三面鏡の少女 83
宮定怜吏(みやさだ・れいり)という男がいる
やや鋭い目付きの神経質そうな顔付きで、背は高いがやや痩せており貧弱そうなイメージを漂わせている
宮定繰の父親であるこの男は、学校町の出身ではあるが都市伝説というものに遭遇した事が無い
にも関わらず、だ
「奴には近寄るな、絶対にだ。だが監視は怠るな」
過去、彼の存在を知った『アメリカ政府の陰謀論』ジョン・スミスは、苛立たしげに煙草を灰皿に押し付けながらそう部下に通達していた
『第三帝国』の『総統』達同様の措置を取り、『MI6』でも歴代長官に伝達事項として引き継がれている
だが小規模な組織の構成員や、大組織故に命令が行き届かない末端の構成員も存在する
様々な組織が危険視しながらも手を出さない存在
好奇心、腕試し、嫌がらせ、様々な理由から彼に接触を図ったり、攻撃を仕掛けたりした者は現在までに多数存在した
だが、その結果を知るものはほとんど居ない
やや鋭い目付きの神経質そうな顔付きで、背は高いがやや痩せており貧弱そうなイメージを漂わせている
宮定繰の父親であるこの男は、学校町の出身ではあるが都市伝説というものに遭遇した事が無い
にも関わらず、だ
「奴には近寄るな、絶対にだ。だが監視は怠るな」
過去、彼の存在を知った『アメリカ政府の陰謀論』ジョン・スミスは、苛立たしげに煙草を灰皿に押し付けながらそう部下に通達していた
『第三帝国』の『総統』達同様の措置を取り、『MI6』でも歴代長官に伝達事項として引き継がれている
だが小規模な組織の構成員や、大組織故に命令が行き届かない末端の構成員も存在する
様々な組織が危険視しながらも手を出さない存在
好奇心、腕試し、嫌がらせ、様々な理由から彼に接触を図ったり、攻撃を仕掛けたりした者は現在までに多数存在した
だが、その結果を知るものはほとんど居ない
―――
「そんな強そうには見えないし、都市伝説と契約してるわけでもないんでしょ? なーんでそんなに恐がるかなぁ」
何処の組織に所属しているのか、黒いスーツとサングラスという典型的な『メン・イン・ブラック』の女
目標のいる建物すら視認できない距離で、女は小さなデリンジャーを懐から抜き出して
引き金を引くと同時に響いた小さな破裂音
雲一つ無い晴れ渡った空に向かって撃ち出された銃弾は、女の頭上でぴたりと静止する
「撃ち抜け、『魔弾』」
その言葉と同時に、命令を受けた猟犬のように弾丸が疾る
一切の物理法則を無視して空気を切り裂き飛翔する弾丸は、ビルを避け、樹木の枝葉の間をすり抜け、更に更に加速していく
音も衝撃も残さずに瞬殺無音で迫る弾丸が、ターゲットである怜吏の眉間に狙いを定め
距離にして22kmを駆け抜けた弾丸は加速を続け、銃声すらとうに置いてきぼりにしてターゲットに命中した
命中は、したのだ
だがその弾丸は跡形も無く消え去っていた
怜吏の体に触れた瞬間、その質量も、衝撃も、一切合財が初めから存在しなかったかのように
「……へ?」
その結果は、攻撃を行使した黒服の女にも伝わってくる
そして
「え、な、何っ!?」
弾丸が通った軌跡を正確になぞるように
何処の組織に所属しているのか、黒いスーツとサングラスという典型的な『メン・イン・ブラック』の女
目標のいる建物すら視認できない距離で、女は小さなデリンジャーを懐から抜き出して
引き金を引くと同時に響いた小さな破裂音
雲一つ無い晴れ渡った空に向かって撃ち出された銃弾は、女の頭上でぴたりと静止する
「撃ち抜け、『魔弾』」
その言葉と同時に、命令を受けた猟犬のように弾丸が疾る
一切の物理法則を無視して空気を切り裂き飛翔する弾丸は、ビルを避け、樹木の枝葉の間をすり抜け、更に更に加速していく
音も衝撃も残さずに瞬殺無音で迫る弾丸が、ターゲットである怜吏の眉間に狙いを定め
距離にして22kmを駆け抜けた弾丸は加速を続け、銃声すらとうに置いてきぼりにしてターゲットに命中した
