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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-32

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 通路を進んでいると、T字路の前に来たところでTさんが手ぶりで俺達を止めた。
 どうしたのかとケウの背の上でフィラちゃんと顔を見合わせていると、T字路の向こうから銃声と悲鳴が聞こえてきた。
「彼等もここに来ていたのか……」
 Tさんが難しそうな顔で呟いている。なんだ? 彼等……?
 誰の事かを訊ねようとした時、目の前の通りを兵隊が血しぶきを上げて吹っ飛んでいった。
「な……?」
 唖然としていると、金属が響き合う音と、それに伴う足音とが曲がり角を抜けてきた。
 それは角から飛び出すと、金属の音を響かせながら黒い靄を纏った何かを突き込んでくる。
「うわ――」
 突然の事に身を竦めていると、Tさんが割って入って何か――黒い靄みたいなものを纏った槍を掴み取った。
 Tさんはそのまま槍を自分の方へと引き寄せて、
「っ」
 それに引かれてTさんに接近していた槍の持ち主を蹴飛ばした。
 蹴り飛ばされた方は槍から手を放して飛んでいって、空中でトンボを切ると、壁を蹴って通路に着地する。
 そいつは――やたらと目立つ赤い十字架の模様の白マントを羽織った騎士は、槍に纏わせていたものと同じ、悪魔の形をした黒い靄のようなものを自分の横に生み出すと、その中から今度は剣を抜いてきやがった。
「≪テンプル騎士団≫……」
 フィラちゃんが警戒の声を上げる。でもその騎士の顔は、
「ユーグっていう騎士のおっちゃんじゃねえぞ?」
「彼麾下の一騎だな。そして――破ぁ!」
 Tさんが騎士に光弾を放った。騎士が剣で光弾に一撃をかまして、光が破裂する。
 その音を聞きつけたかのように、更に足音が幾つも重なって聞こえてきた。
「やはりユーグもこの場に居るか! ――ケウ!」
 Tさんの声に反応してケウが跳び退った。そして、その数瞬前まで居た位置をめがけて短剣が飛んできて、通路に突き刺さった。
「走れ!」
 Tさんの指示に従ってT字路を飛び出し、さっきの≪テンプル騎士団≫が出てきた方と逆の方の通路に出る。
 そこから≪テンプル騎士団≫が出てきた方を見ると、
「げ!?」
「いっぱいなの……」
 15、6人くらいの騎士が兵を斬り倒している所だった。
 最後の兵を難なく斬った騎士の中の一人、よく見るとちょっと他の騎士達と衣服が違う、ユーグのおっちゃんが俺達を見て呟いた。
「Tさん……それに千勢が飼っている白い獣か……」
「バレてる!?」
 どうも俺達の姿が見えてるっぽい。慌ててTさんの方を見ると、Tさんはとっくにケウの人避け能力範囲外に出て,
ユーグのおっちゃんと睨み合っていた。
「舞達は先に行け。この場にいては巻き込まれる」
 背を向けたままTさんが言う。
「でもよ、Tさん」
 多勢に無勢じゃないか? そう言おうとした言葉はTさんに遮られた。
「急げ、ここまで攻め込まれている事はウィリアムも承知の筈だ。焦って何かよからぬ行動を起こす前にモニカを助け出す必要がある」
「……分かったわ」
 そう答えたフィラちゃんの意を察して、ケウが≪テンプル騎士団≫に背を向けて走りだす。俺は後ろ髪を引かれる思いでケウにしがみついた。
「負けんなよ! Tさん!」
