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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-31

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 リカちゃんの能力で発見した地下へと続く階段を駆け下り、地下に広がる広大な、そして現役の実験施設の通路を進んでいたTさん達は、敵兵の攻撃に晒されていた。
 とは言ってもその攻撃はTさん達を捉えての攻撃では無く、おおよその彼等のいる位置を把握し、そこを手探るように攻撃していると言った風情の、手探り感溢れる攻撃だった。
 ……完全に補足されているわけではないか。
 地下への侵入は悟られてはいても姿までは捕らえられてはいないらしい。
 状況からそう判断して、Tさんは敵兵達の横を駆け抜け、必要ならば打ち倒して通路を検めていった。
 地下の通路は地上の製薬会社のものよりも遥かに広く作られており、ケウとTさんが横に並んで状態で銃撃の横合いをすり抜ける事も容易かった。
 ……このままモニカのいる所まで駆けぬけよう。
 そう決断したTさんの眼前で、闇雲に撃たれていた銃弾のうちの一つがおかしな軌道を描きだした。背後に抜けた筈のそれがTさん達を追うように背から戻って来たのだ。
「――っ!」
 明らかにケウを狙って飛来した銃弾を、Tさんは≪ケサランパサラン≫への幸せの祈願を行い、掴み取る。
 走りを止めてTさんは手の中にある銃弾を確認する。手の中で熱を持っているそれは、ただの銀製の銃弾だ。
 確かに魔に近しい者には効果はあるだろうが……。
 自分達に特別な効能があるとは思えないし、銃弾自体には何らかの加護も見受けられない。あの軌道は超能力部隊の保持する念動力やサイコキネシスのような能力のせいだろうと考える。
 だとすれば操る側の人間に俺達の姿が見えていなければならない……。
 自分達は補足されているという事だ。それを可能にする能力は、
「……透視か、視線を介する系統の能力か?」
「正解」
 そんな言葉と共に、これまで横あいをすり抜けてきた兵が追いついて来る足音が聞こえた。彼等はTさん達を通路の前後で挟むようにして布陣し、銃を構えた。
 それらの兵を指揮しているのは先程の声を発した白衣の男で、どうも研究者然とした印象を受ける男だった。
 白衣の男は視界の中央にTさん達を収めているようだが、周囲の兵は目の焦点が合っていない。
 それを確認してTさんは頷きを一つ。
「どうやらお前にだけ俺達の姿は補足されているようだな」
「研究班の者だからな、自分をより深く改良する術はわきまえている」
 そう言って白衣の男は兵達にTさん達が居る位置を報せる。応じて銃が、先程より正確に狙いを付ける。
「Tさん……どうするの?」
「かこまれちゃったの」
「でもこれなら大丈夫じゃね? 同士討ちしちまうから撃てない筈……だぜ?」
 兵達はTさん達を挟むようにして布陣している。このまま銃を撃てば流れた弾が味方に当たる事になる。
 そう思っての舞の発言には、
「ところがそうでもない」
 そう白衣の男が答え、自身も拳銃を抜いた。
 警告無しに発砲する。
 撃ちだされた銃弾は念動力で操られ、流れ弾による同士討ちを避けつつ、銃口の数だけの弾丸が面で襲ってくる。
 兵達が曖昧にしか把握できていないTさん達の位置を、面で潰す心積もりのようだ。
「伏せて喋るな!」
 Tさんが下した指示にケウが即座に従い、その背に乗った舞、由実、リカちゃんの姿勢も下げられる。
 Tさんは結界を張ってケウ達を庇い、更に本人はケウから距離をとって、人避けの結界の範囲から飛び出した。
 視界にはっきりと現れたTさんへと、兵達の銃口が集中する。
「出たぞ! 撃て!」
「強い脚力があれば幸せだ!」
 銃弾がばら撒かれる直前、Tさんは≪ケサランパサラン≫へと祈祷した。
 転瞬。
「――!?」
 Tさんの足が兵の一人を蹴り飛ばした。
 蹴られた兵は手にしていた銃器を手放して通路の奥、曲がり角の壁まで吹っ飛ぶ。
 目標を見失った銃弾が同士討ちを恐れて壁や床に弾道を逸らして命中する音を背景に、Tさんは蹴り飛ばした兵が手放した銃を空中で引っ掴んだ。
 周りの兵が再びTさんを視界で補足して狙いを付ける前に、Tさんは現場の指揮を執っていた白衣の男に向けて引き金を引く。
 連射の形で撃ちだされた銀の銃弾は、不自然に弾道を折り曲げて壁を穿つだけだった。白衣の男には一発も当たらない。
 その結果にTさんは眉をひそめた。
 何らかの加護か……?
