまた追加で場所を指定しなければならないんだが、多分大丈夫だろう」
「徹心おじちゃんが言ったことってそんなに当たるの?」
 リカちゃんが首を傾げて、あんまりと言えばあんまりな質問をした。
 千勢姉ちゃんは重々しく頷く。
「うむ、非常に信じられない事ではあるが、あの男は有能なのだ……非常に信じられない事実ではあるが……」
「二回言ったぞ……?」
「ええ、二回言ったわね……」
 ともあれ、
 へえ、あのおっちゃん、今日の作業行程の指示を出してる時の手際の良さ的に、実はそうなんじゃないかって思ってたけど、やっぱり千勢姉ちゃんから見ても有能なんだ……。
 半ば驚いて感嘆の声を上げながら、俺は徹心のおっちゃんの異界の中に入る。隣でフィラちゃんが何か言いたげにしていたけど気にしない事にした。
 すぐにコテージに入って徹心のおっちゃんがいつも居る、棚と応接具用の家具が並ぶ部屋へと入る。
 帰りを待ってたのか、扉を開けたらケウがすり寄って来て、俺の顔程の大きさがある鼻先を押しつけてきた。尻尾を振っているあたり、結構いい感じに回復してるっぽいな。
 へへへ、愛い奴め……。
「よしよしケウ、元気になったみたいで良かったぜー!」
「よしよし」
 リカちゃんと一緒に長い毛に顔をうずめて撫でる。
「ケウ、怪我は良いようだな」
「大事が無くてよかったわ」
 千勢姉ちゃんとフィラちゃんの言葉を受けて気持ち良さそうに喉を鳴らすと、ケウは俺達から離れ、道を開けるように一歩退いた。
 応接セットには既にTさんが座っていて、徹心のおっちゃんと一緒に地図を見ていた。
「Tさん、帰ってたんだ」
「つい先ほどな。そっちの首尾はどうだ?」
「ばっちりなの!」
「封筒渡して協力は取り付けてきたぜ」
 俺とリカちゃんがピースで答えると、Tさんは微笑した。フィラちゃんが興味津々の体で地図を覗き込む。
「それで、ウィリアムの居場所は割り出せそうなの?」
「うん、これを見てほしい」
 徹心のおっちゃんが地図を示す。そこにはいくつか赤い丸が描かれていた。
「なんだこの印?」
「かつてこの街に存在していた≪神智学協会≫のロッジの位置だ」
「マジか!?」
 地図には5つ程の赤い丸が記されている。それだけの規模でもってこの街で活動していたってことなのか……。
 徹心のおっちゃんが説明を始める。
「ウィリアムが居るであろう場所の目星というのはこの5つだ。今日高坂君達に鶴見君の家に行って来てもらった時に指示してもらった封鎖地域はこの5つの周囲だね」
 そう言っておっちゃんは地図の五点を指さした。
「そして、よりウィリアムやモニカ君が居るであろう場所を特定するために、Tさんに夜から色々と回って来てもらった」
「そうだ、Tさんって夜から一体どこ行ってたんだ?」
 昨日、徹心のおっちゃんが『頼まれてくれるかな?』とか言ったすぐ後にTさんはどこかに行っちまってた。急に出かけて行ったせいでどこに行くのかも聞けなかったんだけど。
 Tさんは、ああ、と言って指折り数えながらどこに行ってたのか報告してくれた。
「夜の街に詳しい少年達のグループにいくつか接触して、夜が明けてからは土地の管理をしている人間や、物件に影響力を持つヤクザの事務所を回っていた」
「……しれっとまたとんでもないとこに行って来たんだな」
 流石寺生まれだ。なんかよくわからんが、スゴイ。
「いやあ、Tさんを情報収集にやって正解だったよ。これが高坂君だったら話がこじれて喧嘩になって要らない事後処理が増えるところだからね。寺生まれは凄い……」
 そう遠い目をして言う徹心のおっちゃんに、なんだろう……これまでの徹心のおっちゃんの苦労が透けて見えるみたいだった……。
「ともあれ、情報は集まったのだな? ウィリアムの潜伏場所はどこだ?」
 千勢姉ちゃんもフィラちゃんと同じように応接セットに着いて地図を覗き込む。俺もTさんの肩越しに地図を見てみた。
 印がしてあるのは住宅地に二つ、街の外れに一つ、街の南にある海の近くの倉庫に一つ、駅の近くに一つだ。
 地図横に置いてあるメモを見てそれぞれ、廃屋、廃教会、廃工場、持ち主不明だけど賃貸料だけは払われる奇妙な倉庫、駅近くで特に不便があるわけでもないのになんの店も入っていないテナントだと確認する。
「うっわ、どこも怪しいぜ?」
 どこもいろんな種類の悪い人達が湧いてそうなロケーションだ。
「裏をとっていけばその怪しさにもそれぞれ違いがある事がわかる」
 Tさんはそう言って地図を指さした。
「帳面から存在が抹消されていた物件が廃工場とテナントの二つ、未だに賃貸料がどこかから支払われていたのがこの倉庫だ」
 それぞれの位置を指さしながら、Tさんがつらつらと説明する。
「他の二つはそれぞれの物件の管理者か、遊びたい盛りの少年達がたびたび出入りしている。物件の写真を視た限りでは変な都市伝説が設置されていたり、認識阻害をかけているような様子は見られなかった。除外してもいいだろう」
