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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-30

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だれでも歓迎! 編集
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「随分と派手にチトセは暴れているね」
 ウィリアムは製薬会社の地下で、地上から送られてくる映像を見て呆れたように呟いた。
 戦況は千勢が一方的に兵の群れを突破しているというものだ。予想通りだね、と心の中で思いながら、ウィリアムはモニカを精査している計器を操作する。
「兵には皆出張ってもらおうか……」
 そう独白していると、呼び出していた白衣の研究者が部屋に入って来た。
「ウィリアム様、どうされました?」
「うん、多分チトセ、彼女は陽動だ。別動で本棟を捜索してくる輩がいるだろうから、君達は兵を率いてそれの相手を頼むよ」
「は、了解しました」
 研究者が答えるのと同じタイミングで警報が耳障りに一つ響いた。
「今度はどうしたんだい?」
 警報を報せてきた先へと通信を繋ぐと、通信先からは恐慌状態の兵の声が聞こえてきた。
『侵入者が! 鬼神ではなくあれはオルコッ――』
 そこまでまくし立てて途切れた通信に、わかったわかったと頷いて、ウィリアムは研究者に早く行くよう手ぶりでぞんざいに指示を出した。
 去っていく研究者の背にウィリアムは小声で呟く。
「オルコットの手の者と徹心達が相手か……せいぜい時間を稼いでくれるとありがたいよ」
 その呟きに反応する者がいた。ウィリアムの手の下で様々な計器に全身を測られているモニカだ。
 彼女は自身を精査する機材が発する光に目を細めながら、疲労が窺える声で不安そうに言葉を零す。
「何が、起こってるの? さっきから地震とか……してるけど?」
「何も問題は無いよモニカ嬢。来るべきものが来た、というだけだ」
 ウィリアムは機械に埋め尽くされている寝台に寝かせられたモニカへと笑みを見せた。当然その笑みはモニカを安堵させる事などなく、ただ不安を煽るだけなのだが、それらを分かった上でウィリアムも笑みを顔に張り付けている。
 彼はその笑顔のままで言う。
「さて、時間も差し迫って来た事だし、そろそろワタシの愉しみの時間だ。モニカ嬢、君も期待してくれるかね?」


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 千勢が叢雲を従えて製薬会社正面で猛威を振るっている光景を観察する影が、ウィリアム以外にもあった。
「あれは千勢の叢雲だな」
 八つの頭とその身体でもって戦場を蹂躙している雲竜の偉容を見てそう言うのはユーグだ。
 ふむ、とそれに弘蔵が応じ、
「見たところあそこで戦っているのは彼女のみのようだが」
「彼女の飼ってる獣の姿が見えないわ。たぶん彼女は陽動ね」
 そう言ってエレナはユーグに目をやった。
「ユーグ、≪冬将軍≫はどう?」
 ユーグは首を横に振る。
「だめだ、あの建物に彼の冬を展開してモニカお嬢様が巻き込まれてはたまったものではない」
「研究所の地下は多くの兵を展開できる程の大きさとも思えん。儂としてもこの場に≪冬将軍≫はあまり適さんと思うぞ」
「そうね……」
 二人に同意して、エレナはその旨の連絡を≪冬将軍≫へと入れた。
 製薬会社を囲う壁、そこに取り付けられたセンサーの類をかいくぐって、草薙で倒壊した工場の裏手から忍びこんだ≪神智学協会≫オルコット派の三人は、しばらく自分達よりも早くに製薬会社を訪れた侵入者が支配した戦場と、二階から上が消失している本棟を見て、方針を定めた。
「あの場は千勢に任せて我々の分も陽動していてもらおう」
 そう結論していると、三人は人の気配を感じとった。
 目を向けると、崩れた建物の裏を窺うように二人の兵が顔を出している。
「そこに居るのは誰だ!」
 その誰何の声に答えるように、弘蔵が腰の大太刀を引き抜いて接近、兵士の内の一人の胸を突いた。
 兵の心臓に吸い込まれるように突き立てられた刃は、力ずくで振り下ろされて兵の身体を裂いて自由を取り戻す。弘蔵はそのまま流れる動作で銃を盾にしようと構えた二人目の兵を銃ごと斬り捨てた。
「良い目をしている。ウィリアムが開発した超能力部隊だとしたら暗視の一つも持っているか。――〝蛍丸〟」
