●
由実の腕に抱かれてひとまず落ち着いた様子を見せているモニカに、ウィリアムは興味を惹かれた。
よく持ち直したものだね……。
モニカを捕らえてから、彼女が最も堪えるであろう言葉を事前の情報と会話から探り当て、様々な機材を通して彼女を調べ尽くして行く過程で彼女に溜まったストレスとの相乗効果をもって崩壊させた精神の均衡の回復は、一度崩してしまえばもう再起は望めぬものと想定していたウィリアムにとっては思ってもみないイレギュラーだった。
そして彼はこうも思う。
モニカの保護者――由実を壊したら、モニカは一体どうなるのだろうか?
それは、持ち直しかけたモニカの精神を再び奈落へと叩き落とすという事だ。その結果、≪杞憂≫がどのような反応を示すのか。その疑問は研究者であるウィリアムにとってひどく興味深いものだった。
ウィリアムは内心に笑みを生む。
あるいはこの歪な顕現を果たした≪杞憂≫を完全な形で再現できるのかもしれないね……。もう少し、楽しませてもらえそうだ……。
好奇心と探究心からくる喜悦に表情を歪めて、ウィリアムは自身が作り出した都市伝説達を動かした。
よく持ち直したものだね……。
モニカを捕らえてから、彼女が最も堪えるであろう言葉を事前の情報と会話から探り当て、様々な機材を通して彼女を調べ尽くして行く過程で彼女に溜まったストレスとの相乗効果をもって崩壊させた精神の均衡の回復は、一度崩してしまえばもう再起は望めぬものと想定していたウィリアムにとっては思ってもみないイレギュラーだった。
そして彼はこうも思う。
モニカの保護者――由実を壊したら、モニカは一体どうなるのだろうか?
それは、持ち直しかけたモニカの精神を再び奈落へと叩き落とすという事だ。その結果、≪杞憂≫がどのような反応を示すのか。その疑問は研究者であるウィリアムにとってひどく興味深いものだった。
ウィリアムは内心に笑みを生む。
あるいはこの歪な顕現を果たした≪杞憂≫を完全な形で再現できるのかもしれないね……。もう少し、楽しませてもらえそうだ……。
好奇心と探究心からくる喜悦に表情を歪めて、ウィリアムは自身が作り出した都市伝説達を動かした。
●
突然都市伝説の群れが俺達やTさん、騎士のおっちゃんや秋月のおっちゃんの方に向かって突っ込んできた。
ウィリアムが何かろくでもない命令を出したにちげえねえ。とにかく、迫ってくる都市伝説を見て俺はフィラちゃんに言う。
「フィラちゃん! モニカをしっかり抱いとけよ!」
「なの!」
リカちゃんを右手にマウントして都市伝説相手に構える。
「ええ……でも舞ちゃんたちも無茶はいけないわ」
フィラちゃんはそう言って、モニカを抱きながら≪フィラデルフィア計画≫を発動させた。都市伝説達の群れの只中に落下した鉄箱は発光体に包まれ、周囲の都市伝説達を飲みこんでいく。
「うわ、すっげ……」
都市伝説達が床と癒着した状態になってものすごい声を張り上げる。その様子に顔が引きつるのを自覚しながら、≪フィラデルフィア計画≫を逃れた都市伝説一体にリカちゃんをマウントした手で触る。
リカちゃんのゼロ距離パンチが半分機械でできてるっぽい怪物を殴った。
フィラちゃんは≪フィラデルフィア計画≫を次の目標に叩きつけながら、拳銃の引き金を続けざまに引いた。
銃声が連続して、その数だけ異形の影が床に沈んでいく。拳銃に仕込まれた銀製だっていう弾のおかげか、一発ででかい図体をした都市伝説が倒れる。
俺が一体の異形を倒す間にフィラちゃんは五体以上の異形を倒していた。
「すげえ……」
それでも数が違いすぎる。それを思い知らせるように、ウィリアムの声が飛んできた。
「さあ、もっとがんばりたまえ、まだまだ数はいるのだよ?」
「――ッ」
そんなに大量の都市伝説を相手にできるわけがない。次第に俺達は囲まれていった。
「くそ、どうするよ?」
「……っ、ここまで来て、諦めるなんてできないわね」
弾が切れた拳銃を投げ捨ててフィラちゃんが言う。
「だよな!」
「そうなの!」
せっかくヤバげな状態だったモニカがまともな状態に戻ったんだ。まだ周りにはモニカの≪杞憂≫から出てきたらしい柱が何本も立ってるけど、罅が入って倒れて行く現象はなりを潜めている。状況はよくなってるんだ。