 言ったと同時に、Tさんの気合いの声が通路に響いた。


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 目くらまし目的の光弾の一撃を放ったTさんはケウの敏捷な足音が遠ざかっていくのを背中越しに聞きながら、無傷なユーグとその麾下の騎士達と向かいあって問いを放った。
「ウィリアム・ウェッブは≪神智学協会≫の人間だと資料には載っていたのだが、仲間割れか? 騎士殿」
「モニカお嬢様に施された封印を解かせるためにあの狂人を利用しているのだ。Tさん」
「封印?」
「説明はしない」
 そう言ってユーグは剣を振り上げた。周囲の騎士達が、その動作が意味する指示に従って武器を構える。
 悪魔の姿をした加護を身に纏う騎士達を従えた騎士の長は、告げる。
「ちょうど良い機会だ。後顧の憂いを断つため、お前を討ち取る!」


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 製薬会社の敷地内に展開していた兵達をあらかた倒して本棟へと向かっていた千勢は、同じように兵を叩き伏せて現れた、身体を頭部以外をすっぽりと覆い隠した長衣の女を視界に収めた。
 少し前に河原で戦った女だ。名前は、
「エレナ・サヴァレーゼ、だったな」
「チトセね」
 エレナは千勢に目を合わせ、兵士を叩き伏せていた≪デリーの鉄柱≫の先端を千勢へと向けた。
 千勢は戦意を向けてきたエレナに対して、視線で相手を射殺そうとするかのような気迫でもって告げる。
「どけ。モニカを取り戻しに行かなければならん」
「あの子はオルコット様の目的に為に必要なの。私達が手に入れるわ」
 その答えに、千勢は他にも数人≪神智学協会≫のメンバーが侵入しているであろうと考える。同時に、モニカの価値はやはりオルコットの目的と直結しているようだとも思い、
 ……モニカの両親がモニカをその目的に供する事を拒んだ事を考えると、モニカをこのままウィリアムやオルコットの手に渡して無事でいるとはやはり思えない……。
 本棟の中から生き残りの兵がこちらの様子を窺って狙撃の用意をしているのを確認しながら、千勢は≪壇ノ浦に没した宝剣≫を振り上げる。
「≪拝上帝会≫、≪太平天国≫の亡霊だな……」
「なんとでも言いなさい」
 戦意も露わに答えるエレナへと千勢は宝剣の刃先を向けた。
「道を開けないならば押し通るぞ。――叢雲!」
 呼号に応えて、後方で兵の残党を屠っていた八岐の雲竜が、一挙にエレナへ殺到した。
「っ!」
 エレナは≪デリーの鉄柱≫で最接近していた首を横に弾き飛ばし、他の首を避けるために高く跳んだ。
 目標を見失った叢雲が本棟へと突撃し、中に隠れていた兵達を喰らうのを視界の端で見ながら、千勢は後方から兵の念力で操られた瓦礫が飛来してくるのを回避する。
 そこへ叢雲の身体を蹴って空中で方向を転換したエレナが≪デリーの鉄柱≫を最上段に振りかぶって落下してきた。
 迎撃の態勢を作りながら千勢は言葉を叩きつける。
「それほどの執念で世界の在り方の改変を望むか!」
「≪拝上帝会≫も≪太平天国≫も≪神智学協会≫も関係ない。私が、私だけはオルコット様の味方でい続けるの! 最強の駒でいるのよ!」
 激突する。
 両者の得物がぶつかった衝撃で空気が弾ける。
 地に降りたエレナが再度の打撃を放ち、それを千勢が受ける。
 互いが互いを押しきろうとつばぜり合いが発生して両者が動きを止めた瞬間。瓦礫の山に隠れ潜んでいた兵が銀の銃弾をもって二人を狙撃した。