 言葉と共に乱暴な扱われ方で少々の歪みを得ていた大太刀の刃を小さな光が覆い尽くす。
 それは血も脂も刃のこぼれも、その全てを急速に拭い去っていった。
 〝蛍丸〟、刀身一メートル以上の大太刀で、刃こぼれした際、蛍が群がり刀を直した夢を持ち主が見て目が覚めてみると、本当に直っていたとの逸話がある刀剣だ。
「この場所もおそらく悟られたな」
 いくつもの気配が近づいて来るのを三人は感じとる。千勢を相手にするよりもこちらの方が安全と思われているのだろう。半ば表の戦場から逃げるような忙しなさで気配が接近してきている。
 愚かな。そう思いながらエレナは他の二人に言う。
「先に行ってちょうだい。ここは私が相手をしておくわ」
「わかった」
 短い返事を残して本棟へと侵入する二人を見送って、エレナは≪デリーの鉄柱≫を携えて兵の群れへと歩を進めた。


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 図面に書いてあった機材搬入用の入り口から本棟内へと侵入したケウの背中に乗った俺とリカちゃん、それにフィラちゃんと、ケウの能力の範囲内からはぐれないように気をつけながら周囲を警戒しているTさんは、建物の外で起こっている戦いの音を聞きながら建物内を進んでいた。
 内部は結構荒れているけど、それが元からなのか、それともここに侵入する直前にこの建物を襲った千勢姉ちゃんのさっきの草薙のせいなのかはわからない。
 だけど、
「千勢姉ちゃんすげえなぁ……」
 上を見上げると夜空が見える。天井から上がすっ飛んでいるんだ。
「本当に……」
 フィラちゃんも同意する。俺達の感想としてはただただ驚きの一言。フィラちゃんも俺も絶句するしかない。
「師匠はあんなものだ」
 Tさんは短く言ってケウとリカちゃんへと目を向ける。二人とも周囲に隠れる所、隠し通路が無いことをTさんに伝え、Tさんが分かった。と答える。
「では次だ。ともかく急ごう。いくら陽動があるとはいえ、俺達が発見されないというわけではない」
「おう。頼むぜリカちゃん」
「わかったの!」
 リカちゃんは元気よく答えて、ひとりかくれんぼの能力で図面からじゃあ分からない、改造されて隠された部屋や通路を首を巡らせて確認していく。


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 徹心の手の者とオルコットの手の者。その両方の攻撃に晒されている事を了解しながら、ウィリアムは興味深げに息をついた。
「モニカ嬢、この映像が見えるかね? 君を救出するためにどうやら千勢達が攻め込んで来たようだよ。それに、先程ユーグ総長達の姿も発見されたらしい。ここまで攻め込まれるのも時間の問題だね」
 その言葉に返事は返さず、しかしモニカの表情から微妙に力が抜ける。知り合いの名前を聞いて緊張を知らず緩めたのかもしれない。
 ウィリアムはモニカの様子を面白そうに横目で見て機材の準備を続けながら、画面の向こうの一方的な戦況を称賛半ば、呆れ半ばで評する。
 通常、人の行う対大人数の戦闘は、それなりの数の兵をもって数種の兵科を割り振り、連絡線が途切れぬように配慮しながら相手が所有する陣地を徐々に削り落として制圧して行くという構図になる。しかしそれは普通の人間によって構成される軍隊による戦闘方法にすぎない。
 例えば万兵に匹敵する個人戦力。例えば軍勢を内包し、それをいつでも展開できるような個体。そのような存在が今この製薬会社で戦闘を行っている者の中には居る。
 索敵は彼等の機動力を鑑みればほぼ無意味、兵糧も最低限しか必要としない彼等のような存在は、ただそれだけで奇襲の成功を意味する。そしてその有用性と脅威は≪神智学協会≫の内紛の結果が物語っていた。
 それでも勝利をもぎ取る事は不可能ではない……いや、なかった……かね。
 万全を期して十重二十重に張り巡らせた罠や、彼等のような異能由来の力と知識を借り受けた武装と改造処置、それらを駆使すればこそ、ウィリアムは内紛において敵派閥の契約者や都市伝説を圧倒出来たのだ。
 しかし、
 ……それも相手がここまで戦上手となると無意味だねえ。
 ウィリアが目を向けたモニター内では彼が雇い、あるいは甘言で誘った兵達がなぎ倒されていた。
 時折起こる散発的な反撃もむなしく、千勢が振るう剣に弾かれるか届くまでもなく風に吹き払われていた。