だから、
「やっちまえ! Tさん!」
「破ぁあああ!」
光が、俺達だけを避けるような不思議な流れを持つ奔流となって駆け抜けた。
Tさん達の所に突っ込んで行った都市伝説達はものすごい早さで倒されていた。短い時間の間に俺達を助けてくれる程度には余裕が出てきたようだった。
「Tさんナイス!」
「油断するな!」
そう言いながら、Tさんは自分に向かってきた都市伝説達に光弾を叩き込んでいる。Tさんがさっきの光柱で開けた道がすぐに埋まった。
あっちも抜けてくるのに時間かかりそうだな。
そう思ってると、ウィリアムの声が聞こえた。
「やっぱり旗色が悪いねぇ――まあ、目的は果たせるから構わないけど」
その声が聞こえた瞬間、俺は体を横から突き飛ばされた。
「うおっ!?」
いきなりの事で受け身も取れずに地面に倒れ込む、それと同じタイミングで銃声が響いて、
「フィラちゃんっ!」
俺を突き飛ばしたフィラちゃんがウィリアムが隠し持っていた拳銃の弾を腹に喰らっていた。
「おい、フィラちゃん! 大丈夫か!?」
地面から起き上ってフィラちゃんに駆け寄る。フィラちゃんは腹を押さえてうずくまっていた。
「フィラちゃん!」
「だいじょう、ぶよ……モニカは?」
「大丈夫、なんともねえ」
モニカは流れ弾に当たるような事も無く、無事に寝台の下に寝かされていた。そこにフィラちゃんも運んでやる。
「おやおや、これは幸運だ。まずは突出していた君を狙っていたのだがね」
「ふざけやが――」
怒鳴り声は途中で聞こえた、柱が砕ける音でかき消された。
≪杞憂≫の崩壊がまた起き始めた――!?
柱が崩れて、それによって支えられていたこの施設の天井が崩れる。
「ヤバッ――」
モニカとフィラちゃんに手を伸ばして――だめだ! ぜってぇ間に合わねえ!
――ッ!! ………………?
何とも……ない?
ヤバ気な音は相変わらず響いて来てるけど、俺自身にはなんの衝撃も襲ってこなかった。崩れた天井が俺に当たって無い……?
恐る恐る目を開けると、そこには――
「むら、くも?」
白い、雲が変形した4本の蛇が、そのでっかい首で天井の落下から俺達を守ってくれていた。
こんな事が出来るのは、
「間に会ったな」
「千勢姉ちゃん!」
千勢姉ちゃんの声が部屋の入り口の方から聞こえた。それと一緒に都市伝説の群れが倒されていく戦いの物音が聞こえてくる。
「馬鹿弟子と一緒にすぐに行く、持ちこたえろ!」
「わかった!」
答えて、ウィリアムを睨みつける。野郎は部屋の入り口と天井の支えに入った叢雲を見て仕方なさそうに息を吐いた。
「チトセか……彼等相手にはワタシの自身作の仔達も役には立たないし、これはこれは……ワタシも本格的に危険だね」
そう言いながらウィリアムは銃口を俺達に向けて来る。
俺はその銃口の先に立ってフィラちゃんとモニカの盾になるようにリカちゃんと一緒に手をめいっぱい広げた。
「どかないかね? ワタシとしてはとりあえずそこのユミをとりあえず撃てればいいのだけどね?」
「やなこった!」
さっきは守ってもらったんだ。今度は俺が盾になってやる。
「リカちゃん、頼むぜ」
「が……がんばるの」
リカちゃんが緊張気味に返してくる。正直、リカちゃんじゃあ銃弾の反応してそれをどうにかするなんて離れ業は難しいと思う。それでも、一人じゃ怖いし、すごくありがたい。
「なんとも、無駄な手間になるね」
「へ、俺ゃあんたみたいに頭の良い変態じゃねえからな! 効率とか分かんねえや」
銃口が俺の方を向いている。銀の銃弾だっけか? ぶっちゃけ普通の鉛の弾だろうと、拳銃で撃たれたら普通に死んじまうよなあ俺。
ウィリアムの引き金にかかった指に力が入るのが俺からでも見てとれた。
銃声が響いて、金属が鳴らす甲高い音が一つ。
「これはこれは……」
「……」
俺に銃弾は当たっていない。それは弾かれていた。それをしてくれたのは――
「騎士の……おっちゃん?」
影色の加護を纏った騎士のおっちゃんだった。
俺達に背中を向けたまま、騎士のおっちゃんは弾を弾いた剣の先をウィリアムへと向けた。そうしたままで声をかけてくる。
「≪フィラデルフィア計画≫の――由実、生きているか?」
「だい、じょうぶよ……」