 弾かれるように二人はその場を離れて銃弾を避け、それぞれ着地がてら地面の瓦礫を一片拾い上げる。
 そして下手人の位置を感覚で把握して、
「さもしい真似を!」
 二人の手から豪速の投石が放たれ、兵士たちを瓦礫から追放した。
 三つ巴の戦いが始まる。


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 Tさんと別れてから製薬会社の地下を走りまわっていたケウは、リカちゃんがたまに見つける隠し扉や隠し通路を暴きながらどんどん通路を進んでいた。
「なんだここ、メチャクチャ隠し部屋多いな」
「侵入者対策なのかしらね、リカちゃんとケウが見つけてくれるからあまり気にならないけどこの建物の中、信じられない程罠が設置されているわ」
「要塞ってやつか」
 呟いていると男の絶叫が聞こえてきた。
 フィラちゃんと顔を見合わせる。
「……≪神智学協会≫の誰かが居やがるのか?」
「でしょうね」
 絶叫は既に途絶えちまっている。そして、それをやってのけた奴の足音がこっちに近付いて来た。
 どうやら見つかっちまったらしい。隠れてばかりいる事も出来ない。
 ケウが足を止めて俺達を見てくる。進むかどうか訊いて来ているんだろう。
「……行くぜ?」
「……ええ」
「わかったの」
 なんとかすり抜けて全速力で逃げる。そう皆に確認してから、ケウに指示を出す。
 低く喉を鳴らしてケウが跳ねるように移動した。
 悲鳴の正体はやっぱり兵隊だったらしい。切り捨てられている兵隊が通路のそこかしこに倒れている。そしてその先には、
「気配がしたので誰かと思えば……君はTさんの契約者、舞だったか。それにモニカの保護者をしていた……由実だな?」
「あの時槍持ってたおっちゃんか」
 あの河原で見た、着流しに総髪のおっちゃんが居た。
 おっちゃんはケウの鼻っ面に移動して大きな刀の切っ先を向けている。ケウの能力は見抜かれているようで、俺達にしっかりと視線を合わせて来ていた。
「秋月、だったかしら?」
「ああ、君とは初見になるか。儂は秋月弘蔵と言う」
 そう言って秋月のおっちゃんは手にした大きな刀の切っ先を、ケウの背に乗る俺達に向けてきた。刃が血濡れでとても使いものにならないように見えるそれは、
「〝蛍丸〟」
 その一言と一緒に出てきた小さな蛍の光のようなものに包まれて、綺麗に直っちまった。
「……っ」
 フィラちゃんが歯噛みする音が聞こえた。俺もそりゃねえよ、と言ってやりたい。
 秋月のおっちゃんはこの前、騎士のおっちゃんや鉄柱の姉ちゃんに追いかけられた時にケウで逃げる事を封じてくれた奴だ。しかも、その後に千勢姉ちゃんとも戦ってたところをこの目で見ている。
 ぶっちゃけ逆立ちしたって勝てる気がしねえ。……どうする? 
 逃げる方向で色々と考えを回していると、秋月のおっちゃんがリカちゃんに目をとめた。
「その人形」
「わたし?」
「Tさんがユーグと対峙していて居ないにも関わらず、隠された道を見つける事ができたのはその人形の能力か?」
 どうやら秋月のおっちゃんはTさんが俺達の傍に居ない理由も知ってるらしい。リカちゃんが返事に悩むそぶりを見せたので俺は頷いて返事を促してやる。
「う、うんそうなの」
「そうか……」
 秋月のおっちゃんは剣先を下げた。
「人探し用の道具を兵に破壊されてしまったのだ」
 そう言って床に落ちてるぶっ壊れた刀のようなものを示す。あんなのでどうやって人探しなんてすんだろう?