命中は、したのだ
だがその弾丸は跡形も無く消え去っていた
怜吏の体に触れた瞬間、その質量も、衝撃も、一切合財が初めから存在しなかったかのように
「……へ?」
その結果は、攻撃を行使した黒服の女にも伝わってくる
そして
「え、な、何っ!?」
弾丸が通った軌跡を正確になぞるように
『弾丸が通ったという事実が消滅していく』
「ひっ、ぃっ!?」
弾丸が疾り抜けた速さで迫り来るその事実に、黒服の女は悲鳴を上げた
銃を捨て、足を縺れさせながら転がるようにその場から逃げ出すが、それは無意味だった
弾丸が通ったという事実が消滅し
弾丸が発射されたという事実が消滅し
銃そのものが消滅し
銃を投げ捨てたという事実が消滅し
銃を投げ捨てた者も消滅した
跡形も何も残らない
そこには初めから何も存在しなかった
弾丸が疾り抜けた速さで迫り来るその事実に、黒服の女は悲鳴を上げた
銃を捨て、足を縺れさせながら転がるようにその場から逃げ出すが、それは無意味だった
弾丸が通ったという事実が消滅し
弾丸が発射されたという事実が消滅し
銃そのものが消滅し
銃を投げ捨てたという事実が消滅し
銃を投げ捨てた者も消滅した
跡形も何も残らない
そこには初めから何も存在しなかった
―――
「都市伝説?」
「ええ、先生は学校町の出身でしょう? 何かそういう話とか聞いた事とか無いんですか?」
狙撃をされた直後、何事も無かったかのように
いや、何事も無くなって
隣を歩いていた教え子の女子大生の問いに応える怜吏
「馬鹿か君は。そんなものは存在しない」
「でも学校町って行方不明者とか原因不明の死傷者が多いって話も聞きますよ」
「妙な噂が多いから、精神的に不安定になった折にそういった妄想に囚われやすくなるだけだ。一度そんな関連付けが発生すれば、連鎖的に感染拡大する。あんなものはただの精神疾患、集団ヒステリーだ」
「でも実際に起きてる事件とかはどうなるんですか? 未解決事件の数、凄く多いそうじゃないですか」
「日本中、世界中で未解決事件など山のようにある。あとは、あの町の警察組織が殊更無能なだけだろう」
「先生って夢が無いんですね」
「そんなものは現実には必要無い」
「ええー、それじゃあ……」
楽しそうに纏わりついてくる女子大生を淡々とあしらいながら
強固かつ絶対の精神力と意思力、そして知識と理論により都市伝説の一切合財を否定する男は、次の講義のために教室へと向かう
彼に近付く都市伝説はいない
彼に近付ける都市伝説はいない
それ故に彼の意思は、理論は、より強固にされていくのだった
「ええ、先生は学校町の出身でしょう? 何かそういう話とか聞いた事とか無いんですか?」
狙撃をされた直後、何事も無かったかのように
いや、何事も無くなって
隣を歩いていた教え子の女子大生の問いに応える怜吏
「馬鹿か君は。そんなものは存在しない」
「でも学校町って行方不明者とか原因不明の死傷者が多いって話も聞きますよ」
「妙な噂が多いから、精神的に不安定になった折にそういった妄想に囚われやすくなるだけだ。一度そんな関連付けが発生すれば、連鎖的に感染拡大する。あんなものはただの精神疾患、集団ヒステリーだ」
「でも実際に起きてる事件とかはどうなるんですか? 未解決事件の数、凄く多いそうじゃないですか」
「日本中、世界中で未解決事件など山のようにある。あとは、あの町の警察組織が殊更無能なだけだろう」
「先生って夢が無いんですね」
「そんなものは現実には必要無い」
「ええー、それじゃあ……」
楽しそうに纏わりついてくる女子大生を淡々とあしらいながら
強固かつ絶対の精神力と意思力、そして知識と理論により都市伝説の一切合財を否定する男は、次の講義のために教室へと向かう
彼に近付く都市伝説はいない
彼に近付ける都市伝説はいない
それ故に彼の意思は、理論は、より強固にされていくのだった