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連載 - ケモノツキ-17

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「まほうつかいとしょうねん」より

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ケモノツキ_17_悪魔と憑き物



 カラミティと別れた後、悠司は自宅で眠りについた。
 現実と夢の狭間。上も下も右も左も、どこまでも真っ白な空間。
 そこには悠司、ミズキ、タイガ、タマモに加えてもう一人……否、もう一匹の姿があった。

「こんなんでも悪魔ってのが信じらんないなー。うりうり。」
「や、やめるにゃ!耳をさわるにゃ!だからしっぽをひっぱるにゃ!」

 少女姿のミズキに抱きかかえられ、弄ばれるフラウロス。
 フラウロスはその腕から逃れようともがくが、ミズキは巧みなハンドリングでフラウロスを逃さない。
 女子中学生の腕の中で撫で繰り回される猫。

 実に微笑ましい光景である。
 実に微笑ましい光景である。

「えっと、ミズキ。嫌がってるみたいだし止めてあげた方が……。」
「えー。だって、あたしがされて気持ちいいことしかしてないよ?ほら、こうやって耳の裏とか首筋とか腰から尻尾にかけてとか……。」
「うにゃーー!く、くすぐったいにゃ!触るんじゃないにゃー!」
「あっれー?おかしいなぁ。主様がしてくれるみたいにうまくいかないのかなぁ……。」

 心底不思議でならないというように小首を傾げるミズキ。
 その一瞬の隙を突いて、フラウロスはミズキの腕を逃れた。
 したたたた、とすばやくその場から駆け出す。

「我様を猫扱いするんじゃないにゃ!全くもって不愉快極まり――みにゃっ!?」

 何かにぶつかって尻もちをつき、目をぱちくりするフラウロス。
 がっし、と首筋を押さえつけられ、そのまま持ち上げられる。

「うろちょろしてんじゃねーよブチ猫。蹴るぞ。」
「な、何するにゃ!下ろすにゃ!…ってかさらっと猫って言うんじゃないにゃ!撤回するにゃー!」
「た、タイガ!そんな乱暴にしちゃダメだよ!」
「ったく、うるせえのは雌猫だけで十分だっての。ほらよっ。」

 ポーン、とフラウロスの体が宙を舞う。
 悠司が慌てて手を差し伸べ、フラウロスは悠司の腕の中へと収まった。

「うわ!…っと。えっと、大丈夫…ですか?」
「大丈夫じゃないにゃ!おかげで酷い目にあったにゃ!カラミティ卿の制約さえなければまとめて燃やし尽くしてやったところにゃ!」
「あら。では制約を弱めてもらうよう、その発言も含めてカラミティに言伝しましょうか?」
「……そ、そんなことより召喚者!自分の使い魔に対してその体たらくは何にゃ!躾がてんでなってないにゃ!」

 ぺしぺしぺしと猫パンチを繰り出すフラウロス。
 その言葉と猫パンチを受け、複雑な表情でフラウロスを見つめる。

「使い魔とは違うんだけど…えっと、言うこと聞いてもらえるように頑張ります…?」
「そんなんだから舐められるのにゃ!……にゃぁ。こんな奴の面倒を見るなんて、先が思いやられるにゃ。」

 ぺしん、と気の抜けた猫パンチを一つ打ち、うなだれるフラウロス。

「……まあいいにゃ。おい召喚者、我様の他にも借りた悪魔がいるにゃ?ちょっと呼んでみるにゃ。」
「い、いきなり呼べって言われても、誰を呼んだらいいのか……。」
「そうだにゃ……「鴉公子」ストラスなんかがよさげにゃ。さぁ、早速呼んでみるにゃ。」

 尻尾をピンと立たせ、わくわくした様子で促すフラウロス。
 悠司はそれを気にしながらも、自らの中にある「名」と「力」を意識する。

「……ストラス!」

 直後、悠司の正面に魔法陣が展開し、真上に向けて何かが飛び出した。
 それは悠司たちのはるか上方で数度旋回した後、ゆっくりと降りてくる。
 近づくにつれてその姿が徐々にはっきりとしてくる。

 それは、手乗りフクロウと称しても過言ではない、小さなフクロウだった。
 そのフクロウは悠司の正面に、音も無く着陸した。

「ふむ…夢とも心象風景とも精神世界ともつかない、不思議な空間だね。この空間の主は召喚者、君かい?」
「えっと、はい。そうですけど……ストラスさん、ですよね?」
「にゃーーっはっは!我様の予想通りにゃ!ずいぶんと可愛らしい姿だにゃストラス卿!」
「うん?君は…フラウロスか?その姿……なるほど。カラミティ卿、なかなか面白いことをしてくれるじゃないか。」