「ウィリアムにモニカ嬢を好きにさせておくのは危険だ。君達は知らないだろうがあれは狂人でな、何よりも自身の研究と興味を優先する」
「そのせいで仲間割れしたのか?」
 訊いてみると、苦笑が返って来た。
「そうだ。ここで戦って儂がユーグに、君達がTさんにもらった時間を浪費してしまうよりも、ウィリアムのところまで急ぐほうが双方の目的から考えても良い事と思うが、どうか?」
 願ってもない事だ。俺達じゃあこのおっちゃんには勝てねえのは分かりきってる。せめてTさんが近くに来てくれるまではおっちゃんと手を組んでおいて損は無い。
 それに、ウィリアムって奴が元味方からこうも言われるような人間なら少しでも早くモニカを助けたい。
「仲良くしてやってもいいんじゃね?」
「そうね」
 フィラちゃんと小声で頷き合う。
「わかったわ、協力してあげる」
「俺達弱いんだから兵が居たら守れよ」
 秋月のおっちゃんは頷いた。
「急ごう」
「おう。リカちゃん頼むぜ」
「はいなの」
 なんとも妙な組み合わせで、俺達はまた通路を進みだした。


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「ほう、アキヅキが≪フィラデルフィア計画≫の契約者たちと手を組んだか」
 手術を施す手を止めて、ウィリアムは施設内部の映像を眺めた。
 ……多大な戦力を裂いて探知用の武装を破壊したと言うのに。このままでは手術が完成する前に辿りつかれてしまいそうだね。
 そう考えていると、モニカが拘束された上に≪心霊手術≫を長時間受け続けて衰弱した声で、うわごとのように口を開いた。
「フィラ……ちゃん?」
「ああ、どうやら君に相当執着があるらしいね」
 答えてやると、モニカの頬を涙が伝った。
「――っ、フィラちゃん……」
「慕わしいかね?」
 そう言いながらウィリアムはモニカの体から手を引き抜いた。
 突然の動きに、モニカの体が痙攣する。
「――ッ、あ、……ッ!」
「作業途中にすまないね。苦しかろうけどまあ我慢してくれ、予想よりも追っ手の到着が早くなりそうでね、だれか、隠し通路を見抜くのに特化した人材でもいるようだ。――あの少女、Tさんの契約者だろうかね?」
 呻吟しているモニカにそう言葉をかけて、ウィリアムはコンソールを操作する。
 すると部屋の隅に置かれた人間大の培養器が動き出した。そしてその中から異形の存在が姿を現す。
「それ、は?」
 目だけでその動きを追っていたモニカへとウィリアムは答える。
「≪神智学協会≫が掲げたお題目、
 人種、信条、性別、階級、皮膚の色の違いにとらわれることなく、人類の普遍的な同胞団の核となること。比較宗教、比較哲学、比較科学の研究を促進すること。 宇宙の未解明の法則と人間に潜在する能力を調査すること。
 その内ワタシが特に興味をもったのは比較科学と人間に潜在する能力でね。
 人間の潜在能力については超能力部隊の開発やアキヅキのような者、そしてモニカ嬢によってワタシが満足する結果を出しつつある。そして比較科学についてだが……」
 ウィリアムは言い差して、白衣の内ポケットから手記のようなものを取り出した。
「≪フランケンシュタインの日記≫。これに記された実験記録と、科学の力を借りてそれなりの結果を生み出した」
 培養器から起き上った異形達を見て紹介するように手を振る。
「≪ヨーウィー≫、≪ブギーマン≫、≪フランケンシュタイン≫。これらは元人間や人間の肉体、都市伝説の残骸を繋げ合わせて作られた人造の都市伝説だ。なかなか立派なモノじゃないか?」
 そう言ってウィリアムが示すのは腕が長く、首がほとんどない、筋肉質で全身に毛が生えているどこか猿を彷彿とさせる異形。モニカを騙した襤褸を纏った奇形の人型。そして肌の下の動きが透けて見える、半ば糜爛した体をひきずった怪物だった。
 それらが何体も培養器の中から起き上っては無感情にウィリアムを見て指示を仰ぐ。
「行け。殺してきても構わないよ?」
 手を振って下された命令にモニカが反応した。
「見逃すって言った、のに……うそ、つき……」
 そう言いながら、拘束され縛り付けられた寝台でなけなしの力を振り絞って暴れているモニカの様を見て、ウィリアムは嗤う。
「あの場では見逃したではないか。それにこんなところまでわざわざ追って来ているんだ。ワタシとしては生かしておく理由もないだろう? ああ、もしそこまで体力が残っていればの話だが、舌を噛み切ってやろうなどとは思わない事だ。治してしまうからね?」



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