「そうか、お前が死ぬとお嬢様が≪杞憂≫に殺される。くれぐれも目の前で死ぬな」
「分かって……るわよっ」
「っと、おい、フィラちゃん無理すんなって!」
「ねてなきゃだめなの!」
フィラちゃんは血の気を失った青い顔で俺達の言う事を無視して体を起こすと、ウィリアムを睨みつけた。
その間にも、騎士の軍団が都市伝説の群れを抜けて騎士のおっちゃんの周りに集まって来る。どうも本当に守ってくれるみたいで、騎士の皆さんが俺達に武器を向けて来る様子はない。
ウィリアムが騎士のおっちゃんを警戒して後ずさる。
そのウィリアムの右腕が、手にした拳銃ごと突然出現した鉄箱に圧し潰された。
ウィリアムが何かろくでもない命令を出したにちげえねえ。とにかく、迫ってくる都市伝説を見て俺はフィラちゃんに言う。
「フィラちゃん! モニカをしっかり抱いとけよ!」
「なの!」
リカちゃんを右手にマウントして都市伝説相手に構える。
「ええ……でも舞ちゃんたちも無茶はいけないわ」
フィラちゃんはそう言って、モニカを抱きながら≪フィラデルフィア計画≫を発動させた。都市伝説達の群れの只中に落下した鉄箱は発光体に包まれ、周囲の都市伝説達を飲みこんでいく。
「うわ、すっげ……」
都市伝説達が床と癒着した状態になってものすごい声を張り上げる。その様子に顔が引きつるのを自覚しながら、≪フィラデルフィア計画≫を逃れた都市伝説一体にリカちゃんをマウントした手で触る。
リカちゃんのゼロ距離パンチが半分機械でできてるっぽい怪物を殴った。
フィラちゃんは≪フィラデルフィア計画≫を次の目標に叩きつけながら、拳銃の引き金を続けざまに引いた。
銃声が連続して、その数だけ異形の影が床に沈んでいく。拳銃に仕込まれた銀製だっていう弾のおかげか、一発ででかい図体をした都市伝説が倒れる。
俺が一体の異形を倒す間にフィラちゃんは五体以上の異形を倒していた。
「すげえ……」
それでも数が違いすぎる。それを思い知らせるように、ウィリアムの声が飛んできた。
「さあ、もっとがんばりたまえ、まだまだ数はいるのだよ?」
「――ッ」
そんなに大量の都市伝説を相手にできるわけがない。次第に俺達は囲まれていった。
「くそ、どうするよ?」
「……っ、ここまで来て、諦めるなんてできないわね」
弾が切れた拳銃を投げ捨ててフィラちゃんが言う。
「だよな!」
「そうなの!」
せっかくヤバげな状態だったモニカがまともな状態に戻ったんだ。まだ周りにはモニカの≪杞憂≫から出てきたらしい柱が何本も立ってるけど、罅が入って倒れて行く現象はなりを潜めている。状況はよくなってるんだ。
だから、
「やっちまえ! Tさん!」
「破ぁあああ!」
光が、俺達だけを避けるような不思議な流れを持つ奔流となって駆け抜けた。
Tさん達の所に突っ込んで行った都市伝説達はものすごい早さで倒されていた。短い時間の間に俺達を助けてくれる程度には余裕が出てきたようだった。
「Tさんナイス!」
「油断するな!」
そう言いながら、Tさんは自分に向かってきた都市伝説達に光弾を叩き込んでいる。Tさんがさっきの光柱で開けた道がすぐに埋まった。
あっちも抜けてくるのに時間かかりそうだな。
そう思ってると、ウィリアムの声が聞こえた。
「やっぱり旗色が悪いねぇ――まあ、目的は果たせるから構わないけど」
その声が聞こえた瞬間、俺は体を横から突き飛ばされた。
「うおっ!?」
いきなりの事で受け身も取れずに地面に倒れ込む、それと同じタイミングで銃声が響いて、
「フィラちゃんっ!」
俺を突き飛ばしたフィラちゃんがウィリアムが隠し持っていた拳銃の弾を腹に喰らっていた。
「おい、フィラちゃん! 大丈夫か!?」
地面から起き上ってフィラちゃんに駆け寄る。フィラちゃんは腹を押さえてうずくまっていた。
「フィラちゃん!」
「だいじょう、ぶよ……モニカは?」
「大丈夫、なんともねえ」
モニカは流れ弾に当たるような事も無く、無事に寝台の下に寝かされていた。そこにフィラちゃんも運んでやる。
「おやおや、これは幸運だ。まずは突出していた君を狙っていたのだがね」
「ふざけやが――」
怒鳴り声は途中で聞こえた、柱が砕ける音でかき消された。
≪杞憂≫の崩壊がまた起き始めた――!?