 地図に黒ペンで×が記された。
「あとみっつなの」
「一つは除外だ」
 駅近くのテナントにばってんが付く。
「なんで?」
「モニカ達が≪首塚≫の小屋に行っていた二日の間に師匠と俺が街の確認を行った時、このテナントは確認した。認識阻害は動いているが、中は空でそのうえそれほど広くも無い。藤宮由実を襲ったという兵士たちが全員隠れおおせることは広さから考えて不可能だ。地下への侵入路も無かったから間違いはない」
「あとは海沿いの倉庫と街外れの工場か……」
 うーん、怪しさ爆発な施設二つが狙ったみたいに残りやがったなあ……。
「どちらも怪しいが……」
 Tさんは徹心のおっちゃんに目線をやった。おっちゃんは頷いて、
「うん、廃工場――かつての研究所が彼等の居場所だろうね」
 やけにきっぱりと言い切った。
「根拠は?」
 千勢姉ちゃんが訊ねる。
「この街に橋頭堡を築かれないように僕も目を配るくらいはやってきたからね……それと、つい先だって街の南、海から倉庫街の方へと向かって来ていた幽霊船らしき複数の船影が消滅したという情報が入った」
 徹心のおっちゃんの言葉に驚きの気配が室内に広がる。
「このタイミングで倉庫街を目指して向かってくる船なんてウィリアムか≪神智学協会≫の手の者だけだろうね」
「どちらにしろ馬鹿正直に倉庫街を暗示するような事はしないか……」
「それも罠ってことはねえの?」
 訊いてみると、苦笑が返って来た。
「そこまで考えだしたらどうしようも無いけど、あの廃工場はかつて研究所も兼ねていた。地下にどうやら都市伝説を用いて隠蔽、封印された広大なスペースがあるらしい事は以前確認できているし、モニカを捕らえて研究班がやりたい事は実験の類だろう。廃工場の方が場所的にはおあつらえ向きだね」
「どちらでも構わないさ」
 千勢姉ちゃんが立ち上がって≪壇ノ浦に没した宝剣≫に巻きつけていたケウの毛を解いて部屋の中にばらまいた。
「目的地が二つにまで絞れたのならば、片方に襲撃をかけてそこに居なかった場合、もう一つを襲いに行けばいい。ケウの足を借りれば廃工場から倉庫まで20分もかからん。両方を一晩の内に攻める事も不可能ではない」
 徹心のおっちゃんが「掃除するの僕なんだけど……」と床の毛を見て切なげに言ってから頷いた。
「そうだね、ここまできたら僕より高坂君の果敢な決定の方が事態を良くするだろう」
「じゃあこの廃工場を襲撃にいくのね?」
 立ち上がったフィラちゃんを徹心のおっちゃんが制した。
「待つんだ。まだ陽が出ているし、流石に鶴見君が手を回すにしても時間が足りない。襲撃は明日未明にするんだ」
「その間これを見て予習だな」
 Tさんが図面を取り出して地図の上に広げた。
「Tさん、なにそれ?」
「不動産屋の倉庫から吐き出させた建設当時の廃工場の図面だ。通路の大方の把握をしておくように」
「伏見君達も連れていくのかい?」
 意外そうな顔をする徹心のおっちゃんに俺はおう、と答える。
「俺達も連れてけってTさんに言ったんだ。モニカを助ける役に立って来るぜ」
「モニカ救出のためにはモニカが安心して付いてこられる人材を迎えにやらなければならないからな。フィラちゃんも、私達が来るなと言っても何が何でも付いて来る気なのだろう?」
「当然よ」
 千勢姉ちゃんは笑んで剣を放り出し、ケウの尻尾を枕にして寝転がった。
「――ならまあ、日が変わるまでじっくり休んでおくといい、今夜は大変だぞ?」
「みんなであばれてもだいじょうぶなの?」
 リカちゃんが窺うような口調で言った。
「そうだよなぁ、人が近付かないように手配するって言っても流石に野次馬は湧くんじゃね?」
 野次馬も侵入させないようにするってなると、それこそ人の手じゃあ難しいんじゃねえかな。その疑問には地理に詳しいTさんと徹心のおっちゃんが答えてくれた。
「永取市の東側は仕事や学校が終わって夜になると人の数がほとんどなくなる。郊外ともなればほぼ無人、南東にある倉庫も、そして廃工場も立地は郊外に位置する」
「そうなると場所柄人目にはつきにくいし、向こうも隠蔽用の能力を使ってくるだろうから少々派手にやっても目撃される心配は無いし、野次馬もそこまでわざわざ足を運ぶ事もないだろう。もし隠蔽が破られて異常が発覚しても、公権力の介入は遅れるしね。全力でモニカ君を助けに動けるはずだ」
 フィラちゃんが感心したように息を吐き、千勢姉ちゃんが満足げに頷いた。
「ほらな、徹心は使えるだろう? おかげで私もついついケウでカバーしきれない暴れ方をしてしまった時には大助かりだ」
 ぜってぇ千勢姉ちゃんは暴れた時のフォローとか考えずに暴れてると思う。徹心のおっちゃんの遠い目を見ながら、俺は思った。
 そして、夜に向けて準備が進められる。



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