「効かねえよ!」
 勝ち誇った声と共に白衣の男の拳銃から、銀製の弾丸が応射として吐き出された。
「こいつは≪冬将軍≫のところからウィリアム様が盗ってきた正真正銘の弾よけだ!」
 ……どういうことだ?
 牽制代わりに引き金を絞り続けながら、Tさんは男に何らかの保護が働いているのを見てとる。
 視通す事ができれば幸せだ……!
 ≪ケサランパサラン≫へと祈祷した幸せはすぐさま履行された。
 加護の正体は男や兵士の衣服に巻きつけられている赤い結び目が縫い込まれた白地の布だった。
 その日本所縁のお守りの名をTさんは知っている。
 ……≪千人針≫。
 戦中、白布に糸を縫いつけて出兵する者達へと贈られたお守りだ。戦場での無事を祈願するものとして流行ったもので、既に廃れて久しいお守りだが、入手経路は予測が付く。
 先の発言からして、≪冬将軍≫に取り込まれた日本兵が身につけていたものだろう。
 Tさんは周りの兵も同じような護符を身につけているのを確認する。
 と、同時に奪った銃の弾が切れた。
 それを見てとって、白衣の男は言う。
「動くな! そこでまだ隠れてるのもだ!」
 Tさんは諦めたような表情を作りながら銃を手放し、そのついでに周りを確認する。
 ……ケウの姿が見えているのは白衣の男だけだな。
 周囲の兵達はケウの方に視線をやってはいるが、そのどれもがはっきりとケウに焦点を結んでいるようには見えない。それを再確認した上で、Tさんは掌を白衣の男へと向けた。
 男は動きを見せたTさんを警戒するようにして、殊更に大声で威圧するように叫ぶ。
「動くなと言っただろ! 射撃は当たらないんだ。あとはお前のさっき見せたでたらめな動きさえ警戒しておけば恐れる事は――」
 言葉が終わる前に、光弾がTさんの掌から飛び出した。
 それは白衣の男に吸い込まれるようにして飛んで行き、彼を壁際へと弾き飛ばす。
「――ッガ!?」
 通路に倒された白衣の男へとTさんは歩み寄る。
「俺の望む幸福は、お前達の幸運を食い破るぞ」
「――っく!」
 男は白衣の懐から新たに拳銃を抜き、それを舞達がいる方向へと向けた。
「貴様の契約者を消してしまえば貴様のその能力も弱体化するだろう!」
 叫びと共に引き金が引かれる直前、白衣の男に認知される事なく、目と鼻の先に移動していたTさんによってその銃が掴み上げられる。
「貴様ッ……!」
「本来の努めを果たし終わっている守りを流用しているようでは尚の事、俺の幸せを害す事などできん」
 白衣の男は引き攣った顔で拳銃を手放し、兵達に手を振って壁際の一隅を示した。
「お前達、そこだ! そこに隠れてる者を撃――」
 言葉を最後まで言わせる事無く、Tさんは男の頭部を掴んだ。
 そのまま腕を凄まじい勢いで打ち振るう。
「血糊が付かなければ幸せだ」
 呟きと共に男の頭部が壁に打ちつけられた。
 男の頭部と壁が激突し、鈍い音と共に頭蓋が破砕する音が鈍く響く。
 骨が顔面の皮膚を突き破って飛び出し、内容物が生臭い臭気を伴ってTさんを避けるように飛散した。
 脱力した男の頭を手放す。
 これで舞達は補足されない、が……。
 絶命している男を見下ろしてTさんはひとまずそう思い、しかしこの男一人がケウの能力を看破できる唯一の人材というわけでもないだろうとも考える。