柱が崩れて、それによって支えられていたこの施設の天井が崩れる。
「ヤバッ――」
モニカとフィラちゃんに手を伸ばして――だめだ! ぜってぇ間に合わねえ!
――ッ!! ………………?
何とも……ない?
ヤバ気な音は相変わらず響いて来てるけど、俺自身にはなんの衝撃も襲ってこなかった。崩れた天井が俺に当たって無い……?
恐る恐る目を開けると、そこには――
「むら、くも?」
白い、雲が変形した4本の蛇が、そのでっかい首で天井の落下から俺達を守ってくれていた。
こんな事が出来るのは、
「間に会ったな」
「千勢姉ちゃん!」
千勢姉ちゃんの声が部屋の入り口の方から聞こえた。それと一緒に都市伝説の群れが倒されていく戦いの物音が聞こえてくる。
「馬鹿弟子と一緒にすぐに行く、持ちこたえろ!」
「わかった!」
答えて、ウィリアムを睨みつける。野郎は部屋の入り口と天井の支えに入った叢雲を見て仕方なさそうに息を吐いた。
「チトセか……彼等相手にはワタシの自身作の仔達も役には立たないし、これはこれは……ワタシも本格的に危険だね」
そう言いながらウィリアムは銃口を俺達に向けて来る。
俺はその銃口の先に立ってフィラちゃんとモニカの盾になるようにリカちゃんと一緒に手をめいっぱい広げた。
「どかないかね? ワタシとしてはとりあえずそこのユミをとりあえず撃てればいいのだけどね?」
「やなこった!」
さっきは守ってもらったんだ。今度は俺が盾になってやる。
「リカちゃん、頼むぜ」
「が……がんばるの」
リカちゃんが緊張気味に返してくる。正直、リカちゃんじゃあ銃弾の反応してそれをどうにかするなんて離れ業は難しいと思う。それでも、一人じゃ怖いし、すごくありがたい。
「なんとも、無駄な手間になるね」
「へ、俺ゃあんたみたいに頭の良い変態じゃねえからな! 効率とか分かんねえや」
銃口が俺の方を向いている。銀の銃弾だっけか? ぶっちゃけ普通の鉛の弾だろうと、拳銃で撃たれたら普通に死んじまうよなあ俺。
ウィリアムの引き金にかかった指に力が入るのが俺からでも見てとれた。
銃声が響いて、金属が鳴らす甲高い音が一つ。
「これはこれは……」
「……」
俺に銃弾は当たっていない。それは弾かれていた。それをしてくれたのは――
「騎士の……おっちゃん?」
影色の加護を纏った騎士のおっちゃんだった。
俺達に背中を向けたまま、騎士のおっちゃんは弾を弾いた剣の先をウィリアムへと向けた。そうしたままで声をかけてくる。
「≪フィラデルフィア計画≫の――由実、生きているか?」
「だい、じょうぶよ……」
「そうか、お前が死ぬとお嬢様が≪杞憂≫に殺される。くれぐれも目の前で死ぬな」
「分かって……るわよっ」
「っと、おい、フィラちゃん無理すんなって!」
「ねてなきゃだめなの!」
フィラちゃんは血の気を失った青い顔で俺達の言う事を無視して体を起こすと、ウィリアムを睨みつけた。
その間にも、騎士の軍団が都市伝説の群れを抜けて騎士のおっちゃんの周りに集まって来る。どうも本当に守ってくれるみたいで、騎士の皆さんが俺達に武器を向けて来る様子はない。
ウィリアムが騎士のおっちゃんを警戒して後ずさる。
そのウィリアムの右腕が、手にした拳銃ごと突然出現した鉄箱に圧し潰された。
●
「――ッ! っく、ぬ……ッ!」
突然の重量物の落下によって千切れかけた右腕を押さえつけながら、コンソールの所までよろめき下がったウィリアムは、脂汗を流して薄く笑う。
「フ……フフッ、まさかユーグ総長、君が庇いに入るとはね……。せっかく、チトセやTに……ワタシの仔達を重点的にさし向けたッ、と、いうのに……ッ」
「我等の目的と、お嬢様の為なれば」
「ああ、そうか……君の行動律は……そうだったね、……見誤ったよ」