「まったく、銀弾を込めたクレイモアも聖別した銀の銃弾も兵に発現している能力も、どれもが貴重だというのに……」
 ウィリアムは勿体ない事だと嘆息しながら画面から目を外して部屋の各所に設置されている人間大の培養器を見て呟く。
「ワタシが作った仔達は少しはがんばってくれるだろうかね?」
 コンソールに手をやると映像が切り変わった。
「ついに地下に侵入されたようだね」
 切り変わった画面が映し出すのは製薬会社の秘匿された地階内部の映像だ。送信されてくる映像のどれにも不審者の影は映ってはいないが、いくらかの人間が侵入している事は分かっている。隠密用の能力を使用しているのだろうと考えながらウィリアムはおおよその位置情報を防備に当たらせている兵達に伝えた。
「事がここまで至ったのならもうここに侵入されても構わないと言えば構わないのだけどね。せっかくの見世物を見物してくれる人間が居てもワタシは歓迎だ」
 そう言ってモニカに近付く。機材に手を触れ、寝台の上のモニカを照らし出すように無影灯を照射した。強い光に目を閉じたモニカは身を強張らせ、恐怖を押し殺すような抑えた声で問う。
「今度はなに……するの?」
「なに、モニカ嬢、君の中に封印されているものを解放する。それだけのことだ」
 そう言ってウィリアムはモニカの上着を裂いた。


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 突然裂かれた衣服にモニカは瞬間的に羞恥を感じて身を掻き抱こうとして、それが出来ない事に思い至る。
 両手足と胸部、そして首が寝台にゴム製のバンドで固定されているのだ。
 身動きもろくにできないまま、肌の上を指が滑っていく感触に鳥肌が立つのを感じていると、今度は触診でもするかのように掌が腹の辺りに添えられた。
「では、これより≪心霊手術≫を始めよう」
 ウィリアムがそう言い、彼の指が臍の辺りを押す。
「……ん」
 指が肌を押しこんでくる圧迫感に、モニカが唇から細く息を吐き出しながら耐えていると、唐突にそれまで以上の違和感がモニカを襲った。
 ……え?
 体の中に何かが侵入してくる異物感を感じたのだ。唐突にして強烈なそれに、モニカは息を詰めて軽くえずく。
 えずきを抑え込もうとすると、代わりとでもいうように目から涙が流れる。それすらも腕を拘束されているためにモニカは拭う事が出来ない。
「動かないようにしてもらいたいね、ワタシとしても変なミスなどしたくは無いのだ」
 ウィリアムのその言葉は、モニカにとっては何を意味しているのか分からない。
 分からないという、その不気味さに怖気を感じた。
 異物感はモニカの中でじっと動かずに留まっていた。そのためか、最初に来た強烈な異物感はほんの少しだけ薄れ、それと同時に腹部に生温かい感触が広がるのをモニカは感じた。それは腹から体を伝って寝台に広がっているようで、湯のようなものだろうかとモニカは考える。
 ともかく何が自分の身体に起こっているのかと拘束された首を精いっぱい曲げ、無影灯の強い光に閉じてしまいそうになる目を必死に開けて腹の方を見た。
 そして、
 血が吹きだすモニカの腹の中へ、ウィリアムの手が侵入している光景が目に飛び込んできた。
「――ひっ」
 その光景の異様さに小さく悲鳴が漏れる。
 ウィリアムはモニカの反応に薄笑いを浮かべながら何の気も無しに言う。
「今、モニカ嬢の中にかけられた封印を解いているのだよ。――まあまずその前に余計なものを取り除くがね」
 そう言ってモニカの中に差し入れられた手を、ウィリアムは蠢かせ始めた。
 モニカは自身の腹の中で蠢動するウィリアムの手指の感覚へと意識を強制的に集中させられた。
 自分の腹の中をまさぐられる感覚に、全身の毛が逆立つかのような不快感を得る。
 ウィリアムの手は既に手首までモニカの腹に沈み込み、モニカへの侵入路から溢れる血をかき回す、僅かに粘性を帯びた水音を響かせながら、何かを探すようにモニカの体内を蠢いていた。
 モニカは悪寒を必死に噛み殺して、今の状態に疑問を感じる。
 ちがう、お腹のなかじゃ、ない……?
 腹の中をかき回されているにしては、事前になんらかの薬が投与されているということも無いにも関わらず、異物感はあるが痛みが無いのだ。
 それに、とモニカはもう一つ疑問に思う。
 あんなに無遠慮に腹の中で手を動かされたらもう自分は死んでいる筈ではないだろうか?
 じゃあ、一体……?
 ウィリアムはモニカのどこへとその手を突き込んで、何を探しているのだろう?