 ……新手が現れる前に行こう。
「く、化け物め!」
 考えている間に敵兵の銃口が、圧倒的な数でもってTさんを狙っていた。
「否定はせんさ」
 Tさんは応えながら、目に見える銃口の他にも超能力部隊の不可視な能力が周囲に滞留しているのを感じ取る。
 舞達を視界の端で窺うと、ケウが長い毛で流れ弾を防いでくれているのか、彼女等に負傷は無いようだった。
 ただ、舞の顔が銃という分かりやすい脅威に晒されたためか、それとも人が凄惨に殺められる光景を目の前で見たためか、心持ち青くなっている。
 …………、
 薄く苦笑を浮かべて、Tさんは自らの掌を見る。白衣の男を叩きつけて血に濡れてしまった掌だ。直接叩きつけた掌だけは返り血を防ぎきれなかったらしい。
 ……小さい掌だ。
 大切なものを護りたいと思い、その大切なものが護ろうとするものをもまた護りたいという願いを果たすには、≪ケサランパサラン≫の力を借りて血にまみれて、それでも尚小さい。
 ……それでもまあ、全力でやらせてもらうとするさ。
 そう思いながら、Tさんは指揮官を失って激発する兵達に向けて泰然と告げた。
「逃げる者は追わない。害意を向ける者、その場に止まる者には容赦をしない。――選ぶといい」


            ●


 絶命している兵達の残骸――そうとしか呼べないものを見て、俺は顔を俯かせた。
 最初に千勢姉ちゃんに言われてたけど、こうなっちまうもんなのか……。
 辺りには咽そうな程に血の臭いが満ちていて、倒れている兵の中には体がほとんど千切れちまってる人も居る。
 内臓の紫がかったピンクの色や、骨の白が、頭の中でぐるぐる回る。
 いくら武器を向けてきた人間だって言ったって、流石に惨い事をしたと感じちまうな……。
 そんな事を思ってると、不意に声をかけられた。
「舞ちゃん、大丈夫? 顔色が悪いわよ?」
「お姉ちゃん?」
「おう、大丈夫大丈夫」
 いけねえ、モニカを助けに来てんのに敵の方をかわいそうと思ってもしょうがねえよな。
「俺達の居場所はある程度向こう側に知られているようだ。超能力部隊の中でも目に特化した者ならばおそらくケウの能力を見抜いてくる。気を付けた方がいい」
 堅い声でTさんが注意を促してくる。
「辛ければモニカの場所に辿りつくまで目を閉じていろ」
 そう付け足して、Tさんは俺の頭を血の付いてない方の手で軽く叩いた。
「うるせ」
 俺はTさんの血が付いた方の手を取って、ハンカチを押しつけた。
 血を拭いながら思う。
 大きな掌だ……。
 いつもこの掌で俺達を護ってくれて、そして見えない傷や重みを背負ってくれている。
 でも、Tさんの重みはきっと俺の重みでもあるんだ。
 それが一緒に在るって決めた事に対する責任だと思うし、俺が望むことだ。
 だから、
「一緒に背負っていくんだ。見とかなきゃなんねえだろうが」
 ハンカチをポケットにしまって軽く睨みつける。
 Tさんは目を丸くして、頭に乗せたままだった手で俺の頭をかき回した。
「……しようもない意地を」
 Tさんはそう言いながら困ったような顔をして、微かに笑った。


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