そう言いながらウィリアムは自分の周囲の都市伝説達をユーグへと向かわせ、白衣の中から注射器を取り出して自分に注射した。
押し潰された腕を≪フランケンシュタイン≫に切断させ、即座に腕を縛る。
注射は沈痛効果のある薬だったのか、幾分か呼吸の整った様子でウィリアムは自分の右腕を圧し潰した鉄箱を見る。
それは床に自重で沈み込んだまま動いてはいない。それを操作する由実に≪フィラデルフィア計画≫を行使できる気力が残っていないのだ。
彼はそれを確認して、しかし、
「これは、ワタシもそろそろ年貢の納め時かな?」
ユーグに向けて襲いかからせていた都市伝説の群れは、ウィリアムが周囲の確認をする間に彼と彼麾下の騎士団の前に切り伏せられていた。
突然の重量物の落下によって千切れかけた右腕を押さえつけながら、コンソールの所までよろめき下がったウィリアムは、脂汗を流して薄く笑う。
「フ……フフッ、まさかユーグ総長、君が庇いに入るとはね……。せっかく、チトセやTに……ワタシの仔達を重点的にさし向けたッ、と、いうのに……ッ」
「我等の目的と、お嬢様の為なれば」
「ああ、そうか……君の行動律は……そうだったね、……見誤ったよ」
そう言いながらウィリアムは自分の周囲の都市伝説達をユーグへと向かわせ、白衣の中から注射器を取り出して自分に注射した。
押し潰された腕を≪フランケンシュタイン≫に切断させ、即座に腕を縛る。
注射は沈痛効果のある薬だったのか、幾分か呼吸の整った様子でウィリアムは自分の右腕を圧し潰した鉄箱を見る。
それは床に自重で沈み込んだまま動いてはいない。それを操作する由実に≪フィラデルフィア計画≫を行使できる気力が残っていないのだ。
彼はそれを確認して、しかし、
「これは、ワタシもそろそろ年貢の納め時かな?」
ユーグに向けて襲いかからせていた都市伝説の群れは、ウィリアムが周囲の確認をする間に彼と彼麾下の騎士団の前に切り伏せられていた。
●
バフォメットの加護で黒い靄を纏ったような状態になっている剣に付いた血の残滓を一振りで払い、ユーグは背中越しに口を開く。
「由実、お嬢様の心を守ってくれた事、礼を言う」
「……ええ」
多少戸惑ったような様子を見せながらも頷いた由実の腕の中、モニカが小さく呻きを上げ、目をゆっくりと開いた。
モニカは茫漠とした瞳で由実と舞を見て安心したように表情を緩めて、ついでユーグの背に目を向けた。
「ユーグおじさん……?」
「御無事なようで……」
モニカは短く答えた騎士の背中を数秒不思議そうに眺め、
「うん」
笑みを浮かべた。
その返答に、ユーグは僅かに胸が疼く。
モニカの返答に含まれる語調は、かつて彼がモニカの傍に居た頃となんら変わらない、安心を得た子供のそれだったからだ。
……両親を目の前で殺したのは確かに私だというのに。
恨まれているものと思っていた。そもそもモニカは自分達が事を成した場合、自身がどのようになるのかを分かっていない筈だ。状況は敵が近くに来ているのとなんら変わりはしない。それでもあの安堵を湛えた言葉は、
「本物ということ、か」
周囲、≪杞憂≫によって生み出されていた幾本もの柱が、空気に溶けるようにして、破砕ではなく、穏やかな消滅によって消えていった。
「≪杞憂≫が消えるね。憂いに起因して暴走していた≪杞憂≫が一時の憂いを取り除かれて、モニカ嬢の中で落ち着いたようだ」
ウィリアムが消えゆく柱を見ながらそう零す。そしてユーグへと目を向け、
「ユーグ総長。君の存在がモニカ嬢の最たる憂いになると思っていたのだが、どうにも安堵にも関わっているようだね」
「疲労が激しいようだからな、記憶が混乱して過去の事象と混同したのだろう」