 そうモニカが思った時だ。
 不意にウィリアムの手の動きが止まった。
「これか」
 呟きと共に手が引き抜かれる。
 体内から異物が排除される解放感。
「っか――!」
 未だに体内を手指が蠢く不快感の残滓を引きずりながら喘ぐモニカが涙にかすれる視界でウィリアムを追うと、彼の手には飴玉大の小さな機械があった。
「……っ、……?」
 喘いだ息を必死に整えながらウィリアムが摘んでいる機械を見ていると、視線に気付いたウィリアムが機械をモニカの眼前に持ってきた。
「モニカ嬢の中でバイタルサインを送っていた発信機だ。受信機の方は行方が知れないのだが、レニーとトリシアを殺害した時の状況から考えるにおそらくテッシンが持っていたのだろうね……既に役に立たないように弄っておいたけど、これから先この機械が君の中にある意味も無い。取り除かせてもらったよ」
 そう言ってウィリアムは発信機を適当に放り捨てる。
 モニカはそれを眺めやってから、腹の方へも目をやった。
 血が腹の上に溜まってはいるが、肌には傷の一つも無いようだった。当然、モニカ本人にも痛みはない。
 その事に困惑しながら、モニカは千勢や徹心達が話していた話の内容を思い出す。
「機械……千勢お姉ちゃん達が言ってたやつ……?」
「ああ、やはりテッシン達T№の手に渡っていたのか。そう、きっとその機械だ」
 ウィリアムはその機械は体の中にあったと言う。確かにウィリアムはモニカの体内からそれを取り出したが、それでも尚モニカはこう尋ねずにはいられなかった。
「一体どこから……? わたしの中って、あんなに手、突っ込まれたら、死んじゃうんじゃ……?」
 ウィリアムはそんなことか、と手を再びモニカにあてがいながら告げる。
「≪心霊手術≫、というものをモニカ嬢はご存知かね?」
「しんれい……しゅじゅつ?」
「ワタシの契約都市伝説だ。素手で手術を行う事が出来る優れ物でね、余計な器具を使う事無く実験体の身体を直接弄る事が出来るのでワタシとしては非常に好ましい都市伝説なのだが、それ以外にもこの≪心霊手術≫にはいくつか特典がついている」
 そう言ってウィリアムはモニカの胸部に軽く指を這わせる。それだけの動きで肌が裂け、血が滲んでくるが、
「まず、ワタシ自身が切開した相手の傷口はすぐに塞がるというものだ。被験体は術中に痛みを感じる事もまず無いのでそれはそれで味気ないがね」
 言葉通り、指を離した瞬間に傷はぴったりと塞がった。
「そしてもう一つ、これがなかなか面白い代物でね、ワタシのこの力は人体の内側という名の異界を弄る事が可能になっているんだ。分かるかね? つまり人体の内部に存在するとされている霊的なモノをこの手で扱う事が可能なのだよ。この能力があればこそ、実験を繰り返してワタシはあのようなものを作る事に成功したのだね」
 そう言ってウィリアムは部屋の隅に並べられている人間大の培養器を示す。その内部には人の形を冒涜的に崩した存在が詰め込まれていたのを思い出して、モニカは顔を顰めた。
「あれらが不快かね?」
 あの中のものが不快なのではない、それを平然とやってのけるウィリアムが不快なのだ。
 モニカはそう思うが口は堅く閉ざされた。ウィリアムの手が再びモニカの体内に侵入し、異物が体内で蠢くおぞましい感触に耐える必要があったからだ。
「――、――っ!」
 泣いてなんて、やるもんか……っ!
 半ば意地でそう思うモニカにウィリアムは滔々と言葉を続ける。
「君もあれらとそう変わらぬ存在だと思うのだがね」
 分かっている。母親の中に居た時から十分は調整を受けていたという話だった。そんな自分が実験体として扱われた果てにあのようになってしまった彼等を嫌悪するなど有り得ないことだった。
 ウィリアムは興味の対象をモニカの内部の何かに移したようだった。腹の内部を探るようにまさぐり、時に計器類へと目をやって、口許に嫌気を誘う笑みを刻みつけながら彼は言う。
「我慢強いね、いいことだ。嗜虐心をそそられるよ。――さて、ここからが本番だ。封印を解除してモニカ嬢の中の都市伝説を解放してやろう」
「――っ!」
 体内で何らかの処置を高速で始めたウィリアムの手の気配に腑の辺りに耐えがたい重苦を感じながら、モニカは助けを待ち、体を這い回る悪寒を耐えるためにただひたすらに歯を食いしばった。




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