 自らの姿を確かめるように首を回したり、羽に頭を突っ込んだりしているストラス。
 その姿はどう見ても毛づくろいをしている手乗りフクロウにしか見えない。
 自分の姿をあらかた把握したのち、ストラスは悠司に向けて片翼をすっと伸ばす。

「召喚者、手を前に。」

 言われるままに手を前に差し出すと、ストラスはふわりと飛び上がり、悠司の腕に降り立った。
 ストラスの言わんとすることを理解し、悠司は腕を自分の正面に据え、ストラスと目を合わせる。

「さて、早速だが召喚者が今後、僕を呼び出すための代償を先に頂こうか。」
「いきなりか?随分と強欲じゃねーの。」
「……何を差し上げれば、いいんでしょうか。」

 緊張した面持ちで悠司が言う。
 それに対し、軽い調子でストラスは告げる。

「簡単なことさ。この空間ではない現実世界で僕を呼び出して、外に放ってくれ。」
「え、それだけ…ですか?」
「……何をなさるつもりで?」
「ただの散歩さ。カラミティ卿やアモン卿がご執心なこの町に、僕も興味があってね。」

 アモンという耳慣れない名前に疑問を感じるも、ストラスは構わず続ける。

「無論、召喚者との契約は守る。僕の力が必要とあれば、いつでも呼び戻してくれてかまわない。」
「んー……町の人襲ったりしないなら大丈夫じゃない?」
「そうだね。じゃあストラスさん、その条件でお願いします。」
「安心してくれ。元よりそんな気はないし、僕はそういうのは得意じゃないんだ。」

 自重するように笑いながら肩をすくめる。
 フクロウの姿でどうやっているのだろうか。

「さて、今後に備えて霊石や薬草の選別をしておきたいんだが、もう戻ってもかまわないかな?」
「あ、はい。わかりました。よろしくお願いします。」
「僕の力が入用とあらば、いつでも呼んでくれ。代償の件も忘れないでくれよ?」

 ストラスはそう言うと、悠司の腕を離れて飛び立った。
 そしてそのまま空中へ現れた魔法陣の中へと姿を消していった。

 ストラスが消えた跡をぼんやりと眺める悠司に、タマモが声をかける。

「今日はいろいろありましたし、主もお休みになってはいかがですか?」
「ん……そうだね。じゃあそうさせてもらうよ。お休み、みんな。」
「主様おやすみー。」
「お休みなさいませ。」

 悠司が目を閉じて一呼吸すると、その場から悠司の姿がすうっと消えていった。
 それを見たフラウロスは辺りを見回す。

「……おい、召喚者はどこに行ったにゃ?」
「主は眠りにつきました。もうここにはいませんよ。」
「ちょっと待つにゃ。なら我様はどうやって戻ればいいにゃ?」
「自分の力で戻れないのですか?」
「カラミティ卿の制限のせいで、出るにも戻るにも召喚者の許可が必要にゃ。」
「なるほど。勝手なまねをしないように…ということですか。」

 タマモは得心が行ったように頷くと、フラウロスにむけて微笑む。

「では、主が目覚めるまでお待ちくださいな。」
「……とんだ災難にゃ。」

 がっくしとうなだれるフラウロス。直後、背筋に悪寒が走る。
 背後の気配に気付いて振り返ると、満面の笑みをたたえたミズキが立っていた。

「えへへへ。フーラウーロスー。あーそーぼー?」
「……こ、断るにゃ!寄るんじゃないにゃ!我様に近づくにゃ!」
「どうせ主様が目を覚ますまで暇でしょ?大丈夫、今度はちゃんと気持ちよくしてあげるから。」

 にじりにじりと迫り寄るミズキと、じりじりとあとずさるフラウロス。
 ふとタイガとタマモの存在に気付き、そちらを見やる。

「おいお前ら!黙ってないでさっさとこいつを止めるにゃ!」
「どうでもいい。」
「ミズキ、あんまり苛めないであげてくださいね?」
「この薄情もの――みぎゃっ!?」
「うふふー。つーかまーえたー♪さーて、まずは顎の下から……」
「みにゃあああああああああああああああ!!!」

   ・
   ・
   ・

 ミズキの戯れは、悠司が目覚めるまで続いたという。


ケモノツキ_17_悪魔と憑き物】    終

 




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