そう答え、ユーグはウィリアムの周囲を未だ固める都市伝説の掃討へと騎士達を向かわせた。
「由実、お嬢様の心を守ってくれた事、礼を言う」
「……ええ」
多少戸惑ったような様子を見せながらも頷いた由実の腕の中、モニカが小さく呻きを上げ、目をゆっくりと開いた。
モニカは茫漠とした瞳で由実と舞を見て安心したように表情を緩めて、ついでユーグの背に目を向けた。
「ユーグおじさん……?」
「御無事なようで……」
モニカは短く答えた騎士の背中を数秒不思議そうに眺め、
「うん」
笑みを浮かべた。
その返答に、ユーグは僅かに胸が疼く。
モニカの返答に含まれる語調は、かつて彼がモニカの傍に居た頃となんら変わらない、安心を得た子供のそれだったからだ。
……両親を目の前で殺したのは確かに私だというのに。
恨まれているものと思っていた。そもそもモニカは自分達が事を成した場合、自身がどのようになるのかを分かっていない筈だ。状況は敵が近くに来ているのとなんら変わりはしない。それでもあの安堵を湛えた言葉は、
「本物ということ、か」
周囲、≪杞憂≫によって生み出されていた幾本もの柱が、空気に溶けるようにして、破砕ではなく、穏やかな消滅によって消えていった。
「≪杞憂≫が消えるね。憂いに起因して暴走していた≪杞憂≫が一時の憂いを取り除かれて、モニカ嬢の中で落ち着いたようだ」
ウィリアムが消えゆく柱を見ながらそう零す。そしてユーグへと目を向け、
「ユーグ総長。君の存在がモニカ嬢の最たる憂いになると思っていたのだが、どうにも安堵にも関わっているようだね」
「疲労が激しいようだからな、記憶が混乱して過去の事象と混同したのだろう」
そう答え、ユーグはウィリアムの周囲を未だ固める都市伝説の掃討へと騎士達を向かわせた。
●
≪杞憂≫の柱が消えて行く。モニカは気を失ってるみてえだ。呼吸も安定していて、一応安心できそうな感じだけど、フィラちゃんの方はかなり呼吸が荒い。
意識があるのかどうかも分からないし、あったとしても動ける状態じゃなさそうだ。今日一番近くに感じる血の臭いに咽そうになりながら、ひたすらに声をかける。
フィラちゃんからの反応は無くて、それにすぐそこに騎士のおっちゃんがいて、とりあえず今はウィリアムや都市伝説の群れから守ってくれてたけど、これからどうなるのか分かんねえ。どうしたらいいか考えがまとまらなくなってパニくる寸前、Tさんの声がすぐ近くで聞こえた。
「大丈夫だ、舞。すぐに藤宮由実を治療する」
「Tさん!」
気付けば、いつの間にか部屋の中を埋め尽くそうとしていた量の都市伝説の群れは、全員倒されて都市伝説の部分が光になって消えたり死体が転がっていた。
もう多分この場に残ってるこの施設の戦力は、
「残りはお前だけだ、ウィリアム・ウェッブ」
千勢姉ちゃんが俺達を他の勢力の奴等から護るように立ち、宣言した。
意識があるのかどうかも分からないし、あったとしても動ける状態じゃなさそうだ。今日一番近くに感じる血の臭いに咽そうになりながら、ひたすらに声をかける。
フィラちゃんからの反応は無くて、それにすぐそこに騎士のおっちゃんがいて、とりあえず今はウィリアムや都市伝説の群れから守ってくれてたけど、これからどうなるのか分かんねえ。どうしたらいいか考えがまとまらなくなってパニくる寸前、Tさんの声がすぐ近くで聞こえた。
「大丈夫だ、舞。すぐに藤宮由実を治療する」
「Tさん!」
気付けば、いつの間にか部屋の中を埋め尽くそうとしていた量の都市伝説の群れは、全員倒されて都市伝説の部分が光になって消えたり死体が転がっていた。
もう多分この場に残ってるこの施設の戦力は、
「残りはお前だけだ、ウィリアム・ウェッブ」
千勢姉ちゃんが俺達を他の勢力の奴等から護るように立ち、宣言した。